公開日:2022/11/04
マネジメントだけでなくプロダクト開発の最前線でも活躍する、山田一也(株式会社マネーフォワード)のキャリア
今回のロールモデルは、株式会社マネーフォワードの山田一也さんです。
「自分が選んだキャリアを最高のキャリアだと思い込む」
キャリアを踏み外すのが怖くてなかなか挑戦できていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方の背中を押してくれるような山田さんからの力強いメッセージは必見です。ぜひ、ご覧ください。
山田一也さんのプロフィール
山田 一也
株式会社マネーフォワード 執行役員
マネーフォワードビジネスカンパニーCSO
公認会計士
山田一也さんの略歴
2006年 公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所
2011年 株式会社パンカク 執行役員CFO
2013年 株式会社Bridge 執行役員 ベンチャーサポート事業担当
2014年 株式会社マネーフォワード入社
2019年 同社 執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニー CSO(現任)
01. 会計士を目指したきっかけ
――山田さんが会計士を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
私は経営学部だったのですが、ビジネスに必要な一通りの知識を体系的に学びたいなと思い、様々な資格試験の出題範囲を調べていたところ財務会計や管理会計などの会計的な知識だけでなく、会社法などの法律的な知識や統計学など、ビジネスのベースとなる学問を一通り学べそうだなと思ったことがきっかけです。
――受かったらこれがやりたいという目標が明確にあったというよりかは、とりあえずビジネスの知識を一通り学ぶことで、その先の選択肢を広げたかったということですね。
そうですね。若干、勉強オタク的なところはありました(笑)。
02. 監査法人でのキャリアについて
――ファーストキャリアとしてトーマツの名古屋事務所というレアな選択を取られた理由について教えてください。
名古屋出身で、かつ、名古屋の大学に通っていたこともあり、大学に通いながら仕事できたという点と、監査だけではなくアドバイザリーやコンサルティング、財務デューデリジェン
スなども経験できる機会があったので名古屋事務所に入ることを決めました。
――卒業したタイミングで東京事務所に異動するという選択肢もあったかと思いますが、そのまま名古屋に残られたというのは様々な経験ができる点に魅力を感じたからですか?
そうですね。関わらせていただいたクライアントの方とも仲良くなり、様々なことを教えていただきながら仕事をしていたので、本当に学べることも多かったですし、やはり、このクライアントの監査をもう1、2年やりたいなという思いが強かったです。監査を1年経験しただけではクライアントのことを全然理解できていなかったなと、やればやるだけ気づきがあったので事務所を替えるということは全く考えませんでした。
03. CFO時代のキャリアについて
――監査をはじめ、様々な経験を名古屋で4年半ほど積まれた後、いきなりCFOとしてスタートアップ企業にジョインするというのはかなり大きなキャリアチェンジだと思うのですが、そこにはどういった経緯や思いがあったのですか?
当時は今と違って、いわゆる「大量合格時代」と呼ばれるほど合格者が増え、合格したけど監査法人に入れないという方も半分くらいいらっしゃいました。新人の方も自分が1年目の時と比べれば人が増えた分、経験できることも少なくなくなり、業界全体もリストラがあったので、会計業界から出られる人は出た方が良いなという思いがありました。
――監査法人を退所してからいきなりスタートアップ企業のCFOとして業務を行うのはかなり大変だったと思うのですが、最初はどういった業務を担当されていたのですか?
最初は10人ぐらいの会社だったのですが、とにかく社長含め全員エンジニアとデザイナーだったので、「預金残高がいくら残っているかもよくわからない」といった状態でした(笑)。 ですので、まず、現状把握からスタートし、その次に、お金が足りていなかったのでファイナンス面を整えました。他にもいわゆる経営企画的な業務や大手の会社さんとの協業の一環でビジネスデベロップ業務も少しずつやっていました。
――バックオフィス系の業務を担当する社員一号だったのですね。
そうですね。会計だけなく、労務や法務もやりましたし、広報もやっていたので、いわゆる開発以外のことを全て担当していたという感じでした。
今振り返るとものすごく質が低かったかなと思います(笑)。なので、その分、失敗も多かったです。
――会社は大手企業に売却という形でイグジットしたと思うのですが、そのタイミングで山田さんはどのような選択を取られたのですか?
