スタートアップの組織を強くする関係性づくり:システムの声に耳を傾ける
スタートアップの経営者は、日々、様々な課題に直面しています。その1つとしてよく耳にするのが、「いかに強固な組織をつくるか」という問題です。
組織とは人の集まりであり、そこには様々な関係性が複雑にからみあっています。どうすればよりよい組織づくりが実現するのか。
今回の記事では、メンバー間の関係性やコミュニケーションにフォーカスしながら、別の角度で「組織づくり」について皆さんと考えていけたらと思います。日々、組織づくりの課題と向き合う方々の参考になれば幸いです。
事業成長の裏で生じる組織の「歪」と口に出せない声の蓄積
スタートアップの経営において、「売上を伸ばし事業を拡大すること」と「足場を固める組織づくり」は両方とも重要なテーマです。創業期や組織が小規模な時は、事業を立ち上げ、その価値を社会に示すために、売上がより重視される傾向にあります。
しかし、先の時間軸を見据えて企業の持続的な成長を目指すためには、売上拡大と同様、組織づくりにも力を入れるべきタイミングが訪れます。売上が伸びていき、事業が拡大していく中で生じる様々なハードシングスを越えていくためには、「組織の力」が不可欠だからです。
参考)スタートアップの事業拡大と組織づくりのバランス:比重の見直しが必要なタイミングとは
ただし、先述の通り、創業期から事業立ち上げのフェーズでは売上が重視される分、売上に貢献している人の声がどうしても構造上、大きくなりがちです。加えて、経営者がトップセールスということも相応にあることから、その影響力はなおさら大きくなりがちです。結果、それ以外のメンバーが仮に、何かしら異なる意見や考えを抱いたとしても、思うように声を発せられない状況になることがあります。
たとえば、ある経営者が「もっと新しいソリューションを作った方がいい、新しい事業ドメインを開拓すべき」という意見を発したとします。そのような時に、「既存のソリューションの品質をもっと上げて、顧客満足度をあげたほうがいい」という思いを現場としては抱いていたとします。こういったケースでは、現場としては、その思いをそのまま声に出せない、もしくは議論のテーマにすらならないといった状況が起こりえます。
そもそも品質改善や顧客満足度の向上は、短期では成果が見えにくい施策です。そのため、新たなソリューション開発や事業ドメインの開拓といった売上に直結する施策の方が、優先される傾向があります。現場でもそれは分かっている。でも、現場の視点からは、このままでは既存顧客が離れて、売上停滞してしまうのではという観点から声をだしているが、そのような観点は届かず、結果的に、本当は言いたい思いがあっても、声をあげなくなっていってしまいます。
こういった「本当は言いたいけれど、言えない」状況は、様々な場面で見られるものだと思います。そして、そのような声に気づくことは、決して簡単ではありません。特に、会社の業績が右肩上がりに伸びているときは、物事が一見上手く回っているように見えるため、そのような沈黙の声に気づくのはより困難です。
そうして「思っているけど、言えない」状態が続くと、組織の中で、多様な意見や声がどんどん減っていきます。結果、組織や事業の危険な兆候に気づくきっかけになったはずの「声」が発せられず、会社の持続的な成長の妨げになってしまう。最悪、組織が歪み、崩壊してしまう。そんなケースも残念ながら起きてしまいます。
不満の声を無視せず、拾い上げることから関係性が変わる
組織が拡大していくと、多かれ少なかれ、経営陣やマネジメント層とメンバー層との間で認識のズレが生じるものです。ズレが生じること自体は問題ないのですが、もし経営陣やマネジメント層の意見への賛同ばかりで、異なる見解や不満といったようなものが何一つ上がってこないと感じられるなら、組織点検のサインかもしれません。
組織を点検するといっても、社員からの不満の声を全て拾い上げて反映した方がいいという話ではありません。大切なのは、実際に反映されるかどうかではなく、誰もが「声」を発することができる状態を作れているか、という点です。
たとえば、事業の業績が上がっているにも関わらず、待遇面が改善されていないという不満の声が存在したとします。この状態で、不満の解消だけを考えるなら、事業に関する投資を削って、待遇改善に予算を割くという意思決定になるでしょう。しかし、急成長しているようなフェーズの場合、そのモメンタムを大事にするため、事業関連の投資を優先したいという想いは当然のことです。
