
公開日:2021/10/23
発達障害の人たちもキャリアを歩める社会を築きたい、林田絵美(株式会社キズキ執行役員)のキャリア!
今回のロールモデルは、株式会社キズキの執行役員である林田絵美さんです。自身も発達障害(ADHD)の当事者であり、うつ病や発達障害の方々のキャリアを支える活動をしていらっしゃいます。今回は林田さんに、自分とどう向き合って生きていくのか、生きづらさに悩む方がどのように社会に向き合っていくかについて語っていただきました。
林田絵美さんのプロフィール
CPA会計学院早稲田校卒業生。
「何度でもやり直せる社会を作る」をビジョンとする株式会社キズキの執行役員。
発達障害の当事者。2019年4月にうつや発達障害の方が会計・英語・デジタルマーケティング等を学び、キャリアを築くための「キズキビジネスカレッジ」を立ち上げ。
林田絵美さんの略歴
2013年:公認会計士論文式本試験合格
2014年:NPO法人Accountability for Change立ち上げ参画
2015年:早稲田大学政治経済学部卒業
2015年:PwCあらた有限責任監査法人(FS-FRA)に入所
2016年:認定NPO法人ARUNSeedでプロボノ活動
2018年:PwCあらた有限責任監査法人退職
2018年:カンボジア現地NPO「Khemara」にてマイクロファイナンスのインターン
2018年:株式会社キズキに入社
2019年:うつや発達障害の方のためのビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」立ち上げ
2021年:株式会社キズキ 執行役員就任
01. キャリアの変遷、展望
――会計士を目指したきっかけを教えてください。
高校2年生の時にリーマンショックが起こり、周りの年上の方々が就活に苦労している姿を見ていました。エントリーシートを100社分提出して、やっとの思いで通過した1社に就職する知り合いの姿を目の当たりにし、キャリアの選択肢があまり多くないように感じました。
自分はあらゆる職種や環境に適応できるタイプではないため、自分に合ったキャリアを選択できるようになりたいと思っていたんです。何か手に職をつけて働くことはできないかと考えていました。
また、高校生の時は人間関係に悩んでいた時期でもありました。その経験の中で、将来は生きづらさを抱えた人にとって役に立つようなことをしたいと思うようになりました。そして、生きづらさを抱えた方々への支援をビジネスとして行いたいと考えていました。そう考えるうちに、公認会計士という資格がしっくりくるようになったのです。
――林田さんも何か生きづらさというものを感じていらっしゃったのですね。
そうですね。私立の高校に行けるぐらい家庭的には恵まれていたので、周りからは生きづらさを抱えている人だと思われていなかったのではないかと感じています。そのような生きづらさを抱えている人は世の中にもっといると思っています。
――会計士試験を合格した後に海外に行ったそうですが、海外ではどのようなことを経験しましたか?
海外でビジネスを学ぶことを目的としている日本の学生団体に入っていたため、アメリカでコンサルティングの仕事体験をしたり、メキシコの学生と一緒にビジネスコンテストに参加したりしていました。
――リーダーシッププログラムみたいなものに参加していたのですね。卒業後にPwCを選んだ理由は何ですか?
就職活動時に統合報告や社会的投資という考え方が出てくるようになりました。統合報告や社会的投資の考え方は海外の方が発展していたこともあり、海外について詳しくなりたいと思っていました。そして、海外の情報をキャッチアップしている監査法人に就職したいと思うようになりました。
就職活動時に色々な監査法人の話を聞きましたが、PwCだけが統合報告に関する話に触れていたんですよね。もともとPwCは海外色が強いと聞いていたし、話を聞く中でPwCが海外の情報についてアップデートしていることを実感しました。なので、PwCを選びました。
――監査部門ではなくアドバイザリー専門の部署を希望した理由について教えてください。
アドバイザリー部門で統合報告に関する業務を行っていたため、アドバイザリー部門を希望しました。そして、アドバイザリー部門に関わっていくうちに、会計士が関わることができる領域について知ることができました。自分は監査がやりたくて会計士になったわけではなく、会計士として培っていく経験の中で自分ができることを見つけたいと考えていました。結果として、会社への色々な関わり方があるアドバイザリー部門の方がしっくりきましたね。
――アドバイザリー専門の部署ではどのような経験をしましたか?
日本基準からUS-GAAPへのコンバージョンに関する業務に長く携わっていました。他にも、①内部統制に関するアドバイザリー業務、②東南アジアの会計基準から日本基準へのコンバージョンに関するアドバイザリー業務、③グループ会社の中の組織再編のPMO業務などを行っていました。組織再編ではタックスやディールズに所属しているメンバーと一緒に、会計専門のアドバイザリーチームとして業務に取り組んでいました。
――幅広くアドバイザリー業務に携わっていたのですね。PwCの在籍中に発達障害の診断を受けたとお聞きしたのですが、診断を受ける前にどのような経緯があったのか教えていただけますか?
