
公開日:2023/10/28
FAS業務に従事している会計士へインタビュー⑤
古川拳土さんの記事
こんにちは。
本日は、FASにてFA業務に従事したことのある現役会計士2名に、下記4点についてインタビューした内容を紹介できればと思いますので、最後までお読みいただければと思います。
バックグラウンド紹介
なお、インタビューさせていただいたAさん及びBさんについて、簡単にバックグラウンドを紹介させていただきます。
Aさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFASバリュエーション&FA部門に転職。約1年後更に他ファームのFASへ転職し、DD、バリュエーション、FA業務に従事中。
Bさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームFASのFA部門に転職。約2年後PEファンドに転職、在籍中。
FA部門について、念のためおさらいしておきます。
FA部門は、主にM&Aの実行フェーズ(エグゼキューション)において各種アドバイザーや利害関係者の調整、価格交渉等を行い、案件全体を進める役割を担います。M&Aアドバイザリー業務と言った場合、通常はこのFA業務を指すことになります。
会計・税務・法務・ファイナンス等、幅広い知識をインプットしておく必要があり、まさに総合格闘技と称される業務となっています。業務内容は金融機関の投資銀行部門と重なりますが、投資銀行と比べると案件サイズは小さい印象ですので、投資銀行とそこまで競合することはないのかもしれません。
会計士は、2~3割くらいの印象です。会計士以外ですと、証券会社など金融機関出身者が多いかと思います。
Big4ですと、KPMG FASのCorporate Finance部門のみバリュエーション部門とFA部門が一体となっていますので、バリュエーションもFAも両方経験してみたい方は、是非選考を受けられると良いかもしれません。
前置きが長くなってしまいましたが、内容に入っていきます。
01. FAS入社前に実施した事前準備
・Aさんのコメント
「バリュエーションやM&A全体の流れを中心に学ぶことにしていたので、FA業務に対する事前準備は特にしていませんでした。FA自体の役割は入社前においても理解していたものの、DD やバリュエーションと違って明確な作業や成果物がないので、とにかく作業のイメージがしにくかったです。入社前は、バリュエーション等の業務経験を通じてM&A実務に慣れていった上でFAにチャレンジする、というキャリアを描いていましたので、入社前から何か特別な準備の必要はないと考えていました(実際は、バリュエーション業務に慣れる前からFA関連のアサインもありましたが)」
・Bさんのコメント
「M&A関連の書籍を読んでいました。具体的には、下記の2冊のような、M&Aの一連の流れを押さえることができるような書籍がおすすめです」
・改訂5版 M&A実務のすべて | 北地 達明, 北爪 雅彦, 松下 欣親, 伊藤 憲次 |本 | 通販 | Amazon
・Amazon.co.jp : 会社売却とバイアウト実務のすべて」
私としても、FA業務は業務範囲が広いゆえに、具体的な業務内容はイメージしにくい印象を持っています。かつ、プロジェクトによっても求められる役割は変わる印象ですので、なかなか入社前の具体的な業務に向けた準備の実施は困難と考えられます。そのため、まずはM&Aの一連の流れについて、より具体的なイメージを沸かせることが大事です。特にBさんに紹介いただいた2冊に関しては、入社後も勉強になるような、十分な情報量の書籍ですので、しっかり読み込むだけでも入社前の準備としては十分と考えます。
また、後ほどBさんのパートでも出てくる内容ですが、Big 4 FASに入社した場合、当たり前のようにグローバル案件にアサインされますので(そもそもグローバルファームであるBig 4に依頼する時点でグローバル案件の場合が多い)、英語に抵抗のある方は英語の学習(TOEICの勉強、英会話教室へ通う等)を進めることも大事だと考えます。
02. 入社して最初に担当した業務
・Aさんのコメント