上場会社にM&Aで買っていただいたので、その上場会社に移るか、退任するかの2択で、結果的には退任という方向を選びました。
私は会計士出身ということもあり、CFOとして管理系の業務はなんとか試行錯誤しながらできた部分は大きかったのですが、事業への貢献はほぼ何もできませんでした。特にソーシャルゲームを作っている会社だったので、自分がやれることが少なかったです。ベンチャーに入ったなら、事業を成長させるというところにもっとコミットしたかったなという心残りがあったのが退任した大きな理由です。
04. 会計コンサル事務所でのキャリアについて
――退任した後からマネーフォワードさんにジョインするまで1年ほどありますが、その1年間はどのように過ごされていましたか?
その1年はコンサルティング系の会計事務所で働いていました。ベンチャー企業のバックオフィス系コンサルティングと言ったらちょっとかっこいい感じなのですが、ベンチャー企業のバックオフィスの立ち上げを家庭教師のような形で支援するという仕事をやりながら、その会計事務所の新規事業の立ち上げもやっていました。
――それは次に本気でコミットしていくスタートアップ企業を探したり、必要な知識や経験を詰んだりするための準備期間だったということですか?
そうですね。当時はこれって思える事業が見つかっていなかったので、何をやろうかなと考えていました。せっかく2年間ベンチャーでCFOを経験して、色々と知見は溜まったので、それを還元していけるといいなという思いで何社かベンチャー企業のバックオフィスと立ち上げのお手伝いをしていました。
――バックオフィス業務から事業の成長という部分にすごく関わっていくために、心からコミットできる事業を探していたタイミングだったのですね。
そうですね。やはり自分が本当に伸ばしていきたいと思える事業に関わりたかったです。
05. マネーフォワードにジョインしたきっかけと担当した業務内容について
――マネーフォワードさんにジョインすることとなったきっかけを教えてください。
当時だと、やはりスタンドアローン型のソフトが主流で、導入しているお客さんが何十社もいらっしゃいました。ただ、データのやり取りなどをローカルで行うことはとても大変で「これ、なんとかならないのかな?」と思っていました。
そんな時にマネーフォワードやfreeeさんをはじめとしたクラウド会計というサービスを提供する企業が出始めて「これじゃん」と感じました(笑)。
ユーザーとして使っていたというのが最初の出会いで、 マネーフォワードは家計簿アプリが創業のサービスで有名なのですが、私は家計簿アプリよりも先にクラウド会計のサービスを使い始めた稀有な人でした。
――マネーフォワードさんが出しているプロダクトをユーザーという立場から接点を持ったとのことですが、そこからジョインするまでの過程を教えてください。
端的に言うと、とても使いづらかったからです(笑)。株主資本等変動計算書も出ないなど、本当に機能が全然足りなかったのですが、インターネット環境が使えればどこからでも仕事ができるというところにすごく可能性を感じていたのでマネーフォワードに対してフィードバックを送っていました。
フィードバックを送っているうちに「一緒にやりませんか?」とお声かけいただき、自分が 「コミットしたい!」と強く思える事業に関わっていきたかったのでジョインすることを決めました。
――可能性を感じているからこそ自分がジョインしてプロダクトを良くしていこうという思いがあったのですね。
そうですね。気持ちとしては本当にクラウド会計というものが、世の中に広まって生き残るのか、それとも「会計はインストール型だよね」となるのかというのは本当に半分半分くらいの可能性かなと思っていました。
――ジョインされた当時はマネーフォワードさんも設立して2年経っていないぐらいだったと思うのですが、メンバーは何人ぐらいいましたか?
また、現在は何人ぐらいまで増えましたか?
ジョインした当時は50人ぐらいだったと思います。今はグループ全体で1600人ぐらいです。
――この8年で50人から1800人の規模になる過程を経営のど真ん中で経験されてきたのですね。
そうですね。多くのメンバーに恵まれてここまで来ることができました。
――ジョインした直後はどういった業務を担当されていたのですか?
