公開日:2021/08/06
大企業の税務を担う国際税務のスペシャリスト 高野一弘(株式会社LIXIL)のキャリア!
株式会社LIXILで税務部門の部長を務めている、国際税務のスペシャリストの高野一弘さんのキャリアについてお話しいただきました。国際・税務・事業会社というキャリアを進まれている高野さんのキャリアをぜひ参考にしてみてください。
高野一弘さんのプロフィール
高野一弘
株式会社LIXIL 税務部 リーダー
AsiaWise Group, Tax Team Leader
公認会計士(日本)、税理士(日本)
大手税理士法人における外部専門家としての税務コンサルティング業務に加えて、上場企業社員としての税務企画、調査対応を通じた豊富な税務実務経験を有する。特に、クロスボーダー案件に関して豊富な経験を有する。
高野一弘さんの略歴
1995年大阪市立大学経済学部卒業。ASG監査法人(現太陽有限責任監査法人)にて法定監査業務に従事した後、PwC税理士法人にて国内・国際税務コンサルティング業務に従事。同法人在籍中に、インド・デリーNCRに駐在(2008年10月から2011年10月)。その後、株式会社LIXILにて税務部リーダーとして企業内から税務業務に従事し、現在に至る。
01. キャリアの変遷、展望
――会計士を目指したきっかけを教えてください。
既に歴史上の話だと思いますが、私が大学を卒業した1995年はバブル崩壊直後で就職が難しく、また自分が大学5年生だったこともあり、資格を取ることを考えました。会計士か税理士かの2択で悩んだのですが、税理士は科目合格が必要で時間がかかるということから、短期決着できる公認会計士を選びました。
――監査法人時代はどのように過ごしていたのでしょうか?
太陽監査法人の前身であるASG監査法人に約5年間在籍しました。金融商品取引法に基づく監査や学校法人の監査を担当していましたが、所属していた法人が合併したため、合併相手先の会社にアサインされることもあり、ダイバーシティを感じながらいろいろな経験をすることができました。
また、大手監査法人ではなく中小の監査法人を選んだのは、当初から独立しようと考えていたためです。大手の監査法人では現場責任者や責任ある科目を任せられるのが遅いイメージだったので、早く独立するために早く力を付けられる場所に行きたい、ということで中小の監査法人を選びました。
――その後PwC税理士法人に移った理由を教えてください。
監査法人に勤めていた時は、正直そこまで税務を重視していませんでしたが、やはり独立したときに税務は必要だとも考えていました。そのため、当時、税理士法人制度(※)が創設され、Big4が税理士法人を作り始めていた時代だったので、ミーハーではあったものの、そこで何年か修行をしてから独立しようと考えていました。
※税理士法人税度:税理士が個人として行うこととされていた税理士業務を、新たに法人形態でも行い得るよう、平成13年の税理士法改正において創設されたもの。
PwCでは1週間で7つの申告書を作成するなど、かなりハードに働きました。その他にも税務コンサルティングや、企業の進出撤退のお悩み相談、また、当時トピックだった移転価格税制にも携わりました。移転価格は財務分析の側面があるので、監査の経験を買われて、大きな案件にアサインされることもありました。そこで、今の軸となる国際税務との出会いもありました。
ただ、当時は転職も考えていました。知り合いから会社の経理部長の席が空いているから来てほしいと声をかけてもらい、さらに兼業で自分の税理士事務所が開業できるという好条件の話を頂きました。そこで辞めたいという話を法人にしたところ、当時の上司にかなり真剣に相談に乗ってもらい、「独立するのもいいが、小さくまとまるのではなく、国際税務で大きく広げていくべき」とアドバイスを貰ったため、最終的には税理士法人に残ることを決意しました。
――PwCに残ると決めた後、海外赴任したと伺いました。どのような思いで赴任を選択されたのでしょうか?
国際税務をやっていくうちに、海外から日本を見てみたいと感じるようになったので、「グローバルなPwCであればすぐに行けるのでは?」と考え、いろいろと調べました。アメリカやイギリスなどの欧米やシンガポールなど、人気の国は、ファーム内での競争も激しく、簡単にはいけないことが判明しました。一方で、当時BRICsという言葉が出始めていた頃だったため、インドに行ってみたい、と思い切って上司に伝えたところ、トントン拍子で話が進み、PwCインドに赴任することが決まり、日本人インド赴任者の第一号となりました。
――インドでの経験について教えてください。
まず、インドの文化との違いにとてつもないギャップを感じました。仕事の仕方を例にとっても、期限日に「できた?」と聞くと「もう1日待ってくれ」、と言われて次の日も「もう1日待ってくれ」、等と言われるような場面に多々遭遇し、どのように仕事進めたらいいのかと悩み、最初の1か月はもう働きたくないと考えたりもしました。
ところが、どこかのタイミングで力が抜けて、自分がインド人を受け入れられるようになりました。そこからは仕事がしやすくなったのを今でも覚えています。
当時のインドでは、創業期の日系企業が多いにもかかわらず、経理部門から派遣されている日本人がいなかったため、私が営業の方や技術の方などとやり取りする機会が多く、今までのキャリアで関わったことのないような方々と仕事ができました。「自分は今まで会計や税務を知っている人としか仕事をしてこなかったのだな」、ということをまじまじと感じました。知識経験のない方へ、会計税務を上手く伝えることができず、自身の無力さを痛感することもたくさんありましたが、非常に良い経験になりました。
――その後LIXILに転職したきっかけは何でしょうか?
