公開日:2024/04/20
スタートアップで会計士が携わる業務内容について
こんにちは。
本日は、会計士がスタートアップに入社した際に、会計士が携わる可能性のある業務についてお話できればと思います。
私自身、2022年4月に株式会社Clearへ入社してから早2年、様々な業務に従事して参りました。
恐らく、スタートアップ会計士の中でも幅広く経験させていただいている方なのではないかと考えておりますので、スタートアップへ入社した際に、会計士が携わる可能性のある業務について、弊社での経験を前提とした内容には寄ってしまいますが、それぞれお話させていただきます。
まず、大きく事業系とコーポレート系に分けられます。
後述する経営企画業務については、一部事業系にも分類される可能性のある業務もありますが、一旦はコーポレート系に含めさせていただく形とします。
以下、事業系とコーポレート系についてそれぞれお話できればと思います。
01. 事業系
例えば下記のような業務があると考えています。
・営業関連業務
・プロダクト開発業務
・マーケティング関連業務
基本的に会計士がスタートアップに入社した際、殆どがコーポレート寄りの業務に従事する形となりますが、例えば会社のプロダクトが経営管理ツールやコーポレート管理ツールである場合には、会計士としての知識を生かして営業活動やプロダクト開発に従事することも可能であると考えています。
また、会計士の強みとしては数字に強い点と論理的思考力が高い点があると考えており、当該二つの能力はマーケティング業務との親和性も高いので、ごく少数ではありますが、マーケティング担当者として活躍される会計士もいらっしゃる認識です。
マーケティングに少なからず興味のある方は、下記書籍を読まれてみると大変勉強になると思います。
・マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいか分からない人へ 西口一希 著
マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ | 西口 一希 |本 | 通販 | Amazon
なお、そもそもマーケティングとは何かピンとこない方もいらっしゃると思いますが、上記書籍には、「お客さまのニーズを洞察し、お客さまが価値を見出すプロダクトを生み出すこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な収益を生み出し、その収益を再投資して新たな価値をつくり続けること」と定義されています。具体的には、様々なデータを基に「どのような商品(What)」を「どのようなお客様(Who)」に「どのような方法(How)」で、販売していくかの戦略を考えていきます。
私も当該書籍を読んで、マーケティングに対する基礎的な理解を深めました。
・USJを劇的に変えた、たった一つの考え方 森岡毅 著
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 | 森岡 毅 |本 | 通販 | Amazon
当書の著者は、USJや西武園ゆうえんちの再建を手掛け、直近はお台場のイマーシブ・フォート東京や、沖縄に建設予定のテーマパークであるジャングリアを手掛けている株式会社刀の代表取締役CEOの森岡さんなので、読んでみると面白いかもしれません。
02. コーポレート系
まず、会計士がスタートアップへ入社した際に、最も関与する機会が多い業務は経理業務及び財務業務です。
特に多いパターンとしては、監査法人出身者が経理マネージャーに従事する形と認識しています。
一方で一概には言えませんが、比較的規模の小さい会社の場合には、管理部長としてコーポレート全般を取りまとめるケースも多い認識です。
管理部長の管轄は主に、経理業務・財務業務・法務業務・総務業務・人事業務・労務業務ですが、会社によっては上記に経営企画業務も含まれる場合があります。
以下、私の経験によるものにはなってしまいますが、経理・財務・法務・総務・人事・労務・経営企画についてそれぞれ詳細な業務内容を説明できればと思います。
経理業務
スタートアップを含む事業会社の場合、基本的には会計士の場合経理担当者というよりは経理責任者として、経理担当者が入力した仕訳を承認する立場にあることが多くなってきます。
加えて経理担当者では対応が厳しい、会計上の難しめの論点(固定資産の減損、棚卸資産の評価損等)が出てきた際には率先して対応することとなります。
その他既に監査法人による会計監査が入っている会社の場合には、監査法人対応における主担当者して活躍することとなります。
