
公開日:2023/08/10
FAS業務に従事している会計士へインタビュー②
古川拳土さんの記事
こんにちは。
本日は前回に引き続きFASにてデューデリジェンス(以下「DD」)業務に従事したことのある現役会計士4名に、下記2点についてインタビューした内容を紹介できればと思いますので、最後までお読みいただければと思います。
4名の簡単なバックグラウンド
なお、再掲とはなりますが簡単にインタビューさせていただいた方のバックグラウンドを紹介しますと、下記の通りとなります。
・Aさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、同ファーム内のFAS DD部門に異動。1年7ヶ月勤務後、FASを退職。
・Bさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFAS DD部門に転職。FASでの勤務開始後約半年、現在もFASに在籍中。
・Cさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFAS DD部門に転職。FASでの勤務開始後約8ヶ月、現在もFASに在籍中。
・Dさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFAS バリュエーション&FA部門に転職。約1年後更に他ファームのFASへ転職し、DD、バリュエーション、FA業務に従事中。
それでは早速内容に入っていきます。
03. 入社して最初に苦労した部分
●Aさん
主に監査とのギャップが苦労した部分なため、その前提で記載します。
・成果物を直接クライアントに開示する点、数値を作り上げる点
作り上げた数値を開示するため、絶対に間違えてはならないというプレッシャーに苦労しました。のちに報告書の数値を訂正するようなことが発生した場合、クライアントからの信用を失いますし、社内で厳しく詰められることになるかと思います。
・クライアントから資料が中々出てこない点、質問数に制限がある点、直接クライアントとお話して質問できる機会がかなり少ない点
文書によるQA(対象会社に質問をするためのシート)がメインとなり、質問数が制限される場合もあります。限られた機会でDDに必要な情報を集めるのが本当に難しいなと感じました。
また、先方の都合で情報が意図的に開示されない場合があります。その場合、情報が開示されなかった旨を報告書に載せることになりますが、そこで終わってしまったらバリューは無いので、ありとあらゆるデータを可能な限り掘り起こし、推論を展開することになります。論理的思考力と最後まで諦めない泥臭さと体力が必要となってきます(プロ意識の無い方が行うDDならサクッと終わらすことも出来ますので、当人次第ではありますが)。
●Bさん
・忙しさの波
入社当初は案件が落ち着いていたらしく、少しアベイラブル期間がありましたが、案件が始まってからは一気に忙しくなりましたので、波の激しさを実感しました(監査法人と違って四半期や期末のタイミングで忙しくなるというよりも、案件ごとにピークが変わりますので、平日のプライベートな予定が立てづらいという感じもややあります)。
・書籍ベースでは業務のイメージが沸き辛かった点
業務面では一年目はBS科目中心になると思います。BSの項目は基本的にネットデット、運転資本、CAPEX(資本的支出)のいずれかに分類されます。特に運転資本とネットデットのいずれに分類するかは案件ごとにも取り扱いが変わったり、やや解釈の余地がありますので、書籍ベースだとイメージがわかず、苦戦しました。
●Cさん
最初はM&A関連の用語が分からず、FA(買い手のアドバイザリー。たいてい証券会社)とのMTGなどの内容も、キャッチアップするのが難しかった点です。また、監査では財務諸表の適切性を検討していましたが、財務DDでは、EBITDAや、運転資本、ネットデット、CAPEXなど、価格算定プロセスに関連する部分に着目しますので、目線を切り替えるのに少し時間がかかりました。
あとは、QAをどの程度の粒度で出すべきかも難しいです。細かすぎても分量が増えてしまい、対象会社に負担をかけ過ぎてしまいますし、粗すぎてもDDに必要な情報が入手しきれなくなってしまいます。
案件によっては、質問数が40件までなどと制限がある場合もありますので、マストで知るべき内容なのか、できれば知りたい程度の内容なのかといった判断が最初は難しいです、というかできません(笑)。
●Dさん
・ロジまわりのスピード感
ロジまわりについては、監査とDDではスピード感が違いますので、そこは大きいかと思います(1週間のうち決まったタイミングでQAを提出し、消し込みを実施して、マネジメントインタビューのことも考えながら進めるなど、監査のスケジュール感とは違うかと思います)。
