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公開日:2024/03/16

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メキシコで現地採用へ切り替え! ~中南米の地で奮闘する日本人女性税理士~ 世界で活躍する会計人材へインタビューVol.13

 

こんにちは!世界一周会計士の山田智博です。

会計士資格を携えて世界一周をするからには、“グローバルで活躍されている会計士の情報をぜひ日本に届けたい”、“海外で活躍している会計士の様々なロールモデルを皆さんにお伝えしたい”そんな思いから、『世界で活躍する会計士へインタビュー』というコラムの連載をCPASSさんの力をお借りしながら、寄稿いたします。

第13弾は、中南米の地メキシコにて、駐在から現地採用に切り替え、現在もメキシコに在住されている女性税理士(現在は有資格者)の比留川 茜さんです。

比留川さんは、税理士資格取得後、グラントソントン太陽ASG税理士法人(現、太陽グラントソントン税理士法人)に入所され、2013年よりグラントソントン メキシコにジャパンデスクの立ち上げで駐在し、その後、メキシコ現地採用に切り替えて、現在もグラントソントン メキシコにてジャパンデスクを統括されています。

そんな比留川さんに“税理士としてグローバルに活躍する方法”や“なぜ現地採用に切り替えたのか”、“メキシコ生活での苦労話”などを深堀してきました!

1.プロフィール

比留川 茜(Hirukawa Akane)

Salles, Sainz – Grant Thornton S.C.(Mexico)
業務開発シニアマネジャー/Japanese Business Group
税理士有資格者

2005年 グラントソントン太陽ASG税理士法人 入所
2012年  グラントソントン シンガポール ジャパンデスク開設
2013年  Salles, Sainz – Grant Thornton S.C.メキシコシティ事務所に駐在
2016年 現地採用切り替え

2005年9月よりグラントソントン太陽ASG税理士法人 国際税務部にて、外資系企業・外国法人日本支店等に対する税務申告業務に従事。国際源泉課税、租税条約、海外取引にかかる消費税、外国人駐在員の所得税、移転価格税制、外国税額控除に関するアドバイスを提供。
2012年1月より1年間、グラントソントン シンガポールにおいて日本デスク開設担当。2013年11月よりSalles, Sainz – Grant Thornton S.C.メキシコシティ事務所に勤務。

 

2.インタビュー本編

――早速ですが、税理士を目指したきっかけを教えてください。

一生働き続けたいという想いが元々あり、且つ、就職氷河期に直面していたことから資格を取った方がよいと考えたからです。

私が就職活動をしていた当時は、いわゆる就職氷河期で、それなりの大学を出ていても、良い会社や自分の希望する会社に就職するのが難しく、就職をするために浪人する方が割と多かったんですよ。

その中で、クラスメイトが会計士や税理士の勉強をしているのを見て、会計士は難しそうだけど、税理士なら自分でも合格することができるのではないかと希望を持てました。

税理士は働きながら勉強する人が多いということを伺ったため、地元の会計事務所に就職をしつつ、予備校に通っていました。

――社会人受験生をされていたんですね。とても大変だったのではないでしょうか。

めちゃくちゃ大変でした。働きながら2年ほど頑張ったのですが、結局、簿記論も財務諸表論も合格することができなかったんです。そこで、覚悟を決めて、貯めていたお金を切り崩す形で勉強専念に切り替えました。

――勇気のいる決断ですね、、、!
無事、合格された後に就職先として「グラントソントン太陽ASG税理士法人(以下、グラントソントン)」を選んだ決め手を教えてください。

法人紹介のパンフレットに載っていた国際税務に興味を持ち、国際税務に一番関与させてもらえるのがグラントソントンだと感じたからです。

当時の予備校では受験生に対する就職支援サービスをしていたこともあって、校舎にハローワークのように求人票が置いてありました。毎年、試験後に行われる合同就職説明会で多くの会計事務所・税理士事務所の方のお話を聞いていたため、校舎でも“合格していたらどこへ行こうか?”とパンフレットを見ることがよくありました。

パンフレットのコンテンツの中に、合格者の声のようなコラムがあると思いますが、そこに国際税務をメインで担当している方の記事があったんですよ。元々学生時代から英語が得意で、将来的には英語を活かした仕事をやりたいと考えていました。