「FA業務におけるチーム体制は、パートナー、プロジェクトマネージャー、スタッフ数名(案件規模による)から成り立っており、勿論最初は最若手のスタッフとしてチームにジョインする形となります。FA業務は、業務自体が「なんでも屋」の部分があり、最若手としてロジ周りの作業(クライアント及び内部(Tax チームなど)との日程調整や議事録の作成等)、資料作成(ディスカッションペーパー、インフォメーションメモランダム等)、DD対応(VDR整理やQA 対応など)、など、広範な業務を担当しました」
※1インフォメーションメモランダム:M&A 取引において、売却対象となる企業・事業等に関する情報を詳細に記載した資料のことで、買い手側はこれに記載されている情報に基づいて対象企業・事業の評価を行い、次の交渉に進むべきかの判断を行います。一般的には、売り手の M&Aアドバイザーが作成します。
※2 VDR:バーチャルデータルームの略で、クラウドなど仮想的な空間でデジタル文書を保存・共有するためのスペースを指します。M&Aの際には、基本的に当該データルームにて資料のやり取りは実施されます。
・Bさんのコメント
「QAの取りまとめや受領資料の整理を実施していました」
Aさん及びBさんに共通していますが、まずはQAの取りまとめや対応、受領資料の整理を実施するとのことです。
私もバリュエーション部門に所属しつつも、FA業務のプロジェクトにアサインされたことがありましたが、AさんBさん同様、日程調整やQAの取りまとめ(私の場合、売り手側FAのプロジェクトにアサインされましたが、買い手候補からの売り手に対する質問について、QAを内容毎にグルーピングしたり、回答担当者の割り振りを実施したりしていました)、資料の整理(売り手から受領した資料について、カテゴリー毎のフォルダ分け等)等を実施していました。実施した業務自体は地味でしたが、ミスが発生してしまうとクライアントに迷惑が掛かってしまうため、緊張感を持って業務を実施していました。
加えてM&Aはスピード感を持って実施されるため、期限がタイトであり、かつQA等の量も膨大となるため、DD期間等は非常に忙しくなる印象です。そのため、FA業務に関しては、比較的長時間労働になりやすい業務であると認識しています。
03. 入社して最初に苦労した部分
・Aさんのコメント
「案件のタイムラインに左右されるが、自分がジョインした案件はタイムラインがシビアであったため、とにかく仕事量の多さに苦労しました。FA の仕事は一つ一つの仕事自体はさほどウェイトは重くない(例えば、議事録一つ書く、MTG の日程調整をする)ものの、それが連日・同時多発的に生じ、かつ、その FA 案件だけでなく他のFA案件やFA以外の仕事(バリュエーションなど)も発生するため、仕事を片付けることに常に苦労していました。FAの仕事はクライアントや対象会社、ディールのカウンターパーティーとのコミュニケーションを要することから日中に業務が集中することが多く、チーム内での整理事項(資料作成や議事録作成など)やバリュエーション等の他の仕事については、夜もしくは深夜に対応せざるを得なかったので、FA がピークのときには本当に休めない日々が続きました(土日もほぼフルで仕事をし、日曜の夕方 1~2 時間を使ってスーパーやドラッグストアに買い物行くのが小さな息抜きになるレベルでした)」
・Bさんのコメント
「やらなければいけないことがとにかく多岐にわたります。具体的には、M&Aのストラクチャーの検討、DD発見事項と対応方針のすり合わせ、社内説明資料作成支援、銀行対応、クロージングプロセス調整等を対応していきました。クライアントからの質問事項はまずFAにするので、ビジネスや法務に関する知識も必要となってくる点がまず苦労しました。
また、Big4にお願いされる案件は、当然のようにグローバル案件ですので、英語対応は当然のように要求されます。私はスタッフレベルで入社したため、クライアントとのコミュニケーションはメールベースでしたが、英語でのミーティングへの同席は頻繁にありました。マネージャーになる頃には、ネイティブスピーカーと英語で議論できることが求められる印象です」
FA業務の特徴としては、やはり業務範囲の広さと業務量が多い印象でして、FAS業務の中でも、DDとバリュエーションの方々はスペシャリストなイメージですが、FAと事業再生の方々はゼネラリストなイメージです(ゼネラリストと言っても、「広く浅く」ではなく、「広く深く」ですが(笑))。
知的好奇心が旺盛な方にとっては、非常にやりがいや刺激のある業務かと思いますが、その分業務量も多いため、労働時間が長くなってしまうことはある程度の覚悟が必要なのかもしれません。