最初は特にポジションが決まっていたわけではなくて、「まあ、とりあえずやれそうなことをやってください」みたいな感じでした(笑)。
まずはお客様と会話しないと話にならないと思ったので、営業も担当していましたし、元々、プロダクトに課題を感じていたのでプロダクトの開発も担当していました。
当時、会計バックオフィスは基帳代行を依頼していたので、IPO準備のために経理の内省化の仕事なども担当していました。
元々バックオフィス全体を見ていたということもあり、労務や広報、人事など、その辺りの業務も見てはいました。
06. マネーフォワードが拡大していった経緯と山田さんの業務内容の変遷について
――マネーフォワードさんと共にクラウドのサービスはこの10年で一気に広がったと思うのですが、伸びていった要因について認識しているものはありますか?
社会から必要とされてきたというのは1つ大きいと思います。創業当時は「クラウド会計ってちょっと怪しい」とよく言われましたし、「ベンチャーで倒産したら預けている会計データとかなくなりますよね?」とか「外部から攻撃されたり、情報が流出したりしたらどうするんですか?」などはすごく言われていました。
そんなときに国が成長戦略の一環としてIT導入補助金を導入するなど、国を挙げてクラウド化というものを推進してくれたり、海外でFin Techと呼ばれるような潮流が日本に輸入されてきたりなど、いろいろな方の後押しがありました。
その中で我々のプロダクトの改善が進んでいき自力がついたこと、また、マクロ環境がすごく良くなったことで事業がぐっと成長したのかなという認識はあります。
――プロダクト自体を洗練していくというのも当然ですが、やはり時代がついて来ないとなかなか厳しいですよね。
絶対にそうだと思います。
――事業を拡大していくうえでM&Aや新規事業の立ち上げなど本当に激動の8年間だったと思うのですが、山田さんの業務内容はどのように推移していかれましたか?
ジョイン直後はいろいろな業務を担当していましたが、世の中や会社に1番貢献できることってなんだろうと考えた時に、やはりプロダクトをより良くしていくことが1番だと結論に至りました。なので、バックオフィスの仕事をいろいろな人に引き継ぎ、プロダクト開発をメイン業務として数年やっていました。
その後、色々とラインナップが増えていく中で、ビジネス側の戦略を考えるようになり、マーケティングやセールスなどストラテジーの方にシフトしていきました。
結果、CSOとして開発側の戦略もビジネス側の戦略も自分が全体を見るようになりました。
――現在はクラウド事業全体の統括というとても重要なポジションを担当されていると思いますが、具体的な業務を教えてください。
戦略の本質はリソースのアロケーションだと私は思っています。マネーフォワードはプロダクト数も事業も多いので、特にそのマーケット環境を見た時に、どこの事業にどれだけリソースを配分していくと、どう伸びていくのかということを考える必要がありました。
07. 会計と異なる領域で活躍するための秘訣と山田さんが考えるキャリアについて
――山田さんは現在、会計士的なお仕事とは全く異なる領域で活躍されていると思うのですが、違う領域にうまく移行できた要因や、移行する際に苦労した点はありますか?
きっかけになったのはマインドチェンジです。20代の時のキャリアの考え方と、30代になってからのキャリアの考え方では全く違うマインドでした。
具体的にいうと20代の頃は軸が自分に向いていたと思います。「自分が将来、こういうことやれるようになりたいから、こういうことを経験したい」という風に考えていました。つまり、まず軸が自分にあって、それに対して何かアクションを起こすという流れでしたが、30代になってからというよりマネーフォワードに入ってからは「自分がどういう経験をできるか」は一旦忘れて「会社や世の中のために何をすべきなのか」ということをまず考えるようになりました。
それを自分ができないのであれば学べばいいし、学びきれなかったら、一緒に誰かとチームを組んで進んでいけばいいという風に、自分に軸を移さずにやるべきことが何なのかということを先に考えて、とにかく目の前ことに向き合い続けるということをやってきました。
――キャリアを考える時にどうしても自分のビジョンの中から「こういう経験を積もうかな」と考えがちですが、「組織にとってこういうことできるようになったら良いよね」といったように軸が自分から組織に移ったことが大きな影響だったのですね。
そうですね。 今、マネーフォワードでやっていることを10年前から逆算して考えていたら「絶対に無理だな」とか「何からやれば良いかわからないな」と絶望していたと思います。
