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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】素敵なお金の流れが創る最前線に迫る

ファシリテーター

渡邉 淳(公認会計士渡邉淳事務所 代表)

 

スピーカー

五十嵐 剛志(株式会社グロービス KIBOW社会投資ファンド・インベストメントプロフェッショナル)

岡本 拓也(㈱LivEQuality大家さん/認定NPO法人LivEQuality HUB 代表取締役社長/代表理事)

鎌田 恭幸(鎌倉投信株式会社 代表取締役社長)

三浦 美樹(一般社団法人 日本承継寄付協会 代表理事)

 

いま、「素敵なお金の流れ」を問う

ファシリテーターの渡邉淳氏の柔らかな口調から、セッションが穏やかに幕を開けました。

「今日は『素敵なお金の流れが創る最前線に迫る』というテーマ。ソーシャル系の話題なので、他のセッションとは少し違った雰囲気を楽しんでいただけたらと思います。普段なかなか触れることのない領域の話も多いので、ぜひ本音で聞いてください」

会場には、公認会計士や金融のプロフェッショナルたちがずらりと並び、静かな期待感とわずかな緊張が漂うなか、ゆったりと、しかし確かに熱を孕んだ時間が始まっていきました。

 

社会課題解決に向けたお金の流れ

キャリアの軸は「社会課題×ファイナンス」――五十嵐氏は、開口一番「バラバラなキャリアですよね?」と笑いを交えて自己紹介。「でも一貫して、社会課題をファイナンスで解決することを追求してきた人生でした」と語ります。

公認会計士からキャリアをスタートし、教育NPOのCFO、内閣府でのインパクト評価研究、さらにオックスフォードやハーバードへの留学を経て、現在はKIBOW社会投資ファンドでインパクト投資に邁進中。「我々の投資は、可能性を信じる投資。社会課題の解決に挑む起業家とともに、事業を創造し、社会を変革する。それが私たちの使命です」と熱を込めて語りました。

“希望”を生み出すインパクト投資の哲学――KIBOWは東日本大震災の復興支援をきっかけに誕生し、2015年から本格的に社会的インパクト投資へシフト。現在は約10億円規模で、これまでに27の案件に投資しています。

特徴的なのは、7〜10年にわたるハンズオン型の長期支援と、起業家の多様性への重視。「起業家の約3割が女性やLGBTQ、障害当事者など。日本のIPOに進む女性起業家が2%程度という現状に比べると高い数字ですが、もっと伸ばしていきたい」と力強く述べました。

インパクト投資を支える「スケーラビリティ」――「大事なのは、社会的価値と経済性が両立し、トレードオンの関係になるビジネスモデルです」社会問題に挑む起業家の想いや事業の拡張性を見極め、共に道を拓く。そのプロセスこそが最大のやりがいだと語ります。

「まさに、皆さんの経験・人脈・スキルを活かす場がここにあります」と、会場の一人ひとりに語りかけるようにメッセージを送りました。

 

アフォーダブル・ハウジング〜住まいの可能性を未来へ

コロナ禍と「尊厳としての住まい」――岡本氏は、アフォーダブル・ハウジング(低価格で快適な住まいの提供)をテーマに切り込みます。「皆さん、この分野は日本ではまだ余地が大きい。欧米では数千億円規模の投資も進んでいますが、日本では公営住宅が減り、民間賃貸も高騰。結果として住宅困窮者が増えているのが現状です」

特にコロナ禍では、「真っ先に住まいを失うのは、非正規雇用の方々やシングルマザー。日本では住所がないと、行政支援も受けられず、働くことも難しくなる。住まいは人権であり、尊厳の基盤なのです」と力を込めました。

“点と点”がつながった、個人史から社会インパクトへ――大学時代、休学して世界を旅し、バングラデシュでマイクロクレジットに出会った岡本氏。「ビジネスが社会を変えられると確信しました」帰国後はPwCで企業再生に携わったのち、「ソーシャルに全力で飛び込みました」と振り返ります。

父の急逝、地元への帰還、建設業の継承──人生の転機を経て「住まいの問題」に真正面から挑戦。地域やセクターを超えて仲間が集まり、「点が線になった」と語ります。

寄付でも投資でもない、“ペイシェントキャピタル”で挑む――岡本氏が開発したのは、年利0.1%、返済期間20年という超長期・低利の独自ファイナンスモデル。「この資金は、リターン目的ではなく“社会的インパクトへの共感”で支えられています」

結果として、「家賃滞納ゼロ、回収率100%、入居者の就業率は80%。普通なら排除されてしまう層の方々が、住まいを得ることで自立しています。お母さんが元気になると、その子どもも元気になる。これはビジネスであると同時に、次世代への希望です」と語りかけました。

 

