公開日:2024/07/05
世界で活躍する会計士へインタビュー最終号 アフリカで独立開業!~アフリカ6か国を股にかけるワールドワイド会計士に密着取材!~
こんにちは!世界一周会計士の山田智博です。
会計士資格を携えて世界一周をするからには、“グローバルで活躍されている会計士の情報をぜひ日本に届けたい”、“海外で活躍している会計士の様々なロールモデルを皆さんにお伝えしたい”そんな思いから、『世界で活躍する会計士へインタビュー』というコラムの連載をCPASSさんの力をお借りしながら、寄稿いたしてきました。
ラストを飾るのは、アフリカ発の日系会計事務所をルワンダに開業し、現在ではアフリカ6か国に展開している笠井 優雅さんです。
笠井さんは公認会計士試験合格後に、資格の学校講師や監査法人での非常勤、慶應ビジネススクール(MBA)を修了して、アフリカに飛び込んでいます。アフリカ移住後は、現地企業のCFOを務める傍ら、Africa Accounting Advisoryを設立し、その後拡大を続け、現在ではアフリカ6カ国に展開し、アフリカ進出の日系企業をサポートされています。
今回は、アフリカで活躍する笠井さんに“アフリカへ挑戦したきっかけ”や“アフリカでのビジネスのこと”、“アフリカでの苦労話”などを深堀してきました!
1. プロフィール
笠井 優雅(Yuga Kasai)
Africa Accounting Advisory代表取締役社長
日本公認会計士/ルワンダ公認会計士
慶應義塾大学卒業。日本公認会計士およびルワンダ公認会計士。専門は管理会計。資格の学校講師、監査法人、コンサルティング会社、会計事務所等で勤務後、慶應ビジネススクール(MBA)修了。農業かつ製造業を営むルワンダの民間企業でCFO兼CAOとして財務・総務・人事を担う傍、アフリカ初となる日系会計事務所Africa Accounting Advisoryを設立。現地・国際税務、IFRS会計、管理会計等の会税務・会計・財務業務のみならず、6年に渡るアフリカでの実務経験と多くの企業を見てきた知見から、数多くの日系企業の現地調査・進出支援・経営支援を行ってきた。
2. インタビュー本編
――笠井さんの簡単な自己紹介をお願いします。
会計士試験合格後、資格の学校で常勤講師、同時に監査法人、会計事務所で非常勤として活動し、最終的には慶応ビジネススクールでMBAを取得しました。慶応ビジネススクールで嫁に出会い、あれよあれよという間にアフリカ生活が決まり、気付けばルワンダ生活10年目に突入しています(笑)。ルワンダでは、民間企業のCFO兼CAOやアフリカ発の日系会計事務所のCEOを務めています。
――気になることがたくさんあります…(笑)!
まずは、笠井さんの取り組まれていることを具体的に教えてください。
大きく分けると5つあります。
まず1つ目は、会計事務所の運営です。こちらの会計事務所はアフリカで既に9期目を迎えており、アフリカ大陸の6ヵ国に展開しています。具体的には、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、ナイジェリア、南アフリカ共和国です。
2つ目が、ルワンダナッツカンパニーという会社のCFOを務めています。
その他は、事業会社の創業や、ケニアの医療系スタートアップのCFO、事業会社監査役を務める、などをしています。
――会計士を目指したきっかけを教えてください。
異性からモテたかったからです。それ以外のなにものでありません(笑)。その思いから大学2年の時期に勉強を始めました。
――そもそも異性から人気があったのではないでしょうか。笠井さんをご存じの私の知人たちは声を揃えて笠井さんを爽やかイケメンと言っていましたよ(笑)。
強いて言えば、そうかもしれませんね(笑)!
ただし、三大国家資格とも言われるような会計士の資格があれば、自分自身に箔がついて、より理想的な女性を目指せると思ったんです。
――確かに、イケメンなだけでは太刀打ちできなくなりますね(笑)。
話は変わりますが、会計士試験合格後に、会計士予備校の講師になった経緯を教えてください。
1つ目の理由としては、その当時は監査法人よりも給与等の待遇面が良かったことです。
2つ目は、監査法人の非常勤と兼務することができたため、ダブルワークが可能だったことです。まとめると、お金に困らないし、自由に動くことができて、会計士の実務要件を満たすこともできるという点が魅力的でした。
ただし、1年目は監査法人の非常勤で働くことはしませんでした。予備校で良い教材・問題を作ることに勤しんで、めちゃくちゃ働いたんですよ。半角ズレが一個でもあったら、許せないくらいに没頭していました(笑)。
2年目から徐々に余裕ができて、監査法人の非常勤にも取り組むようになりました。
4,5年目にはMBAに行く時間まで捻出でき、働きながらMBAにも行けたことには感謝しかないです。
(TAC講師時代)
――監査法人の繁忙期がずっと続いているような生活ですね…!
