公開日:2023/07/07
スタートアップ転職のメリット・デメリット:「ChatGPT」の回答をVCの視点で考察する
西中孝幸さんの記事
イントロダクション
まるで人間とコミュニケーションしているかのように自然な対話ができることで一躍話題になった人工知能(AI)チャットボット「ChatGPT」。OpenAIが開発したChatGPTは、リリースからわずか2ヶ月で1億人ものアクティブユーザーを獲得したことで知られています。
一方で、ChatGPTは特定の専門分野についてはまだまだ不十分な要素が多く、専門職からすると回答に突っ込みどころが多いという意見も見受けられます。
私は、ベンチャーキャピタル(VC)JAFCOで10年以上、スタートアップ支援に携わる中でスタートアップへの転職相談も多数受けてきました。
転職希望者から実際に意見を求められることが多いケースをある程度一般化した上で、ChatGPTに投げかけてみるとどうなるのか?試しに以下の質問をChatGPTに投げかけてみました。
「私は会計士資格を保有しており、現在監査法人で働いている32歳です。今後のキャリアとして、スタートアップへの転職を考えています。 転職市場における価値の観点から、スタートアップに転職するにあたってのメリット、デメリットについて考察してください。」
この問いに対し、ChatGPTが示した回答は以下の通りです。
前提として、ChatGPTは試行を重ねるごとに学習し、洗練されていくため、上記の内容はあくまでも私が質問した時点での回答結果です。
それを踏まえた上で、スタートアップへの転職のメリットデメリットについてChatGPTが回答した内容に対し、本記事では私なりの視点からさらに考察を加えてみたいと思います。
スタートアップへの転職といっても、そのフェーズによって文脈が変わってきますが、この回答ではシードやアーリーフェーズの会社への転職をイメージ頂くと良いでしょう。皆様の今後のキャリア選択に役立つ論点を提供できれば幸いです。
ChatGPTの回答を俯瞰しての所感:大手企業とスタートアップのキャリア形成の違い
ChatGPTの回答を見て、最初に感じたことは「AIがここまで回答できるのか」という純粋な驚きでした。回答内容の大枠自体は、私から見ても間違っていないように思います。
ただ、スタートアップを取り巻く環境について読み手がどの程度理解しているか次第で、言葉の解釈も異なるため、人によってはミスリードにつながる可能性もあるように見受けられました。
たとえば「キャリアアップ」という用語をどう定義するかによっても、回答の意味が変わります。仮にキャリアアップの判断基準を待遇面とすると、スタートアップや異業種に転職した場合、年収が上がるとは必ずしもいえません。
しかし、経験を積むことでスキルアップを果たし、実績を積み重ねていれば、自ずと自己成長に見合った待遇につながるでしょう。単純な右肩上がりではなく、Jカーブで成長していくケースも多々あるからです。
また、スタートアップの場合、転職先の企業が思うような事業成長を遂げられず、経営がうまくいかなくなる可能性もあるでしょう。しかし、その企業で経験値を増やしながらスキルアップできていれば、転職先でより多くのリターンを得ることは十分可能です。
どちらが良い悪いではなく、キャリアを通じて何を達成したいのか、一人ひとりの優先順位次第で最適なキャリアパスは異なるといえるでしょう。
ChatGPTの回答からスタートアップ転職というキャリア選択を考える
スタートアップ転職のメリットに対するAIの回答と考察
ChatGPTが回答したスタートアップに転職するメリットは以下の3点でした。
-
自己成長に富んだ環境
-
キャリアアップのチャンス
-
アイデアの実現に取り組むことができる
私の個人的な見解ですが、この3つの中では「自己成長に富んだ環境」という点がスタートアップに転職するメリットとして最も大きいように思います。
なぜなら、新たな市場創出やサービス提供にチャレンジしているスタートアップでは、日々業務の中で答えのない問いに向き合うことになるからです。そういった環境下では、自ら仮説を立てながら意思決定を下し、高速でPDCAを回していくことが求められます。
自己成長をどのように定義するかにもよりますが、特にスタートアップでCxOポジションとして活躍されている方はハードスキルとソフトスキルの両面を日々実践で磨いていくことになります。
もちろんそれ以外のポジションであっても、スタートアップに入ると通常、組織のオペレーションが固まっていない分、自分が今まで経験したことのない業務を多々こなしていくことになります。その結果、自らの成長の幅を広げることもできるでしょう。
その他に挙げられたメリットについて見ていくと、「キャリアアップのチャンス」についてはどの市場で考えるかによる部分も大きいでしょう。
入社したスタートアップで活躍できれば、仮にその会社の事業が順調にスケールしなかったとしても、経験に応じてスタートアップ領域における人材価値は高まっていきます。また、それ以外の領域だとしても、スタートアップでの経験や実績は転職市場で評価されやすくなってきています。
