公開日:2022/09/29
【IPO達成CFO】M&A総研 荻野さんにインタビュー
CPASS運営スタッフの記事
イントロダクション
今回は、株式会社M&A総合研究所 取締役管理本部長、荻野光さんにインタビューを行いました。荻野さんは、監査法人でキャリアをスタートさせた後、ベンチャー企業に転職してCFOとして上場準備業務に従事し、今年上場を達成されました。今回荻野さんには、上場に至るまでの困難や会計士としてIPOに関わることの強みなどをお聞きしましたので、ぜひご覧ください。
荻野光さんの略歴
2013年 公認会計士試験論文式試験合格
2014年 有限責任あずさ監査法人入所
2020年 株式会社M&A総合研究所入社
01. キャリアの変遷
――荻野さんのご経歴を簡単に教えてください。
私は大学4年時の2013年に公認会計士試験に合格し、その後2014年に大学を卒業、あずさ監査法人に入所しました。あずさ監査法人では、IPO準備企業を多く担当する部署に配属され、上場企業の監査と並行してIPO準備企業の監査を複数経験しました。あずさ監査法人で6年間勤務した後、現在の勤務先である株式会社M&A総合研究所に転職しました。
――監査法人からベンチャー企業に転職した理由を教えてください。
会社がゼロに近いところから立ち上がっていく場面に携わりたいと思っていたからです。IPO準備会社の監査を行う中で、監査法人の立場からではなくCFOの立場から上場準備を進め、会社を大きくしていきたいという気持ちが芽生え、監査法人の外に出るという決断をしました。
――入社された際のミッションや、入社後のギャップなどについて教えてください。
私が入社した時点で資金調達は既に完了していたため、私のメインミッションは全社的な管理体制の構築、上場に耐えうる水準のバックオフィスの整備や上場準備に関連するステークホルダー(主幹事証券会社、監査法人、信託銀行等)との折衝でした。入社後のギャップとしては、自分の対応範囲が想像以上に広く、かつ社内に答えがなかった点が挙げられると思います。監査法人では分からないことがあったとしても上司や同僚、品質管理の部署に問い合わせると答えが出てくる環境でしたが、自分で答えを探し自分で責任持って意思決定する仕事の進め方はやりがいを感じつつ難しくもありました。
02. 上場までの道のり
――貴社は比較的、順調に上場を達成されたと思うのですが、CFOの立場からその要因について教えて下さい。
順調に上場を達成できた要因は3つあると思います。
1つ目は上場準備チームだけでなく全社員がIPOという目標を共有し、そこに向かって協力してくれたこと、2つ目は管理部門の構築に初期段階から力を入れていたこと、3つ目は営業部門が優秀で、業績が一度も予算を下回らなかったことです。特に3つ目の業績に関しては、証券会社に伝えていた予算を上回り続けたためIPO時のオファリングサイズも当初想定より大きくなり、我々のサポートに熱が入っていくのを感じていました。
――上場準備を指揮される中で苦労された思い出は何ですか?特に、社内のガバナンスや労務問題、社長との関係性はいかがでしたでしょうか?
創業当初から上場を視野に入れており、おかしな取引や審査で問題になりそうな点は極力発生させずに進めていたため、ガバナンスに関して困ることはあまりなかったと思います。ただ、創業初期の労務管理は完璧ではなかったため、後から当時の実態を確認するのが非常に大変でした。また、創業間もない頃はかなり古い雑居ビルにいてコストを抑えながら会社運営していため、今思うと凄まじい就労環境の中サバイバルしていましたが、あとから振り返ると良い思い出になっています。そこから移転するときのオフィス探しも社長と私で見て回って条件交渉等していましたが、東京駅界隈の坪単価を知れば知るほど監査法人はどこも立派なオフィスビルに入っていることを改めて思い知り、辞めた後に前職の凄さを思い知りました。
社長との関係という観点では、社長の「会社を伸ばすための攻めの姿勢」と私の「上場審査に耐えうるような守りの姿勢」でぶつかることは何度かあったものの、お互いに数字ドリブンで合理的な意思決定を行っていたため、特に苦労せずコミュニケーションを取ることができていたと思います。
――監査する側からされる側になって気付いたことを教えてください。
監査法人が必要としている情報や監査法人の考え方が理解できていたため監査法人対応は非常にスムーズでした。私がIPO準備企業の監査をしていた際はクライアント側の監査対応の不慣れさも影響し、お互い大変な思いをしていましたが、会社側に会計士がいて丁寧に監査チームの方と会話しながら対応すればここまで非常にスムーズに進むのか、ということに気付くことができました。
――上場準備において、ここはご自身の成果だなというポイントはありましたか?
徹底した事前準備だと思います。審査で聞かれそうな点やリスクだと思われそうな点は公開引受部に任せっきりにせずに自分で洗い出して整理し、対応や検討過程を示した説明資料を作成して審査前にこちらから提出したことで、創業間もないわりに管理体制がしっかりした会社だという印象を持ってもらえたと思っています。監査法人で仕事していたときに叩き込まれたリスクアプローチの考え方をもとに、審査部目線でのリスク検知をしっかり行うことができたことが成果ではないでしょうか。自分がこの会社を審査するとしたらどこにリスクを感じてどのような質問をするかを常にシミュレーションしていたのですが、それは監査法人時代にマネージャーやパートナー、審査員がどのような点を気にするかを考えながら監査手続きを進めていた経験の延長だと思っています。
――東京証券取引所で鐘を鳴らすというのは多くの会計人の憧れかと思いますが、鐘を鳴らしたご感想はいかがでしたか?