MBA取得を目指したきっかけについても教えてください。
将来的に起業を見据えていたからです。実は、株式会社ケップル/ケッブルアフリカベンチャーズを創業し、代表を務めている神先さんと受講生時代ずっと一緒に勉強していた仲で、彼と二人で起業しようという話もしていたんです。
その起業に向けてまずは、MBAを取得するために、経営の理論や実務を学ぼうと考えていました。初めて自分の意志で真面目に学びに行った場所かもしれません(笑)。
――MBAの取得はモテたかったからではないんですね(笑)!
MBAに通う中で奥様との出会いもあったと伺っています。
私にとっては、その出会いが諸悪の根源ですね(笑)。
というのは冗談で、人生のターニングポイントです。
とある授業で嫁と同じ班になったのですが、その自己紹介の中で彼女が“私はアフリカが好きで、暫くジブチにいました”的な内容の発言をしたんです。初めの頃は、そもそもアフリカに興味はなく、なんか意識高い系女子だな、くらいにしか思っていませんでしたが、あれよあれよという間に結婚していました。
――現在アフリカに拠点を構えているのは、やはり、奥様の影響もあるのでしょうか。
連れてこられたようなもんです(笑)。
結婚後に嫁からアフリカに来ないなら離婚すると宣言されてしまい、可愛い子供もいましたし、アフリカへ一緒に行くことをすぐ決断しました。
当時のTOEICは400点台だったため、アフリカで職に就けるか不安だという話を嫁にしたところ、なんとたったの3日程でルワンダナッツカンパニーCFOのポジションの話を持ってきてくれました。
とりあえず、面接を受けてみたら通過し、トントン拍子でルワンダナッツカンパニーのCFOという職を手にすることができたんです。
とはいえ、アフリカでの生活は過酷な面もあることから、人によってはあわない可能性もあります。そこで、嫁から“アフリカに適性があるかテストする”と言われ、2,3人だけ知り合いの連絡先を貰って、ケニアに送られ、2週間を過ごしました(笑)。何とか生き延びて帰国したところ、合格を貰い、アフリカ行きが正式に決定しました。
――TOEIC400点台でしたよね(笑)。どのように2週間乗り越えたのでしょうか。
ノリと片言の英語です(笑)。飛び込んでみれば意外と何とかなるもんです。
ケニアに到着してからまずは、カンファレンスセンターに向かったのですが、会場へ到着するのに半日かかりましたし、会場では皆さんがディスカッションしていたけど何にも分からず、苦労しましたね。初めてのアフリカで危険意識もかなり高かったため、ジャケットの下にショルダーバックを入れて、警戒しながら歩いていました。現地の彼らからしたら、英語も話せない怪しいアジア人だったと思います(笑)。
――ルワンダに移住されたばかりの頃は、ルワンダナッツカンパニーのCFOのみを生業としていたのでしょうか。
そうですね。その後、ルワンダナッツカンパニーで経験を積んでから、会計事務所を設立していきました。アフリカ大陸に会計士の数は少なく、日本人会計士となると本当に希少です。それもあり、ルワンダの税制を覚え始めた頃から、“うちの会社の会計税務部分を見てくれないか?”と頼まれるようになりました。
嫁がまた登場するのですが、“会計事務所を作りなさい”と言われて、いざ、ルワンダに会計事務所を作ってみたら、ルワンダにとどまらず、ケニアからも話がくるようになり、ケニアにも会計事務所を作って、その後もニーズに合わせて増やしていきました。
まとめると、アフリカでの業務は、嫁に最初に敷いてもらったレールを走りつつ、途中から自走していった感じです。
――アフリカに移住されてからの語学習得の仕方について教えてください。
アフリカに来てから全く勉強していないと言えばウソになりますが、特段、注力して勉強をした訳ではありません。日常で話して覚えるようなイメージです。
DMM英会話だったり、1日30分のオンライン英会話だったり、申し込んでみたものの1ヶ月2か月で飽きてしまって、全く続かず、自分にとっては意味がありませんでした(笑)。
従業員への指示はもちろん英語でしていますが、やってみさえすれば、何とかなるもんですよ。
――日本の会計士の皆さんは、海外に出るならまずはTOEIC900点を取らなければならないと考えがちで、結果的に繁忙期等の忙しさが理由で延期に延期を重ね、英語力が無いから行けない、となってしまう印象があります。
間違いないですね。
