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楠木建×星直人。AI時代にCFOが磨くべき経営センスと覚悟【CFOセミナーレポート】

2026年1月22日、CPAエクセレントパートナーズ株式会社が主催したイベント「企業価値向上に貢献する新時代のCFO 2.0」は、単なるノウハウ共有の場ではなかった。それは、日本の会計ファイナンス人材に対する期待を込めた熱いエールだったと言ってもいいだろう。

登壇者は、事業戦略論の名著『ストーリーとしての競争戦略』で知られる一橋大学ビジネススクール教授・楠木建氏。そして、実務家として数々の修羅場をくぐり抜け、現在は上場会社及び未上場会社の経営支援やインパクトスタートアップ協会代表理事を務める星直人氏。モデレーターは、公認会計士の新たな可能性を切り拓き続けるCPAエクセレントパートナーズ株式会社代表・国見健介が務めた。

AIが台頭し、機能的なスキルだけでは差別化が難しくなるなかで、人間のCFOは何を武器に戦うのか。会場を包んだ熱気と共に、その本質を紐解いていく。

 

     

    第1章:「スーパー担当者」で終わるな。CFOは経営者であれ

    議論の口火を切ったのは、楠木教授によるCFOの定義だった 。多くの会計ファイナンス人材が陥りがちな罠は、専門性を突き詰めるあまり「ファイナンス領域のすごい人=スーパー担当者を目指してしまうことだという 。

    「私が考える優れたCFOとは、極論すれば、すぐにCEOができる人のことです。商売全体を相手にして、どうやったら長期利益が出るのかを考える人ですね」

    自らを財務の専門家と定義することは、裏を返せば経営全体への責任回避という言い訳にもなり得る。しかし本来、CFOという肩書きは単なる役割のラベルに過ぎない。その本質はあくまで経営者であり、担当の壁など存在しないのだ。

    この楠木教授の定義に、実務の最前線に身を置く星氏も深く頷く。「私自身も、あくまでファイナンスに軸足を持つ「経営者」という意識で仕事をしています。例えば、スタートアップのCFOが大型資金調達したことを必要以上にアピールすることがありますが、資金調達はあくまで手段 。重要なのは、調達したお金をどう投資配分し、リスクを取って長期利益を最大化するかです」

    テクニカルな議論にのみ終始するのは、CFOの仕事ではない。それはあくまでファイナンス担当者の仕事だからだ。

    重要なのは、その数字が事業にどう影響し、未来の利益を生むかという、ファイナンスの先にある。星氏は「そこまで考え抜いて初めて、真のCFO、つまり経営者になれる」と断言した。

    ここでモデレーターの国見が、組織論の観点から問いを投げかけた。「CFOに限らず、専門性が高まれば高まるほど分業が進み、全体が見えなくなる弊害があるのではないか。誰がその統合を担うのか?」

    これに対し楠木教授は、映画制作を例に挙げて解説した。「通常のハリウッド映画は、徹底した機能分業で作られます。撮影、照明、衣装、それぞれのプロが自分の部品を完璧に仕上げ、監督がそれをパズルのように組み合わせる。しかし、マーティン・スコセッシ監督の映画『タクシードライバー』は違います。あれは総合なんです。主演のデ・ニーロも、脚本家も、カメラマンも、自分の担当領域に閉じこもらず、全員が映画全体にコミットしている。見る角度は違っても、全員が作品をよりよくするための全体像について議論し、ぶつかり合う。だからこそ、傑作が生まれるのです」

     

     

    企業経営も同じだ。CFOがお金という側面からしか会社を見ないのであれば、それはハリウッド的な分業の一部に過ぎない。しかし、優れたCFOは、ファイナンスという独自の視点を持ちながらも、見ているのは常に商売全体であるべきだ 。

    これに国見は深く頷き、こう締めくくった。「専門分化が進む現代だからこそ、バラバラになった機能を統合するリーダーが必要です 。CFOが機能の壁に閉じこもらず、経営チーム全体を統合する視点を持てるかどうかが、組織の強さを決めるのです」

     