当該監査対応の一環で、上場に向けた内部統制の整備を担当することになりますが、上場を目指す上で必要となってくる3点セット(業務記述書、RCM、フローチャート)については、会計士がいる場合自社で作成する場合もあれば、IPOコンサル会社に作成を依頼する場合もありますが、いずれにせよ内部統制整備プロジェクトのプロジェクトマネージャーには就任するケースが多くなってきます。
財務業務
上場を目指す場合、職務分掌の観点から経理担当と財務担当は分ける必要がありますが、スタートアップの場合1人が兼任してしまっているケースもあります。業務内容としては、各事業部担当者から連携された請求書の振込や、資金繰りシミュレーションの作成・毎月の資金繰りのモニタリング等になります。
特にスタートアップの場合ですと、資金繰りに関する一つの判断ミスで会社が資金ショートし潰れてしまうケースもございますので、特に資金繰りについては緊張感を持って把握する必要があり、時には経営陣への提言も必要になってきます。
また、会社によって異なりますが、会社が資金調達を実施する場合にも、CFOと連携し、金融機関やベンチャーキャピタル対応等を実施するケースもあります。具体的には、金融機関やベンチャーキャピタルとのミーティングへ同席し、会社説明を実施し、その際にいただいた質問に対する回答、依頼資料の準備等を対応することになります。銀行をはじめとした金融機関からデットで資金調達をする場合には、借りたお金をしっかり期日通りに返済できるかどうかが求められ、会社の財務健全性が担保されているかが見られますので、比較的会計・財務回りの質問に関する対応が多くなってきます。一方でベンチャーキャピタル等からエクイティ調達を実施する際には、会社の今後の成長性について検討されることになるため、同じ資金調達でも求められる情報が異なってきます。
通常の監査法人出身の方ですと、比較的デットでの資金調達の方が、能力・スキルとの親和性はある印象です。
以上、経理業務と財務業務について説明させていただきましたが、上記2つの業務は、言わずもがなではありますが各種コーポレート領域の中でも特に会計士としてのスキルが活きる領域になります。
以下、その他コーポレート業務について説明していきます。
法務業務
各事業部から回ってきた契約書のレビュー、法律関連の質問対応、事業部から依頼を受けた内容での契約書作成等を対応することになります。勿論、会計士は法律の専門家ではありませんので、必要に応じて顧問弁護士へ相談しながら業務を進めていくことになります。
事業部から回付されてくる契約書の内容として多いのは、業務委託契約書と秘密保持契約書(NDA)の2つです。特に前者については、契約条件が論点になることも多いので、その際は顧問弁護士に相談する形となります。
会計士の場合、会計士試験にて会社法を勉強していますし、かつ会計監査業務にて会計基準のような専門的かつ難解な文章を読むことには慣れていますので、一般の方よりは法務業務も親和性があるのではないかと考えています。
その他、会社が上場準備フェーズに入った場合、取締役会を設置する、監査役を選任する、等々機関設計を進めていくシーンで、会計士試験時代に学んだ会社法の知識が活きることになります。
加えて会社が資金調達や減資を実施する際にも、株主総会決議の実施など、会社法上求められている手続きが必要になってくるため、会社法の知識が活きてきます。
総務業務
総務業務では、社員が快適に過ごせるようにするために様々な業務を実施します。
身近なものですと、例えばオフィス備品の注文や、社員の健康診断の手配等が挙げられ、少し規模が大きいかつ臨時的な業務ですと、オフィス移転プロジェクト等のリードが想定されます。
社内リソースの観点から、会計士が兼務することになる可能性もありますが、比較的会計士の専門知識が活きにくい領域かもしれません。
人事業務
人事業務は、大きく採用業務と、採用業務以外に分かれる理解です。
採用業務は、具体的には事業部から採用ニーズをヒアリングした上で、採用ポジションを明確化していき、必要に応じて転職エージェントともやり取りしながら欲しい人材の採用に向けて動いていきます。
採用業務以外については、具体的には入社後の社員のサポートを指しており、例えば入社した社員のオンボーディングの設計、人事評価制度の設計、入社・退社手続きまわりが挙げられます。
必要に応じて、会社が契約している社労士とやり取りすることもあります。
勿論会計士が兼務する場合もあり得ますが、基本的には別に人事担当がいる場合が多い印象です。
