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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】IPO監査の現状と未来の在り方

ファシリテーター

潮田 一成(株式会社シンコペーション 代表取締役)

 

スピーカー

齊藤 直人(EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター/センター長)

坂井 知倫(有限責任 あずさ監査法人 常務執行理事/企業成長支援本部長 パートナー)

鈴木 真一郎(ESネクスト有限責任監査法人 理事長 パートナー)

只隈 洋一(有限責任監査法人トーマツ パートナー IPO監査事業部長)

 

幕開け──“業界の生き字引”が集う熱気

土曜日の午後、会場に集った参加者たちは、どこか期待と緊張が入り混じった様子でした。

まず潮田氏が「IPOの現場を知り尽くした大物揃い」とパネリストを紹介しつつ、証券取引所に長く務めた自身のキャリアにも軽く触れます。「IPOの上場審査はブラックボックスと呼ばれることが多いですが、実態を知ってほしい」と、今回のセッションへの思いを語ります。

登壇者それぞれが専門キャリアを端的に紹介する中で、「ここまでIPO監査だけに情熱をそそいできた集団は、日本にしかないかもしれない」――そんな空気が会場全体を包みました。

 

監査のキャリアとIPO最前線のリアル

齊藤氏は、学生時代に公認会計士試験に合格し、新卒から一貫して監査業務に携わってきた人物。EY全体を横断してスタートアップ案件に関わる姿勢に、パネリスト陣からも一目置かれている様子です。

一方の坂井氏は、「たまたま新卒配属がIPO部門で、以来30年現場から離れたことがありません」としみじみ語ります。「リーマンショックではIPOが19社まで減りました。多い年は200社を超えたり……本当に日本のIPO環境の“浮き沈み全部”を現場で経験しました」と振り返りました。

鈴木氏は、国際部の経歴から「IPOにはワクワク感がある」と自らの原点を語りました。

2020年に創業した法人は、たった4年で200人規模まで発展。「監査難民」という社会課題の渦中を駆け抜けてきた経験から、「取引先で出会う若き社長や新事業の成長を肌で感じられることこそ、IPO監査の魅力」と熱く語ります。

只隈氏は、福岡事務所からアメリカ・中国まで世界を経験しながら、「結局IPOの沼にハマってしまった」と笑います。「東証で会社関係者が鐘を鳴らすのを見ると、つい涙腺が緩む。あの感動は何度味わっても色あせません」。

 

IPO監査ならではの面白さと難しさ

ディスカッションは「IPO監査のどこに面白さを感じ、どこが難しいのか?」というテーマへ。それぞれが熱い思いを語り合いました。

坂井氏は、「IPO企業は監査そのものが初めてという会社ばかり。会計方針の骨組みを一から作る緊張感と責任が、とにかくスリリングです」と語ります。「もし最初に方針や処理方法を間違えるとスケジュールも狂い、後戻りも大変……。だからこそ最初の一歩が面白い」と、監査人らしい“職人魂”を覗かせます。

鈴木氏は「何よりワクワク感、それがすべて!」と声を弾ませます。「大企業が徐々に成長するのを見るより、スタートアップが爆発的なスピードで伸びていくダイナミズム。新しい市場、新しい社長、未知のモデル……これこそIPOの醍醐味です」

只隈氏は、「“批判的機能”より“指導的機能”が重要。まったく過去に例のない案件が日常。航空会社や宇宙ベンチャーの会計処理を一から構築したり、時には有価証券報告書からヒントを手探りした」と、その知的な挑戦の数々を披露。「一体感と感動は、やっぱりこの仕事の喜びですね」と語ります。

齊藤氏は、この現場に集うすべての監査人が「新しい分野で悩み、学び、驚く日々」に共感を寄せつつ、「大手監査法人のスタッフがスタートアップ監査に飛び込むと、必ずカルチャーショックを受けます。そういう現場体験が、監査人として大きな成長につながるんです」と語りました。

 

スモールIPO・上場ゴール問題の本質

ディスカッションはさらに深まり、日本の市場が抱える最大の課題ともいえる「スモールIPO」「上場ゴール」問題へと移ります。

鈴木氏は「スモール=悪ではありません」と強調。「日本では中堅企業も多く上場し、安定した社会をつくってきました。でもこれは、世界的に見ればむしろ異例なんです。スモールIPOは、日本市場の厚みと多様性を生み出す力になっています」と語りました。

