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公開日:2022/02/21

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はじめてのIFRS簡単解説!No.2 IFRSの特徴②「資産負債アプローチ」

岩橋宏幸の記事

    イントロダクション

    はじめてのIFRS簡単解説! 第2回目の今回は「資産負債アプローチ」を解説します。

    IFRSでは、会計上の利益を計算するアプローチとして、「資産負債アプローチ」を採用しています。日本基準においても、従来は「収益費用アプローチ」を採用していましたが、IFRSの考え方が反映されていくにつれ、「資産負債アプローチ」重視へとシフトしています。そのため、「資産負債アプローチ」の考え方については既にご存知の方も多いかと思いますが、今後IFRSを理解する上で重要な特徴になるので、改めてポイントを整理していきましょう!

    資産負債アプローチ VS 収益費用アプローチ

    いずれも会計上の利益を計算するアプローチですが、考え方には大きく違いがあります。

    なぜ「資産負債アプローチ」なのか?

    冒頭にも記載した通り、日本基準においても、従来は「収益費用アプローチ」を採用していましたが、IFRSの考え方が反映されていくにつれ、「資産負債アプローチ」重視へとシフトしています。

    このように、世界の主流は、「収益費用アプローチ」から「資産負債アプローチ」にシフトしています。その主な背景は次の通りです。

    ① 利害関係者から最も求められる情報が変わったこと

    モノづくりが主な産業だった時代は、投資したお金(=費用)がいくらの稼ぎ(=収益)をもたらしたのかを会計期間が終了したタイミングに計算することで、会社の現在の業績を把握して利害関係者へ報告することが重視されていました。つまり、投下資本の回収計算、「現在投資したお金以上の稼ぎが得られたのか?」が最も重要な情報とされていました。

    その後、時代が変わり、モノづくり以外の産業も拡大しました。利害関係者(特に投資家)が求める情報も変化し、「その会社へ投資したら将来儲かるのか?」が最も関心のある情報となりました。将来儲かるのかどうかには、様々な要因がありますが、「会社のお金を稼ぐ力(≒資産、経済的な便益)」がその大きな源泉であることは言うまでもありません。

    ② 時価の変動リスクを考慮する必要性

    「収益費用アプローチ」は「100万円投資し、120万円を稼ぐ」という考え方ですが、使って稼ぐことだけが資産の保有目的ではありません。時価の値上がり益獲得を目的に持っている資産や、使う見込みがなくなって売ることでしかお金を回収できない資産もあります。このような「資産」について、売るまで収益・費用を計上できないというルールでは必ずしも実態を適切に示しているとは言えない時代に変化してきました。

    ■ 資産負債アプローチの特徴 「包括利益」

    「資産負債アプローチ」では、「資産」や「負債」についてお金を稼ぐ力という視点から定義し、その増減を「包括利益」と考えます。

    「(資本取引以外の)資産と負債の増減=包括利益」と捉えて、当期の業績を示す「当期利益」との差を「その他の包括利益」として表示します。その結果、「包括利益=当期利益±その他の包括利益」となります。

    「その他の包括利益」に含める項目の典型的な例は、海外子会社の為替換算調整勘定、投資有価証券の未実現損益等であり、IFRSで決められています。

    「その他の包括利益」の計上を含めた「資産負債アプローチ」の流れをフローチャートで示すと以下の通りです。

    ■ 筆者のコメント

    「資産負債アプローチ」と「包括利益」の考え方は、今後IFRSを理解する上で重要となります。日本基準でも減損会計をはじめ「資産負債アプローチ」の考え方が近年取り入れられていますし、10年ほど前から連結財務諸表で「包括利益」の表示が要求されるようになりましたので、ご存知の方も多いと思いますが、重要な考え方なのであえて取り上げました。

    また、留意してほしい点があります。「収益費用アプローチ」について、現在のIFRS実務において全否定されている訳ではありません。例えば、会計期間の業績を示すための「収益-費用=当期利益」は、現在でも重要な情報として位置付けられています。つまり、「資産負債アプローチ」を重視しつつも、「収益費用アプローチ」も一部取り入れていると考えることができます。


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    この記事を書いた人

    1990年生まれ、兵庫県尼崎市出身。 立命館大学卒業後、監査法人トーマツ(大阪事務所)に入社。
    トーマツではUSGAPP及びIFRSのスペシャリストとして、主にUS及びIFRS監査を担当。IFRS企業への出向も経験する。
    その後、30歳を機に独立。中小企業向け経営コンサル、大手化学メーカーの会計アドバイザー、CPASS運営など多岐にわたり活躍している。

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