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スタートアップの事業拡大と組織づくりのバランス:比重の見直しが必要なタイミングとは

スタートアップの経営において、「売上を伸ばし事業を拡大すること」と「足場を固める組織づくり」は、どちらも欠かせない重要なテーマです。会社を持続的に成長させていくために、その両軸をどのようなバランスで進めていくべきなのか。多くの経営者が判断に迷う部分ではないでしょうか。

正解のないテーマではありますが、私が日頃、スタートアップ経営者の方々と接する中で得てきた所感を整理してみたいと思います。事業拡大と組織づくりのバランスに悩まれている方々の参考になれば幸いです。

売上と組織づくりの両軸:困難を乗り越えるためのレジリエンス力

「売上は全てを癒す」という格言があります。その言葉の通り、売上拡大は企業活動において大きな比重を占めるもの。事業拡大と組織づくりのバランスについて語る際、「売上が立っていないにもかかわらず、最高の組織をつくろうとするのは本末転倒だ」とおっしゃる方もいますが、その見解は、ある意味、的を射ていると私も思います。

ただし、先の時間軸を見据えて企業の持続的な成長を目指すのならば、売上拡大と同様、組織づくりにも力を入れるべきタイミングは確実に訪れます。なぜならば、事業拡大の過程において、ハードシングスと呼ばれる様々な困難に予期せぬ形で直面し、課題と向き合うことになる可能性が極めて高いからです。

売上が伸びていき、事業が拡大していけば、組織の中に高揚感が生まれます。ですが、その高揚感だけではカバーできない”歪み”が生まれた時、その歪を補う組織の力が必要になります。ハードシングスに直面し、厳しい局面に追い込まれたとしても、諦めずに何度でも立ち上がる力。いわば、組織のレジリエンス力を高めていくためにも、組織づくりが重要という点には疑う余地がないと思います。

売上の増加に伴い、組織が拡大し、例えば社員数50名を超えたとしましょう。その規模に達すると、「言わなくても分かる」という阿吽の呼吸頼りでは事業が進まなくなり、従来のスピード感を維持できなくなるケースが生じます。

人数が少なければ、イレギュラーが起きたときでも経営者が対応できます。言語化されていない基準・価値観といった部分についても、経営者に判断を仰ぐことができるでしょう。経営者からしても、メンバーの動きに目が届くため、ルール化や仕組み化が追いついていない部分についても対処できることがほとんどです。

しかしながら、一般的に組織規模が50名を超すと、経営者の目が行き届かない箇所が増えます。メンバーの行動を把握できず、会社として大切にしている考えや価値観、行動様式に対する認識も末端まで浸透しなくなり、ズレが生じやすくなります。このような課題に対処するために、組織内のルール決めやコミュニケーション強化といった施策が必要なのです。

前例のないケースやイレギュラー案件等、既存のルールでは判断できない場面で意思決定が求められる場合も同様です。組織に属する一人ひとりが、それぞれの価値観や考え方で判断してしまうと、組織としてまとまらなくなってしまいます。だからこそ、意思決定の拠り所として、ミッションやバリューの重要性がより高まります。

さらに組織規模が大きくなり、仕組み化が進んでいくと、今度は別の課題が浮上してきます。複数の部署や部門が連携しあい、ワンチームで取り組むべき事象に対しても、リソースの共有が上手くいかないケースが生じやすくなり、いわゆる「サイロ化」状態になりやすいからです。

事業のフェーズにもよりますが、売上をさらに伸ばしていくために、組織づくりが必要となるとタイミングが来る、ということは念頭においておいた方がよいように思います。

グッドサイクルの時こそ、組織づくりへのリソース配分を見直す

とはいえ、特にスタートアップの場合、ゼロイチの段階では「最短最速でキャッシュを稼ぐこと」が生存本能的に最優先になることはごく自然なことです。結果的に、組織づくりが後回しになってしまうこともあるでしょう。