・監査との分析の観点・目的の違いに慣れること
監査は数字の妥当性を検討するのが目的で、かつ、どちらかというと発生主義の観点が大事になりますが、そこに捉われすぎると、必要以上にエビデンスを徴求したり、不要な趨勢分析をしたりなど、M&Aディールで不要な作業を実施してしまう可能性があります。
DDは買収価格算定とか、その基の事業計画に及ぼすインパクトの把握が大事で、かつ、キャッシュベース(現金主義的な)の思考が大事なので、そこに慣れるのが重要かと思います。
以上、4名の方にお話を伺いましたが、入社して最初に苦労した部分としては大きく以下の内容に整理されるかと思います。
・監査と比較した際のスピード感
・監査との分析の視点の違い
・成果物の一環で数値を提供することに対する緊張感
・QAの範囲
・業務内容自体へのキャッチアップ
特に3点目については、私もバリュエーション業務に従事していて大きく感じていました。
04. 03.を乗り越えるためにどのような工夫を実施したか
●Aさん
・社内にある過去案件の報告書を沢山読み焦ることで、案件のイメージを作ること
・DD経験のある上位者に相談する、ディール中の動き方を見て盗む、とにかく沢山の案件をこなすこと
・案件後に上位者にお願いしフィードバックしてもらうこと(お願いすれば面談してくれる方が多いです。案件中は忙しすぎてOJTする余裕があまりないですが)
・寿命を前借りして働くこと
案件中はハードワークしている人が多かったです。中途半端に部分関与しても実にならないため、どうしてもこのような形になる気もします。
●Bさん
普通に過ごすとリモート環境になることが多いと思うので、出社することで、チームの方とはコミュニケーションを密に取れるようにし、適宜相談していました。
あとは気合いです(笑)。
●Cさん
分からない単語は都度ネットで検索して内容を確認していました。ネットにあまり載っていない内容については、上司に聞いて確認していました。
監査から財務DDに目線を切り替える点については、上司からも案件を通して慣れていけば大丈夫と助言をもらうことが多かったです。そのため、私も焦らず目の前の業務を丁寧に理解するように心がけています。
QAに関して、判断力はやはり案件を通して培われるものだと教わりました。そのため、私としてはなるべく細かくQAを出し、上位者のレビューを通して判断過程を学ぶようにしています(細かくQAを出す理由としては、一次情報に触れているのは私だけなので、最初は勝手な判断で重要性が少ないとしない方が安全だという理由もあります)。
●Dさん
過去のレポートでどのような観点で分析しているかをよく理解することや、レビューで受けたコメントの意味をしっかり考えることが大事になってくる気がします。
エクセルワーク自体は特に監査上がりの会計士なら問題なくできるはずなので、目的の違いや、クライアントが何を知りたいかを、担当案件を通じて少しずつ積み重ねていくことも大事かと思います。
また、特にBig4FASは DD部門とバリュエーション部門、FA部門と分かれているため、例えばバリュエーションの観点で何をDD上確認すれば良いかなど、そのような考え方を理解するのが難しいかと思います。
そのため、DDだけ極めるならひたすら案件こなせば遅かれ早かれ慣れると思いますが、M&Aアドバイザリーの観点で言えばバランスよくやった方が、案件の中でDDがどういう角度で求められるかとか、その辺りの目線が早く得られると思います(会計士ならDDの作業自体は半分くらい最初からできるようなものなので、バリュエーションとかFAをやりながらの方がDDを含む総合力は確実に早くつくと思います)。
やはりまずはチームの上司と密にコミュニケーションを取り、業務の型を習得していく作業が大事になってくるかと思います。
また、Dさんのコメントは、今後M&A関連の知識を武器にしていきたい方に取っては一つの参考になるかと思いますので、1社目にBig4 FASへ行くか、それとも独立系FASに行くかなど、キャリアの意思決定の際に思い出していただければと思います。
まとめ
以上、2回にわたりDD経験会計士の声を届けてきましたが、DD業務に興味がある方や、これからFAS DD部門に入社予定の方にとっては参考になると嬉しく思います。
最後までお読み下さりありがとうございました。
この記事を書いた人
慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。
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