PwCインドでは主にインドに進出する方々のサポートをしていた名残もあってか、日本に帰任した際に、組織が縦割り形式だったことに違和感を覚えたのです。インドでは、監査・税務・コンサルすべての場面で全面に立って仕事をすることができていたのですが、日本に戻ってからは「税務だけ頑張ってくれ、それ以外は手を出すな」、と上司から指導されたこともあり、縦割りでの働き方にジレンマを感じていました。
事業会社に入ろうと考えたきっかけは、「内部から物事を見る視点が欲しい」、と感じたことです。例えば、税理士法人時代にA案とB案を提案した際に、税務メリットからも絶対にA案が優れているのに、クライアントがB案を採択することもあり、不思議に感じることがありました。当時はPwCでの働き方にも限界を感じていたので、会社内部からの関与や別の働き方をしたいと考え、思い切って転職を決意しました。
――LIXILでは現在どのようなことをされているのでしょうか?
現在は税務部リーダーを担当しております。税務部の中には、国内税務部門、連結納税部門、国際税務部門の大きく分けて3つのチームがあり、様々なことに対応しています。LIXILは海外含め組織再編も多いので、全社での税務ポリシーを作成したり、国際税務、いわゆる国境をまたぐ取引や組織再編の際は、我々の部署が関与しています。
――国際税務のスペシャリストとして働かれていると思いますが、今後新しいチャレンジをしようということも聞いています。
LIXILでは兼業が認められていますので、この度個人事務所を設立しました。多くの企業では海外進出に対して大きな壁を感じて躊躇していることが多いので、自分が培ってきた国際税務の経験、知識を活かして、様々な企業の海外進出のサポートをしていきたいと考えています。
02. 仕事する上で大事にしていること(仕事論)
規模の大きい会社に在籍していますので、とある議題に対してコミュニケーションを取ろうとする際、当然、賛成してくれる人もいれば、反対する人もいます。“総論賛成、各論反対”と言いますが、私が経験した話ですと、一般的にPMI(Post Merger Integration)と言われる、買収後の企業の統合をどうするのか、議論する機会がありました。買収後に管理部門を一つにしようという総論で賛成したのですが、いざ具体論になると、「どの会社の管理部門が残るか、担当するのか」など、部分最適に走り出す場面に遭遇しました。このような場合に全体最適化をしていくためには、「コミュニケーションをいかにとるか」が非常に重要だと考えています。
先ほどの話にもありましたが、外部の専門家時代に、A案とB案について分析したときに、あえて劣ったB案を選択する理由は、「内部の各論反対が起きて部分最適が起きているから」なのだな、と今では考えています。
03. 会計士という資格を取って良かったこと
なかなか難しい話ですが、「専門家としてのやりがいを感じられる」点だと感じています。
ここまでくる過程で、「会計専門家としての自分が実はキャリアを狭めているのでは?」と悩んだり、会計士という肩書は社会的にもそれなりに認めてもらえたので、それに見合う実力を持っていなかった当時はその不均衡さに葛藤したりしていました。しかしながら、理想の専門家に相応しい人になることを目指すことができたという点で、会計士でよかったなと考えています。
――当時の葛藤について教えてください。
私の葛藤は2段階ありました。まず、会計士の試験に合格した後、最初の頃は実務が全く分からず、価値を出せずにいた時が第一の葛藤です。
その後、いろいろと経験を積んで知識と実務が繋がってきて自信を持つようになりました。税務という世界は、“経済合理性”を説明できない限りは、税務当局からNGが出されてしまうので、本質を理解しないといけません。しかし、とあるタイミングで「本質は何か?」ということに答えられない事態に遭遇しました。「1+1=2」を処理することしかできない、単なる機械的な処理しかできていない自分に気づいた時が、第二の葛藤でした。
税務は税務当局に対してお客様がやっている処理を専門用語に変えて伝えることが仕事ですので、本質を追究するという点は非常に重要です。その点、専門家として本質的な価値をお客様に提供できるというところに、やりがいを感じています。
LIXILさんのWEBサイトはこちら
https://www.lixil.co.jp/
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