では、ゼロイチで事業を進めていくとして、どの段階から組織づくりの比重を高めていくべきなのか。これは、非常に難しい問題だと思います。

先述の通り「売上は全てを癒す」からこそ、事業が成長し続け、順調に伸びている時は、そのサイクルを更に加速させようとします。結果、営業やマーケティングにどうしても比重を置きがちになり、組織づくりに目が向かなくなりがちです。水面下でトラブルが起きていたとしても、会社の業績としては順調に見えるため、気づきにくいのです。

そのまま好調が続けばよいのですが、事業には波があります。組織の成功循環モデルでいうところのバッドサイクルに入ると、一転。グッドサイクルが続いている間は目立たなかった問題が次々に露呈し、課題が一度に表出していくのです。結果、組織崩壊など取り返しのつかない事態になることも珍しくありません。

好循環で事業が回っているときは兆候を見落としやすく、上手くいかなくなってからでは問題の対処が間に合わなくなりがちというのが組織づくりの難しさです。特に、プロダクトやサービスが急成長して、後追いで組織づくりに取り組んでいるような企業の場合、どこかのタイミングで事業成長に傾けていたリソースのバランスを見直すための時間を取る必要があるように思います。

中には、初期の段階から経営陣を十全に揃えた上で、事業を推進していくスタートアップもあります。過去の事例を見る限り、そういった企業の多くは、持続的に安定した成長を遂げている印象です。特に、シリアルアントレプレナーの方が2社目以降を立ち上げるケースでは、1社目での経験をもとに、組織づくりへの比重を変えるケースが多いように感じます。

事業拡大に採用を要するなら、初期から組織づくりの意識を

前提として、組織をつくるために事業があるのではなく、あくまでも事業を伸ばすために組織があるものです。それを踏まえた上で、ここまでの議論をもとに、あらためて組織づくりに比重を傾けるべきタイミングはどこなのか。考えをまとめてみたいと思います。

様々な意見があると思いますが、私は一名でも採用すると決めた段階から、組織作りを意識すべきだと考えています。なぜなら人を採用するということは、人数がたとえ1名であってもそこに関係性が生まれるからです。

2名以上の間に存在する関係性は事業を加速させるアクセルにもなりますが、同様にブレーキにもなりえます。相手の考えや感情を100%理解することが出来ない以上、”完璧”な連携はできません。人が増えていけば、なおさらです

当然ながら、社長と社員の2名しかいないフェーズと、50名規模の組織に育っているフェーズでは、組織づくりにかけるべきリソースの配分は異なります。ただ、事業拡大に向けて採用を増やす想定の計画であれば、次のフェーズを見据えた組織づくりを初期から意識しておくべきだと思います。

実際、外からみると順調に成長しているスタートアップの多くが、創業期から組織づくりの重要性を十分に理解し、経営計画に組み込んでいるように思います。組織づくりに着手するタイミングは企業ごとに異なりますが、あらかじめ計画的な準備をしているからこそ、いざハードシングスに直面した際も、傷が浅いうちにリカバリーできるのです。その立ち直りの早さゆえに、外野から見れば「順調そうに見える」のでしょう。

ある上場企業の経営者の方が、こんなことをおっしゃっていました。

「信頼できる仲間を経営者の周りにどれだけ揃えられるかが大事。なぜなら、一次レイヤーに集めた人の質と量が、後の事業成長にそのまま繋がるからね」

この言葉は真理を突いていると思います。入口である採用活動はもちろん大切ですが、組織全体をどのようにデザインしていくのか。また、事業拡大と組織づくりの比重をどの段階で変えていくのか。

正解がない問いだからこそ、経営メンバーがお互いに率直な意見を出し合いながら、都度、見直していく必要があると考えます。では、経営陣同士が率直に意見を言い合える関係性を作るにはどうしたらいいのか。組織づくりを支える関係性づくりについては、別の機会にまたお話させていただければと思います。

事業成長と組織づくりのバランスは、スタートアップの永遠のテーマの1つだと思います。スタートアップに関心をお持ちの皆さんと、ぜひ意見を交わし合いながら、テーマへの理解を深めていければ幸いです。

この記事を書いた人

新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。

2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。

2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。

https://x.gd/eUsrb

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