人と繋がり、可能性を広げる場

公開日:2022/05/16

  • IFRS

はじめてのIFRS簡単解説!No.5 日本基準とIFRSの差異① 「有形固定資産」

岩橋宏幸さんの記事

    はじめてのIFRS簡単解説!これから数回にわたり、日本基準とIFRSの差異について解説していきます。今回は、まず日本基準とIFRSの差異を学習する前提を説明した上で、若手スタッフの担当することが多い「有形固定資産」について解説します。

    日本基準とIFRSの差異

    前回No.4の記事にて、「日本基準とIFRSの差異を学習していくことが、IFRS財務諸表を作成する上でとても大切」と記載しました。

    日本基準は、新収益認識基準の導入をはじめ、年々IFRSへのコンバージェンスが進んでおり、両基準の差異は以前と比べ大きく減少しています(=大部分は同じ)。そのため、まずは日本基準をしっかり学習する→その上で日本基準とIFRSの差異について学習するのがベターかと思います。

    本記事では、なるべく日本基準をベースにして、日本基準とIFRSの主要な差異を解説していきます。

    有形固定資産

    (1) 取得原価の構成要素、借入コスト

    ここでのポイントは2つです。

    ①日本基準では不動産所得税の会計処理が明確に定められておらず、租税公課として費用処理することが実務上一般的ですが、IFRSでは当該処理は認められておらず、取得原価に含めて計上しなければならないという違いがあります。

    ②借入コスト(利息費用等)に関して、日本基準では原則発生時に費用処理、ただし自家建設した場合には、例外で取得原価に算入できるという規定があります。一方、IFRSでは、適格資産に該当する場合、強制で借入コストを取得原価の一部として資産計上しなければなりません。適格資産とは、使用可能となるまでに相当の期間を要する資産のことで、相当の期間については明確に規定されていませんが概ね1年以上と解釈されることが多いです。例えば、建設に1年以上かかる資産の場合、建設中に借入コストが発生すれば、取得原価に含めなければならないというイメージです。

    (2) 減価償却方法、耐用年数、コンポーネント・アカウンティング

    (減価償却方法、耐用年数)

    日本基準では、法人税法に従った減価償却方法や耐用年数が採用されるのが実務上一般的ですが、IFRSでは法人税法は通用しません。有形固定資産それぞれの使用頻度や利用可能期間を見積り、それに応じて減価償却方法や耐用年数を決める必要があります。

    日本基準→IFRS移行時、よく論点になるのが「定率法」です。IFRSでも「定率法」が実態に合っている場合は認められますが、有形固定資産は使用頻度が耐用年数にわたり一定であることが多く、「定率法」が実態に合っていると合理的に説明するのはなかなか難しいです(説明できればもちろんOKですが)。そのため、ほとんどのIFRS導入企業は、IFRS適用年度もしくはそれ以前に、何かしら正当な理由をつけて「定率法」から「定額法」へ減価償却方法を変更しています。

    (コンポーネント・アカウンティング)

    コンポーネント・アカウンティングは、減価償却単位の話で、日本基準にはない考え方です。例えば、航空機の場合、機体部分とエンジン部分といった構成要素に区分し、それぞれの耐用年数にわたって減価償却を行うことが適切となる場合があります。日本基準にはない考え方ですので、IFRS導入時には金額が大きい資産を中心に該当するかどうかを検討する必要があります。

    (3) その他

    その他として、日本基準とIFRSの代表的な差異としてよく取り上げられるが、会計処理上は差異になることがない論点を2つ紹介します。

    減価償却方法の変更は、上記の通り考え方が相違しますが、会計処理上は両基準とも遡及適用はせず将来に向かって処理します。

    認識後の測定(事後測定)とは、毎期末の帳簿価格の話です。日本基準とIFRS「原価モデル」は同じもので、「帳簿価格=取得原価-減価償却累計額-減損損失累計額」と考えます。一方、IFRS「再評価モデル」は定期的に固定資産を公正価値(≒時価)評価して、「帳簿価格=公正価値-減価償却累計額-減損損失累計額」と考えます。IFRSでは「原価モデル」と「再評価モデル」のいずれかを会計方針として選択することができますが、ほとんどのIFRS導入企業は日本基準と同じ「原価モデル」を採用しているので、会計処理上は差異になることは実質的にありません。

    岩橋宏幸さんのコメント

    有形固定資産に関する日本基準とIFRSの代表的な差異について記載させていただきました(減損はNo7で解説予定)。IFRSの大部分は日本基準と同じなので、日本基準をベースに違うところを押さえていけば難しいものではありません。今回の有形固定資産は、若手スタッフも担当することが多い論点ですので参考になれば幸いです。

    ■    次回予告

    日本基準とIFRSの差異②として「無形資産、のれん」を解説します。


    ■ 関連記事

    はじめてのIFRS簡単解説! No.1  IFRSの特徴①「原則主義」

    はじめてのIFRS簡単解説!No.2 IFRSの特徴②「資産負債アプローチ」 

    はじめてのIFRS簡単解説!No.3 IFRSの特徴③「財務諸表の表示・注記」

    はじめてのIFRS簡単解説!No.4   IFRS財務諸表の作成方法2パターン 

    この記事を書いた人

    1990年生まれ、兵庫県尼崎市出身。 立命館大学卒業後、監査法人トーマツ(大阪事務所)に入社。
    トーマツではUSGAPP及びIFRSのスペシャリストとして、主にUS及びIFRS監査を担当。IFRS企業への出向も経験する。
    その後、30歳を機に独立。中小企業向け経営コンサル、大手化学メーカーの会計アドバイザー、CPASS運営など多岐にわたり活躍している。

    新着記事

    LBOとは

    2023/01/10

    LBOとは
    モヤカチ

    2021/07/05

    モヤカチ
    問題解決

    2021/07/05

    問題解決
    PEとVCの違い

    2021/05/10

    PEとVCの違い

    新着記事をもっと見る