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公開日:2024/06/30

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イギリス・シンガポール駐在を経験!英語圏を2か国経験した女性パートナーが海外業務の魅力を語る!世界で活躍する会計人材へインタビューVol.17

プロフィール

2004年公認会計士登録。 2000年中央青山監査法人に入所したのち、2007年7月より太陽有限責任監査法人に参画。 上場企業等の会計監査に従事したのち、日本公認会計士協会の奨学金を利用してLondon Business Schoolに修士留学。修了後は2013年よりGrant Thornton UKにてジャパンデスクとして駐在。2017年に帰国し、太陽有限責任監査法人の初の女性パートナーに就任。2023年からGrant Thornton SingaporeのJapan Deskとして、シンガポールの日系企業に対し、監査、税務、アドバイザリーの業務提供の支援を行っている。

イギリス・シンガポール駐在 渡邉さんのキャリア

――渡邉さんの簡単な自己紹介をお願いします。

  現在、ジャパンデスクとして、シンガポールに駐在しています。2007年に太陽監査法人に入社し、2013年から2017年までイギリスに駐在しました。日本に帰国後は5年間監査を担当し、2023年1月からシンガポールに駐在しています。元々帰国子女でもなく、子供の頃から海外に住んでいたわけでもありません。会計士になってから国際業務に興味を持ち、英語業務を始めたり、海外駐在をするようになりました。

太陽監査法人に入社したタイミングは、ちょうど中央青山監査法人が業務停止処分を受けたときでした。他の大手監査法人に移る選択肢もありましたが、企業文化と規模感が合う太陽監査法人を選びました。

「ダンバー数」という人数規模に関する数値をご存じでしょうか。人類学上、人間が安定的な社会関係を維持できる人数の上限は150人とされています。当時の私は、この規模で働くことがとても好きだったことや、大規模な監査法人では全員を知ることは難しく、関係が希薄になってしまうとも考え、太陽監査法人を選びました。現在の太陽は当時と比べて規模が大きく成長していますが、成長と安定的な人間関係の維持をうまくバランスをとっていると思います。

――太陽監査法人に転職された後、協会の奨学金制度を利用してイギリスの大学院に留学されたと伺っています。そのきっかけを教えてください。

きっかけは、2011年3月に起きた東日本大震災です。当時、パートナー研修の日が重なったため、オフィスにはパートナー不在でシニアマネージャーの私が1番の上席者という状況でした。大きな地震だったため、オフィスの書類が散乱するような状況でしたが、オフィスにいる人、クライアント先にいる人、すべての人の無事を確認し、家に帰らせてあげる必要がありました。そんな折に、ふと「従業員の誰かの身に何かあったら一番上の私の責任なのではないか」と考えた瞬間、何とも言えない恐怖を感じたんです。

実際には、パートナーがすぐにオフィスに戻ってきたため、この恐怖を感じていた時間は1時間ほどでした。たった1時間とはいえ、「この場合、何をしなければいけないのか」の答えがパッと浮かばず、リーダーシップの取り方について、自分が無知だったということに気が付きました。

そこから、”何か起こったら、私が責任を取り、リーダーシップを示さなければならない”と思うようになり、リーダーシップについてもっと深く学びたい意欲が湧いたため、リーダーシップと戦略を学べる大学院を探しました。元々英語も勉強したいという思いもあり、最終的に海外の大学院を選びました。

――海外の大学院への進学となると、語学のこともあり、それなりに苦労されることが想像に難くないですが、それらの乗り越え方について教えてください。

 以前から英語の勉強はしていましたが、正直、当初の英語レベルはクラスで最低でしたね(笑)。53人が在籍するクラスで、各々の出身国をトータルすると23カ国にもなる非常にインターナショナルな環境だったため、英語が母国語でない人も半分以上いました。

そのような状況で、バックグラウンドや言語が異なる人たちと、どうやって上手くやっていけるかと考えた結果、得意なものは貢献し、できないものは教えてもらうというスタンスにひたすら徹することにしました。例えば、会計やファイナンスといった数字を扱う教科はクラスの皆に積極的に教え、逆にネゴシエーションなど、言葉のニュアンスやコンテキストが重要な教科については、助けてもらいながら勉強していましたね。

――得意なことで貢献するという発想の転換が良いですね。その後2年間勉強されて、そのまま日本に帰らずにUKのグラントソントンに行かれましたが、そのきっかけを教えてください。

実はもともと留学するよりも以前に、海外で働きたいと考えていました。大学院が終わった後にグラントソントンUKで働きたかったため、留学前にそういった気持ちを会社に伝えておく必要があったのですが、工夫して上手く伝えようと考えました。

まず、自分をグラントソントンUKに送ることの利点を伝えました。「既にイギリスにいるため、トランジションの時間や労力が不要で、Day 1から働くことができる」、「一人で駐在するのでコストが少なく済む」といった内容のメールを、日本にいるパートナーに直々に送りました。そして、駐在は前任者のタイミングによって左右されるため、前任のUK駐在の方に私が卒業するまで待ってもらうよう会社と含めて調整をしました。前任の方にはこのわがままを受け入れてくれて、感謝しかないです。

―― とても計画的ですね!