ですが、しっかりと目の前のことをやっていけば、絶対に何かに結びつくと思うので、今は目の前に与えられた機会や課題に最大限コミットして、向き合うというのは本当に大事なことだと考えています。
その積み重ねが結果的にキャリアになって行くのだろうなと思います。
08. マネジメントに関する悩みを抱えている会計士に向けて
――会計士の方でマネジメント能力に悩まれる方が多くいらっしゃる印象があるのですが山田さんがマネジメント時に気を付けていることがあれば教えてください。
マネジメントをどう定義するかで異なると思いますが、私の中ではサーバント型と呼ばれるようなサポーティブなマネージャー像を良しとしています。
マネージャーの仕事は、メンバーが最大限のパフォーマンスを発揮するためのサポーターであるという風に考えています。メンバーそれぞれ、得意なことや苦手なことがあると思うのでその人その人に合わせて指示を出すなど、マネジメントスタイルを変えて接するということは大事だと思います。
ただ、1人で見られるのは6人ぐらいが限界だと言われていて、それを超えてくる30人、50人という規模になるとどうしても1人にかけられる時間が減ってしまうと思います。その時に大事になってくるのはとにかくベクトルを揃えるということだと思います。
向いている方向さえ揃っていれば多少やり方を間違えても、紆余曲折を経てゴールに辿り着けますが、全く別の方向に向いているとどんなに頑張ってもマイナス方向に進んでしまいます。
マネーフォワードだとミッション、ビジョン、バリュー、カルチャーをすごく大切にしていて、会社がどの方向を向いているかを伝えることや、向かう過程でマネーフォワードはこういうことを大事にしながら向かっていきたいということをすごく言語化して、とにかく繰り返し伝え続けるということを大事にしています。
――1人1人がより活躍するように接することと、組織全体としてミッション、ビジョン、バリューを共有し、浸透させて、1人1人の判断軸や目指している方向性の軸を合わせていくということを意識されていたのですね。
そうですね。そこまでやったらあとは信じて任せています。失敗したら一緒に悩んでフォローするということは大事かなと思います。
09. 山田一也さんが若い会計士や未来の会計士に向けて伝えたいこと
――若い会計士や受講生の方に向けてキャリアに関するアドバイスをお願いします。
私の反省も踏まえてですが、20代の頃はキャリアに正解があると思っていました。でも、「キャリアの正解って何だろう?」って考えると多分、何かこれが正解だというものは無いと思います。
自分が選んだ道をいかに正解へと持っていくことができるかの方が何倍も何十倍も大事だなと30代になってから気がつきました。その気づきがコトに向かうということにも繋がりました。
今、やっていることに最大限、コミットして楽しく成果を出せるようにするためにはまず、コトに向き合うことが大切だと思います。その上で、見えてきた次のチャレンジがあれば、それが正解かどうかはわからないけど、自分がそれを楽しそうだな、興味あるなと感じるのであればまず、飛び込んでみる。飛び込んだ先で、それを正解にする努力というのを続けていくことが大事だし、それを続けていった結果、すごく充実したキャリアが形成されるのではないのかなという風に個人的には思います。
――私もこの100人のロールモデルの皆さんを紹介していく中で、本当にいろいろなキャリアがあるなと感じています。
1人として同じキャリアの人なんていませんよね。
私はバイアスをガンガンかけて行けば良いと思います。人間は自分が選んだものを良いという風に思い込むバイアスが消費行動とかでもよくありますが、キャリア選択も全く一緒だと思っています。自分が選んだキャリアを最高のキャリアだと思い込むというのが何よりも大事なことだと私は思います。
――本日は貴重なお話ありがとうございました!
こちらの記事はインタビュー動画の一部を抜粋して作成しております。ぜひインタビュー動画もご覧ください !
この記事を書いた人
「人と繋がり、可能性を広げる場」CPASSを運営するスタッフ達です。CPASSメンバーは、20~40代まで幅広い年齢層の公認会計士達を中心に、キャリア支援のプロフェッショナルなど様々なバックグランドを持つメンバー達で構成されています。「絶対に会計人達の役に立つ情報発信する」、「CPASSにしか出せない価値を提供する」をミッションとして集まった熱いメンバー達です。CPASS独自の視点からの見解を是非、楽しんでください。
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