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公開日:2023/04/26

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FAS部門及び関連書籍の紹介(その2)

古川拳土さんの記事

    イントロダクション

    こんにちは。

    今回も前回に引き続き、Big 4FASにおける部門及び関連書籍の紹介を出来ればと思います。

    前回は、
    ・M&A全体像の把握
    ・ストラテジー部門
    ・ファイナンシャル・アドバイザリー(FA)部門
    ・財務デューデリジェンス(FDD)部門
    についてお話しました。

    今回は、
    ・バリュエーション部門
    ・事業再生部門
    ・フォレンジック部門
    ・その他おすすめしたい書籍
    についてお話できればと考えています。

    FASにおける主要な部門の説明と関連書籍

    ④ バリュエーション部門

    バリュエーション部門では、大きく4つの業務内容があります。

    ・取引目的バリュエーション

    M&Aにおいて、買収価格を決定する際に実施するバリュエーションです。M&Aにおいて買い手または売り手側と交渉する際の根拠となる企業価値水準を算定する業務となりますので、両者の交渉に影響を及ぼす可能性のある、非常にやりがいのある業務となっています。バリュエーション部門と聞くと、通常皆様が想像されるのがこちらの業務かと思います。

    ・会計目的バリュエーション

    取得価額の配分(「PPA:Purchase Price Allocation」)や減損テスト等監査業務への関与が、会計目的バリュエーションに該当します。

    「PPA」とは、企業結合の会計処理を実施する際に、M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産および負債の基準日時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産および負債に配分する手続きを指しています。具体的には、買収された企業の取得価額が1億円の場合、その取得価額をどの資産にいくら配分し、のれんが最終的にいくら計上されるのかを算定することとなります。

    「減損テスト」とは、(J-GAAP、IFRS問わず)減損会計基準に基づき、帳簿価額と回収可能価額を比較する手続きを指しています。将来キャッシュフローを割引計算するという意味では、取引目的バリュエーションと共通している手続きとなります。

    ・ビジネスモデリング

    クライアント(電力会社など)とともに投資判断に必要なシミュレーションモデル、プロジェクトファイナンス等のキャッシュフローモデル、および社内管理用の各種モデルを策定する業務です。こちらの業務は、会計士も勿論関与する機会はありますが、どちらかというと前職でIRR等の投資効率シミュレーション経験のある、商社出身者や投資銀行出身者が得意とする領域の業務となります。

    ・監査サポート業務

    メンバーファームの監査法人から依頼される、他社が算定した株式、または無形資産評価の前提条件、および算定手法が適切かどうかをレビューする業務となります。例えば私の前職であるEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ですと、EY新日本監査法人の方とやり取りをしていました。

    監査基準委員会報告書 620「専門家の業務の利用」に規定されている業務の一つでもあります。

    バリュエーション部門と聞くと、通常は上記1つめの「取引目的バリュエーション」をイメージされるかと思いますが、2つ目~4つ目についても取り扱っており、意外と業務の幅は広くなっています。

    次にバリュエーション関連のおすすめ書籍について紹介したいと思います。

    書店に行かれてみたらお分かりになるかと思いますが、バリュエーションの場合、財務DDに比べると、関連書籍は多く、悩まれる方も多いと思いますので、悩んだ際には是非下記を参考にしていただけたらと思います。

    ●図解でわかる企業価値評価のすべて

    図解でわかる企業価値評価のすべて | ㈱KPMGFAS |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★☆☆

    ・おすすめ度★★★★★

    分量もそこまで多くなく、かつ説明も非常に分かりやすいので、バリュエーションの基礎を学ぶには、最もおすすめの書籍となっています。

    ●コーポレートファイナンス戦略と実践

    コーポレートファイナンス 戦略と実践 | 田中 慎一, 保田 隆明 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★★★

    こちらの書籍は、バリュエーション部門に興味のある方は勿論のこと、あまり興味がない方にも是非読んでいただきたい書籍となっています。

    私も入社当初はこちらの書籍に大変お世話になりました。

    実在する会社を基に財務分析を実施する章もあり、またバリュエーションにおける主要な手法であるDCF法と類似会社比準法について、実際に計算しながらの説明がなされているため、実務をイメージするにはもってこいの書籍となっています。少々分厚いですが、説明が分かりやすく、かつ語り口調となっているため、非常に読みやすくなっています。

    是非とも読んでいただきたい書籍です。

    ●企業価値評価の実務Q&A〔第4版〕

    企業価値評価の実務Q&A〔第4版〕 | 株式会社プルータス・コンサルティング |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★☆☆

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★☆☆

    実際にバリュエーション業務に携わっている方が、必ずと言ってよいほど辞書代わりに持っている書籍です。バリュエーション業務に従事する場合には購入は必須かと思いますが、業務理解の一環として読むには少々重すぎるかなと思います。

    ●ビジネスバリュエーション―評価の基本から最新技法まで

    ビジネスバリュエーション―評価の基本から最新技法まで | 和人, 安達 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★☆☆

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★★☆

    こちらも完全にバリュエーション業務に従事する方向けの書籍でして、ある程度知識が身についている前提で読んでみると、十分に理解出来ていなかった論点の理解が一気に進んだ気がします。既に絶版となっているため、手に入れようとするとかなり高価にはなってしまいますが、一読する価値はあると思います。

