公開日:2023/07/08
【世界一周会計士】会計士の海外でのキャリアパスを考える ~海外へ飛び出すきっかけ、カルチャーショック、海外でのサバイブ方法~
世界一周会計士の記事
この度、太陽グラントソントン・アドバイザーズ様にて、これまで様々な会計士のインタビューの内容や世界一周中の経験を踏まえ、海外で働くイメージをするための講演の機会を頂きました。内容は主に海外へ飛び出すきっかけ、カルチャーショック、海外でのサバイブ方法について。今回の記事はその講演の内容となっております。
自己紹介
(司会)本日はよろしくお願いします。まずは簡単にお二方の自己紹介からお願いします。
(古作)初めまして、古いに作ると書いて古作と申します。本日はアフリカのウガンダより参加していまして、家の周りからはニワトリとかヤギの声が聞こえてきます(笑)。
私はあずさ監査法人のグローバル事業部に5年半在籍していました。途中、監査法人のDXを推進する部署に転籍し、統計分析による監査や、次世代監査(例えばドローン監査)の導入などに携わっていました。
個人的にはすごく楽しく仕事をしていましたが、監査法人を2022年7月に辞めて、8月から世界一周を始めました。
本日は「海外で働く」というテーマですが、実は世界一周中に海外で起業した独立会計士や、海外のファンドマネジャーや経営者の方に述べ20名近くインタビューをしてきました。その内容を織り交ぜてお話しできればと思います。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
(司会)続いて山田さん、お願い致します。
(山田)ご紹介にあずかりました、山田智博です。今朝はニワトリの鳴き声で起きました(笑)。監査法人に入社後、独立及び起業を経て、世界一周の旅に出ています。独立時にはキャピタリストやリクルートコンサル、キャリア支援やベンチャー支援に携わっていました。チャレンジとして、同期4名とDKKTという会計コンサル会社も設立しました。
個人的に会計士でどのようなキャリアの可能性があるのか、についてお話をするのが好きなので、この回でもし興味が出てきましたら、TwitterやFacebook等のSNSでコンタクトいただけると嬉しいです。
Twitter https://twitter.com/tmhr_yamada?s=20
古作さんとも被りますが、世界一周中にインタビューした独立会計士の方達からお話し頂いた面白いエピソードや、実際に世界一周して感じたことをシェアして、少しでも海外で働くことに興味を持っていただけると嬉しいです。
海外に飛び出したきっかけ
(司会)早速、内容の部分に入っていきたいと思いますが、そもそも何故海外に行くことになったのか、そのきっかけを教えてください。
(古作)はい、なぜ監査法人を辞めて海外周遊をしているのかについてですが、正直、完全に思いつきです!ただ、なぜ始めたのかについて、いきさつを簡単にお話しします。
まず、監査法人に勤めている時は、かなり忙しめのチームでしたが、非常に楽しく仕事をしていました。ですが頭の片隅に、将来に対する漠然とした不安が常に付きまとっていました。
そんな最中、情報収集の一環でCPA Talksという公認会計士協会主催のイベントでVoicyの緒方さんの講演を拝聴しました。世界一周に行ったのち起業、というエピソードを聞いたのですが、当時は「凄い人がいるな」と思った位でした。
しかし、とある方にポロッとそのことを話したら、「いいじゃない!」と背中を押されたのです。始めは何となく考えていた一つのアイディアでしたが、考えをアウトプットすることで、「段々としなくてはいけない」と考えるようになりました。
最終的に世界一周に行くことを決定づけたのは2つの理由です。
理由の1つ目は、多様性を肌で感じたいと思ったためです。
多様性は究極的には「なんでも許せる仏の精神」みたいなものだと思っています(笑)。インドネシアには”Jam Karat”という、時間はゴムのように伸び縮みするという言葉があります。
日本では電車の時間や期日などは死に物狂いで対応しますが、海外ではそのような日本での常識は中々通用しません。見たことのない世界が多すぎるので、そんな自分の凝り固まった考えを、文字通り壊してくれる体験をしたいと思っていました。
もう一つは、人生一回きりだし、面白いことをやってみたい、チャレンジしたいという単純な理由です。ありきたりな言葉ですが、「人生は一度きり」。世界一周でバックパッカーは今、この20代のタイミングでしかできないと思って始めました。こんな破天荒な感じですが、一旦会計や監査というものから離れつつ、世界で多様性を感じながら生活しています。以上です!
