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公開日:2021/07/27

  • M&A

M&Aの初期検討

大久保隆史さんの記事

    イントロダクション

    M&Aを成功させるためには、M&A戦略を策定し、判断基準を明確にしたうえで、自社のターゲットに合致する多くのM&A機会を効率的に検討する必要があります。それでは、有望なM&Aターゲット候補が見つかったとき、どのように検討を進めるのでしょうか?今回は、初期段階でのM&A検討の進め方を解説します。

    M&A推進を対外的に打ち出すと、様々なM&Aアドバイザーから多くの案件持ち込みや紹介があります。しかし、それらは自社のターゲットに合致する案件ばかりではありませんし、検討に必要な情報が最初から十分に提供されるわけではありません。また、そもそも案件として成立するのか、不透明な案件も含まれます。そのような状況では、社外の専門家に報酬を支払ってデュー・ディリジェンスを進めるわけにはいきませんので、まずは社内メンバーによる初期検討を進めることとなります。

    初期検討の進め方

     初期検討のゴールは、①自社のターゲットに合致しない場合の検討中止の判断(スクリーニング)、または②案件を進める場合には、検討を継続するために必要な追加情報・確認事項を整理すること、のいずれかと言えます。

     手順としては、まず①のスクリーニングを行い、ネガティブな要素の有無をチェックします。M&A継続検討が難しい要素が一つでも検出されたら、その時点で検討中止と判断します。具体的には、前の記事「M&A戦略の策定」で述べた、「ターゲット企業の事業展開地域・事業内容・業績水準・株式取得割合・買収後の経営体制・買収金額規模・自社の決算に取り込める利益水準」等の客観的な基準に従い、該当有無をチェックすることとなります。
    ②では例えば、後述のような論点に従い、入手可能な情報が限定的であるという制約条件の下、可能な限り精度の高い検討を行います。検討結果は、客観性確保のため、文章で残すことが望ましいです。効率的に検討を進められるよう、定型のフォーマットを作成するとよいでしょう。

    検討論点①:自社M&A戦略との適合性

     前の記事「M&A戦略の策定」で述べた、自社M&A戦略への適合性や、M&A以外の代替手段の有無を基に、M&A実施の意義(シナジー発現余地、ディスシナジーの有無)は何があるのか、検討します。また、PMIの観点からは、想定される投資後のマネジメント体制、自社で人的リソースをかけられるか、自社のグループ事業戦略と対象会社の事業戦略が整合するかも検討します。

    検討論点②:対象会社の事業性評価

    ビジネス・デューディリジェンスの簡易版として、対象会社の属する業界の市場環境(市場規模推移、今後の成長性、仕入元や顧客とのパワーバランス等)・競争環境(市場シェアの動向、新規参入者や代替技術の可能性)の分析のほか、対象会社の状況分析(SWOT分析、競争優位性の所在と持続性等)を行います。

    また、ビジネスリスクとしてどのような要因が想定されるのかも整理します。対象会社の法人格の変更を予定する場合には、業法関連で許認可の維持にも留意が必要です。

    検討論点③:対象会社財務の検討

    限られた情報であっても正常収益水準の把握(売上・利益率の変動要因、特殊・臨時な業績影響要因の有無、多額の営業外損益・特別損益項目のチェック、オーナーコスト有無、定常設備投資水準 等)を行います。そして、正常収益に基づき、同業上場企業のバリュエーションを参考にした株式価値の試算を行い、売主の希望売却価格との比較を行います。のれん償却も考慮した、M&A後の自社決算への取り込み可能利益も試算します。

    非上場会社の場合、税法基準で作成された財務諸表である場合も多い他、信用調査会社の調査レポートに正しい財務数値が掲載されていない場合もありますので、健全な懐疑心を持つことが必要です。

    検討のための情報収集

     前述の各種検討を行うには、対象会社から直接情報提供を受けるとは別に以下のような有料・無料の情報ソースを活用します。特に信用調査会社の調査レポートは初期段階で取得することが効率的です。また、自社の属する業界とは別の業界をターゲットにする場合は、初期段階で専門家ヒアリングを行うことも効率的です。

    まとめ

     以上の初期検討により、M&A検討を継続する場合には、追加情報の依頼や、質問・確認事項への回答を先方のアドバイザーを通じて依頼することとなります。このような初期検討を効率的に行い、多くの案件検討を行うことが、M&A成功につながる一因と言えるでしょう。


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    この記事を書いた人

    アトム・アドバイザリー(株)代表取締役 大久保 隆史(公認会計士)
    投資ファンド2社、投資銀行、監査法人での約20年の経験を基に、2020年10月独立。
    投資ファンド2社での11年の経験は、ソーシングから投資実行、投資後の成長支援、新たな資本政策実行まで一連の投資プロセスに至る。また、複数の投資先で取締役としての経営参画実績・常駐経験を有する。
    現在は投資ファンド、コンサルティング会社、事業会社を顧客として投資及びM&Aに関するアドバイザリー(デュー・ディリジェンス含む)と、企業価値向上支援を提供。複数の企業で顧問・アドバイザーに就任。愛知県名古屋市出身、東京大学経済学部卒業。

     

    https://atomadvisory.jp/

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