英語力が無い状態で海外行きを決めても大丈夫だと強く伝えたいです。
私もアフリカに来ると決まったタイミングの英語力はTOEIC400点台でしたが、アフリカ行きが決まってから半年間集中して勉強して、775点まで行きました。決まっていると不思議と集中力も吸収量も上がるのではないでしょうか。
――アフリカでいざ働くとなった時に感じた不安を教えてください。
それが全くありませんでした。私の場合、ラッキーなことに、ある程度失敗しても嫁が食わしてくれると宣言してくれていたため、何があっても生きていけるし、最悪の場合、会計士の資格があるため、日本へ帰国すれば絶対に職に就けるという自信があったからです。
失敗しても別に大丈夫、という気持ちが本当に強くて、心配はしませんでした。
――講師をやられていたこともあってか、お話が上手ですし、会計士資格もあるし、MBAも持っているとなると、全能感を持ちそうです(笑)。
完全に天狗だったかもしれません(笑)。
冗談はさておき、環境も非常に恵まれたものだったことが大きいと思います。私はそもそも浪費しないタイプですし、アフリカに来てすぐに給与を貰えている時点で他の人より良い待遇です。というのも、アフリカはそもそも日系企業の働き口が多くなく、アフリカに来る方たちは自分でお金を集めて、起業する人が多いんですよ。
ルワンダだと、生活コストも安く、一人暮らしだったら500~600ドル払えば、それなりに良い所に住めますし、自炊していれば食費は月12万で済みます。
(ルワンダに来たばかりの頃のお写真)
――アフリカで感じたカルチャーショックについて教えてください。
現地の会計士のレベルが低すぎることが一番のカルチャーショックでした。驚愕ですよ。例を挙げたらきりがないのですが、特に印象的な2つのエピソードをご紹介します。
ウガンダ国税庁がとある会社に“法人税の額が違う”と監査に来た時の話です。
そんなはずはないと思いながら、国税庁の指摘内容を詳しく拝見したところ、彼らは法人税を利益剰余金×法人税率で計算していました。
“いや、ちょっと待ってください。利益剰余金というものは、過去の活動の累積であって、もう税金などが加味された後の結果なんですよ。税金の計算は2021年であれば、2021年度の利益に掛け合わせるものです。”と伝えても、聞く耳持たず、というか全く通じません。どんなに説明をしても、“あなたは間違っている”だとか、”会計を分かっていない”、”とにかく税金を追加で払いなさい”としか言ってきませんでした(笑)。
このような一目でミスだと分かるレベルの指摘を日常茶飯事で自信満々にしてきます。最初のうちは、そうやってけしかけて、賄賂などを求めているのかな?と考えていましたが、向こうは大真面目だったんですよ…。大真面目にそんなことを言ってくるから、会話が成り立たないですし、基礎レベルが違うことを思い知らされました。
――伝えるのが難儀そうですね…。もう1つのエピソードもお願いします。
ルワンダのとある業界で10年CFOを務めている大ベテランの方とのエピソードです。
ある日、財務諸表を見せてもらったところ、売掛金にマイナスがあるなど、何かおかしな気がしたため、どのように財務諸表を作成しているか確認したところ、Excelで作っていると回答をしてきました。しかも、ただ積み上げているだけの単式簿記だったため、この財務諸表で大丈夫なのかを確認しても、“どうした?バランスしているだろ?”と回答してくる始末です(笑)。
Excelで作っていて、借方と貸方をイコールで結んでいるのだから、それは、貸借一致しますよね(笑)。
どこで調整しているのか確認してみたら借入金だったため、“この借入金の契約書ありますか?”と聞いても、“そんなものはない、なぜならこれは借入金だから”としか回答してくれません。
売掛金がマイナスになっていた理由も聞いてみたところ、
“笠井君は、売掛金の求め方知らないんだね。教えてあげよう。投資家からお金を貰いますよね?その出資金を利用して、事業に必要なモノを買いますよね?お金が残りますよね?それが売掛金です”と回答をいただきました(笑)。
ルワンダで売上がトップの層に入るような企業でもこのレベルで財務諸表を作っているし、監査にも引っかかりません。皆さんこのレベルだから、ディスカッションをしたとしても、何となくOKになってしまうんですよ(笑)。
――話が通じず、会話ができない、の意味が分かりました(笑)。
ちなみに、証券市場はないのですか?