新人の時は色々なことに気を配らなければならず、専門的な1個の業務に集中するというよりは幅広く色々な業務を担うことが多いと思います。自分の特性上、1個の業務に集中してしまいやすく、業務の成果に偏りが出やすくなっていて、それについて頻繁に注意されて悩んでいました。例えば、お客さんに話しかけられても話しかけられたことに気付かず、作業を続けてしまうんです。
しまいには、自分が任されている領域が多いという事実にパニックを起こしてしまい、集中しすぎて夜眠れなくなったり過呼吸で倒れたりしてしまいました。
後に病院で診察を受け、発達障害という診断を受けました。そういう発達障害の概念があるということを初めて知りました。自分が“生きづらさ”と呼んでいたものの原因の一つが発達障害だと分かったので逆にスッキリしましたね。
――AFC(Accountability for Change)はどういう経緯でジョインしたのですか?
監査法人の就活中に、統合報告やソーシャルビジネスに関心を持っていたことをPwCのリクルーターの方々に話したら、NPOに出向経験があり、統合報告やソーシャルビジネスといった分野について詳しい五十嵐さんに繋いでくださりました。五十嵐さんがAFCを立ち上げることを知り、自分もここに関わりたいなと思ってジョインしました。
――AFCでは、どういったNPOを支援したのですか?
認定NPO法人ARUNSeedという、インドやカンボジアなどの社会的企業に対して貢献しているNPOを支援しました。具体的には、クラウドファンディングを通して日本で寄付金を集めたり、投資銀行出身者やベンチャーファンド出身者といったプロボノの方々と一緒に、アジア各国から集めたビジネスアイデアの審査及び投資を依頼したりしていました。
ここでの経験で、収益を維持しながら社会課題をどのように解決していくかを学ぶことができました。また、AFCという1つの団体をゼロから作れたことは自分にとって貴重な経験でした。監査法人しか経験していなかったら、もともと体制が整っている組織で働くという経験しかできていなかったと思います。今の会社がある程度スムーズに運営できているのは、AFCの経験があったからこそですね。
――キズキとの出会いについて教えてください。
AFCが企画したイベントにキズキ代表の安田が登壇しており、Facebookで繋がったことがきっかけです。「メンタルクリニックに関するポータルサイトを作りたい」という安田の投稿をFacebookで見つけ、キズキが発達障害の領域にも事業を展開していることを知りました。それに興味を持ち、キズキにジョインすることになりました。
――発達障害の方の就労支援やビジネスカレッジという話はそこで出てきたのですか?
「発達障害の方々のための会計士予備校を作りたい」と安田に話したところ、「会計に限らず、英語やIT、マーケティングなどを学ぶことができる発達障害の方のためのビジネススクールを作りたいと考えていた」と安田から言われました。
最初は何から始めて良いか分からず、気合で乗り越えた場面もありました。障害者採用を行っている企業へのヒアリングを行い、求職者や採用者が何を望んでいるのかを把握することから始めました。
――発達障害の方々は専門スキルと相性が良いのですかね?
必ずしもそうとは言い切れないのですが、発達障害の方々は何かに特化することに向いている傾向がありますね。ビジネスカレッジに通う方々の中には、一度離職している人や、就職をすることに不安を感じている人が多いんです。強みと言える特定のスキルを身に付けることにより、万が一就職先に馴染むことができなかったとしても再度やり直すことができるため、ビジネスカレッジはそういった方々のニーズを掴むことができていると感じています。
――ビジネスカレッジの運営以外にも何か取り組んでいることはありますか?