投資の力を、“いい社会”を創るエンジンに

「投資=世の中をよくする」独立系投信の挑戦――「鎌倉投信はリーマンショック直後に立ち上げました。投資を通じて“いい社会・いい未来”をつくることが目的です」新NISAやiDeCoなど既存の資産運用のあり方に対し、「金融市場が膨らむほど、世の中は本当に良くなったのでしょうか」と問いかけます。「私たちは、“お金の流れ”がどのように社会を形づくるのか、善さの循環に資する流れをつくりたいのです」

「共感」「行動変容」をもたらす投資――運用する「結2101」は、個人・法人問わず、子どもから大人まで幅広い顧客に開かれた商品。「いい会社に対して、長期で直接応援する投資。銀行や証券を介さず、思想とともに資金を届けています」

「投資先の思いに触れたお客様が、『自分も何かできるのでは』と、寄付やボランティア、日常のギフト行動を始めた。これこそが本当の社会的インパクト。投資には資産形成を超え、人生や社会の価値を生む力があるのです」

投資に現れる「人格」と未来への信頼――「投資には驚くほど人格が現れます。誠実さや社会を見つめる視点が、いざという時の支えになる」リーマンショックや東日本大震災の直後に入金が増えた経験にふれ、「信念あるお客様がいてこそ、最大の投資リターンとなる。お金に向き合う精神性や使命感こそが、これからの時代を拓く」と締めくくりました。

 

遺贈寄付—人生100年時代の「思いやりの循環」を文化に

年間50兆円の相続。そのお金はどこへ?――三浦氏は冒頭、「年間150万人が亡くなり、50兆円もの相続資産が動いていますが、その7割以上が高齢者間で回り、相続税として公益に入るのはごくわずかです」と指摘。「老老相続、地方から都市部への資産流出、NPOや研究資金への流入不足など、さまざまな社会課題がそこに潜んでいます」と問題提起します。

なぜ“遺贈寄付”か? その可能性に賭ける――「遺贈寄付とは、亡くなった後にお金の行き先を自分の意思で決めるということ。老後の生活に不安を抱えることなく、自分らしい思いを込めて寄付ができます。金額の大小にかかわらず、誰もが参加できる新たな社会への扉なのです」

司法書士から転身した三浦氏は、財産相談の現場で見た課題に向き合いながら、遺贈寄付の事例を紹介する冊子『えんギフト』を全国で展開。寄付文化の土台づくりに力を注いでいます。

「レバレッジの効く寄付」で未来を開く――「最初の助成金では、250万円の支援で11億円以上の遺贈が生まれました。今では、2,000万円の支援が30億円超の社会的インパクトに結びつくようになっています。こうした“レバレッジの効いた寄付”こそが、社会全体を動かす鍵」だと語ります。

「寄付先を“選べる”、思いを“託せる”仕組みをつくることで、“支える側”と“想いを遺す側”がつながっていきます。誰もが人生の集大成として、“何を残せるか”を考えられる社会を目指していきたい」と、熱い思いで締めくくりました。

 

お金と幸せ、これからの時代に求められるもの

渡邉氏は、「稼いだ“額”だけでなく、それをどう使ったか、何に時間を使ったかも等しく大切にしたい」と語り、「ここに集う方々の活動には強く共感しています」と述べました。自身もエンジェル投資やソーシャル分野への取り組みを実践しており、「ただ増やすのではなく、幸せや意味のある使い道へお金をどう回せるか。バランスよく向き合っていきたい」と、価値あるお金の使い方への姿勢を共有しました。

鎌田氏も、「今や大企業も、社会的視点なしには経済活動が成り立たない時代になっています」と言及。「それに伴い、ソーシャルセクターにおけるニーズやノウハウも急速に注目を集めています。若い世代の間でもこの意義は確実に広がりつつあり、両方の流れが交錯する“変革の時”が到来しているのです」と、時代の潮流を鋭く見据えたコメントを寄せました。

 

セッションを終えて

本セッションでは、「お金」は単なる“蓄積”や“自己実現”のための道具ではなく、「どんな流れを生むか、誰と価値を創るか」によって、未来への影響が劇的に変わることが語られました。各分野の先駆者たちが、その想いを生き生きと共有する場となりました。

登壇者それぞれが「自らの原体験」や「キャリアの軸」を真摯に語り、それを基に“金融”や“会計”の枠を超え、人の可能性・誇り・思いやりが原動力となる、新時代の流れを体現していました。

「素敵なお金の流れ」は、目新しいものや一部の人の特権ではありません。私たち一人ひとりが“ほんの少しの勇気”を出せば、その流れはいつでも社会全体へと広がっていくのです。

最後に渡邉氏が残した言葉――「幸せもお金も、勝ち取るものではなく、“どう分かち合うか”。自分の人生や社会のために、どう流すかが大事です。みなさん自身の“次の一歩”を、このセッションをきっかけに考えてみてほしい」。

今この瞬間から、私たち一人ひとりの行動が、新しい“お金の流れ”を紡いでいく。登壇者と参加者が共鳴して生まれた勇気と希望こそが、このセッション最大の“成果”でした。

 

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