一方で、上述の通り、結果的には安定志向から手に職をつけるために税理士資格の取得を目指していたことから、英語を活かした仕事は半ば諦めていたんです。正直、税理士は年齢層も高く、ドメスティックなイメージが強いじゃないですか。

そんな中で、国際税務を担当している方の記事を読んだ際に、“税理士でも英語を使える仕事あるんだ”と思って、嬉しかったのを覚えています。手に職をつけられて、英語も生かせるなんて素敵じゃない、と。

余談ですが、グラントソントン入社前に、メキシコ・グアテマラにバックパッカー旅をしていて、なんちゃって程度のスペイン語を話せるようになっていました。

――英語を使いたくて国際税務を目指した、からのいきなりのスペイン語(笑)
比留川さんの好奇心旺盛さが伺えます。確か、語学学校に通われたんですよね。

メキシコの語学学校に1か月ほど通いました。基本的な会話は大体できるようになっていたため、グラントソントンの面接でもスペイン語できますとアピールをしましたね(笑)。ただし、当時はまだ“スペイン語圏の仕事はないから”とサックリ返答されてしまい、とりあえず、英語を利用できる、ということで国際税務部に入りました。

(バックパッカー時代、語学学校での1枚)

 

――当時の国際税務のイメージについて教えてください。

国際税務は、本当に端的に言うと国際+税務だと思います(笑)。そのため、読み書きの英語や会計の記帳、税務申告の3点が主にできれば何とかなるのではないかと当時は考えていました。

 

――国際税務の事業部に配属された場合でも、国内税務に携わることはできるのでしょうか。

国際税務と言っても、実は、国内税務業務がメインなります。
国内税務か国際税務かは、会計記帳を英語でやるか、税務申告を英語で説明するか、そういうレベルの話で、やっていることの知識としては国内も国際も正直変わらないです。ただし、国内税務部と国際税務部といったように部署は分かれています。

つまり、お客さんが違うだけで、やっていることは基本一緒で、税務申告と税務アドバイスになるんです。

相違点を挙げるとすれば、国内税務では、ドメスティックでオーナー系の企業が多くなるため、事業承継や相続の話が出ることが多いです。一方で、国際税務では、外資系企業がメインになるため、租税条約や移転価格の話が多くなります。

そのため、国際税務部にいた私は、事業承継や相続の知識は手薄ではあったものの、租税条約や移転価格税制については知識と経験を積むことができました。国内税務部にいた方はその逆になりますね。

――面白いですね!つまりは、国内だと事業承継や相続に強くなって、国際では移転価格税制や法人税率の引き上げに伴って生じるリスクに強くなる、ということでしょうか。

紛らわしくてすみません。当時、そのように考えたこともありましたが、現状は、なんだかんだあまり違いはないという結論に達しています(笑)。

グラントソントン入社後、スタッフの3年ほどは外資系の税務申告を担当していましたが、実は外資系の税務申告は結構シンプルなんですよ。税務調整もありますが、特に複雑ではなく、仮に租税条約の話が出てきた場合は上司に任せるような流れでした。

申告業務を中心にその後マネージャーに昇格しましたが、その際に“これからどうしたいか”と聞かれ、雑誌への寄稿や講師をやりたいと答えたんです。

その結果、当時の経理情報誌に記事を書かせてもらったり、税理士会がやっている税理士向け講習の講師をやらせてもらったりしました。当然、国際税務の論点を深堀したことがなかったため、租税条約や海外取引、国際源泉税などをひたすら勉強したのですが、その甲斐があって、それ以降それらの分野では声がかかるようになりました。

ちなみに、国際税務の分野だとタックスヘイブン税制や外国税額控除などがありますが、これらは日本企業が海外に進出して、海外子会社を持つ時に出てくる話になるため、外資系企業の税務申告をやっている中ではほぼ出てこない論点になります。つまり、タックスヘイブン税制や外国税額控除などは国際税務部のような論点ですが、実は、国内税務部の人の方がよく知っている話になるんです。