上場株の証券市場もありますよ。
流石に市場に上場している企業の財務諸表はしっかりしています。KPMG等のBig4の監査を受けているからです。ただし、ルワンダの上場企業は7社しかありません(笑)。証券会社などの掲示板を見ると上場企業の名前と株価が左から出てきますが、一番右に行く頃には、また左からその会社の名前と株価が出始めます。さらに、株価は全部±0で、だれも取引していないんです(笑)。
――文化の違いについても教えてください。
これは、私の持論になりますが、文化の違いはさほどなく、ほとんど民度の違いなのだと私は考えています。
遅刻してしまったり、オンタイムじゃなかったり、雨の日は出てこなかったり、これらは民度の問題であって、ちゃんとしている人は遅刻したりしません。そして、この民度の違いは教育水準の差に起因しているのではないでしょうか。
文化の違いは、例えば、イスラム教の人なら金曜日の決まった時間にお祈りを始めるだとか、キリスト教の人が毎週教会に行くだとか、こういった明らかな習慣の違いだと考えています。このような習慣や行動の違いに対しては、彼らの自由ですし、何にも思いません。
一方で、できないことを“できるできる”や“今日中に送る”と言ってしまって、結局やれていないのは、文化の違いではなく、教育水準の違いですよね。
――確かに、先進国で教育を十分に受けられている方だと、しない方が多い印象です。日本で考えても、学生のように怒られた経験などがないような方にありがちで、それらを本当によくないことを知らない、もしくは甘く見ているだけのケースが多い気がします。
その通りです。日本から大学生がインターンとして来るケースがありますが、ある程度こちらで働き、教育したルワンダ人の方が明らかにしっかりしていて、能力も高いです。教育と経験が大いに大事なのだと感じます。
――その他に、アフリカで生活をされていて感じることを教えてください。
交通事情が酷いことですかね。交通マナーが無いんですよ(笑)。
例えば、日本であればT字路の赤信号待ちで、別の車線の車が通れるようにわざと車一台分空けたりするじゃないですか。こちらでは、それを皆ができないため、その1台がスペースを空ければ解決する渋滞が頻繁におきます。
ちゃんと考えればそういう詰まりはなくなるのに、皆がパワープレーで行こうとして、変なところに車を突っ込み、さらに渋滞が起こって、喧嘩が始まるんですよ(笑)。
あとは、時速90キロくらい出しているのに、車間距離2mくらいで来たりします。私自身、一回後ろから追突されて、ガソリンスタンドに突っ込んだことがあります。幸い怪我は有りませんでしたが、同乗者が病院送りになり、車も大破して、半分ぺちゃんこになりました。
挙句の果てに、突っ込んできた側が弁償どころか“お前が悪い”って言いだす始末で本当に大変です(笑)。
――確かに、教育水準の差を感じますね…(笑)。
話は変わりますが、笠井さんの経営されているAfrica Accounting Advisoryのサービスについて教えてください。
仕訳記帳や税務のアドバイザリー、申告代行など、一般的な会計事務所と同じサービスラインです。日本との違いで言うと、社会保険は社労士でないといけないといった資格間の利権はないため、全般的なサポートをしております。
その他、コンサルやDD、調査関係なども提供していますね。
――クライアントは日系企業でしょうか。また、日系企業のアフリカ進出が増加傾向にあるかも教えてください。
はい、日系企業です。ケニアは増えていますが、ケニア以外はあまり増えていないです。
ルワンダには日系企業が全然いませんが、ナッツカンパニーのCFOをやっていたこともあり、ノリで会計事務所の拠点を作りました。
アフリカ全体を見ていて思うのは、ケニアはバランスが取れていてすごく良い国だということです。日系企業もどんどん進出してきていますね。ナイジェリアもポテンシャルが高いのですが、日本人にとっては障害が多すぎて、日系企業の進出はあまり見受けられませんね。
――日系企業に対するアフリカへの誘致活動はしているのでしょうか。
まだできていないです。将来はやりたいなと思っています。
