公開日:2023/01/26
CFOへの転職希望者に向けたQ&A :CxOとして「何」が期待されるのか?
西中孝幸さんの記事
私は、ベンチャーキャピタル(VC)JAFCOで10年以上、スタートアップ支援に携わり、投資先の人材採用支援も行ってきました。また、スタートアップのCFOとして転職したい方の相談も多数受けてきました。
少し前のことですが、ある会計士の方から転職相談を受けました。その方はスタートアップの管理部門ですでに実務担当者として経験を積んでおり、上場までのプロセスも経験したため今後CFOを目指していきたいとのことでした。
今回はその方の相談にお答えした内容をもとに、CFOというキャリアについて私なりの視点をQ&A形式でまとめてみました。
仕事柄、私の場合は未上場、もしくは上場前後のフェーズにおけるCFO像が前提としたお話になるのですが、本質的な部分は共通しているかと思います。今後のキャリアでCFOを検討されている方の参考になれば幸いです。
Q.CFOを目指しているのですが、どういうキャリアを描いていけばいいですか?
CFOの方々のバックグラウンドを見ると、大別して以下の4パターンいずれかに当てはまるように思います。
-
会計士出身
-
投資銀行、IBDなどの金融機関出身
-
コンサルティングファーム出身
-
事業会社出身
昨今、大型の資金調達を検討するスタートアップが増えていることから、CFOに資金調達能力を期待しているという話をよく耳にします。そのため、私の実感として「CFOは投資銀行経験者の方が有利なのか」といった質問が目立つようになりました。
しかし、この問いはCFOの本質とはズレているのではないかと私は考えます。
なぜなら、CFOの役割は資金調達ではなく、企業価値向上に経営陣としてコミットすることだからです。
もちろん経営陣の一員として何かしらの強みを武器にする必要はありますが、それが資金調達力とは限りません。会計知識や課題解決能力、豊富な実務知識・経験などもCFOの武器になりうるでしょう。
極論を言えば、企業価値の向上という目的が達成できるのであれば、どんなスキルやノウハウを武器にしてもいいと私は思います。
ただし、以下のような傾向をお持ちの方はCFOとして期待されている役割が本当に自分が求めるものなのかをよく検討した上で、キャリアを選択されたほうが良いのではないかと思います。
- プロジェクトの完了に向けて、効率よく最短ルートの道を作っていくのが好きな人
- 明確なゴール達成に向けて専門知識を駆使し、自分のパフォーマンスを最大限に発揮することでやりがいを感じる人
- プロジェクトベースやタスクベースで出来ることをどんどん増やしていきたい人
1と2については、企業価値に貢献するというCFOのゴールには正解がなく、かつ終わりがないからというのが理由です。
また、3について述べた理由として、CFOは思考も行動も自分軸ではなく会社軸になるという点が挙げられます。つまり、会社の成績がCFOの成績になり、会社の成長がCFOの成長になるのです。
そのため、自らのスキルアップが仕事の原動力になっているという人の場合、CFOの仕事では自分が求めるやりがいが思うように得られない可能性があります。
これらの点に注意した上で、本当にCFOを目指すかどうかも含めて、自らのキャリア設計を考えてみると良いのではないかと思います。
Q.CFOを目指すにあたって、普段からどんなことを意識しておけばいいでしょうか?
