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社会課題を価値に変える。ソフトバンクと宝印刷に学ぶESGの実践と開示

社会貢献という「キレイゴト」を、持続可能なビジネスへと昇華させる。

これを理想論で終わらせず、切実な自分ごととして捉える姿勢は、もはや特別なことではなく、次世代を担う若手人材を中心に根付きつつあります。そして社会の公正を支える公認会計士、企業の信頼を数字で担う経理・財務のプロフェッショナルにとって、サステナビリティは自らの専門性が最もその真価を発揮できる領域にほかなりません。

2026年3月13日、CPAエクセレントパートナーズ株式会社はトークセッション「社会課題を、価値創造へ。― サステナビリティ経営の実践と開示 ―」を開催しました。登壇者にお迎えしたのは、ソフトバンク株式会社の池田昌人氏と、株式会社宝印刷D&IR研究所の多田尋一氏。社内での実践と社外への開示、それぞれの最前線でロマン(理想)をソロバン(経済合理性)へと繋ぐフロントランナーです。

社会課題をビジネスの成長へと変換するための、白熱した対話の記録をお届けします。

    登壇者プロフィール

    池田 昌人 氏 ソフトバンク株式会社 CSR本部 本部長 兼 ESG推進室 室長
    日本を代表するメガベンチャーであるソフトバンクにおいて、ESG・サステナビリティ戦略を牽引。かつては「CSRは経営とは無関係な慈善活動」と捉えていた自身の認識を、経営戦略との統合(マテリアリティ)によって劇的に変容させた経験を持つ。「サステナビリティは経営の羅針盤である」という信念のもと、事業成長と社会課題解決を高い次元で両立させる、実践的なESG経営を追求し続けている。

    多田 尋一 氏 株式会社宝印刷D&IR研究所 IR/サステナビリティ研究室 主任研究員
    数多くの日本企業のディスクロージャー(情報開示)を支援するプロフェッショナル。投資家視点に基づいた「企業価値を高める開示」のあり方を研究し、環境・社会課題をいかに財務的なストーリーへと繋ぎ込むかという「ナラティブ」の構築に精通している。情緒的な「ポエム」としてのサステナビリティ開示から脱却し、経営理念(ロマン)を将来のキャッシュフロー(ソロバン)で裏付ける理論を展開している。

    山口 氏(モデレーター) CPAエクセレントパートナーズ株式会社 公認会計士
    前職において、未経験の状態からサステナビリティ部門の立ち上げを主導。右も左もわからない中でソフトバンクの池田氏から実務の要諦を学び、統合報告書の作成においては宝印刷の多田氏から専門的な支援を受けるという、登壇者お二人との深い繋がりを持つ。その結果、「第5回日経統合報告書アワード」にて発刊2年目にして優秀賞を受賞した。本セッションでは、実務家としての視点を提供し、議論をリードする。

    木村創 CPASSインターン 
    2022年、公認会計士試験合格。2023年よりCPASSでインターンを務め、論文生向け就活イベント「ゼロから就活」や就活アプリ「Porta」の企画などを担当。2026年4月よりESネクスト有限責任監査法人に入所。

    第1部:ソフトバンク流・ESG経営の実践

    ソフトバンク株式会社の池田昌人氏は、自らのキャリアを振り返りながら、サステナビリティが社会貢献から経営の中核へと進化したプロセスを語りました。

    1. CSRへの違和感から「経営との統合」へ

    池田氏はかつて、CSR(企業の社会的責任)に対して「本業とは無関係な慈善活動ではないか」という強い違和感を抱いていたといいます。しかし、2018年の社長交代や上場という大きな転換期を経て、その認識は劇的に変わりました。
    孫正義氏が掲げる「情報革命で人々を幸せに」という広大なビジョンを、具体的な経営戦略へと落とし込むために策定されたのが「6つのマテリアリティ(重要課題)」です。ここで池田氏が強調したのは、マテリアリティは決めて終わりの目標ではなく、不確実な時代に企業の進むべき道を示す経営の羅針盤であるということです。