根底の質問になってしまいますが、海外への憧れを持ったきっかけを教えてください。

子供の頃から何事にも好奇心が強く、何か新しいことに挑戦したいという気持ちが、海外で働くという憧れに繋がったのだと思います。イギリスに関しては、イギリス文学やハリーポッターが好きで、小さい頃からイギリスで働いてみたいという漠然とした憧れがありました。実際にイギリスに住むことができて、本当に最高の気分でしたね(笑)。

――文化に触れて、興味を持つのは素晴らしいことですね。UKで働いた後、日本を挟んで再度シンガポール駐在となった経緯やきっかけを教えてください。

イギリスから帰国後、どこで自分のバリューが発揮できるかと改めて考えていた際に、たまたまシンガポール駐在の機会を頂いたことがきっかけです。海外では国々の考え方や事情を把握し、国際業務を円滑にする調整役をしていましたが、自分の特性を考えた時に、そのような業務が好きなのかなと感じていました。

また、単なる好奇心もありますが、ヨーロッパに住んだ後に、今度はアジアを見てみたいという気持ちもありました。

―― 調整役が渡邉さん自身にあっているとのことでしたが、日本人とイギリス人の橋渡しをする上で必要だと思うスキルを教えてください。

 日本人がコミュニケーションで困る場合というのは、なぜその行動を取りたいのか、また相手がなぜその主張をしているのかを理解しようとせせずに、自分のやりたいことだけを伝えてしまっているケースが多いです。正しい英語で伝えることに気を取られすぎているのかもしれません。交渉時は、双方とも何らかの意図をもって主張しているわけですが、まず、相手の意図を理解してから自分の主張をする方が上手くいきます。だから、調整役をする際には、相手の背景を深く掘り下げることを意識的にしています。

――その国の文化や思考回路を理解し、日本人のコミュニケーションスタイルに適応させることが、橋渡し的な役割で確かに重要だと感じました。4年間海外で住んでビジネスをされた経験が、その点での強みになっているのではないでしょうか。

そうですね。例えば 英語でメールを書く際にも注意が必要で、論理的なフローを意識することが大切です。特に相手の理解の流れにあわせて「結論→理由」の順序で書かないと、コミュニケーションがかみ合わないことがあるため、今でもそれに気をつけています。

また、注意しなければいけないのは英語の丁寧な表現です。日本からのメールがカジュアルすぎて驚いてしまうことが時折あるのですが、「英語にも敬語や丁寧な表現がある」ということは知っておいた方が良いです。カジュアルすぎる表現は時に無礼ととらえられかねないというリスクがあります。

イギリスなどのネイティブの方とのコミュニケーションでは、特に丁寧な表現を意識する必要がありますが、私が今いるシンガポールでは、英語をツールとして割り切って使っているため、その点、文法や表現を必要以上に強く意識する必要はないですね。

――国によってコミュニケーションのスタイルが異なるのは面白いところですね。

――イギリスの次は、シンガポールの駐在について聞かせてください。まずは、仕事のやりがいを教えてください。

シンガポールでのサービスラインを自力で拡大していく、という点にやりがいを持っています。 GTではこれまでマレーシアからシンガポールをカバーしていたため、私が初めて常駐のジャパンデスクとしての担当となりました。シンガポールは古くから日系企業が多く進出している地域で、GTはその中では後発組です。そのため、当時はGTシンガポール自体も、日系マーケットにおいてはそれほど大きなパイを持っていない状況でした。

しかし、マーケットにはまだまだ入っていける余地があると感じています。その機会を丁寧に拾い上げながら、GTの存在感を市場やコミュニティの中で高めていくことが、現在の私の目標になっています。

――丁寧に拾い上げている機会の内容について具体的に教えてください。

お客様と様々なコミュニティでお話をする中で、「BIG4ほど大きくないが、品質に信頼が置ける会計事務所はないか?」という話をよく耳にします。これまでシンガポールでは、この観点での会計事務所の選択肢に限りがありましたが、GTがそこに新たな選択肢を提供できると考えています。