(司会)ありがとうございました。山田さんもお願いします。
(山田)私も海外でキャリアを積んでいる訳ではないので、なぜ海外で活躍する会計士にインタビューをしているのかと、なぜ世界一周に行ったのか、を簡潔にお話できればと考えています。
まず、大前提として、気持ち悪いかもしれませんが、私は会計士の資格が大好きです!(笑)
なぜならこの資格のおかげで様々な方とのご縁があったり、自身の生活を安定させることができたり、計り知れないほどの恩恵を受けているからです。であれば、よりこの資格を持つことの素晴らしさを色々な人に伝えていきたいですし、何よりも「こんな素敵な資格だよ」と伝えていきたいという、強い思いがあります。
では、本題に入っていきます。なぜ海外でインタビューしているのか。
「会計の知識は世界共通」という言葉をよく聞きますよね。
ここで質問です。どれくらいの日本人が実際に海外で活躍しているのか、日本以外でどんな形で会計の知識が活きているのか、皆さんはイメージがつくでしょうか?
抽象的には思い浮かんでも、具体的には出てこないものですよね。
私は、それらを実際に生で見聞きしたいし、聞いた上で会計士の方達のグローバルでの活躍をシェアしたいと考えています。それを見た人が勇気を貰ったり、ロールモデルとしたりすることができたらなんて素敵なことだろうと思い、活動しています。
次に、世界一周をめざしたきっかけは大きく分けて3つです。
1つめが人生をエンタメ化したい、2つめが夢中を見つけたかった、3つめが今しかないと思ったからです。
私は人に楽しんでもらえる・喜んでもらえるということに何より喜びを感じます。
だからこそ、関わってきた人にはポジティブな影響を与えたいし、生涯を通して身の回りの人を喜ばせる・楽しませるようなことがやれたらいいなと思っています、Twitterの発信などをはじめたのもこれに起因しています。
皆さんに質問です。
目の前に世界一周をした会計士がいて、彼はグローバルで活躍する多くの会計士の話を見聞きしてきた。そんな彼になんでも話を聞ける、なんて状況があったらワクワクしませんか?
海外での経験や体験を共有したり、共感できたりすることで、エンターテイナーとして皆さんを楽しませられるようになりたいと考えています。
自身のキャリアについても深く考えていました。
そんな折に今時点で、成し遂げたいことや本気で取り組みたいことが無いのであれば、「世界一周にでも出て、異国の価値観や文化に触れるのもありじゃないか?」と思い立ちました。
思った通りで、やっぱり海外は全然違いますね(笑)!本当に考えさせられることが多いです。
ちなみに、この資格が強すぎて「帰国後に仕事あるか?」については全く悩みませんでした。
監査法人に勤めたことで最大限に失敗した際のサラリーのボトムラインを知り、独立したことで個人でも生活できる程度には食べていけることを知り、会社を設立して会計人材の需要が計り知れないことを実感したからです。
海外でのカルチャーショック
(司会)では早速メインテーマに入っていきたいと思います!