    2. リスクを機会に変える「AI×エネルギー」の戦略

    社会的な理想や志を、具体的なビジネスへと昇華させる例として挙げられたのが、AI時代のインフラ戦略です。 AIの急速な普及は、膨大な電力消費という環境リスクをもたらします。これを単なるコストや制約と捉えるのではなく、ソフトバンクは分散型AIデータセンターの構築というビジネスチャンスへと転換しました。
    再生可能エネルギーと連携した持続可能なインフラを構築することは、社会課題(脱炭素)の解決であると同時に、AI時代の競争優位性を築く成長戦略そのものです。「リスクの裏側には必ず機会がある」。この視点こそが、会計ファイナンス人材が事業を評価する際に持つべき感性であると示されました。

    3. 組織を動かす「自分ごと化」の仕掛け

    どれほど立派な戦略も、現場や役員が動かなければ絵に描いた餅に終わります。ソフトバンクでは、サステナビリティを組織に浸透させるため、実務的なアプローチを取っています。
    象徴的なのは、各領域の担当役員に、自らKPIを説明させるという仕組みです。ESG推進部門が代弁するのではなく、事業の責任者が「自分の事業がどう社会に貢献し、どう成長するのか」を語る。このプロセスを通じて、サステナビリティは「外部からの要請」から、役員や社員一人ひとりの「自分ごと」へと変わっていったのです。

    第2部:企業価値を高める「戦略的開示」の要諦

    続いて、株式会社宝印刷D&IR研究所の多田尋一氏より、投資家が求める企業価値を高める開示のあり方をお話しいただきました。

    1. 【入口】情緒的な「ポエム」から「財務的マテリアリティ」へ

    これまで多くの企業のサステナビリティ開示は、社会貢献への想いを語る情緒的な「ポエム」になりがちでした。しかし多田氏は、今求められているのは「財務的マテリアリティ(財務的にも重要な課題)」への純化であると指摘します。環境や社会への取り組みが、将来のキャッシュフローにどう影響し、企業の持続可能性にどう直結するのか。その「財務的な裏付け」を明確にすることが、開示の第一歩となります。

    2. 【中身】ロマンとソロバンを繋ぐ「生きたKPI」

    多田氏が強調したのが、経営理念という「ロマン」と、数字という「ソロバン」の融合です。 その好例として挙げられたのが、ソフトバンクの「生きたKPI」です。ソフトバンクの開示では、各マテリアリティにおいて「目指す世界観(ロマン)」を明確に定義し、その達成度を測るための「KPI(ソロバン)」がしっかりと設定されています。現場のモチベーションや事業成長と直結する生きたKPIを設定することで、初めて実効性のある開示となります。

    3. 【出口】行間から期待感を共有する「ナラティブ」

    最後の出口となるのが、投資家とのコミュニケーションです。 株価とは「事実(EPS:一株当たり当期純利益)」と「将来への期待(PER:株価収益率)」の掛け算で成り立っています。多田氏は、このPERを高めるためには、単なるデータの羅列ではなく、企業の成長物語を語る「ナラティブ」が重要であると語りました。
    大風呂敷を広げる夢物語ではなく、将来どう成長していくのかという道筋とその根拠となるファクトをセットで示し、投資家に「この企業ならやり遂げる」という納得感を与える。これこそが、会計ファイナンス人材が介在するからこそ実現できる、戦略的な開示の姿です。

    第3部:明日からの一歩を踏み出す「5分間アクション」

    インプットで終わらせず、その場でアウトプットを行う。本イベントの大きな目的である「行動への転換」を促すべく、5分間アクションが実施されました。
    参加者は、配布されたSASB(サステナビリティ会計基準審議会)のマテリアリティマップ等を参照しながら、自社やクライアントにとって「どのテーマが最も財務価値に影響を与えるか」を特定するワークに挑戦しました。
    例えば、CPAエクセレントパートナーズであればサービス業界に該当するため、人的資本(講師やスタッフの質)社会関係資本(受講生との信頼関係)が重要になります。これらを単なる概念で終わらせず、「受講生からの問い合わせ内容を分析し、サービスの改善に繋げる」といった具体的なネクストアクションへと落とし込む手法を共有しました。
    会場では、それぞれの立場から明日からできる小さな一歩が活発に共有され、サステナビリティが抽象的な議論から、各自の実務の課題へと変わった瞬間でした。

    Q&Aセッション ― 実務の悩み、本質への問い

    トークセッションの後半では、会場およびオンラインの参加者から寄せられた切実な問いに対し、池田氏・多田氏が実務経験に基づいた力強い回答を提示しました。

    Q1. もともと「社会貢献が嫌いだった」という池田さんが、なぜサステナビリティに全力で取り組むようになったのでしょうか?