――大企業が多く進出しているイメージがあるシンガポールですが、中規模の企業も進出しているのでしょうか。

そうですね。大企業だけでなく小規模な企業も多いですよ。実は、シンガポールには約3万人の日本人がいて、日本人が起業した会社も結構な数存在しています。私たちGTがターゲットにしているのは、ある程度の規模を持つ会社です。

このターゲット層には2種類あって、①シンガポールで一定の規模を持つ会社、②日本では大きなビジネスをしているがシンガポールでは相対的に小規模な規模の会社です。「シンガポールのBIG4ではなくても良いが、国際会計事務所にお願いしたい」と考えている層が一定数存在するため、このような会社をターゲットにサービス提供していく方針です。この意味では、太陽のブランドも使って日系企業にアプローチできるのは大きな強みです。

――シンガポールにて現地で独立開業している会計士から、シンガポールでは10年ほど前は会計事務所が少なく、ブルーオーシャンだったと伺いました。

現在も、ESG分野に関しては、まだブルーオーシャンであると感じています。特にシンガポールでは、この潮流が日本よりも進んでいるため、この動きを日本に持ち込んだり、アジア全体で展開したりすることには大きなチャンスがあると考えています。

―― シンガポール駐在中に特に困ったことや、イギリスと比較して困った経験を教えてください。

実は、シンガポールで特有の困難を感じたことがこの1年間であまりなくて、イギリスで働いていた時の方が大変だったと感じています(笑)。イギリスでは多少なりとも人種差別的な問題にも遭遇していたため、敬語の使い方に気をつけるようになりましたね。一方で、シンガポールではそのような辛さを感じることは少なく、コスモポリタンな環境の中で一人のアジア人として働くことができ、上下関係等の圧迫感なく、溶け込むことができました。

――人種差別的な問題もあったとのことでしたが、イギリスで困った経験について具体的に教えてください。

全体的には、そこまで大きい差別的な問題はありませんでしたが、正直全くないわけでもありません。それでも、そのような状況を乗り越えられたのは、若干逆説的ですが、日本でマイノリティに属する女性としてキャリアを積むという経験があったからかもしれません。

一方で、シンガポールやイギリスでのジェンダー区別は日本と比べて少なかったのが印象的です。特にシンガポールにおいては、女性の社会進出が進んでいて、ジェンダーダイバーシティの面で働きやすい環境が整っていると感じています。

――女性会計士の働き方についてのキーワードが出てきましたが、渡邉さんは会計士協会の女性会計士活動推進にも携わっていると伺いました。例えば、シンガポールで女性会計士が働く場合、どのような働き方が期待できるか教えてください。

実は、シンガポールでは、シンガポールの会計士協会に登録されている全会計士のうち、約65%が女性、35%が男性で、女性優位なんです。監査法人においても、女性の方が多いのが一般的で、パートナーレベルになるとこの比率が逆転し、男性が約6割を占めます。一般事業会社におけるCFOやファイナンスマネージャーなどの役職では、男女比は約50:50となっており、男女のバランスが取れています。

シンガポールでは、女性に優しいとか働きやすいというよりは、「女性が男性と同様に社会の動きの中心にいる」という風潮が強く、女性が働くことが社会の前提として組み込まれています。

例えば、シンガポールでは、育児のサポートのためにメイドを雇うことが通常です。コロナ禍を経て在宅勤務が定着し、多くの女性がリモートワークで働きつつ、必要な時間を家庭に使うなど、バランスをとって生活しています。

――女性の比率が日本と比較して非常に高いことに驚いたのですが、例えば政策的な優遇措置や育児に対する給付制度などがあるのでしょうか。

シンガポールでは、女性に対する給付支援制度があります。日本では専業主婦や一定期間働けない女性に対して補助があるのに対し、シンガポールでは一時的に職を離れた場合、の補助もありますが、ワーキングマザー向けの補助もあり、女性が社会復帰する際にインセンティブを設けているようです。

――社会復帰する女性に給付支援を出すことで、彼女たちの社会復帰を促しているというのは賢い方策だと思います。聞いた話だと、シンガポールの政治家は非常に優秀なトップ1%の人たちが国を運営していて、「株式会社シンガポール」と言われるほど、徹底した合理主義を貫いているようですね。

おっしゃる通り、シンガポールでは合理性がとても重視されています。社会や政府への信頼感が圧倒的に高いため、仮にこのような政治主導のやり方に多少のデメリットがあっても、それを上回るメリットがあると信じて受け入れられています。この信頼感が、シンガポールの政治や社会運営の基盤となっているのでしょうね。