そもそもキャリアアップを考える際の基準として、私は個人軸とマクロ軸の両方が必要だと考えます。キャリアパスを考える上では、先述した個人軸での人材価値の推移だけではなく、社会全体の動向も大きな影響要因になるからです。
一昔前と比べると、スタートアップの資金調達環境も良くなっており、上場企業を超える年収水準も一部見られます。
「アイデアの実現」に関しては、スタートアップの場合は経営陣との距離が近いことが多く、新たな提案(=新しいアイデア)は会社の方向性と合致していれば挑戦しやすいというメリットはあるでしょう。ただし、デメリットとして後述する経営環境の不安定さやリソースの少なさについてはあらかじめ考慮しておく必要があると思います。
スタートアップ転職のデメリットに対するAIの回答と考察
ChatGPTが回答したスタートアップに転職するデメリットは以下の3点でした。
-
不安定な経営環境
-
給与や待遇に関しての不安
-
時間的な負担
上記のうち、「不安定な経営環境」と「給与や待遇に関しての不安」は直結している部分でしょう。スタートアップの場合、大手企業と比べて財務基盤が安定していないため、資金繰りの状況が給与や待遇面へとダイレクトに反映されやすい傾向があります。
ただここで留意しておきたいのが、仮に会社の決算が赤字だからといって経営状況が悪いとは一概に判断できないという点です。分かりやすい事例として、たとえばAmazonは上場から暫くの間赤字を続けていましたが、その間も事業は成長し続けていましたし、株価も伸びていました。
スタートアップの経営状況を見る上でのポイントは、事業成長のための投資を適切に行うことでキャッシュの循環を生み出せているかどうかという点です。源泉となるお金は、事業そのものの売上だけでも良いでしょうし、外部からの資金調達を組み合わせてもよいでしょう。
仮に先行投資で赤字になることがあっても、将来の成長とリターンが適切に見込める形で資金を回せているのであれば、基本的に会社は存続可能です。
逆に決算自体は黒字だとしても、成長のための投資にキャッシュを回せていなければなければ、自ずと事業が縮小していくため、社員の給与や待遇も不安定になっていきます。リソースに限りがあるスタートアップの場合は、特にその傾向が顕著だといえるでしょう。
「時間的な負担」については、スタートアップのフェーズやポジションによって異なるかと思いますが、以前と比べて資金調達がしやすくなった分、ハードワークの負担が軽減されている会社も多くなってきたように思います。
シードの段階だとどうしても負担は大きくなりますが、シリーズAやシリーズBで資金調達に成功し、社内体制をある程度整えている会社であれば、上場を目指すにあたってコンプライアンスも意識しているはずです。
実際にベンチャーキャピタルが出資している場合、上場に向けた体制づくりの一環として未払い残業の有無も確認しているため、CxOポジション以外のメンバーに関しては法律に基づいた労働環境が用意されているといえるでしょう。
ただし、スタートアップの場合はどうしても人的リソースが少ないため、イレギュラーが発生した際の対応については大手企業よりもシビアです。人事配置や異動で対応しきれないことがあるため、想定していない業務が舞い込んでくるケースもあるでしょう。
このあたりはメリットとも表裏一体のため、ご自分のキャリアにおける優先順位次第でどちらにも転ぶと考えられます。またスタートアップと一言で言っても、会社ごとにカルチャーが異なるため、実情を調べておかないと判断がつかない部分も多々あります。
冒頭でお伝えした通り、ChatGPTの回答は決して間違ってはいませんが、「スタートアップへの転職」は会社ごとの違いが大きいため、まずは
「自らのキャリアにおいて何を優先するのか?」
「スタートアップに転職して何を成し遂げたいのか?」
この2つの問いと向き合いながら、志望先のスタートアップについてリサーチを行い、また経営者の方と実際に対話して解像度を高めることで、ご自分に合ったキャリアパスを選びやすくなるのではないかと思います。
今回の記事でお伝えした私なりの見解が、皆様の今後のキャリア選択の参考になれば幸甚です。
▼VC視点から見た「スタートアップ」というキャリアパス:他記事一覧▼
(他記事も合わせて読んでいただくことで、より理解が深まります)
・ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を決める基準とは
・VC目線からみたスタートアップの資金調達とは|エクイティファイナンスと資本政策
この記事を書いた人
新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。
2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。
2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。
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