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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】M&A業務の最前線と未来の可能性

ファシリテーター

中園 隼人(CPAキャリアサポート株式会社 代表取締役)

 

スピーカー

岩橋 宏幸(ユニヴィスグループ 大阪支社長/名古屋支社長)

作田 隆吉(オーナーズ株式会社 代表取締役)

吉田 和樹(株式会社ACROVE 執行役員)

清信 妙華(日本M&Aセンター コンサルタント)

 

多彩なフロントラインたちの自己紹介――「人生の岐路」と「現場主義」のリアリティ

広いホールを埋め尽くす熱気のなか、ファシリテーターの中園氏が開口一番、「2024年、M&Aマーケットは4700件超。その取引総額は19.6兆円。これだけ巨大な市場でありながら、まだまだ拡大の余地を感じます」と語りかけます。

本セッション「M&A業務の最前線と未来の可能性」には、多様なフィールドでM&Aに挑むプロフェッショナルたちが集結。その“現場の声”に触れようと、参加者の期待も高まっていました。

まず、ユニヴィスグループで大阪・名古屋エリアを率いる岩橋氏が静かに語り始めます。「ユニヴィスでは、PEファンドや事業会社のM&Aを一貫してサポートしています。私は特に、投資先のPMI=買収後統合に現場密着で携わることが多い。規模の大きな企業であっても、会計体制が未整備なケースが意外と多く、“会計士の勘所”が求められる場面が増えています」。

デロイト出身で、現在はオーナー経営者専門のFAとして独立している作田氏は、「大手バイサイドから、中小オーナーの“人生最期の事業承継”に寄り添う立場へキャリアをシフトしました。M&Aはその方の人生を変える一大イベント。売却後の資産運用まで、本気で伴走しています」と力を込めて語ります。

吉田氏は、28歳にしてスタートアップACROVEでM&Aの現場に飛び込んだ挑戦者。「この2年半で16件のM&Aを手がけました。“ECロールアップ”という、地方の卸売や中小ブランドを買収・成長させる手法です。財務も人間関係も、まさにぶつかり合いながら、一歩ずつ経験値を積み上げてきました」。

日本M&Aセンターで仲介のフロントに立つ清信氏は、「私は“売り手”“買い手”両方の想いを汲み取る仲介役です。数字のスキルに加え、“目の前の人”に誠実に向き合う力が求められる現場です」と語り、その言葉にはやさしさと説得力がにじんでいました。

自己紹介の段階から、登壇者たちの持つ“現場の熱”が、会場全体にじわりと広がっていきました。

 

「現場は泥臭い」――企業価値をどう高めていくか

「リアルな現場には、どんな景色があるのでしょうか?」と中園氏が問いかけると、岩橋氏が具体的に応じます。「海外工場では原価計算がそもそも整っていない…。数字をゼロから描いていく。こうした地味だけど価値のある地道な取り組みこそ、会計士ならではの仕事。私たちは現場に常駐し、一緒に会社を変えていくことで実感を得ています」。

作田氏は、「事業売却後のオーナーには、金融機関や証券会社などから多くの営業が押し寄せます。しかし本当に必要なのは、その人の“人生”を正面から考えたプロとしての提案。商品を売るのではなく、中立的な立場から再現性のある資産形成を一緒に考えています」と、オーナー支援の哲学を語ります。

吉田氏は、「地方の従業員15人規模など、“第三者承継”で悩む会社さんと直接向き合い、現場の感覚で決算書の信ぴょう性すら自分の目で確かめる。利益ゼロの小さなM&Aから段階的に登ってきて、今があります」と、汗と熱量のこもった言葉で語りかけます。

清信氏は、「仲介では“売り手担当”と“買い手担当”を社内で分けるスタイル。上場監査とは全く異なり、日々想定外の人間ドラマが巻き起こる。会計士スキルだけでなく、“現場で人と本気で対峙する力”を毎日問われています」と、仕事の本質を静かに語ります。

 

失敗から学ぶ現場のリアル――「痛み」と「違和感」と「直感」

「順風満帆にいかないことも多いですよね?」そんな中園氏の問いかけに、登壇者たちの表情が引き締まります。

清信氏は「売却決定間際に心変わりするオーナーや、キーマンとなる部長が土壇場で大反発してくるなど、日々“人間ドラマ”と向き合っています」。作田氏も「より良い交渉のために厳しく背中を押すこともある。コミュニケーション力はテクニカルスキル以上に大事です」と続けます。