――なるほど。もし、逆に日本から海外に出て、例えばアメリカで国際税務をやるとなった場合、日本企業の現地の税務申告を対応することが多いため、難易度はそこまで高くないと考えてよいのでしょうか。

そうだと思います。

ただ、海外でやりたいからといってすぐに海外に行くよりも、まずは日本国内で経験を積むのが大事だと考えています。

日本から出て海外で活躍する会計士や税理士の人たちも、業務として行っていることは現地の会社、つまり、日系の現地法人が提供しているサービスのサポートです。

そのようなクライアントを相手にする場合は、日本の会計や税務と現地の基準や制度を比較して、“日本では〇〇だけどこの国では△△するルールなんですよ”という説明ができた方が、理解してもらいやすく、クラインアントの納得感も増します。要するに、日本国内の知識が何も無いよりかはあった方が、絶対に良いです。

――確かに、日本と比べてどう違うか、を説明した方が日系企業の方に説明するには伝わりやすそうですね!また、国内だと外資系企業の税務申告がメインになってしまうため、日本と海外を比較して考えたり、国際源泉税や外国税額控除の知識を利用したりするのは、海外に出ても巡りあうケースが多いということが分かりました。

――シンガポールにて、ジャパンデスクの開設を担当されたとのことですが、そのきっかけを教えてください。

その時期は、ちょうどグラントソントングループ内で、少しずつ監査法人からイギリスやアメリカ等へ駐在員を出し始めていた頃でした。徐々に、税理士法人でも職員を海外に派遣することで、日本国内のみのサポートではなく、現地の税制と日本の税制を合わせた税務アドバイスを行い、海外進出後に同じファームでもサポートできるような体制作りの必要性が高まりました。

そこで、ビジネスが盛んなシンガポール事務所にジャパンデスクを立ち上げる流れになり、私が税理士法人からの駐在員第一号として行くことになりました。とはいえ、フルの駐在員という訳ではなく、半駐在という形で、月の半分は日本の仕事をしつつ、もう半分はシンガポールの仕事をしておりました。半駐在だった理由は、まずシンガポールの税制を学ぶことで、日本の業務に繋げ、”シンガポールでの対応も可能ですよ”、という売り込みを日本国内ですることが重要だったからです。そのため、半駐在で現地の方から税制を学んでこい!ということで送り込まれました。これが中々にハードでしたね(笑)。

しかし、ここで事件が起こります…。いざシンガポールに行ってみたら、グラントソントングループ内のメンバーに、現地の税制については教えない、と言われてしまったんです(笑)。グループ内で意思疎通ができていなかったのか、日本法人からの申し出を断られたにもかかわらず、力技で私が送り出されたのか、今となってはわかりませんが…(笑)。

――難儀でしたね(笑)。どのように現地の税制を学んだのでしょうか。

Big4のいずれかが出版していたシンガポールの会計税務に関する本を購入したり、シンガポール税務当局のホームページを見たり、自力で勉強しました。シンガポールに行った際には勉強している時間はなく、ジャパンデスクの仕事として、現地の日系企業を訪問するなどのマーケティングをやっていましたね。

――自力で知識を新しく吸収したり、新規開拓の営業をしたり、ドタバタなシンガポール生活ですね。

1人行動の時もありましたが、現地のパートナーやマネージャーの人たちとクライアントに行くこともあり、そういう時をチャンスと捉えて、本で分からなかったところをタクシーの中で聞いたりしていました。教えない、と言っていたものの、タクシーの中で小話的な感じで話すと教えてくれたんですよ(笑)。

日本とシンガポールの二重生活を1年ぐらいしていた結果、7時間の往復移動も疲れるし、ジャパンデスク新規立ち上げということでシンガポールでも対応しなければいけないことも多く、疲労がかなり溜まってしまいました。

そんな時に、ちょうど監査法人で駐在員を積極的に派遣していて、シンガポールにも駐在員が来ることになり、半駐在で私がやっていたことを引き継いでくれました。結果的に、ちょうど一年で日本とシンガポールの二重生活から晴れて卒業となりました。

――分からないことが多いにも関わらず、聞こうとしたら現地パートナーやマネージャーの顔色をうかがわなきゃいけないし、基本的には自分で調べて勉強の状態で、かつ、半月日本で半月シンガポールとなると移動時間もバカにならないですよね…。
1年でも本当によく続いたと思います…!

