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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】プロフェッショナルファームのやりがいと可能性

ファシリテーター

俣野 和仁(税理士法人BlueWorksTax代表社員)

 

スピーカー

内山 隆太郎(東京共同会計事務所代表パートナー)

仙石 実(南青山税理士法人代表社員)

廣渡 嘉秀(株式会社AGSコンサルティング代表取締役社長)

前川 研吾(RSM汐留パートナーズ株式会社代表取締役社長CEO)

 

登壇者の自己紹介と、それぞれの“原点”

内山氏は、自身のキャリアを振り返りながらこう語ります。

「大学時代に、当時の2次試験に合格して、今のPwC Japan有限責任監査法人の前身である中央会計事務所に入りました。その後、グループ会社の国際税務事務所に移り、28歳で独立しました。」

早くから専門性を磨きつつ、国際的な志向も持ち合わせたキャリア。その背景には、「英語で仕事がしたい」と思ったことから国際税務部門に進んだという素直な動機がありました。

「独立は、ほんのちょっとしたきっかけだったんです。まさかここまで長く会計士をやっているとは、自分でも思いませんでした」と語る内山氏の姿からは、肩ひじを張らずに仕事と向き合う、職人気質なスタンスがにじみ出ていました。

 

仙石氏は、自身のキャリアの転機をこう語ります。

「2011年、東日本大震災の年に監査法人トーマツを辞め、トーマツの先輩が運営する事務所で修行を積んだ後、2013年に南青山税理士法人と南青山Fas株式会社を創業しました。今で12年目です。会社側に立って、一緒に成長を実感できる会計事務所をつくりたかった」と語るその言葉からは、従来の監査法人とは異なる視点や価値観を大切にしてきた姿勢がうかがえます。

近年は、ITやAIといった新たな領域にも積極的に挑戦。「ストックオプションクラウド」や「エンゲージメントストック」といった仕組みを活用し、社員のエンゲージメント向上やAI活用といった最前線のトレンドにも果敢に切り込んでいる姿が印象的でした。

 

廣渡氏は、自身のキャリアを振り返りながらこう語ります。

「KPMGセンチュリーで4年間勤めたあと、独立志向は持っていましたが、AGSグループに参画する道を選びました。グループをもっと大きくしたいという思いがあったんです。Big4ではないけれど、バランスの良い独立系ファームをつくりたい。その“王道”を今、自分たちは歩んでいると思っています」と語る言葉には、確かな誇りと手応えがにじみます。

そして、「会計人材のキャリアには本当に多様な選択肢がある。でも、スタンダードに“総合版の会計コンサル”って実はすごく面白いんです」と、熱のこもったメッセージを参加者に届けてくれました。

 

前川氏は、「会計士試験に合格後、EYのIPO部門で経験を積み、2008年、27歳で独立しました」と、キャリアのスタートを振り返ります。

当初は国内中心の業務を手がけていたものの、「先輩方がすでに活躍している分野とは違う道を」と考え、目を向けたのが“国際業務”。そこから進路を大きく転換したエピソードも披露されました。

今では「RSMインターナショナル日本メンバーファーム代表」として、グローバルな展開をけん引。挑戦と成長を積み重ねてきた軌跡が、その言葉の端々から伝わってきました。

 

それぞれの専門・強みが“組織化”の原動力

俣野氏の「皆様が今のビジネスモデルや専門領域へ注力するに至った背景と、組織化成功の秘訣を教えてください」という問いに対し、登壇者たちは自らの強みや差別化戦略について、具体的かつリアルに語っていきました。

まず、SPC管理というニッチで勝負した内山氏は、「我々は総合型ではなく、かなり偏った仕事——SPC管理に特化しています」と明言。1993年の独立当時、ちょうど金融の自由化が進む中、SPC(特別目的会社)を活用した新たな仕組みが次々と生まれはじめた“金融ビッグバン”が追い風だったと振り返ります。「前職で金融系の国際税務に携わっており、その延長線上でSPCにたどり着いた。偶然と必然が重なった結果」と語る姿からは、戦略的な柔軟さと時代を読む力が感じられました。

組織化については、「コンサルティングは一人ひとりの才覚と職業研鑽が大事だが、組織としては“畑”となる分野が必要。我々にとってそれがSPCだった」と明かし、サービスを仕組み化しながら拡大してきた歩みを語ります。「人数が増えると緊張感は薄れがちですが、専門分野への集中と誇りが品質を保つ鍵になっています」と、組織の熱量維持への工夫も共有しました。

