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公開日:2023/01/06

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PEファンドでの投資先常駐

大久保隆史さんの記事

    はじめに

    2022年12月、米系PEファンド、ベインキャピタルの日本法人が、2023年4月を目途に大阪市の『グランフロント大阪』にオフィスを開設し、投資ペースを加速するとのニュースが流れました。外資系ファンドが東京以外に拠点を持つのは初めてのことです。

    なお、日系ファンドでは、ポラリス・キャピタル・グループが2011年11月に大阪支社を開設しています。ポラリス・キャピタル・グループの大阪支社開設の目的も、「投資先開拓において、大阪支社を本格的に機能させることで情報を現地でいち早く入手すると共に投資機会を今後一層的確に捉えること(リリースより)」とされています。

     近年、PEファンド、特にEBITDA10億円未満のミッド・スモールキャップの案件では、地方のオーナー企業からの事業承継による投資件数が多くなっています。投資実行後は、いわゆる「ハンズオン・アプローチ」による投資先支援を行うことが一般的ですが、その場合、高頻度で投資先を訪問する必要があります。一方で大部分のPEファンドの本社は東京都内であり、メンバーも基本的に東京に居住しています。

     本記事では、どのように地方の投資先への支援を行っているかを解説します。

    投資実行後の業務(PMI)の進め方

    PEファンドが新たな会社に投資した際、一般的には、100日プランと呼ばれる短期実行計画を策定し、スピード感をもって、中期経営計画の策定や、中期経営計画達成に向けたKPI設定やモニタリング体制の整備、組織・業務の再構築などを行います。同時に、投資実行前のデュー・ディリジェンスで未発見の事項が発見されれば、影響を見極めたうえで即座に問題解決の対応を行います。外部のコンサルタントをリテインして、課題解決PJを運営する場合には、PEファンドの担当者が、プロジェクト運営事務局を務めます。

    投資先経営陣や従業員との面談を行ったり、会食等の業務外でのコミュニケーションも頻繁に行います。

    これらをスムーズに実行するためには、投資後半年~1年程度は、高頻度で投資先を訪問する必要があります。投資先が首都圏であれば担当者が自宅から通勤することもできますが、片道2時間を超えるような距離あるいは、新幹線や航空機利用で交通費が発生する場合には、ホテル宿泊による出張、または、投資先近隣でアパート等を借りて居住する形で、投資先に常駐することが必要となります。

    筆者も過去には投資実行後1年ほど、投資先本社の近隣でアパートを借りて、毎日投資先に通った経験があります(アパート家賃は、勤務先のPEファンドの負担です)。なお、常駐する場合も土日に東京の自宅に帰る交通費は支給されます。一般的に、月曜や金曜にPEファンド内での全社会議が設定され、当該会議には東京で出席し、残りの4営業日を投資先常駐とすることも多いようです。

    PEファンド内での業務分担

    PEファンドの組織として、①投資担当と②投資後支援(バリューアップ)担当が明確に分かれている場合もあります。文字だけを読むと、投資実行後の支援業務を行うのは、②投資後支援(バリューアップ)の担当者と思われるかもしれません。しかし、対外的に①投資担当との名称であっても、しっかり投資実行後も常駐含めて担当することが多いようです。

    よほど小規模の投資先でない限りは、1つの投資先に最低2名のメンバーが担当します。2名担当の場合のメンバー構成は、ディレクターなどの管理職とアソシエイトなどのスタッフ職となります。この場合、ディレクター・クラスは基本的に投資先への常駐は行わず、月に1回の取締役会への出席や重要な面談への出席の際に、投資先を訪問することとなります。投資先への常駐が必要な場合には、アソシエイトなどのスタッフ職の役割となるのが一般的です(これも各社によってスタイルが異なる点ですのでご留意ください)。PEファンドのポリシーにもよりますが、スタッフ職であっても、投資先の役員に就任することも一般的です。また、役員ではなく、経営企画担当者として、投資先の組織図の中の役職者として入りこむこともあります。

    常駐しての具体的な一日

    投資先に常駐する場合、PEファンドの勤務時間ではなく、投資先の勤務時間に合わせて出社する必要があります。始業が午前8時半であれば、8時半に出社し、毎日の朝礼やラジオ体操があればそれにも参加することが望ましいでしょう。

    出社後、日中の多くは、各種会議への出席準備、会議出席や会議後のフォロー等に多くの時間を必要とします。お昼時には、社員の皆さんと一緒に食事をし、コミュニケーションを深めます。

    PEファンド内の担当チームの上位役職者への報告も頻度高く行う必要があります。投資先で発生した事象や出てきた資料をそのまま報告するのではなく、事実と解釈を切り分け、問題点に対しては解決の方向性・アクションを添えて報告する必要があります。

    投資直後は発生する業務をコントロールすることは難しく、投資先の定時が来ても、自らの業務が終わることは少ないでしょう。

    まとめ

    PEファンド業界でも投資先との間でのWEB会議の導入も進んでいます。しかし、ハイコンテクストな日本のコミュニケーション文化の下で、短期集中で物事を進めるには、対面で感情の機微も捉えることが、PEファンドに限らず、ビジネスでの重要な要素となります。

    PEファンドに限らずですが、地方への出張や常駐が嫌だから当該案件を担当したくないということは業務上、許されません。地方の投資先への常駐が業務として発生した場合には、個人のライフスタイルに与える影響も小さくありませんので、PEファンド業界への転職を考える際には、十分に考慮すべき事項となります。また、各PEファンドによって、投資実行後のスタイルも異なりますので、転職活動の際は、十分に確認することが必要です。


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    この記事を書いた人

    アトム・アドバイザリー(株)代表取締役 大久保 隆史(公認会計士)
    投資ファンド2社、投資銀行、監査法人での約20年の経験を基に、2020年10月独立。
    投資ファンド2社での11年の経験は、ソーシングから投資実行、投資後の成長支援、新たな資本政策実行まで一連の投資プロセスに至る。また、複数の投資先で取締役としての経営参画実績・常駐経験を有する。
    現在は投資ファンド、コンサルティング会社、事業会社を顧客として投資及びM&Aに関するアドバイザリー(デュー・ディリジェンス含む)と、企業価値向上支援を提供。複数の企業で顧問・アドバイザーに就任。愛知県名古屋市出身、東京大学経済学部卒業。

     

    https://atomadvisory.jp/

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