    第2章:戦略とは「良いことの箇条書き」ではない

    では、その経営者としてのCFOが描くべき戦略とは何か。 楠木教授は、「多くの企業が戦略だと思っているものは、単なる箇条書きに過ぎない」と言い切った 。

    「『プロダクトは最新技術で』『生産は効率的に』『販路はオムニチャネルで』……。これらは一つひとつを見れば、間違いなく正しいアクションです。しかし、これらベストプラクティスを単に箇条書きにして並べただけでは、決して戦略とは呼べません 。優れた戦略に不可欠なのは、個々の要素が論理的にどうつながり、相互に作用し合うかという設計図です。なぜAをするとBになり、結果として長期利益が生まれるのか 。この一貫した因果の論理(ストーリー)を構築することこそが、戦略の本質なのです

    ここで国見が、AI時代における経営の難しさについて、ある実験結果を共有した。「実は先日、ChatGPTに楠木教授の理論を使って当社の競争戦略を作らせてみたんです。返ってきたのは、教材の質を高めれば合格実績が上がり、満足度が高まって次の受講生を呼ぶという、論理的で隙のないストーリーでした」。 一見、隙のない回答だが、楠木教授は「それこそが、AIの限界なのです」と切り返した。

    「ChatGPTに戦略を聞けば聞くほど、差別化は死んでいきます。なぜなら、大規模言語モデルは過去の膨大なデータから『もっともらしい平均的な答え』を導き出すことに長けているからです。 しかし、競争戦略の本質とは他社との違い(平均からの乖離)にこそある。AIに頼れば頼るほど、戦略は凡庸になり、コモディティ化していくのです」

    では、AIにはできない、人間のCFOが担うべき戦略的な意思決定の本質とは何か。楠木教授が続ける。

    「それは『良いこと』と『悪いこと』の選択ではありません。そんなものは誰でもできます 。戦略的な意思決定とは、『良いこと』と『良いこと』のどちらを選ぶか。事前に正解の基準がない中で、リスクを引き受けて『こちらにかける』と決断することです」

    「こちらを選べばあちらが立たない」というトレードオフの中で、独自の理屈を持って一方を捨てる決断をする 。事前に正解がないことに対して、リスクを負って意思決定をする 。これこそが、AIには代替できないCFOの仕事なのだ。

     

    第3章:スキルを磨くな、センスを磨け

    議論は、CFOに求められる資質へと深まっていく 。楠木教授は、多くの人が混同しているスキルとセンスの違いについて、次のような明確な定義を示した 。

    • スキル:ファイナンス知識、英語力、プログラミングなど。分業化された機能であり、勉強すれば習得できるもの 。
    • センス:文脈の中で適切な判断ができる能力。

    「英語がペラペラでも、外国人を全く説得できない人がいます 。同様に、ファイナンスの知識は完璧でも、いざという時に投資の意思決定ができない人がいます 。これは、スキルはあるがセンスがない状態です。スキルとセンスは混ぜるな危険です

    ファイナンスの専門家になればなるほど、かえってスキルに固執してしまうこともある。しかし、経営に必要なのはセンスだ。では、若手CFOやこれから経営を目指す人材は、どうすればそのセンスを磨けるのか 。

    星氏の答えは、シンプルかつ泥臭いものだった 。 「とにかく、打席に立つ回数を増やすことです 。成功の再現性は必ずしも高くない。むしろ、失敗の再現性は高いので、失敗するなら早いほうがいい 。自分でお金を使い、自分で難しい意思決定をし、顧客の前に出て、その結果を肌で感じる。センスは教科書ではなく、痛みを感じることも含めた現場経験の中で磨かれます

     

     

    現場での実践のみがセンスを磨くという議論を受けて、国見はあえて楠木教授に問いを投げかけた。「打席に立てという星さんの話は非常に腹落ちします。しかし、楠木先生ご自身は経営者としてビジネスの打席に立っているわけではありません。それなのに、なぜ誰よりも経営のセンスをお持ちなのでしょうか?」

    会場のCFOたちが抱いた素朴な疑問を代弁するこの問いに、楠木教授はニヤリと笑って答えた。「理由は単純です。私が車を運転していない(経営していない)からです。 高速道路で車を運転しているドライバーは、目の前の道に集中しなければ事故が起きます。しかし、私はただの歩行者として、多くの車が行き交う道路を横から眺めている。だからこそ、だからこそ、どの車がスピードを出しすぎているか、どこで渋滞が起きているかといった、全体の流れが見えるのです」