ここで大切なのは、不満の声をないものとして扱うのではなく、そのような声が組織に存在していることを「組織として認識」しているということ。そして、そういった声を「経営陣がちゃんと受け取っている」ことを社員全員に「認識」してもらえるようにすること。この2点が重要だと私は考えます。
先程の例で言えば、まずは、待遇に対する不満の声を見て見ぬふりするのではなく、経営陣と他メンバーとが話し合い、各々の考えを明らかにする。その上で、経営陣は不満の声があることをきちんと認識し、受け止める。その上で、最終的に「待遇改善よりも事業投資を優先するべきフェーズ」と判断し、意思決定を下すということです。
同じ意思決定を下すにしても、『不満の声を無き声として扱い、意思決定したのか』それとも『そんな不満の声があるとちゃんと認識したうえで、意思決定を下したのか』。後者のプロセスをきちんと押さえた上での意思決定が大切だというのが私の考えです。
なぜなら、後者であれば、不満は解消されていないにしても、意思決定までの過程で各々の想いが受け取られているため「声を出せばきちんと受け止めてもらえる組織」としてメンバーに捉えられるからです。
後者のコミュニケーションを積み重ねていけば、「本当は言いたいけれど、言えない」状況が減っていきます。結果、組織内で「言いにくいことを互いに言い合える関係性」が育っていくのです。
関係性を育てることで、スタートアップの推進力を活かす
そもそも論として、新しい価値・市場を世の中に創出すべく、取り組んでいるのがスタートアップです。だからこそ、参考になる情報や前例がない中でも、様々な意思決定に迫られます。そこに明確な「正解」はないため、答えのない問いに向き合い続けていくことになります。
「正解」がない中で、状況に応じた最適解はどこにあるのか。その答えを見出すためには、本来、会社という組織を構成するメンバー全てが、役職等の垣根を超えて各々の意見や主張を本気でぶつけ合い、議論を重ねていく必要があります。
ところが、最近のスタートアップの傾向として、互いを尊重するあまりに遠慮が発生し、本音をぶつけ合えなくなっている組織が増えているように感じます。ある意味「大人」なわけですが、結果として、スタートアップならではの推進力を損ねてしまっていることも多いように思うのです。
逆を言えば、「言いにくいことを互いに言い合える関係性」を組織として育てられれば、スタートアップが強みとする推進力をより良い形で活かせるようになります。もちろん売上拡大を優先するのは大切なことですが、先述の通り、ある一定のフェーズにおいて、組織づくりの見直しを迫られるタイミングになった時、「組織の声」にきちんと耳を傾けられるかどうかが重要だと思うのです。
「組織の声」を明らかにすることで生まれるインパクト
前提として、スタートアップは事業や組織の急拡大を目指す傾向があります。そのため、組織基盤やインフラ周りが整っていなくても、アクセルを踏み続けることがあります。結果、事業の急拡大に組織が追いつかず、生じた組織の歪を吸収しきれないまま組織崩壊に至ることがあります。
そういったケースでは、組織や事業の危険な兆候に気づくきっかけになったはずの「声」がすでに発せられない状態になっていることが多いように見受けられます。特に、組織の変化が激しく、メンバーの不満の声を見逃しやすいフェーズでは、個々の本音を明らかにしつつ、お互いの関係性を見直していくような場を意識して設けるとよいかもしれません。
私は、これまで様々な組織作りに伴走してきましたが、「組織の声」を明らかにしたことで、組織内のコミュニケーションが改善されたり、事業拡大のスピードが加速したりした事例にたくさん出会いました。最初はごく僅かな変化であっても、時間の経過とともにインパクトが生まれ、組織が変容していったのです。
「言いたいことを互いに言い合える関係性づくり」は決して簡単なことではありませんが、まずはちょっとした日常のやり取りから、これまで声になっていなかったような小さな声を拾い上げ、その存在を認めていくこと。そして、そういった小さな声を見逃さないようにするための仕組みづくりや日頃のコミュニケーションの積み重ねを、少しずつでも行っていくことが大切でしょう。
この記事を書いた人
新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。
2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。
2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。
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