私が本当にやりたいのは、現地企業のイケイケのスタートアップに投資して、資金面だけでなく会計面などの支援もして、サービス提供するといった領域です。ただし、今は手持ちの仕事でいっぱいになってしまっていて、まだその余裕がありません。日本人をあと一人雇えて、補強ができたら挑戦していきたいです。
(Africa Accounting Advisoryのメンバーとのお写真)
――面白いスタートアップも多いのでしょうか。
日本からも来ていますよ。
リープフロッグ現象と言って、アフリカでは、既存の技術を経ることなく、いきなり最新の技術に到達するといった現象があります。というのも、規制がないため、最先端の新しい技術の実験場としてルワンダを利用し、うまくいったらベンチャーに流していくという使い方ができるからです。
ドローン規制がないため、実験場としてアフリカを使う企業が多いですし、ルワンダに宇宙省のような省庁が作られ、日本の東大チームが衛星を打ち上げていたりもします。驚くのはそのスピード感で、東大チームはルワンダに来て、たった2年で衛星の打ち上げまで達成しています。それくらい規制が緩いというか、門戸が広いんです。
――会社を経営している中であった従業員との苦労話を教えてください。
従業員という視点だと、苦労することに関しては日本との差異を特に感じないですね。ただし、先ほど話した民度の違いを感じることはもちろんありますし、その割合が日本よりも断然高いかもしれません。
例えば、ルワンダで一番の大学の卒業生を雇ったときの話ですが、在庫を数えてもらったら、私の認識では20個くらいしかないはずの在庫に対して300個と答えてきたんですね。おかしいなと思って、一緒に数えたところ、案の定23個しかありませんでした。なぜ300個と答えたのか聞いても、“その時は300個ありました”と答えるんです(笑)。
こういうのは本当に多いですね。謝れない、というか絶対に謝らず、言い訳をします。こういった事例に出くわすケースが多いため、アフリカに来た日本人は、”アフリカはやばい”と言いますが、そういう人は雇ってしまってもすぐに解雇して、ちゃんとした人を雇えば問題はありません。
私と感性が違いすぎて驚いた話もあります。
社用車用のドライバーを雇っているのですが、ガソリンの減りがどう考えても早くておかしいと思い、ドライブレコーダー(以下、ドラレコ)を確認したところ、ドライバーが私用で利用しているのが分かったんですね。
そこでまずは、ドラレコのことは言わずにドライバーに“私用で使っていないか?”と確認しました。彼は、“使っていない”と回答したため、ドラレコを見せて“私用で利用したことは分かっている”と伝えました。すると、“これは俺じゃない”と言い出したため、仕方なく“あなたが運転していて、あなたがここに来たことがドラレコに映っています”と伝えたんですよ。すると…”ドラレコは確かにここに行っていますね。でも私は行っていないと言っているじゃないですか。なぜ、あなたはドラレコが正しいと思うのですか?そもそも、何を真理としていますか。あなたの見ているものは何が正しくて、何が間違えているのか、何を基準に判断しているのですか?”と言い出したんです(笑)。
えっ、哲学??と驚いたのを今でも覚えています。もう逆に、頭がいいのではないかと感じましたね(笑)。
――そんな方が多いと大変かもしれませんが、肝っ玉の据わり方は尊敬できますね(笑)。
ルワンダの休日の過ごし方について教えてください。
ゴルフ一本です。それ以外していないかもしれないですね(笑)。年間の会員権が1,500ドルなんですが、当日はキャディーさんへ渡すチップ以外は全て無料です。年に52回くらいはラウンド周っています。
ゴルフ好きならルワンダ本当にお勧めですよ。車を5分ほど走らせればラウンドに着きますし、朝7時位からゴルフ開始して、11時には終わります。その後は、午後から集中して仕事に取り組めます。
――ゴルフ三昧なんですね。
生活に関してですが、アフリカへの正しいイメージを持てていない人が多い印象があります。
そうですね。“キリンと朝食を食べているの?”と聞いてくる人がいるくらいです(笑)。
アフリカでは、ライオンだとかゾウだとかサファリにいるような動物が街中に溢れていると思われがちですが、そんなことはもちろんなく、私のルワンダ人の友達は、ライオンを始めて生で見たのは、日本の動物園とのことでした(笑)。