また、英語に関しては、Bさんのおっしゃる通り、確かにFASは監査法人よりも当たり前に英語を使う環境な印象です。部門は異なりますが、私が入社したバリュエーション部門でも、入社して最初にアサインされたプロジェクトは、タイの会社のバリュエーションだった記憶があり、会社説明資料等も勿論英語で書かれており、結構驚いた記憶があります。タイの会社のバリュエーションの場合、現地ファームのポリシー(現地でバリュエーションを実施する際のルールみたいなもの)を知る必要があったため、EYタイのマネージャーを検索ツールで探し、その方に英語で質問のメールを送ったのは、今となっては良い思い出です。
04. 03.を乗り越えるためにどのような工夫をしたか
・Aさんのコメント
「周りの先輩や同期に積極的に質問・コミュニケーションを取り、なるべく早期に疑問点を解決するように心がけました。また多忙な職場であったので、資料等を見れば解決するものは自分で解決するようにし、周囲のメンバーに確認を取る際は、何がわからないかを簡潔かつ明確にしてスムーズなコミュニケーションとなるように常に工夫しました。FAの仕事それ自体は他に分担できる人がいるわけではなかったので、とにかく一つ一つ着実につぶし込んでいくしかありませんでした。やることが複数ある状況においては、対応する優先順位が大事であり、作業に対する順位付けを行うことで、仕事のプレッシャーをなんとかコ
ントロールして自分の時間に少しでも余裕ができるように工夫しました。また、対クライアントという意味では「期待以上の成果を出すこと」も重要ですが、Scope やリソース(時間・人員)の観点からは期待値コントロールも重要であり、省略できる仕事や効率化できる作業がないかは常に考えるようにしていました。とにもかくにもピーク時は仕事の量が多すぎるので、仕事そのものに対するテクニカルな工夫というよりも、いかに自分の自由な時間を確保するか、自分のペースで仕事を進められるようにするか、という観点で仕事の棚卸や
順位付け、予定を立てるか、という点が大事だったのではないかと感じています。
・Bさんのコメント
「提出を受けた資料やQAに関しては、受け取ったタイミングでまずは一通り目を通すことを徹底し、ネクストアクションを早めにイメージするようにしていました。
英語に関しては、スピーキングという観点では英会話教室に通い、読み書きという観点ではTOEICの勉強をしていました。徐々に英語力を向上させることはできていましたが、ミーティングでネイティブと議論できるレベルがゴールである点考えると、最後まで自信は持てませんでした」
個人的にはBさんの仰っている、「資料等は受け取ったタイミングでまず一通り目を通すこと」は非常に大事だと考えていまして、日々業務量が多いスタートアップで働いている私も、現在徹底しています。一通り目を通した後、Aさんのおっしゃる通り疑問点を整理し(自分で解決できる疑問点なのか、それとも他人に質問しなければ解決できない疑問点なのか明確にする)、ネクストアクションに繋げています。
また、英語という観点では、私の所属していたバリュエーション部門でも読み書きに関しては当たり前のように行っていましたので(英語でレポートを作成する機会も少なからずありました)、Big4 FASへの転職を希望されている方は、読み書きに関しては少なくとも抵抗はない状態にしておいた方がベターかと考えます。
まとめ
本日は、
・FAS入社前に実施した事前準備
・入社して最初に担当した業務
・入社して最初に苦労した部分
・上記を乗り越えるためにどのような工夫を実施したか
の4点について、インタビューした内容を紹介させていただきました。
そもそもFA業務に従事している会計士は、最も人数の多いDDと比較すると少ないため、なかなか生の話を聞く機会が少ない方も多いのではないかと思います。私自身もFASバリュエーション部門に所属していたものの、FA部門と接する機会はそこまで多くなかったですので、今回のインタビューは大変勉強になりました。
FA部門への転職に興味を持っている方にとって少しでも参考になり、転職活動の際の一助となりましたら幸いです。
最後までお読み下さりありがとうございました。
この記事を書いた人
慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。
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