吉田氏は、「“安くて魅力的な案件”には必ず理由がある。プラスだったはずの純資産が実は債務超過だったり、直感や現場で得た“違和感”こそが信用できる。DD(デューデリジェンス)にも限界があるなかで、現場の目線が最後の砦です」と、赤裸々なエピソードを披露します。

一方、作田氏は「中小企業のオーナーは、一生に一度の選択にもかかわらず、契約条項や情報開示の重要性を認識していないことが多い。だからこそ我々FAが中長期の啓蒙を担う必要があります」と語ります。

岩橋氏は、自身がかつて支援した企業が悪質な買い手によって破綻したという胸の痛む経験を明かし、「M&Aには巨額が動くからこそ、支援者が“サービス業の原点”を忘れてはならない」と言葉を選びながら伝えました。

 

地方・中小企業に“M&Aカルチャー”を根付かせるには

「関西の地方では、M&Aへの不安や警戒心がいまだ根強い」と岩橋氏。「経営者の高齢化とともに壁が崩れ始めてはいるが、地域特有の課題も多い」。作田氏は「地方は秘密保持や警戒心が強いが、“まず悩みに耳を傾け、信頼を得る”ことを重視しています。ディール成立を目的とするのではなく、まずは人生相談のように語り合うこともあります」と現場の流儀を語ります。

近年は、買い手・投資家側にも変化が見られます。作田氏は「ファンド売却が日常化し、新しいビジネスモデルの上場やスタートアップによる連続的M&Aも増えている。見せかけのシナジーではなく、本当に“価値ある統合”が求められる時代」と端的に語ります。

吉田氏は、「流行りのロールアップ戦略でも失敗例が多く、PL・BSまで多面的な対応力が不可欠。今後は資本コストへの厳しい目も不可避となり、幻想に踊れば淘汰されてしまう。だからこそ“本質的な競争力”を磨かなければ通用しなくなる」と呼びかけました。

 

未来のM&A――「現場主義」が日本経済を強くする

「これからのM&A、市場や専門人材はどうなっていくのでしょう? 個人はどう関わるべきでしょうか」。中園氏の鋭い問いに、登壇者それぞれが真摯に答えを紡いでいきます。

最初に挙手した作田氏は、「M&Aは単なる“スキーム”の一つではなく、日本経済構造変革の推進力です。中小企業をより大きな事業体へ緩やかに集約し、生産性を高めることで、人口減少下でも社会全体の豊かさを築いていく。現場M&Aの積み重ねこそが未来を拓く鍵だと思います」と語ります。

吉田氏は、より実務家目線で「M&Aはあらゆる企業にとって経営戦略上のインフラになるでしょう。会計士資格だけでは不十分で、現場で失敗し、直感や勘所を養って初めて一人前になれます。多くの経験を積んで、すぐにこの業界に飛び込んでほしい」とエールを贈りました。

清信氏はAI時代における専門家の価値を指摘し、「会計知識に加えて、人と人が向き合う“現場の力・人間味”が今後決定的な差になります。中堅・中小M&Aは特に、プロフェッショナルの人間力がクオリティを決める現場です」と優しく語ります。

岩橋氏は、「会計ファイナンス人材は、着実な現場主義の中でこそ真価を発揮します。“未経験でも大丈夫”と伝えたい。汗水たらしてコミットすれば、必ず一人前になれる。興味があるなら、いつでも扉は開いています」と、仲間を募るように締めくくりました。

 

セッションを終えて

このセッションは、“ノウハウ”や“成功談”を伝えるだけにとどまらず、登壇者各氏が失敗や痛み、現場での葛藤まで語ったことで、会場には密度の濃いリアリティが残されました。

「生き様としてM&Aに向き合う」——この一言にこそ、専門家たちの根底に流れる現場主義が集約されています。

知識やAIの時代であっても、「目の前の経営者や従業員、社会全体を本気でよくしたい」という現場への本気度だけは、どんな時代にも色褪せない——それがこの対話の結論でした。

本記事を読まれた皆さまにも、「自分も飛び込んでみたい」「中小企業や地域社会の未来を、自分の力でつくりたい」といった勇気とワクワクがじわっと広がることを願っています。本気で向き合えば、未来はきっと変えられる。M&A最前線には、まさに無限の可能性が広がっているのです。

 

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