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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】監査制度の未来と監査法人の役割

ファシリテーター

国見 健介(CPAエクセレントパートナーズ株式会社 代表取締役)

 

スピーカー

井野 貴章(PwC Japan有限責任監査法人 会長)

片倉 正美(EY新日本有限責任監査法人 理事長)

手塚 正彦(一般財団法人会計教育研修機構 理事長)

南 成人(仰星監査法人 理事パートナー、公認会計士)

 

セッションの幕開け

ファシリテーターの国見氏が、「この業界のトップ・オブ・トップの皆さんです」と登壇者を紹介し、まずは穏やかな自己紹介からセッションがスタート。

EYのコーポレートカラーである“黄色”を身にまとって登場した片倉氏は、「今日は国際女性デーということで、ミモザの花にちなんだコーディネートです」と話し、一気に会場があたたかい雰囲気に包まれます。

さらに、登壇者の多くが同期や旧知の仲ということで、「実は僕も同期でして…」と南氏が笑いを交えて語る場面も。リラックスしたムードが会場に広がる中、自然と“監査”というテーマに対する真剣なまなざしが立ち上っていきました。

 

監査・会計士の「やりがい」~数字を超えた人間味

「会計士・監査という職業のやりがいって、どこにあるんでしょうか?」

国見氏の問いかけに対し、井野氏はまず「数字は一見わかりやすいけれど、見方次第でその意味が変わってしまう」と語ります。だからこそ、「会計士には“数字にロイヤルであること”が求められる」と力を込めました。「数字の持つわかりやすさは、多くの人の手を介して社会を動かす力になる。会計士という仕事は、本当に影響力があり、やりがいのある職業なんです」と、職業への誇りをにじませました。バブル崩壊や経営再編といった日本経済の大きな節目を現場で見届けてきた井野氏は、「どん底からはい上がろうとする人たちの姿を、会計監査を通して見てこれたことは、自分にとって大きな財産」と振り返りました。

片倉氏は「明と暗」という対比を用いながら、IPOの瞬間に立ち会うときのワクワク感を熱を込めて語ります。「本当に“会社は生き物”なんです。仲間が増え、組織が成長し、変化していく。その“生きた瞬間”に、会計士や監査人として関われるのが何よりの喜び」と語り、監査の現場が持つドラマ性を伝えました。

会場でも、参加者が深く頷きながら聞き入っており、「監査は資本市場の基盤を支える存在」「会社をより良くするためのお手伝い」という価値観が、会場全体に静かに広がっていきました。

 

信頼を生むプロフェッショナル~社会的使命と“誇り”

手塚氏は、自身が病気をきっかけに会計士を目指したという意外なエピソードを交えながら、「会計士の最大の価値は、“信頼をつくり出すこと”にある」と語りはじめました。「監査という仕事は一見わかりやすいけれど、社会が会計士に寄せる信頼は、皆さんが思っている以上に大きい」と力を込めます。自身が行政処分や監査法人改革を担った経験を踏まえ、「監査法人は金融庁だけでなく、産業界からも本当に必要とされている。資本市場を守り、社会に価値と信頼を与える業界なんです」と、会計士の果たす役割への強い使命感を語りました。その言葉の裏には、「不確実な時代だからこそ、取引の信頼性がより重要になっている。それに応えるのが会計士であり、監査法人だ」という確かな自負が込められていました。

続く南氏は、独立直後に体験した印象的なエピソードを紹介。唯一のクライアントに対し、不適法意見を出さざるを得なかったという苦い経験に触れ、「“会社を潰す気か”と怒鳴られましたが、“正しい決算と開示こそが、会社を良くする第一歩だ”と粘り強く向き合った」と振り返ります。その真摯な姿勢から、本当の信頼関係が生まれたと語ると、会場には静かな感嘆の空気が広がりました。さらに南氏は、「どんな大手士業でも持ち得ない、“企業の金庫を開けて中身をすべて見られる”という特権が、若手スタッフにまで与えられている。それが会計士という仕事のダイナミズムだ」と強調し、監査の現場に広がる大きな可能性を熱をもって伝えました。

 

環境変化――“現場”のリアルと「やりがい」を問い直す

ここで国見氏が会場の空気を代弁するように問いかけます。「ルールの増加やマニュアル化によって、やりがいを感じにくい若手が増えているのではないでしょうか?

この問いに対し、井野氏は「チェックリストの多さやサンプル数の増加は確かに現実としてある」と認めつつ、「でもチェックリストは、過去の失敗の集大成であり、一定の品質を保つための効率的なツールなんです」と冷静に捉え直します。そして、「この会社の強みは何か?なぜ経営者自身がそれに気づいていないことがあるのか?――そういった本質的な問いを投げかけ、経営者と“深い対話”ができるのが監査の面白さだと思います」と語りました。

片倉氏も現場での実感を込めて、「経営者とのディスカッションで、たまに“質問の丸暗記を読み上げるだけ”の場面に出会うことがあります。そんな時は、自分たち質問側の準備やスキルも問われていると感じる」と自省を交えます。その上で、「観察眼や工夫を持てば、監査の仕事はもっと面白くなる」と語り、「チェックリストも、企業の本質を知らなければ答えられない。若手が会社を見る目を養い、なぜこの手続きが必要なのかを先輩から学べば、チェックリストもクリエイティブなものになる」と、育成の大切さを伝えました。

