
公開日:2021/05/18
権威勾配(権威の角度)その1
株式会社Assatteの記事
権威勾配とは
一般に、職場でのポジションが自分より高い人ほど(課長より部長、部長より社長など)、話したり、意見を伝えるときに緊張すると思います。これは「権威」と呼ばれる目に見えない力が影響しているためです。
「権威」は、地位、資格、実績や経験、知名度、人間性など様々な要因から生じるもので、客観的に測定できるわけではありません。あくまで他者が認める主観的、社会的な力です。しかしながら、国や社会、業界や学会、企業や団体、職場やチームまで、あらゆる組織の人間関係に存在します。この力は「他者の行動を左右する」ことができるため、組織の運営において最も重要、かつ扱いに注意が必要な力と言えます。
「権威勾配(Authority Gradient)」とは、この権威の強さを「相手との角度」で表したものです。権威の強さは、必ずしもポジションや年齢で決まるわけではありませんが、わかりやすいように本稿では権威が強い人をリーダー、それに従う人をメンバーとしてご説明します。
権威勾配がきつい場合
下の図のように、リーダーとメンバーの間で権威勾配がきつい(権威の差が大きい)と、リーダーはメンバーに指示を出しやすいですが、反対にメンバーはリーダーに意見をしにくくなります。
日本企業のように階層構造がはっきりしている組織では、権威勾配がきつくなる場合が多いと言えます。上から下への指示が出しやすいため、組織の統制を取るためには都合が良いのですが、一方で現場からの意見や情報があがりにくくなる傾向があります。その結果として、現場が抱える問題が放置されたり、新しく創造的な意見が集まらないなどの状況が生じる。さらには権威が強い立場の人間が傲慢になり、不正や粉飾などの問題に発展する場合もあります。
極端にきつい権威勾配を放置すると、組織の存続にかかわる重大な事象の見逃しにつながるかもしれません。特に、組織内の公式的地位が高い上位マネジメント層、難関な資格(公認会計士や弁護士、医師など)を有する専門的職業に従事する人は、自分が意図しなくても、他のメンバーとの権威勾配がきつくなりやすいです。そのため、これらに該当する人は、自分のポジションや組織への影響力を自覚し、権威勾配の調整に努めなくてはいけません。
権威勾配がゆるい場合
権威勾配がゆるい場合も、注意しなくてはならないことがあります。本来は指示を出すべきリーダーの権威がメンバーと差がない(権威勾配がゆるい)と、指示を出しにくくなる、あるいは指示を出してもメンバーが動いてくれないなどの状況が発生する場合があるのです。

最近はフラットな関係の組織が増え、誰もが意見をしやすい心理的安全性の重要性も指摘されています。しかし有事の際に、リーダーの指示が行き届かなければ、メンバーの動きが統一できずに大きな問題に発展することもあるでしょう。意見が言いやすいことと、指示を聞かないことは、本来は同じことではありません。しかし日ごろから権威勾配がゆるい状況が続くと、メンバーがこれらを混同してしまい、リーダーの意思決定が機能しなくなるリスクが存在するのです。
権威勾配との向き合いかた
権威勾配は、きつすぎても、ゆるすぎてもいけません。また相手との関係性、その時の状況によって適切な角度は変化します。そのため、リーダーは権威勾配に対して柔軟性と厳格性の両方の態度が求められます。
例えば、メンバー全員の知識や情報を結集する段階では権威勾配をゆるやかにしなければなりません。地位や過去の成功や実績におごることなく、一人の人間としてメンバーと向き合い、メンバーが意見を出しやすい雰囲気づくりしておくことが大切です。以前は、このような状況は「飲み会」や「雑談」のタイミングで実施されてきました。しかし最近は機会を設けること自体が難しくなっています。
一方、組織としての指示を厳格に伝えることが必要な場面では権威勾配をきつくする必要があります。最近、自分への評価やハラスメントを気にして、メンバーに強く言えないリーダーが増えているようです。もちろん親しみやすいリーダーであることは重要です。しかしトラブルなど、不測の事態が起こった際に、メンバーがリーダーの言葉に重みを感じなければ、組織は統制が取れず崩壊してしまいます。
上記の例だけでなく、リーダーはメンバーとの間の権威勾配を常に意識し、時にはゆるく、時にはきつくしてメンバーに対応する必要があります。しかも、その対応は対話だけでなくテキスト(メール、チャットなど)のやりとりにも反映させなくてはなりません。
リーダーが権威勾配をコントロールする上で、最初に取り組むべきは自分が使う言葉を把握し、人や状況によって使い分ける技術を身に付けることです。そこで次回は、権威勾配の調整に役立つ「言葉の使い方」についてご紹介致します。
この記事を書いた人
株式会社Assatte(アサッテ)です。「未来に進む勇気をすべての人に」を理念に、個人と組織が少し先の未来(明後日)に歩みを進めるご支援をさせて頂いております。心理学の専門家(Ph.D)や、組織コンサルティングの重鎮、大学教員などのメンバーが「アリストテレスに勝つ」ことを目指し、日々、人間理解への探求と実践を続けています。
すべての人が過去や現在に囚われることなく、未来に進むことができる。そして目の前の人だけでなく、その人が影響を与える次の世代の人のことまで考える。そんな社会は、より明るく、きっと面白いものであるに違いありません。その実現に向けて、CPASSでは「仕事」や「人間関係」、そして「未来」につながる情報や機会を提供したいと考えております。
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