思ったより近くで大きい音が鳴ってびっくりしました(笑)。
03. 上場を達成する過程で気付いたこと
――上場を達成する過程で会計士として新たに得られたものは何ですか?
先ほどお話したとおり、上場準備の過程では社内に答えがない問題によくぶつかっていたので、社外で答えをもっていそうな方を探して、会って、話を聞いて、ということをよくやっていました。これは監査法人のときには一切やってこなかったことでして、様々な仕事をしている方との繋がりを得られたと思っています。
また、ドキュメント能力や自分の知らないことを調べる能力など、監査法人で仕事をしていたときには当然に求められていたスキルが結構役に立つことに気付けた点も大きいと感じました。
――CFOの立場から上場準備に携わる中で、会計士で良かったことや困ったことを教えてください。
良かった点はいくつもあるのですが3つほどお伝えさせていただきます。
1.プロジェクトマネジメントのスキル
私は監査法人でインチャージ(主査)を経験してから辞めたのですが、チームメンバーのリソースを考えながら誰にどの仕事を振ってどのタイミングで確認するか、といったプロジェクトマネジメントのスキルは大いに役に立ったと感じています。監査法人を早期に辞めようと思われている方、インチャージを2年くらいはやっておくことをお勧めします。
2.監査法人をベースにした人との繋がり
あとは会計士のネットワークは有益だなと感じることも多かったです。特に私は大手監査法人のIPOに強い事業部にいたので、お世話になった先輩の名前はいろいろなところで話題に上がりましたし、実際にベンチャーに転職した先輩後輩と共通の知人に出会うなど、IPO業界の世間の狭さを感じることが多々ありました。初めて会う方でも共通の知人がいることで親近感が湧いて話がスムーズにいくことケースもあり、つくづく会計士でよかったなと感じていました。
3.会社法の横断的な知識や開示書類のチェック経験
上場直前には公開企業になるために定款変更等の儀式的なイベントが発生するのですが、会社法の理解がないとなぜこれが必要なのか感覚的に理解できていなかったでしょうし、メインでサポートしてくれる信託銀行との会話もスムーズでなかっただろうなと思います。また、皆さんもご認識のとおりⅠの部や目論見書等の書類作成は上場準備において山場の一つですが、監査法人時代に記載例を見て、他社事例を調べて、クライアントの人と書きぶりについて議論して、という経験があったため自分で作成する際もストレスが少なかったです。
この「ストレスが少ない」というのが上場準備においては非常に大事だと考えていまして、今までこういうものに触れたことない人が初めて記載例見て自分で調べながら作成するのと、全体感が分かっている人が細かい点だけ証券会社や信託銀行に教えてもらいながら作業するのでは、かかる工数と精神的負担が大きく異なります。CFOの立場では書類作成以外にもやることが山ほど出てくるのでいかにこういった作業に気を取られ過ぎずにプロジェクト全体をコントロールできたのは会計士出身ならではだと思います。
一方、困ったこととしては、証券会社の内部の組織構成や意思決定フローが分からなかった点で、彼らとやりとりするときにどのように交渉を進めればいいのかイメージしきれなかったことがあります。いくら上場準備企業の監査をしていたといっても、IPOを実際に経験した私の感覚では監査法人の立場から関与できていたのは全体の10%くらいであると感じており、知らなかったことや分からなかったことは多々ありました。特に証券会社対応に関することで困ることが多かったように思います。
――上場後の貴社の展望や、荻野さんのキャリアの展望を教えてください。
弊社では、M&A仲介事業にとどまらず、現在蓄積されているナレッジを活かして様々な活動を行っていくつもりです。特に弊社には優秀な人材が集まっているため、その貴重な資産をフル活用して事業展開していきます。
また私個人としては、現在の管理本部長という立場から弊社を成長させつつ、「IPO」という世界にも何らかの形で関与し続けて自分の経験を共有していきたいと考えています。
04. IPOを目指す会計士CFOへアドバイス
――最後に、これからIPOを目指す会計士CFOに向けてアドバイスをお願いします。
前述の通り、IPOに関与する上で会計士であることはたくさんの強みがあるので、それを存分に発揮してこの世界にチャレンジしてほしいと思います。
しかし一方で、私のようなIPO経験者やIPOに詳しい人からのアドバイスは、鵜呑みにしてはいけません。自分の会社の置かれている状況次第ではそのアドバイスも適切ではないことが多々あります。常に自社の状況と照らしてやるべきことの取捨選択をしていくべきであり、それを続けることで会計士CFOとして成長していけるのだと思います。
この記事を書いた人
「人と繋がり、可能性を広げる場」CPASSを運営するスタッフ達です。CPASSメンバーは、20~40代まで幅広い年齢層の公認会計士達を中心に、キャリア支援のプロフェッショナルなど様々なバックグランドを持つメンバー達で構成されています。「絶対に会計人達の役に立つ情報発信する」、「CPASSにしか出せない価値を提供する」をミッションとして集まった熱いメンバー達です。CPASS独自の視点からの見解を是非、楽しんでください。
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