続いて、“個性の集積”で組織化を進める仙石氏は、「創業時は10万円の家賃で小さな事務所を構え、3ヶ月で引っ越し、1年で年商1億に」と、ベンチャー的な急成長を披露。その一方で、「とにかく来た仕事は全部やる」「最初は人間関係で組織を広げていった」と語り、泥臭さと行動力がにじむスタイルが印象的でした。「既に大手金融機関とつながっている諸先輩方に対し、新事務所が生き残るには“自分たちにしかできない付加価値”を探すしかなかった」と戦略を明言。「内山先生のように仕組み化というより、個性を生かして“適材適所”で組織化している」と、多様性と柔軟性を重視する姿勢を語りました。

そして、“総合病院”のような理想郷を目指す廣渡氏は、「私どもの業界には、まだまだ組織化の余地があります。750名ではまだ足りない。1000、2000名規模の“世のためになる会計事務所”が必要だ」と力強く語ります。「私たちは、ホスピタリティのある“総合病院”のようなファームを目指しています。監査法人は“大学病院”で頭の良さはあるけれど、サービス精神がない。私たちは、明るくて誰もが安心できる会計の“かかりつけ医”のような存在になりたい」と語った比喩には、会場からも多くの共感が寄せられました。「組織化は“楽しいもの”。みんなが役割や個性を発揮し合って、明るい未来をつくりたい」と語る姿は、前向きなエネルギーに満ちていました。

最後に、ピボットを重ねてきた前川氏は、「2008年の独立直後にリーマンショックでIPOコンサルの道が閉ざされ、税理士業に活路を見出しました。その後、社労士や行政書士とチームを組んだり、ウェブサイトを英語化したことが思わぬ収益につながったり…と、“ピボット”の連続でした」と、キャリアの変遷をリアルに語ります。

「最初からこの道を描いていたわけではない。常に修正しながら進んできました」と正直に語り、「組織化はずっときつい」と笑いながら話す姿に、会場からは共感と笑いが広がりました。

 

“ハードシングス”――人をめぐる苦しみと、それを超えて

俣野氏の「組織拡大の上でぶつかった最大の困難、どう乗り越えてきたか?」という問いに、会場の空気が一瞬ピリリと引き締まりました。誰もが避けては通れない、「人」と向き合う経営のリアルな一面に、参加者の耳が自然と傾いていきます。

まず語ったのは、前川氏。「200人規模の組織をつくるために、これまで延べ500人近く採用し、そのうち300人は退職していった」と明かし、「採用しても離職が続くと、本当に辛い。仲間だった人がいなくなるのが、一番堪えるんです」と率直な本音を語ります。

さらに、「廣渡さんや内山先生は、それをどう乗り越えたのか?」と逆質問を投げかける場面も。会場の空気はぐっと親密さを増し、“人の問題”という重たいテーマに、登壇者たちが誠実に向き合っている姿勢が伝わります。

廣渡氏は、静かにこう語ります。「正直、“乗り越えた”と言えるかどうかはわからない。でも、前を向くしかないんです。昔のAGSと今のAGSは違うよね、と言われると正直辛い。でも、スタートアップのお客さんたちが、もっと過酷な状況でも前向きに頑張っている。それを見ると、こんなことでめげてちゃいけないなと、自分を鼓舞されるんです」

そしてふと、「AGSの“同窓会”をやりたいんですよ。卒業生をまた迎え入れられるような、あったかい場所にしたい。みんなが集まれば、もっといい事務所がつくれる」と語り、会場にはあたたかい笑いと共感が広がりました。

内山氏は、「経営者は孤独です」と、ぽつりと語り始めます。「人が増え、自分が年を重ねるにつれ、だんだん誰にも相手にされなくなったように感じた。35歳から40歳くらいまでは、なんとなく寂しくて、苦しかった」と振り返ります。

しかし、「40を過ぎて、“こんなもんかな”とふっと諦めがついた瞬間があって、それ以来すごく楽になったんです」と、年月がくれた静かな癒しを語りました。

 

やりがい――プロフェッショナルファームにしかない喜び

「プロフェッショナルファームならではのやりがいは?」という俣野氏の問いに、登壇者たちの言葉にいっそう熱がこもります。

最初に口を開いた内山氏は、「個人としてのやりがいは“職業研鑽・技術研鑽”に尽きます」と力を込めます。

「専門性を深めることでクライアントの課題解決に貢献でき、“ありがとう”と言われる喜びは何にも代えがたい」と語り、さらに「会計・税務の持つポテンシャルに、もっと気づいてほしい。これは、頭のゲームとしても面白く、社会に大きな価値を生み出せる分野なんです」と、“職人魂”と“社会貢献”の両立に誇りを示しました。

仙石氏は、「自分が日本にいなくても売れるビジネス、AI時代に適応した新たなモデルを開発することが、今の私のミッションです」と語り、「会計・税務の知識をバックボーンに、新しい価値を創り出し、生産性の向上や社会課題の解決に貢献することができる」と述べ、組織として仲間とともに大きなテーマに挑む意義を伝えました。