    ビジネスの現場で戦い続ける星氏と、その戦いを一歩引いた視点から俯瞰し、本質を見抜く楠木教授。アプローチは違えど、両者が共通して見ているのは部分ではなく全体だ。機能の枠に閉じこもらず、商売全体を俯瞰する視座を持てるかどうかが、センスの正体なのかもしれない。

     

     

    第4章:「社会貢献」を「儲け」に変える翻訳者たれ

    セッションの後半、話題は星氏が代表理事を務める一般社団法人インパクトスタートアップ協会へと移った 。一般的に、社会貢献と儲けはトレードオフの関係にあり、バランスを取るのが難しいと考えられがちだ 。しかし、星氏と楠木教授の答えは違う。

    楠木教授は、知的障がいのある作家のアートデータをIP(知的財産)として正当にビジネス化するヘラルボニー社の事例を挙げ、その戦略の秀逸さをこう解説する。

    「社会的に意義があることだからこそ、多くの人が共感し、優秀な人材が集まり、大企業もコラボレーションを望む 。それがブランド価値となり、結果として経済的なリターンにつながる 。この好循環を作ることこそが、現代の優れたストーリー戦略です」

    ここで星氏は、CFOの新たな、そして極めて重要な介在価値を提示した 。

    「一見、経済性が低そうな社会課題解決型の事業モデルを、資本市場に対していかに経済価値があるかを示す魅力的なエクイティストーリーに翻訳して伝える。これこそが、新時代のCFOの役割の一つです

    単に数字を管理するのではない。一見矛盾するように見える社会性と経済性の間に入り、ロジックとストーリーで橋を架ける。それによって資金を呼び込み、事業をドライブさせる。これこそ、CFOが果たすべきクリエイティブな仕事である 。

     

    おわりに:あなたは「本気」を出しているか?

    90分にわたる白熱した議論の最後。 登壇者たちから次世代のリーダーたちへ、魂のこもったメッセージが送られた 。

    星氏は、自身のキャリアを振り返りながら力強く語った。「CFOという呼称や、既存のルールに小さく当てはめないでください 。どうすればこの会社が勝てるのか、その一点にフォーカスし、幅広い手段を使って利益を上げる事に貢献する 。自分がその時点で最も企業価値最大化に資する手段だと思えば、ダイレクトに営業をやって売上貢献してもいいし、採用を含む組織戦略を主導してもいい 。結果として会社が成長すれば、良いCFOと呼ばれるのではないでしょうか

    そして、楠木教授が締めくくった言葉は、会場にいた全てのCFO、そしてこれから経営を目指す若者たちの胸に、深く、熱く刻まれたはずだ 。

    「ビジネスの勝利条件は、非常に明確です。それは長期利益です 。政治や個人の幸福とは違い、ビジネスの世界では儲かっていることが、顧客に価値を提供している唯一の証拠です。だからこそ、CFOとして、誰に対しても正々堂々と言ってください。『私が本気を出せば、この会社はとんでもなく儲かりますよ』と。そう言えるだけの自信と覚悟を持ってください。それが、CFOの条件です

     

     

    「CFO 2.0」への進化は、誰かが用意してくれるものではない。一人ひとりが現場で戦い、実績を作ることでしか成し得ないものだ。

    「会計ファイナンス人材には、日本経済を変えるポテンシャルがある」 。国見は常々そう語っている。守りから攻めへ。CPAエクセレントパートナーズ株式会社は、今後もリスクを恐れず経営の中枢へ飛び込むCFOを全力で支え続ける。

     

    イベント概要 – CFOセミナー

    イベントプログラムCFOセミナー 第1回「企業価値向上に貢献する新時代のCFO 2.0 ~戦略とファイナンスの本質を探る~」
    開催日2026年1月22日 19:00-20:30
    開催場所CPASS LOUNGE(シーパスラウンジ)
    〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目14−20 新宿テアトルビル 6F
    / オンライン配信

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