    池田氏: 2011年から復興支援に携わっていましたが、数年も経つと社内のムードが冷めていくのを感じていました。一部分だけが頑張っている状況です。当時、CSRからCSV(共通価値の創造)への転換が叫ばれましたが、結局定着しませんでした。私はこれを「社会貢献と経営を統合するラストチャンス」だと捉えたんです。2019年、絶対にやるべきだと確信して経営会議に乗り込み、提案したのが全ての始まりでした 。

    Q2. スタートアップはリソースも実績もありません。「ロマン(将来の期待)」に重心を置くしかないスタートアップにとって、サステナビリティはどう向き合うべきでしょうか?

    池田氏: 現実的には、まずは「経済的に自律すること」が最大のメッセージになります。ただ、その中でも自分たちが直面している「リスクと機会」を経営の視点で捉えておくことは、規模を問わず極めて重要です 。

    多田氏: そもそもスタートアップとは、世の中の歪みや「放っておけない課題」を解決するために立ち上がったはずです。自分たちが何のためにこの事業をやっているのか、その社会性を再認識し、リスクと機会の文脈で整理してメンバーと共有する。それだけで組織の求心力は大きく変わります 。

    Q3. 役員がサステナビリティに乗り気でない場合、どう巻き込めばいいでしょうか? ソフトバンクでの苦労を教えてください。

    池田氏: ここだけで1時間は語れるほど工夫しました(笑)。当初、役員陣は「社会貢献と何が違うんだ」と全く乗り気ではありませんでした。そこで私は、第1回の推進委員会で、各領域のマテリアリティに紐づくKPIを、担当役員に名指しで「自ら説明してください」と振ったんです。社長の前で恥はかけませんから、彼らは必死に勉強し、自分の言葉で語り始めました。この「自分ごと化」の第1歩を、事務局が代行せずに役員に委ねたことが最大の成功要因でした 。

    Q4. 格付けや開示項目が多すぎて、何を選び、何を捨てるべきか(断捨離)の基準が分かりません。

    池田氏: 物理的な境界線はありませんが、まずは現在の中期経営計画や戦略を徹底的に理解することです。その上で質問票を読み解けば、会社の方針と同じ方向か、ズレているかが自然と分かります。これを翻訳して経営に伝える努力が必要です 。

    多田氏: 開示の世界でも「断捨離」は今、最もホットなキーワードです。あれもこれもと足し算をした結果、報告書が膨れ上がり、メッセージがぼやけてしまいます。一回バラして「本当に伝えたいことは何か」を引き算で考え、ビジネスに直結する軸にシェイプアップしていくことが、結果としてアワード受賞などの高い評価に繋がります 。

    おわりに:志を、ただの夢に終わらせない

    本稿はイベント企画者でもある、CPASSインターンの木村創が執筆に関わっています。サステナビリティという言葉が、今回のイベントを通じて「経営のど真ん中」にある戦略として、参加者の皆さんの胸に届いたのであれば、企画者としてこれほど嬉しいことはありません。
    私自身のルーツを辿れば、エネルギー業界で働いていた父の影響から、幼少期より環境問題への強い関心を抱いてきました。公認会計士試験を経て、「数値と開示の力こそが、社会課題を解決に導く武器になる」という確信を得たことが、本イベントを企画した原動力です。
    大学卒業を目前に控えた今、念願の企画を実現して強く感じたことがあります。それは「会計・財務人材の可能性を広げ、社会の力にする」という、CPAエクセレントパートナーズが掲げるミッションの重みです。
    単なる数字の専門家で終わるのではなく、社会の要請をビジネスの価値へと変換する架け橋になること。この活動を通じて、私自身もその可能性の一端を形にできたのではないかと自負しています。「志を、ただの夢に終わらせない」。その歩みを、これからも皆さんと共に進めていければ幸いです。

     

    イベント概要 – 社会課題を、価値創造へ。 ― サステナビリティ経営の実践と開示 ―

    イベントプログラム社会課題を、価値創造へ。 ― サステナビリティ経営の実践と開示 ―
    開催日2026年3月13日 19:30-21:30
    開催場所CPASS LOUNGE(シーパスラウンジ)
    〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目14−20 新宿テアトルビル 6F
    / オンライン配信

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