手塚氏は、「今はツールによって定型的な仕事はかなり整備されている」としながらも、「だからこそ、“会社を良い会社にする”という監査の根本的な目的に立ち返ることが大切」と力強く語ります。「一人ひとりが、自分が担当する会社をどうすればもっとよくできるかという視点を持てば、仕事の質も視野も自然と広がるはずです」と、監査の本質的な意義を改めて示しました。

南氏も続けて、「監査だからこそ、組織の内部に深く入り込める。“仕組みの奥”まで見られるのは監査人ならではの特権」と語り、「やらされ感で動くのではなく、“この数値の裏には何がある?”と考えていくことで、監査の仕事はぐっと面白くなる」と自信を持って語りました。

 

未来への挑戦――AI・ESG・新しい監査の地平

近年の大きな変化――「ESG時代の開示基準」や「AIの台頭」といったテーマにも、会場の関心が集まりました。

井野氏は、「AIは、チェックリスト的な単純作業を確実に代替していく」と断言します。しかしそれを悲観的に捉えるのではなく、「これはむしろ、若い世代に新しいフィールドが与えられる“世代交代のチャンス”です」と前向きに語りました。「絶え間なく新しい領域を学び、柔軟な頭でネットワークを築いていく人が、これからの監査業界の主役になる」と力強く呼びかけ、会場の若手たちの背中を押すようなメッセージとなりました。

手塚氏と片倉氏は、キャリア形成の在り方にも触れ、「グローバルでは、10年でパートナーになるような早期登用も当たり前になっている。国内でも、もっと若手がリーダーとして活躍できる仕組みづくりを進めていくべきだ」と語り、組織としての進化への期待を込めました。

南氏は、「コンサル業界と報酬面で比較して悩む若手がいるのも事実」としつつ、「長期的なキャリアの価値や経験の意味を“見える化”できれば、監査法人に残る動機はもっと高まる」と提言。報酬制度やサクセッションプランの透明化は、今後の重要な課題だと指摘しました。

さらに片倉氏は、EYにおけるテクノロジーチームの成長エピソードを紹介。わずか数名の若手メンバーが始めたDXプロジェクトが、組織文化を変え、数百人規模へと広がったと言います。「自分たちが“監査の屋台骨を創る”という実感こそが、最大のやりがいになっている」と語り、テクノロジーがもたらす変革の現場に立ち会う意義を強調しました。

 

セッションのフィナーレ――未来世代に贈る言葉

最後には、登壇者それぞれから参加者に向けて、熱いエールと人生観が語られました。

井野氏は、「これからの時代は、AIと競い合うことも避けられません。でも、“人の幸せに共感し、願う力”こそが、監査法人の真価になる」と語りかけます。「10年でパートナーを目指してほしい。ただし、その10年をどう過ごすか――それが、この世界に足を踏み入れたすべての人に問われている」と力強くメッセージを送りました。

片倉氏は、「環境や制度が整っていないから行動できない、というのではなく、逆境をどう楽しみながら高みを目指すかが大切」と語ります。「やらされ感ではなく、自分から動く姿勢で、プロアクティブに会計人材としての人生を切り拓いてほしい」と、背中を押すような言葉が続きました。

手塚氏は、「会計士の資格は、経営知識の7割をカバーできるほどの強力な武器」と語り、「監査の仕事は、“縦”も“横”も、“会社グループ全体”も、“現場”も経験できる、プロフェッショナルの究極の仕事だ」と断言します。そして、「99%の人が、“監査法人での経験を後悔していない”。だからこそ、自信を持って進んでほしい」と呼びかけました。

南氏は、「私はこの業界に入って後悔したことは一度もない。むしろ、最高の職業だと断言できます」と語り、監査法人で得た経験をもとに企業へ羽ばたいていく仲間たちとつながりながら、「信頼のリレー」で社会の根っこを支える輪を広げていきたいと語ります。「どんな変化の時代でも、みんなで一緒に頑張っていきましょう」と、あたたかく力強いメッセージを送りました。

最後に、ファシリテーターを務めた国見氏自身も、「私も“会計士でよかった”と心から思っています」と語り、「次の世代の皆さんが、会計士や監査の可能性にもっとワクワクし、新たなキャリアに勇気をもらえるような業界にしていきたい」と、未来への思いを残しました。

 

セッションを終えて

本セッション「監査制度の未来と監査法人の役割」は、重鎮たちのキャリアと人生観が惜しみなく語られた、非常に濃密な時間となりました。

「監査とは何か?」という問いに対し、登壇者それぞれが異なる景色や痛み、喜び、そして誇りをもって向き合いながらも、その根底には「信頼」「成長」「社会的な価値」といった“揺るがない芯”が通っていることが、参加者にもはっきりと伝わってきました。

なかでも印象的だったのは、「会計士のキャリアは想像以上にダイナミックで、やりがいも選択肢も無限に広がっている」という実感です。制度や業界の環境が変わっても、“信頼を創り出す”という本質的な役割――プロフェッショナルとしての誇り――だけは、これからも変わることがありません。だからこそ、“自分なりのやりがい”を意識することで、たとえ逆境やルーティンに見える場面でさえ、新しい成長や価値につながっていく。AIや新たな領域の台頭も、「自分たちが変革の主役になれる」というチャンスとして捉える時代が、まさに始まっているのです。

このセッションは、会場に集った一人ひとりが、会計士・監査という仕事の未来を「自分ごと」として考え、やりがいを見つけるきっかけになったはずです。若手はもちろん、すでに多くの経験を積んだ会計人にとっても、新たな一歩を踏み出す背中をそっと押してくれる――そんな力を持った時間でした。

 

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