“何でも経験したい!”という気持ちが強かったため、やり切れたのだと思います。

シンガポールで半駐在していた時期に、アメリカにもジャパンデスクが立ち上がりました。その担当者が日本にいらっしゃった際に、“グラントソントンのジャパンデスクのメキシコ進出を計画していて、適している人はいませんか?”と日本事務所のマネジメントパートナーに聞いたそうです。マネジメントパートナーは、“そういえば、メキシコによく行っていて、面接でスペイン語を話せるってアピールしていたるやつがいたな”と私を思い浮かべてくれました。

実は、グラントソントンに入所してからも毎年メキシコには旅行で行っていました。長期休暇ができたら1週間メキシコへ遊びに行っていたのですが、中米までわざわざ行く人も少なかったため、目立っていたようです。

そんな折に、ジャパンデスクからメキシコ進出の話が来たもんですから、“行くなら比留川さんでしょ!”という感じで声をかけてもらいました(笑)。ただし、”メキシコに行かせるけど、必ず2年で帰ってきなさい”という期限付きだったんですけどね。

当時のグラントソントン メキシコにとって、外国人を受け入れるのが初めてだったため、ビザの取り方など手続面から苦労し、行くと決まってから1年程かかってやっと赴任できました。しかし、当然にメキシコに到着後も、“そもそも、ジャパンデスクって何やるんだっけ?”といった感じで現場はふわふわしたような状態でした。

――そこで、比留川さんのシンガポールでのジャパンデスク開設の経験が活きたのではないでしょうか。

その通りです。かなり役立ちましたね。当時はすごく辛かったですが、シンガポールでの半駐在経験があったおかげで、何をしなければならないかが自分の中で明確だったため、業務内容という意味では、すんなりメキシコに入ることができたと思います。

――メキシコへの駐在に誘われた際に、悩みはなかったのでしょうか。

悩みは特にありませんでした。世界一周会計士の2人と一緒ですよ!
当時、親も元気だし、結婚していないし、というか彼氏もいなかったため、名残惜しいものがなかったんです。言語も飛び込んでしまえば何とかなる、というスタンスでした。
不安が全く無かったと言えば嘘になりますが、でも何かあったら日本に帰ればよいし、基本的に大丈夫だと考えていましたね。

――あれ?そういえば、2年から3年の期限付きで駐在に行ったはずなのに、なぜ現在もメキシコにいらっしゃるのでしょうか。

ライフスタイルの変化にも何も捨てるものがなくて、残すものがなくて来ているわけですから、すごくオープンに過ごしていました。そんな折に、現地で彼氏ができまして、私も40歳手前になっており、来年は40歳、じゃあ結婚しましょう!という流れで今の旦那さんがいます(笑)。

日本の文化は十分に理解してくれるのですが、日本語はできませんし、そもそも勉強する気もないため、もし一緒に日本に来るとなったら大変なことになる、と考えていました。私が日本に住んでいた時に中南米の人たちと交流があったのですが、夫よりは日本語が話せて、基本的な会話は理解できるような人たちですら、自分たちの国を恋しがっていたのが印象的だったからです。

きっと、日本人と仲良くなることができても、彼らと同じルーツの人たちと比べれば、心が通うほどの仲にはなれないのだと思います。ちょっと壁があるんですよね。だから、旦那と一緒に日本に行ったら近い将来に必ず離婚してしまう、と容易に想像できました。

そのため、メキシコに残り続けるかどうか、にはそれなりに葛藤がありました。もし、残るとすると、税理士はもう辞めなきゃいけなかったからです。その時はまだ、駐在でのメキシコ滞在だったため、税理士会にも入っていたのですが、雇用関係が日本と切れてしまうと、在籍を継続することができず、諦めないといけませんでした。

極論、“結婚するか、日本との(仕事やキャリアの)縁を切るか”、みたいな決断になり、最終的に私はメキシコを選びました。なんだかんだ、もし何かあったとしたら日本に帰ることができますし、縁を切るとは言ったものの、税理士はまた登録すればなれますからね(笑)。

メキシコに残りたい、ということをメキシコのマネジメントパートナーに話したところ、“Welcome!!”と言ってもらえて、こちらに残り今に至ります。

――今は現地法人に契約を切り替えているのでしょうか。

はい。切り替えていて、今は現地契約です。もう日本円はありません(笑)!