只隈氏は、「上場の基準を厳しくするよりも、成長を促すためにどう支援するか、組織や経営チームをどう強化するかが大切」と提案します。

「経営者のビジョンと実行力、その両方が不可欠。上場前と後で必要となる人材も異なってきます」と、組織のダイナミズムを強調しました。

一方、坂井氏は「本当はもっと“オールジャパン”でグローバルに挑む企業が増えてほしい」と率直に語ります。

「似たビジネスをする会社が早々に上場してしまい、結果としてグローバルで戦える規模にまとまらない。この状況も変えていきたい」と述べました。

 

成長のためのM&A・会計ファイナンス人材像の進化

成長を遂げるためのM&Aが、新たな課題として浮かび上がります。「連続成長といえばM&A。のれん償却、IFRS、バリエーション……。監査側にも、知識だけでなく“適切な助言や構築力”が求められる」と只隈氏が語れば、齊藤氏も「監査法人がルールに従うだけでなく、積極的にルールメイキングや政策提言にも乗り出すときが来ている」と、気合を込めます。

只隈氏は「いまや“ノウハウ”=知っているだけでは足りない。“ノウフー”(know who=人脈やチームの連携)こそ価値になる」と述べ、坂井氏も「優秀な“個人”より“いい人”――協調性やコミュニケーション力を備えた組織の一員が求められる」と共感を示しました。

鈴木氏は、CFOにも今や“PM(プロジェクトマネジメント)力”が必須となり、複雑なM&A案件をまとめ上げる力が求められる時代だと補足。「会計人にも、やはり“人間性が大事”です」と強調しました。

 

会計基準の最前線〜“のれん償却”はどうあるべきか

大きな転換点を迎えているのが、会計基準の方針です。鈴木氏は「日本は保守的にのれん償却や減損を重視してきたが、グローバル市場ではそうではない。今こそ楽観的な未来を信じ、基準や業界も変わっていく時だ」と強いメッセージを投げかけます。

齊藤氏も「スタートアップのみに“のれん非償却”を導入するなど、国も本気で検討を始めた。会計士や監査法人といったプレイヤーが発信力を持たなければ」と訴えます。

会計基準という“ルール”自体が変化の渦中にある今、その最前線で試される監査人の責任と、勇気ある発信の必要性が、熱意とともに伝わってきました。

 

不正会計への監査のリアル

潮田氏からのラストテーマは「会計不正」に関するものでした。「昔ほど“あからさまな不正”は減ったが、収益認識基準による“ご都合主義的な解釈”は依然として多い」と坂井氏。

齊藤氏は「現行基準にしっかり対応できる会計士が現場にいれば、かなりの抑止力になる」と強調し、「地道な監査と人材育成が、やはり一番の防波堤」とのメッセージも心強く響きます。

只隈氏は「ビジネスにルールを当てはめる難しさはますます大きくなっている」と述べ、新しいビジネスモデルと既存ルールとの間の溝が広がっていることに現場の視点から警鐘を鳴らしました。

鈴木氏は「若い経営者ほど誠実。時代は一歩ずつ確実に良い方向へ進んでいる」と前向きに語りました。

 

“わくわく”する挑戦が、日本の未来を照らす

「IPO監査は、時代を映す鏡です」。司会の潮田氏が最後に発したこの言葉が、今日のセッションのすべてを物語っていました。

スタートアップ、ベンチャー、ディープテック──すごいスピードで変化し、時に“答えのない問い”に挑み続ける現場。その先頭には、使命感を胸にした監査人たちがいます。

監査の根幹となる会計知識はもちろん大切です。しかし、今日浮かび上がったのは、その“上に積み上げるべきもの”がいかに多様で豊かであるべきかという現実でした。

新事業モデルと格闘する柔軟な頭脳、経営者に伴走するヒューマンスキル、加速するM&Aやグローバル案件に果敢に挑む総合的な力量――そして、「日本の未来を本気で良くしたい」という熱い想い。

「IPO監査の仕事は、時代の最前線を生き抜きたい人、変化にワクワクできる人にこそふさわしい」――本セッションは、そんな勇気とヒントをもたらしてくれるものでした。

 

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