労務業務
労務業務は、具体的には従業員の勤怠管理や給与計算の実施が主な業務となります。
勤怠管理や給与計算は、基本的にマネーフォワードなどの管理ソフトを使用する場合が多いため、当該管理ソフトの設定や使用方法について詳しく把握する必要があります。
勤怠管理においては、36協定等の知識が必要になりますし、給与計算においては社会保険料関連が論点になることもありますので、必要に応じて社労士とのコミュニケーションが必要になってきます。
経営企画業務
経営企画業務については、会社によっては事業寄りの業務に分類されますが、今回はコーポレート業務という分類で説明できればと考えています。
また、経営企画業務は会社によって内容が異なる理解でして、より事業寄りの新規事業開発を担当する場合もあれば、後述のコーポレート寄りの業務内容となる場合もあります。
以下コーポレート寄りの業務内容を前提にお話させていただきますが、業務内容は大きく社内向け業務と社外向け業務に分かれる理解です。
社外向けについては、一部財務業務に記載した内容と重複してしまいますが(そもそも資金調達業務が経営企画管轄になる場合もある理解です)、主に株主であるベンチャーキャピタルや、資金の借り入れを実施している金融機関とのコミュニケーションを実施する形となります。より具体的には、株主向けに月次定例ミーティングの資料を作成し、定例ミーティングで会社のトピックの説明及び質疑応答を実施したり、金融機関向けに四半期決算説明資料を作成し、報告会で決算説明及び質疑応答を実施したりなどが挙げられます。
そのほか、社外向け事業計画の作成も担当する機会もあり、今後事業をどのように伸ばしていきたいかを言語化した上で、数値へ落とし込んでいくことになります。私も当該事業計画の作成は担当していますが、その際にFASでのバリュエーション業務にて財務三表が連動する財務モデルを作成した経験が非常に役に立っています。
社内向けという観点ですと、社内で実施する月次定例ミーティングに向けて、社内管理数値の実績集計を実施し、月次定例ミーティングで実績を報告したり、各事業部における売上・費用をモニタリングする、経営管理の仕組みを構築するなどが業務として挙げられます。
その他、社内の定例事業関連ミーティングに参加し、経営チームの1人として事業に関し意見を述べることもあります。
以上、経営企画業務について、会社によって内容は異なる可能性もありますが記載させていただきました。
冒頭にも記載しましたが、会計士が会計から少し離れて事業寄りのポジションで活躍するためには、数字に対する強さと論理的思考力が求められます。
数字に対する強さを発揮する場面としては、例えば事業部から新しいプロジェクトを開始するにあたり、売上や利益についてシミュレーションして欲しい等、依頼を受けることがあります。
論理的思考力という観点では、例えばある商品の販売戦略について、直近のファクトから示唆を見出し、当該示唆を基に打ち手を提案することがあります。
なお、論理的思考力を鍛える観点からは、直近ですと下記書籍がおすすめです。
・解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法 馬田隆明 著
解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法 | 馬田隆明 |本 | 通販 | Amazon
以上、今回は会計士がスタートアップに入社した際に、関与する可能性のある業務について具体的に記載させていただきました。
監査法人のみの経験の方の場合は、まずは会計に近い領域ということで、経理・財務回りを担当することになります。
より事業側にコミットしていきたい場合には、前述のような、数字に対する強さや論理的思考力を武器に、事業へ貢献していく形がおすすめです。
加えて、前回の記事でも記載させていただきましたが、担当領域と会社の規模は一定程度相関関係があると考えられ、規模が小さい会社の方が幅広い業務に関与できる場合が多くなっていますので、スタートアップへの転職を検討されている方は、入社後ご自身がどのような業務に携わっていきたいのかを考えた上で、転職先を検討されると良いと思います。
本日の内容は以上となります、最後までお読みくださりありがとうございました。
この記事を書いた人
慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。
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