つまり、最初の2年間は日本からの駐在員として在籍し、残り7、8年は現地法人の職員として働いていることになります。引き続き国際税務をやっている訳ではないですが、一応税務畑から来ているため、メキシコの会計よりも税務の方に興味があり、社内の税務の研修には必ず出席していますし、こっちの大学の授業をとって通っていたりします。

(ユカタン半島バカラール_7色の海)

――話は変わりますが、メキシコでの日系企業の進出の状況を教えてください。ヤクルトとかはよく見かけるなぁと思いました。

ヤクルトはメキシコでもかなり歴史がありますね。40年ぐらい前からメキシコに来ていると思います。

――ヤクルトは、ブラジルで成功して中南米に勢力を広げているような印象があります。他の日系企業はどうですか。 

マルちゃんマークの東洋水産も成功しているイメージです。マルちゃんは元々アメリカのロサンゼルスで流行ってからメキシコにも進出し、今では南米でも割と手を広げているのではないでしょうか。あとは日産もメキシコに来ている日系企業の中で代表的ですね。実は、メキシコでは日産がトヨタよりも販売台数が多いです。

――そうなんですね!言われてみれば確かに、日産の販売所を多く見かけた気がします。

日産はメキシコではかなり根付いており、もう60年ぐらいになると思います。メキシコ国内での販売シェアでみると、フォルクスワーゲンと1位を争っているくらいです。

日産もメキシコ進出当初は、ダットサンというブランドで製造販売していましたが、徐々に日産になっていきました。メキシコは、隣国アメリカやカナダの輸出向けに安い労働力を使い製造をする、いわゆる生産拠点となって、出来上がった製品を輸出するビジネスで栄えているんです。そのため、外資誘致も積極的に行っています。

メキシコ北部のアメリカとの国境地帯での組み立てビジネスを“マキラドーラビジネス”と言います。今は衰退気味ですが、当時は非常に流行っていました。メキシコといえば、メイン産業が自動車部品産業等のマキラドーラビジネスで、ほぼ8割方が北米輸出向けという状況でした。そんな中、フォルクスワーゲンやフォード、クライスラーの工場とともに日産もメキシコ進出しており、私がシンガポールの半駐在生活が終わった直後ぐらいに第2工場、第3工場を拡張し始め、その時期に他の日本の自動車メーカーのマツダやホンダ、トヨタが進出してきましたね。それに伴って、Tier1、Tier2の下請け会社もメキシコに誘致され、あれよあれよと日系企業の進出が増えたんですよ。

――おお、では、近年も日系企業はどんどんメキシコに進出しているのでしょうか。

残念ながら、そんなことはないです。

2012~2014年ぐらいまで上り調子で日系企業が増えましたが、海外進出の経験がこれまでない会社が多く、特に下請けの中小企業が足踏みをし始めました。

それはそうですよね。進出した日系企業は、自動車部品産業がメインで、デンソーレベルの上場企業レベルであれば大丈夫だと思いますが、Tierでいうとその下の下のそのまた下の企業まで来てしまう状況です。ただでさえ、メキシコだとスペイン語が必要なのに、英語が苦手な方たちがたくさんいらっしゃったんです。

さらに、生産部長だけ駐在で来るという企業も多く、アドミの分野を手伝える駐在員があまり来ませんでした。そうすると、日本語でサービスしている現地の法律事務所や会計事務所を探すことになり、そこにグラントソントンメキシコのジャパンデスクが正にマッチしました。

しかしながら、その後、トランプ政権が始まり、“メキシコとの国境に壁を作る”と言い出して、壁が作られたり、アメリカの自国産業や自国経済を守るためにメキシコへの進出を控えるよう米系の会社に要請したり、結果的に、フォードがメキシコから撤退し、トヨタも生産をやや縮小する形となりました。このようなアメリカからのプレッシャーによって、2016年ごろから進出ムードが冷え込んでしまったんです。現在、メキシコに進出している日系企業は約1,300社程です(※2023年7月時点)。

――想像より全然多いです!