――シンガポールに住みたくなりますね。シンガポール駐在に向いている人の特徴について教えてください。

正直、シンガポール駐在はほとんどの方にお勧めできると思います。シンガポールは非常に国際的で、安全面も問題ないため、海外に興味がある人にとって最初のステップにもってこいです。

ある意味でシンガポールは「駐在の入門編」とも言えますね。シンガポールでの成功体験を活かしながら、次のステップとして他の国に挑戦することも良い選択肢の一つなのではないでしょうか。今、シンガポールのジャパンデスクでインターン勤務などの経験を積んでいただいた後、他国のジャパンデスクに勤務していただくようなスキームができないか、検討しています。

――なるほど。入門編としてシンガポールが位置付けられているのは意外でした。2か国に赴任されている渡邉さんだからこそお話しできる内容ですね。

――シンガポールでの駐在経験から得られる強みを教えてください。

 一つは、シンガポールが多文化社会であることから、様々な国籍や人種の人々と接する機会が沢山あり「ダイバーシティを受け入れる心」を学ぶことができます。

もう一つは英語です。シンガポールでは、英語が単なるコミュニケーションツールとして位置づけられているため、仮に帰国子女でない方であっても安心して働くことができる珍しい環境です。英語に対する心理的なハードルを下げることができる点が良いですね。ただ、シングリッシュを聞き取れるようになるには慣れが必要かもしれません。(笑)

――マレー系、インド系、中華系が住む多様な文化環境で、さまざまな国の人々とのカルチャーの話を聞くのは面白そうです。外国人が受け入れられやすい環境であるとなると、海外勤務の入門編としてぴったりですね。

――今後、渡辺さんが挑戦したい仕事やポジション、将来の展望について教えてください。

私の直近の展望としては、まずGTシンガポールのマーケット認知度を高めることです。現在、日系ビジネスコミュニティ内でGTシンガポールの存在が十分に認知されていない部分があります。将来的には、グラントソントンがBIG4と競合する際に、必ず選択肢として挙げられるような立ち位置にGTシンガポールを持っていきたいです。

そして二つ目の展望としては、シンガポールがAPAC(アジア太平洋経済協力)のハブであることを活かし、GT全体でAPACエリア全体の協力体制を強化することです。ジャパンデスクとして、さらにはGTとして、APACエリアでの業務を円滑に進めるための体制を構築したいです。

――シンガポールでの認知度向上とAPACエリアの協力体制構築は、挑戦的で達成感のある目標ですね。駐在を希望するメンバーにとっても、非常にやりがいのある目標になるでしょう。

こういった目標はもちろん私一人で達成できるものではなく、私たちジャパンデスクとして、多くの仲間と協力して取り組みたいと考えています。このビジョンに共感し、一緒に働きたいと思う方がいれば、ぜひ参加していただきたいです。

――最後に、 グラントソントングループの若手メンバーに向けて一言お願いします。

実は私はTOEIC 470点から海外駐在を目指していて、今は海外での駐在を2か国も経験することができました。だからこそ、「できない」と決めつける必要はないと考えています。やりたいと思う気持ちがあれば、できない理由を探さずに、どうやったらできるかを考えてチャレンジしてみることです。もし海外に対する好奇心が少しでもあるならば、ぜひ挑戦してください!

―― TOEIC 470点からのスタートで、今の成功を成し遂げた渡邉さんの話は、海外に憧れる日本の方々にとって大きな勇気となりますね。ありがとうございました。

まとめ

いかがだったでしょうか。

東日本大震災をきっかけにリーダーシップと戦略を学ぶために大学院に進学し、その後イギリスGT、シンガポールGTと2か国を渡り歩いている渡邉さん。2か国駐在を体験している渡邉さんだからこそ伺うことができた非常に貴重なインタビューでした。

特に同じ英語圏でも、英語でのコミュニケーションでここまで異なるとは予想外でした。ネイティブは英語の使い方が厳しいが故に、正しい英語を学ぶことができそうですし、シンガポールのようにツールとして割り切って使うという点でも、英語初心者としては魅力的な環境です。

今後GTではシンガポール内のマーケット認知度を高め、APACエリア全体の協力体制を強化することを目指していると仰っていたため、渡邉さんの下で働くことができれば、非常にチャレンジングな業務に挑戦することができそうです。

そして「駐在の入門編」としておすすめなシンガポール。女性会計士の社会進出やワークライフバランス、多文化社会な環境も魅力的ですね。是非シンガポールに興味を持っていただけたら幸いです。

ご清覧ありがとうございました!


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