    ●M&AにおけるPPA(取得原価配分)の実務

    M&AにおけるPPA(取得原価配分)の実務 | EY Japan |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★☆

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★★☆

    PPA関連の書籍は数少なく、基本的に上記かデロイトの書籍(M&A 無形資産評価の実務 (第3版) | デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 |本 | 通販 | Amazon)の2強となっています。

    デロイトの方は既に絶版となってしまっているかつ私も読んだことがないので、今回はPPA関連書籍としてはEYの方を挙げさせていただきました。

    FAS時代、実務に携わる際にはかなりお世話になりましたが、FAS業務の理解という観点では、優先度は低いかなと考えています。

    ●外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方

    外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方 | 慎泰俊 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★★☆

    ・おすすめ度★★★★★

    私も監査法人時代悩んだ経験があるのですが、調書を作成していて、イマイチ見た目が綺麗でないな、と悩んだことがある方も少なくないかなと思います。そのような、見た目の綺麗なExcelファイルを作成されたい方や、財務モデリング作成に興味がある方におすすめの一冊となっています。

    ●ファイナンスのプロになる Excel財務モデリングの教科書I -ミスを減らせるルール編

    ファイナンスのプロになる Excel財務モデリングの教科書I -ミスを減らせるルール編 (MARUNOUCHI PREP SEEK FINANCIAL LITERACY) | 服部 浩弥 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★☆

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★☆☆

    1つ前の書籍の応用編のような位置づけとなります。バリュエーション部門への転職が決まっている方は持っていて損はないと思いますが、まずは1つ前の書籍で十分かなと考えています。

    以上がバリュエーション部門関連となります。

    私がバリュエーション部門に所属していたこともあり、少々手厚めに記載させていただきました。

    ⑤   事業再生部門

    事業再生部門は、厳しい経営状況下のクライアントに寄り添い、クライアントの再生をサポートしていく部門です。具体的には、クライアントの財務諸表を精査し収益性やリスクや成長性などを分析し、事業再生計画を立案するのが主な業務内容となります。同時に、クライアントに代わり金融機関に対し、返済スケジュールや金利に関する交渉も行い、資金面でのサポートも実施していきます。

    財務DD部門やバリュエーション部門は、どちらかというと専門性を突き詰めていくスペシャリスト的な動きが求められますが、事業再生部門とFA部門は、具体的な業務内容は多岐にわたり、ゼネラリスト的な動きが求められる気がします。

    関連書籍として、私が転職時のエージェントに薦められた書籍を挙げておきます(書店で立ち読みした程度ですが)。

    ●会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」

    会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」 |冨山 和彦 | 本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★★☆

    ・おすすめ度★★★★☆

    IGPIの冨山さんが執筆された書籍です。専門書ではないのですが、著者の実体験に基づいて執筆されていますので、事業再生における考え方を学ぶにはおすすめの書籍となっています。

    その他、書籍ではないのですが、事業再生に関する実例を調べてみることをおすすめします。

    例えばですが、下記がおすすめサイトとなっています。

    企業再生の成功事例は?日本航空、カネボウ、ダイエーに学ぶ再生方法 | THE OWNER (the-owner.jp)

    事業再生と言えば、JAL、カネボウ、ダイエーは非常に有名な事例なので、上記をお読みになられた上で、更に気になった事例について詳細に調べていくと、勉強になるかなと思います。

    ⑥    フォレンジック

    フォレンジック部門は不正会計調査を実施する部門であり、不正会計等が発覚した際にその手口や原因を追究していく部門です。デジタル×会計のスキルが得られる希少な部門であり、監査法人出身のうちIT監査に強い方がジョインしている印象ですが、現状私の周りにフォレンジック部門に所属している方は一人もいません・・。

    やはりFASの中ではM&A関連業務の方が人気なため、フォレンジック部門に転職される方はかなり少数派な印象です。

    その他おすすめしたい書籍

    ●[図解]IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ

    [図解]IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ | 冨山 和彦, 経営共創基盤 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★★★

    IGPIの冨山さんが執筆された書籍です。以前他の記事で、「ビジネスと数値を連動させて思考する能力」について触れさせていただきましたが、当該能力を身に着けていきたい方には是非読んでいただきたい書籍となっています。久しぶりに私も近々読み直してみようかと考えています。

    ●コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト 知らないと一生後悔する99のスキルと5の挑戦

    コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト 知らないと一生後悔する99のスキルと5の挑戦 | 高松 智史 |本 | 通販 | Amazon

    ・読みやすさ★★★★★

    ・情報量    ★★★★★

    ・おすすめ度★★★★★

    BCG出身の高松さんが執筆された書籍でして、まさに上記書籍を読むだけで戦略コンサルの方の思考法・仕事術を体感することが出来ます。内容もかなり勉強になりますし、著者も非常にユーモア溢れる方ですので、純粋に読んでいて面白い書籍です。是非一段とソフトスキルをレベルアップされたい方におすすめの書籍です。

    まとめ

    以上、Big4 FASにおける部門及び関連書籍紹介、そして最後はおまけとして私のおすすめする書籍について紹介させていただきました。

    上記内容が少しでも役に立てば幸いです。最後までお読み下さりありがとうございました。

    この記事を書いた人

    慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
    2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。

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