自己紹介で「多様性」というキーワードが出てきましたが、私もフィリピンに駐在したとき、まず始めに乗り越えなければいけない壁が「海外の文化を受け入れること」でした。私は海外1カ国だけでも十分カルチャーショックを感じたのですが、世界周遊されているお二人から、何か海外でのカルチャーショックに関するエピソードがあれば教えてください。
(古作)正直、世界一周に行く前は、そもそも住むことが難しいといった「衣食住」という観点でカルチャーショックを受けると思っていました。ただ実際に世界を回ってみて、予想以上に世界が発展していることに驚愕しました。
例えば、カンボジアの首都のプノンペンは高い建物が沢山有ります。どのくらい発展しているかというと、カンボジアには100m超えのビルが79棟もあるみたいです。正直、カンボジアに行く前は、「赤い土やボランティアでできた学校」のイメージしかなかったため、自分の知識がいかに浅はかだったのだろうと猛省しました。
(写真)プノンペン中心街
インタビューの一環でKPMGカンボジアを訪問する機会もありましたが、テナントが入っているビルの高さが178mもありました。
海外でのカルチャーショックという点では、衣住食は問題なかったのですが、個人的に「文化の違い」で苦しんでいます。
文化の違いにも大きく2種類あり、一つが宗教文化、もう一つがコミュニケーション文化です。
まず、宗教文化です。日本では宗教という存在自体、怪しまれる傾向にありますが、世界では無神論者の方が危険だと思われる国が多いです。例えば、入国の際にはイミグレーションカードを記載する必要がありますが、アラブ諸国の場合、宗教の欄を記載しなければなりません。ちなみに空欄にしてしまうと、テロ行為を行うような危険思想を持った人だと認識されてしまうかもしれない点に注意です。
私は仏教徒ではないですが、池上彰さんの本に従い、Buddhist(仏教)と記載しています。それくらい宗教は重要視されるのです。
特に日本人はイスラム教とヒンドゥー教の知識が不足しているため、グローバルに働かれたい方は宗教の勉強をした方が良いと思います。イスラム教はお酒や豚がNG、ヒンドゥー教では牛は神聖な生き物なので食べてはいけない等、ビジネスにおいても宗教文化が入ることが多々あります。
そして、もう一つがコミュニケーション文化です。日本人は感情表現が控えめで、議論の対立を回避する傾向にあると言われていますが、ビジネスをする上では、「相手がどのようなコミュニケーション属性なのかを事前に把握する」必要があると考えています。
かなり極端な例になりますが、イスラエルのとあるKPMG FASのシニアマネジャーの方にエピソードを聞きました。そのシニマネの方がタクシーに乗っていたときに、パートナーとアソシエイトが後部座席で、現地語で激しい罵詈雑言を浴びせ始め、口論を始めたのです。不思議に思い、後で「なんで喧嘩していたの?」と聞いたら、なんと「郊外に住むか都心に住むか」ということを議論していただけだったのです(笑)。イスラエル人は、コミュニケーションが日本人と真逆で、対立は厭わないし、感情表現を出すのがスタンダードにあるようです。
なぜこのようなコミュニケーションなのかというと、イスラエルに居る多くの人は、世界各国に離散したユダヤ人の方々です。中東系の方もいればヨーロッパ系の方もいて、同じ国の人でも、実は共通するバックグラウンドが何もありません。そのため、直接的なコミュニケーションをするのが彼らにとっては当然なのです。
このように海外に出た場合は文化の違いで面を食らう場合があるため、その国の歴史や文化、そしてコミュニケーション方法について、下調べをした方が良いと考えています。
(山田)古作さんの感じている文化の違いは正に感じていて、宗教文化やコミュニケーション文化の違いを話には聞いていたものの、いざ目の前にすると驚くことが多かったです。
例えば、宗教が絡むと豚肉やお酒は本当に摂取出来ないですし、外国人向けにお酒を一部解禁している国もありますが非常に高額で、1杯1,600~2,000円とかします(笑)。 私たちは世界一周ということで、一国の滞在期間がせいぜい1週間程度でしたので、食事の制限があった場合でも耐えられていましたが、本腰を据えるのであれば、国によっては考慮した方が良いかもしれません。
特にカタールでは、そもそもオマーンから3週間ほどお酒を飲めずにいて、さらにワールドカップの関係で2週間ほどカタールにいましたが、お酒が飲みたくてしょうがなくなりました(笑)。バックパッカーであるにもかかわらず、2,000円のお酒でも飲めるだけで感謝と、何杯も飲んでしまいました。