世界の日系企業の数でトップ10入りしているはずですよ。確か、1位が中国やアメリカで、ドイツ、台湾には勝っていないかな、くらいです。第10位ぐらいだったと記憶しています。

(2021年海外進出日系企業拠点数調査 by 外務省)

――そんな日系企業進出数が第10位の国で、トヨタよりも日産が勝っている点が驚きです。また、中南米では、アメリカやカナダの企業が多く進出しているため、日系企業が進出しづらいとブラジルで教わっていたにもかかわらず、メキシコにはこれだけ進出しているという点も驚きです。

日産の工場拡張の時期に、他の日系メーカーも進出し始めたという話をしましたが、そのタイミングで本当に多くの企業が来ました。今ではもう、当時の3,4倍ぐらいの企業数になっています。2016年の冷え込みがあった関係で、昨今は比較的進出も落ち着きました。

――比留川さんがメキシコに来て、ジャパンデスクとして本当に何もないところから始めた際に、大変な思いをたくさんされたと思います。その中でも特に大変だったエピソードを教えてください。

一番苦労したのは、メキシコ文化を理解する点でしょうか。

特にコミュニケーションの面で、納期が守れないとかレスが全くないとか、本当に大変です。何度もリマインドしたらようやく返事が返ってくるような感じです。さらに、その答えも曖昧で解決にならなかったり…。業務の半分ぐらいがリマインドなのではないかと言っても過言ではないくらいです(笑)。自分が仕事をやる分には全然いいのですが、メキシコの方たちと一緒に仕事をするとなると、今でも全然理解できないところが多いです。
仕事内容というよりは、メキシコ人との仕事でのコミュニケーションが日本人と違いすぎて、慣れるのに時間を要しました。

――メキシコ人の仕事観も併せて教えてください。

そういう意味では仕事に対するスタンスは、優先順位が2番目か3番目ぐらいの方が多いです。1番は家族・恋人。それが必ず優先ですね。

メキシコは7月が卒業式シーズンなのですが、お子さんがいる方は必ず休暇を取っています。本当に家族のことや家族行事を第一優先にするんです。そうではない日本人的な仕事一筋の人もいるかもしれませんが、家族優先ということを上司やチームメンバーが理解できないと、そのチームは成り立ちません。私は仕事が好きなのですが、夫によく怒られてしまいます(笑)。

――メキシコ人と働いていて、困ったことを教えてください。

私がせっかちな面もあると思いますが、何か質問した際に、イエスかノーの回答が欲しいのに、“それがさあ~~。〇〇と思うんだけど、△△とも思ったんだよね~。”と、だらだら話が続いて結局結論が出ないときに困ります。というか普通に話が長いんです(笑)。

――納期を守らないことや話が長いこと、リマインドが比留川さんの業務の大半を占めるというところがカルチャーショックだったのですね(笑)。

シンガポールでは納期を守らないことやリマインドをひたすらしないといけないことは特になかったのでしょうか。

シンガポールでも、もちろんありました。日系クライアントに“あなたのチームは何をやっているんですか?”とよく怒られましたよ(笑)。メキシコに来た当初は、シンガポールだけではなく、こっちでも同じことがあるんだなと感じたのを思い出しました。

――どこの国の方も苦戦されていたイメージがあります。日本から海外に出ると、これらは降りかかってくるものなんですね(笑)。
次に、メキシコに旅行で来ていた時の印象と実際に生活し始めてからの印象の違いについて教えてください。

メキシコ人は用心深く、人を信用しない、というのがこちら来て変わった印象です。

陽気でおおらかに見えても、意外と家族以外の人を全く信用していません。安全な国ではなく、流しのタクシーに乗ってしまうと基本ぼったくりにあってしまうような環境です。最近は、Uberタクシーが主流になったため、比較的安全になりましたが。

あとは、道を歩いていたら後をつけられて、所持品を盗まれてしまうことや、公共交通機関の地下鉄やバスの中ではスリが多発しています。

旅行の間は気を付ければいいやくらいの軽い感覚で公共交通機関なども利用していましたが、こちらでの生活では徹底的に利用しないようになりました。メキシコ人の旦那でさえ、地下鉄やバスには乗らず、必ず車で移動します。