ちなみに、ルワンダはゴルフとテニスくらいしか娯楽がなくて、苦しむ人も多いかもしれません。そういった意味では、ケニアがベストなのではないでしょうか。
ゴルフ場が近いし、美味しいレストランも多く、バランスが良いため、いずれは私もケニアへの移住を視野に入れています。
(ルワンダゴルフ場にて)
――アフリカに来てほしい会計士像についても教えてください。
どなたでも会計士であれば来てほしいです(笑)。
強いて言えば、細かいチェックができる人にぜひ来てほしいですね。その人が財務諸表を作成するようなポジションではなく、出来上がったものをレビューして、間違いを発見できるような方が理想です。
あとは、税務にある程度触れていた人の方が税務の勘所があるため、嬉しいです。アフリカを何カ国も渡り歩いて会計事務所を経営していると、色んな国の税制があって、全部違うから大変じゃないですか、とよく聞かれます。しかし、個人的には根本が全て一緒なのだと理解しています。例えば、源泉税だったらプロフェッショナルに払うし、消費税なら免税かどうかが論点になるし、税ごとに目的と論点が決まっていて、その幅が国ごとに違ったり、特例があったり、という差でしかないと感じています。
だからこそ、日本で元々、税務に関与していた人なら、“あれ、この取引、本来は税金かかるものではないのか”というアンテナを張ることができるんです。このアンテナがあるのとないのとでは全然違いますね。
ちなみに、会計士であればどなたでも来てほしいと言ったのは、会計士の資格にはやはり箔があるからです。CPA持っているというだけで、アフリカの皆さんは冗談抜きにひれ伏します(笑)。
――笠井さんは、ルワンダで会計士の資格を取られたのでしょうか。
実は、東アフリカの中でもルワンダだけは、日本の会計士資格でルワンダCPA取れちゃいます。ちなみに、私は、ルワンダCPA会員675人目です(笑)。
――複数の国のCPAを持って、会計事務所を6カ国で経営するとなると、やはり非常に忙しいのでしょうか。
そうですね、日本人一人でアフリカ6か国は流石に厳しいです(笑)。毎月別の国に居るんですよ。例えば、先週はナイジェリアでしたし、来月は、ケニア、タンザニア、再来月は、ウガンダやコンサル案件でパキスタンやチリにも行きます。本当に心の底から誰か来てほしいです!
――嬉しい悲鳴ではありますね。アフリカでビジネスをするなら一押しの国を教えてください。
もちろん、ケニアです。住みやすさをとっても、市場の大きさをとっても、娯楽をとっても、全てのパラメーターが良くて、バランスがとれています。
また、アフリカにもかかわらず論理的に話を進められる点も非常に高く評価しています。どういうことかというと、例えば、ケニアで2022年7月に、輸出取引は普通免税で0%ですが、この輸出取引の税率を16%に税制改正したんですよ。これには、国民全員が大反対し、訴訟も起きました。そこで、大統領が元に戻すことを宣言し、撤回しました。社会保険も過去に変な方向に変わってしまいそうになった際に国民全員で立ち向かってひっくり返しています。それを国税庁がちゃんと理解してくれるんです。アフリカの中にあるけれど、話の素地があり、レベルが一個上です。
チャレンジするんだったら、ナイジェリアもいいですね。というのも、ケニアには既に結構な日本人が既に来ているからです。
――確かに、ケニアでの生活は東南アジアと変わらず、何も苦労しなかったです。
次に、今後の展望について教えてください。
先ほども話しましたが、将来的には現地のスタートアップをもっとケアしたいです。
最近、財務計画や資本政策の支援が多くなってきました。現地の方たちに、その知識が全くないんですが、これらの知識が無いとすぐに経営権が持って行かれちゃうんですよ。出資金を数百万入れてもらっただけで経営権が50%持っていかれてしまうなんて可哀そうじゃないですか。経営権とかの概念をそもそも持てていない方も多いため、しっかりケアしてあげたいです。財務計画や資本政策の支援から始めて、いずれはDDやM&Aも多くこなしていきたいと考えています。これが中期的な目標です。
長期的には、現地の起業家たちをIPOさせたいです。
5社しかないマーケットに上場させても意味がないため、どうやればアメリカやイギリスの証券市場に上場させられるかを考えていきたいです。もっというと、アフリカの企業を一回アフリカの市場で上場させて、信用やトラクションを得てから、ナスダックに再上場をさせたいです。そうすると、アフリカの証券市場も盛り上がると思うんですよね。