今、IT化の推進に取り組んでいます。ビジネスカレッジは対面で色々な情報が交換されるサービスであるため、情報が俗人化しやすいんですよね。
事業を立ち上げた時にメディアに取り上げられたこともあり、利用者が一気に増えました。しかし、利用者の情報を共有する体制が整いきれておらず、情報の俗人化が進んでしまったと感じていました。
そこで、顧客データベースを早急に作ることで利用者の課題や希望就職先といった情報を社員がいつでも見ることができる体制を整えました。その結果、キズキが提供できるサービスの質も上がったんです。
対面支援だからこそデジタルの活用は大事だと思うし、それは既存の事業にも通ずると思っています。全社的にサービスの質を上げるためにも、IT化の推進に全力で取り組んでいます。
――今後の展望を教えてください。
発達障害やマイノリティに分類されている方は社会から勘違いを受けていることが多いと思っているんです。発達障害の方のキャリアの築き方や、うつ病の方の働き方などを多く紹介することで、「うつ病の人は働けない」、「発達障害の人は雇いづらい」といった認知を変えることができると思っています。
社会をガラッと変えたいというよりは、正しい情報を提供することにより正しい認知を広げていきたいと思っています。

02. 仕事する上で大事にしていること(仕事論)
――仕事をする上で大事にしていることについて2つ教えてください。
(1)目的を明確にすること
目的を明確にしていないと、どのような行動を取れば良いのか分からなくなってしまうことがあります。「これをやって」というような曖昧な指示を受けても、相手の指示と自分がやったことにズレが生じて怒られてしまうことがよくあるんです。目的がはっきりしている方が成果を出しやすいし、働く以上は成果を出して人の役に立ちたいと考えているので、目的を明確にすることを重視しています。
(2)周りの人の能力や強みに詳しくなること
マーケティングに携わったことがあるのですが、マーケティングのチーム内にはマーケティングのデータ分析が得意な人もいれば、コンセプトの考案やブランディングが得意な人もいたんです。自分の専門分野ではない領域でチームメンバーと一緒に働く際は、チームメンバーの得意分野を知っていないと不利になってしまうことを痛感しました。逆にチームメンバーの得意分野を知っていると、それらを組み合わせることによって理想の成果を実現することができると思うんです。相手の強みを認めることは目的を達成するために大事だということを、事業会社での業務を通じて学びました。
03. 会計士という資格を取って良かったこと
――会計士という資格を取って良かったことを教えてください。
(1)会計士試験の勉強を通じてビジネスについて幅広く知ることができた
初めて経験する領域が事業会社には多くあり、それらの領域について1から勉強する必要があるのですが、会計士の勉強を通じて最低限の知識を身に付けていたため、スムーズに勉強することができました。
(2)公認会計士という肩書は強い
ビジネスカレッジにいらっしゃる方々はビジネスキャリアを積みたいという目的を持っている方が多いです。公認会計士という肩書のおかげでその方々にビジネスやビジネスキャリアに強いと思ってもらえることがあるのはありがたいですね。企業の採用担当者の方々にも障害者支援やビジネスについての相談を頂くことができています。
(3)リスクテイクをするハードルが下がった
給与を下げてキズキに入社したこともあり、キズキでビジネスキャリアを積んでいくことに多少の不安はあったのですが、公認会計士という資格のおかげで新しいことへの挑戦に対するハードルは低かったです。当時は万が一、キズキで上手く活躍できなかったとしても、別の場所で再挑戦することができると考えていたためです。
04. 林田絵美さんから生きづらさを抱えている若い世代の方々に伝えたいこと
――生きづらさを抱えている若い世代の方へのメッセージをお願いします。
(1)“自分だけがダメだ”とは思わない
TwitterのDMで会計士受験生の方から、「どうしたら林田さんのように困難を乗り越えることができますか?」といった相談を受けることがあります。たしかにメディアの記事を見ると、見事に困難を乗り越えてキャリアを歩んでいるように見えてしまいますよね(笑)。ただ、今でも困っていることもあるし、失敗することだってあります。
今、挫折中でメンタル的に追い込まれている方々は、メディアの記事を見て「自分もこうなれるのだろうか」という不安を抱いていると思います。ですが、“一見、成功者に見えるような人でも、ちょっと前までは苦しんでいた可能性があるし、日常的な悩みだって持っています。そのような人に近づくことができる可能性は十分あると信じてほしいし、自分だけがダメとは思わないでほしい”と伝えたいです。
(2)周囲の人と比べて不利に感じている部分が、その先の成果にまで影響することはない
障害を持っているとどうしても周囲の人と比較して不利に感じてしまう部分があると思うのですが、不利に感じてしまう部分がその先の成果にまで影響することはないと思っています。“どのゴールに向かって努力をするか”を考える事がとても大事です。自分は高校生の時からゴールを決めており、そのゴールに向かおうと努力したからこそ今があると思っています。①どのようなゴールを設定するか、②そのゴールに到達するためにはどのような方法が適しているのかを考えることで、現状を変えることができると信じています。
(3)自分が悩んでいることについて、それに詳しい人に相談する
親とか友達に自分の悩みを相談することってよくあると思います。けれど、障害を抱えた人が親や友達に相談した結果、「それは、甘えだ。」というようなアドバイスを受けてどうすれば良いか分からなくなることがあるんですよね。
障害については障害に詳しい人に相談するべきだし、会計についてはCPAの講師に相談するべきです。自分が悩んでいることについては、それに詳しい人に相談してほしいと思っています。

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