廣渡氏は、「“プロフェッショナルファーム”とひとことで言っても、ローファームや戦略系ファームなど、全分野で強さが求められる時代」と切り出し、「日本のアカウンティングファームの存在感は、これからもっと高まるはず。大手でもまだ十分とは言えない。新たな代表格となるファームが必要で、その可能性は無限にある」と語り、未来への期待と野心をにじませました。

前川氏は、「監査法人時代、自分の仕事が“ありがとう”に直結しないことに違和感を感じていました」と振り返ります。「プロフェッショナルファームでは、自分自身が“商品”となり、目の前の相手に直接感謝され、それが報酬にもつながる。それこそが最大のやりがい」と、自己実現と手応えの大きさを語りました。

さらに、「1人でできることの限界を感じ、仲間の力を得て組織化したことで、より大きな喜びや自己実現が見えてきた」と、組織の力による新たなステージへの手応えも言葉にしました。

 

まだまだ広がる、未来への可能性

「今後のプロフェッショナルファームの可能性や、自社ファームの展望は?」という俣野氏の問いかけに、登壇者たちは未来へのビジョンと大胆な構想を語りはじめ、会場のボルテージも再び高まっていきます。

前川氏は、「RSMインターナショナルは世界6位の規模を誇るが、日本においてはまだまだ伸びしろがある」と語り、「アメリカと比べて、日本のRSMは人数も規模もこれから。だからこそ本気で1000人規模を目指したい」と明快に展望を提示。さらに、「現在はAPACの常任理事も務めており、グローバルの舞台で日本の存在感を高めていく挑戦も続けている」と、国際的な視座からの成長イメージを語りました。

廣渡氏は、「31年前、事業の軸は3つだけだったが、今では90近くに増えた。これを1000まで伸ばすポテンシャルがある」と自信をのぞかせます。「確かにAIに奪われる業務もあるが、それ以上に“尖ったプロ人材”が、規模と専門性をかけ合わせて勝てる時代が来る」と強調。「我々は“ブラックジャック”のような専門家集団を、組織として作りたい」と語り、自らを“総合病院の事務長”と称するユニークな比喩で、「会計コンサルには、まだまだ面白くて多様なポジションがたくさんある!」と爽快に締めくくりました。

仙石氏は、「COOにシンガポールのAI企業CEOを招き入れ、会計×AIの領域へ本格的に舵を切っている」と話し、「自社のノウハウや専門性をAIで再構築し、未来型のサービスと組織を作っていきたい」と語ります。個性豊かなチームで、これからも果敢に先端領域に挑んでいくという強い意志が、言葉からにじみ出ていました。

一方で、内山氏は「規模拡大には常に二律背反がつきまとう」と慎重な姿勢を見せます。「大手化の流れの中で、どう専門性と差別化を維持していくか。AIの台頭で競争環境は間違いなく厳しくなる」と現実を見据えつつ、「それでも“選ばれる理由”がなければ生き残れない。一方で、職人的な良さも大切にしたい」と語り、静かに未来への構えを示しました。

 

セッションを終えて

この「プロフェッショナルファームのやりがいと可能性」セッションは、登壇者それぞれが、「どうやって専門性を築き、組織という形にしてきたか」「どん底や苦しみをどう乗り越えてきたか」

──そんな歩みを、生々しい実感と笑いを交えながら語ってくれた、熱量あふれる時間となりました。

特に印象的だったのは、

・苦楽を共にした仲間との別れを経ても、なお「前を向く」姿勢

・技術革新や規模拡大に応じて「ピボットし続ける柔軟性」

・どの組織も「自分たちにしかできない領域」を追い続けるという強い誇りと好奇心

・経営者としての孤独や苦しさすら、仲間や業界の未来のために「糧」や「楽しさ」へと昇華していく“強さ”

 

こうした姿から浮かび上がってきた「やりがい」の本質は、“専門家としての知識と経験を武器に、社会の課題を本気で解決し、その対価としてダイレクトに「ありがとう」と報われること”。

この業界には、人生を懸けて挑む価値が確かにある──そんな確信が、会場全体に静かに、しかし確かに広がっていきました。

さらに、AI時代の到来によって、プロフェッショナルファームの未来には、「これまでにない変化とチャンス」が広がろうとしています。

“個性を磨き、仲間とともに、まだ誰も見たことのない価値を社会に届ける時代”が、今、拓かれようとしているのです。

このセッションで何より強く感じられた学びは、「苦しさも楽しさも引き受け、時代の変化をしなやかに乗り越えるリーダーシップと情熱こそが、未来のプロフェッショナルファームを育てていく」ということ。

読者の皆さんもぜひ、“自分だけのやりがい”と“自分なりの可能性”を携えて、新しい働き方と価値創造の最前線に飛び込んでほしいと思います。

 

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