アフリカ証券市場をもっと盛り上げるために、アフリカの様々な人たちが投資に興味を持てるようなビジネスもしていきたいです。
今、ルワンダでは、“貯金しよう”というキャッチフレーズがあります。
私は、そうではなくて、それを飛び越えて投資される側から投資する側になろうと掲げてビジネスをやっていきたいです。
この国の人たちは、お金ないのに簡単に賭けてしまうくらい、みんな賭けが大好きなんですよ。そんな賭けをするくらいなら、絶対株に投資した方がよいですよね。賭けと同じ感覚で投資してくれるはずだから、そのプラットフォームを作りたいです。証券市場に上場する意義を見出してあげるというのが私の長期的な目標になります。
――最後に、若手会計士に向けて一言お願いします。
私から伝えたいのは、“死なないよ。大丈夫だから。”ということです(笑)。
気になることがもしあるのなら、間違いなく、ただ飛び込めばいいんです。本当に、何とかなるから気の赴くままに一歩踏み出してください。そうすると、すごい武器が手に入ります。もし、飛び出して失敗したらアフリカに来てください。私の会社で引き取ります(笑)!
ちなみに、私が培った経験や今持っている感覚を持った状態で日本に居るのなら、アフリカには笠井が居ると思うと、次は宇宙を考えますね(笑)。一人しかいない、というアイデンティティは本当に強いんです。
なぜ宇宙かというと、宇宙の会計は非常に面白いからです。宇宙に飛ばしたモノは常に地球を周っていますが、それが、どこに所属するのか、どこの固定資産でどこの税制になるのか、こういった内容を分かっている会計士は本当に少ないんですよ。
そういった論点にどっぷりのめりこむのも面白そうですし、日本企業も宇宙分野に進出してきそうだと感じています。
さあ、あなたも赴くままにチャレンジしましょう!
――ありがとうございました。
3. 最後に
いかがだったでしょうか。
海外を全く考えていなかったものの、奥様の強い希望でアフリカ移住が決まり、英語力などが全くない状態から、ルワンダ民間企業のCFOを務め、ご自身の会計事務所を開業された笠井さん。会計事務所開業後は、アフリカにいる希少な日本の会計士というポジションを活かし、あっという間に6カ国に展開するカリスマ性も持ち合わせています。
そんな笠井さんのインタビューを通して、とにかく飛び込んでみさえすれば、意外と何とかなるのだと、勇気を貰えた方も多いはずです。
確かに、笠井さんは、驚くべき適応力を持たれています。ノリで海外へ行くことになり、語学力が十分ではなくとも、民間企業のCFOをこなしつつ、会計事務所を設立し、それを何カ国にも広げているということに驚きを隠せない方も多いことでしょう。
ただし、笠井さんがおっしゃる通り、大切なことは、赴くままに挑戦する、ということなのだと思います。その場に飛び込むと、当事者意識ではないですが、学ぶ意欲も吸収量も数段上がり、何とかするために作戦を練ったり、考えたりすることも多くなるのではないでしょうか。それをアフリカでまさに体現しているのが笠井さんなのだと感じました。
また、アフリカの文化の話も非常に興味深かったですね。会計は世界共通言語とは言うものの、そもそもの常識がないアフリカでは、会話ができないが故に、会計=世界共通言語が成り立たないケースがあるというのが個人的に面白かったです。
最後に、アフリカでも日本公認会計士の資格には箔があり、強い効果を発揮するというお話がありました。世界で活躍する会計人材へのインタビューは今回で再集合となりましたが、全世界で同じことが言えるということが分かりますね。つまりは、日本国内だけでなく、会計士の資格を持つ方は全世界で求められていると言えます。だからこそ、何か興味あることや挑戦したいことがあるのなら、それをやらずに後悔するより、赴くままに挑戦すべきなのではないでしょうか。
そして、もし失敗してしまった場合でも、笠井さんがアフリカで引き取ってくれるそうなので、もう安心ですね(笑)!
ご清覧ありがとうございました!
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