先ほどからお話している通り、CFOはいわゆるCxOのポジションであり、経営陣の一員です。そのため、「会社の企業価値を高めること」というミッションに基づいたアクションが期待されます。
会社経営を続けていくと、自らが培ってきた武器が通じない局面に出くわすこともあるでしょう。そういった時に、自分の得意分野を捨ててでも、目の前の課題に向き合い、解決に取り組んでいく姿勢が経営陣には求められます。
管理担当者や上場準備責任者と対比してみると、ポジションごとの期待値の違いがより分かりやすくなるかと思います。
たとえば、管理責任者であれば管理部門の業務やオペレーションをいかに円滑に進めるかというテーマに取り組んでいます。上場準備責任者であれば、上場準備のプロセスで発生する様々な課題の解決・改善にコミットしています。
それに対して、CFOは企業価値にコミットするポジションです。どちらが良い悪いではなく、CFOと担当者では、期待される役割が違うのです。
そのため、人それぞれ財務や会計、資金調達などの得意分野があるかと思いますが、CFOにとってはいずれも企業価値を高めるための手段であり、目的ではないという点に注意が必要です。
以前に寄稿した吉田知史氏(現株式会社ジオコード専務取締役CFO)との対談記事を見ていただくと分かるのですが、CFOというポジションには様々な業務が内包されています。
参考記事:https://cpass-net.jp/posts/mhBWTbLB
吉田氏の場合であれば、前職のアイビーシー株式会社でコーポレートや人員体制が整ってない段階から参画し、人材の確保や事業計画のロジックづくり、英語の契約書作成など様々な業務をされていました。
ようするに、企業価値に貢献するために、必要に応じて得意分野以外の業務を行うことも十分ありえるのです。
管理担当者や上場準備責任者等の場合、それぞれ目指すべきゴールが明確にあります。対して、企業価値に貢献するCFOは、答えのないゴールに向き合う仕事です。
しかも、企業価値をどのように高めていくかという問いは、その企業が存続している限り続くため、そのゴールには終わりがありません。そのため、難しい意思決定を迫られることも珍しくありません。
こういったことをお伝えすると、自分にはCFOは無理かもしれないと思われる人もいるかもしれませんが、どんなに優れたCFOでも最初は未経験からのスタートでした。
ハードシングスに直面しては試行錯誤を繰り返し、上手くいかないことはPDCAを回しながら改善していく。そういった地道なアクションを繰り返しながら、答えのない問いにそれでも向き合い続けていく。
こういった道なき道を進むマインドこそがCFOに最も必要なものだと私は考えています。これからCFOを目指す方はぜひ、何を考え、どう行動すれば企業価値の貢献に寄与できるのかという問いを意識してみていただけたらと思います。
Q.CFOを目指すにあたって、会社選びはどのようにすればいいですか?
CFOになりたいという方からの転職相談にアドバイスする際、私は必ずその会社の事業や経営者をしっかりリサーチした上で、次の2点を確認することを推奨しています。
・その会社の方向性は、自分がやりたいことや挑戦したいことに合っているか
・その会社のミッションやバリューに共感できるか
会社経営には、予期せぬトラブルや想定外の困難がつきものです。様々なハードシングスに対処しながら、それでも答えのない問いに向き合い続けていくためには、精神的にも肉体的にもタフさが求められます。
会社のミッションやバリューに強く共感していたり、人生においてチャレンジしたいことなどが会社のビジョンと一致していたりすれば、その想いや価値観が精神的な支柱になるケースが多いのです。
逆に、採用条件や上場しやすさなどの理由だけでCFOにキャリアチェンジするのはおすすめできません。そういったケースの場合、入社後にご本人の思うようなパフォーマンスが発揮できず、双方ともに不幸な結果になりやすいからです。
いずれにしても、「この会社にコミットしたい」と思える先があったら、まずはしっかりとリサーチを行った上で、経営者の方と実際に面談して詳しく話を聞いてみるとよいでしょう。
会社の成長に対して自分事として本気でコミットできるCFOを求めてるスタートアップはたくさんあります。今回ご紹介したスタンスやマインドを参考にしていただきながら、ぜひスタートアップCFOへのキャリアに挑戦してみて頂ければ幸いです。
▼VC視点から見た「スタートアップ」というキャリアパス:他記事一覧▼
(他記事も合わせて読んでいただくことで、より理解が深まります)
・ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を決める基準とは
この記事を書いた人
新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。
2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。
2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。
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