メキシコに駐在で来たばかりの頃、事務所から歩道橋を渡って歩いて5分ぐらいのところに住んでいたため、徒歩通勤していたのですが、当時のマネージングパートナーに“いやいや、いくら近くても徒歩はダメだよ。徒歩5分の距離でも危ないからタクシーで来なさい”と言われたのを今でも覚えています。それくらいみんな用心しています。

――確かにギャングの話も有名じゃないですか。だからこそ、防衛的な管理として身に付いているのかもしれないですね。

日本は性善説ですけど、メキシコは本当に性悪説です。

――それで言うと、今までの10年間で事件に巻き込まれたりしたことはありますか。

無いのですが、ただ、未遂は何度かありました。

昔住んでいたアパートで外を見ていたら、発砲事件を見かけたり、子供が誘拐されそうになったりしたことがあります。

子供がまだ小さい時にメキシコシティの近くにあるリゾートビーチのショッピングセンターに行った時のことです。メキシコ人の子供に自分の子供が誘拐されそうになりました。娘は2歳でしたが、5歳ぐらいの子供に、“かわいい、一緒に遊びに行こう”と声をかけられて、ずっと手を繋いで離してくれませんでした。

実は、それは子供連れさりビジネスというメキシコではよく使われる子供を利用した手法で、子供同士だから警戒せずに連れていかれ、待ち伏せしていた大人に連れ去られてしまうという手口のようです。

実際は、反対側の手をずっと夫が持っていたため、娘の連れ去りを阻止できましたが、今考えてもヒヤッとしますね

――ちょっと目を離しただけでも本当に怖いですね…。子育ては治安的に大変でしょうか。

小中学校は必ずドアtoドアで送り迎えしています。
近所の公園に一人で遊びに行ってくる、は絶対NGですね。

――比留川さんの今後の展望を教えてください。

メキシコジャパンデスクとしての付加価値をより付けるために、新しいやり方を見つけたいと考えています。

今までほぼワンオペ状態でジャパンデスクを運営しているため、考え方や行動がワンパターンになっています。変化をつけるためには未経験でもいいので若い人を採用して一緒に仕事をする中で新しい気づきを得たいと思います。素朴な疑問がビジネスチャンスにつながることもありますから。また、グラントソントングループ内の他国のジャパンデスクに比べてメキシコは日系クライアント数が少ないのでより一層の新規クライアント獲得は常に課題です。

個人的にはもっと社交性を身につけなければいけません。正直、知らない人と会話するのが苦手なんです。。。

――最後に、若手の税理士ないしは会計人材や、海外志向のある方向けに一言お願いします。

もし、海外に行きたいけれどくすぶっているのなら、一旦思い切って出てみてください。日本での知識が100%活かせるかは分かりませんが、どこかでは必ず役に立つし、特に若いうちはしがらみが少ないため、何でも挑戦してみてください!

3.最後に

皆さん、いかがだったでしょうか。

税理士というと、日本の税務をやる印象が強く、国内業務が多いイメージを持っている方がほとんどだと思います。しかし、国内の税務を知っているからこそ、海外進出した日系企業をサポートでき、海外でも活躍ができるのだ、ということを比留川さんのインタビューを通して気付くことができました。

また、海外×税務となると、難易度が高すぎて、何となく挑戦しづらさがあるようにどうしても感じてしまいますが、実はそうではなく、意外にも日本国内の業務と大して難易度は変わらないという点は、グローバルで活躍したい方にとって、勇気を貰えるお話だったのではないでしょうか。

比留川さんは、税理士という資格を武器に、昔から志望していた英語が関わる仕事、つまり、海外での仕事に見事に就いており、なんなら現地の方と結婚をして、現地法人と契約までされています。資格の強さを再認識させられるとともに、資格を持って強い想いで挑戦したいことを主張し、人選すれば、願いは叶えられるんだ、という素敵なロールモデルですね。

強い好奇心と行動力を持って、メキシコの地にて力強く活躍されている比留川さん、とっても素敵でした♪

第14弾もお楽しみに!ご清覧ありがとうございました。

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