また、食の話になりますが、イスラエルではユダヤの宗教の関係上、ソーセージやハンバーグの牛肉加工品は血抜きをするらしく、パサパサになってしまいます。しかも、イスラエルは物価の高い国ランキング6~8位であるため、ご飯もかなり高いです。
マック史上一番高い金額1,500円のビックマックセットを買いましたが、人生で一番美味しくないハンバーガーでした…。それでもマックには行列ができているし、店舗数も非常に多いです。宗教が絡むことによる当たり前の食文化を痛感したワンシーンでした。
コミュニケーションに関しては、イスラエルの話が出ましたが、イスラエル人の価値観というのは日本人と真逆です。KPMG FASの方には、価値軸のマトリクスを用いて説明して貰いましたが、日本とイスラエルは対角線上にいます。
(写真)イスラエルと日本のコミュニケーションスタイルは真逆
日本は空気を読む文化に長けていますが、イスラエルではズバリ伝えることが基本です。向こうからすると、日本人は「結局、何を言いたいのか分からない」という感想を持つことが多いようで、反対に日本人からすると「イスラエル人は、なぜそんなにアタックしてくるのだろう?」と感じることがあります。
彼らは超合理的でそもそも対角線上にいるということを事前に理解しておくだけでも、コミュニケーションの行き違いを防げると思いました。
イスラエル人との交流で面白いなと感じたのが、私がイスラエルのテルアビブで「ビルたっけぇ~!」って写真撮っていたら、現地の若者が「俺はあのビルが最も綺麗に見えるポイントで写真撮っていて、この写真をシェアするから君はもう写真を撮影しなくていい、ほら、見てごらん」と話しかけてきたのです(笑)。超合理的だなと思いました。
アフリカも面白いですよ。まず、アフリカですれ違う方たちは私たちが旅行者だからか、皆さん知らない人でもグッとポーズを送りあいます。そこで、スワヒリ語でジャンボ(こんにちは)、だったり、サワサワ(大丈夫)なんて言ったりしたら大喜びです。日本の、ましてや東京でそんなことしたら不審者ですよね(笑)。
(古作)アフリカは想像以上に都市が発展しています。アフリカ最貧国の一つとも言われているエスワティニにも高級ホテルのヒルトンホテルはありましたし、皆さん「アフリカ=ライオンやゾウ」というイメージですが、そんなの街で見かけられるわけがないくらい発展しています。
とあるケニア人が初めて日本に来た時に「ライオンを初めて見た!」と動物園で叫んだらしいです(笑)。ケニアではサファリ・国立公園に行かないとライオンは見られないらしいです。
(写真)ケニアではマサイマラ国立保護区などのサファリ以外ではゾウは基本的に見られない
(山田)アフリカの都市は発展しているけれども、床屋は酷かったですね(笑)。私たちは、アフリカでも散髪しましたが、ハサミを持っている床屋には出会えませんでした。
もう一つ、島国の日本に馴染みがないと感じたのは、地政学リスクは国によっては超重要になるということです。特に過去の戦争の歴史です。肌で感じたのは、①セルビアとクロアチア・コソボ、②イスラエルとエジプト、③ルワンダです。
セルビアにいた時にワールドカップを見ていたのですが、クロアチアが点を取った時に喜んだら、その場にいたセルビア人全員に睨まれてしまいました。旧ユーゴスラビアからの独立の歴史などから鑑みるにタブーだったのかもしれません。
エジプトではイスラエルのステッカーをPCに貼り付けていたら、カフェの店員にキレられてしまいました(笑)。すかさず、イスラエルが見えなくなるようにカフェのステッカーを貼り付けられたのを私は一生忘れないと思います(笑)。
これに関しては、中東戦争の概要は知っていたものの、こんなにも国民感情に響いているものなのかと驚きました。
アフリカのルワンダでは内紛について、深く考えさせられましたね。1994年に国内で大量虐殺が発生したのですが、これが市民同士による虐殺だったのです。これは部族の多数派が少数派を一方的に虐殺してしまう内容で、今でも隣の家に両親を殺した男が住んでいるという状況がまかり通っているなんて、本当に衝撃的でした。
あとは、言わずもがなですが、働き方の価値観ですね。海外では日本人の仕事観の話になると、大体「日本人=クレイジー」と言われるそうです(笑)
あくまで話を聞いた限りでの個人の感想ですが、日本3大クレイジーは、①細かすぎ、②働きすぎ、③時間にこだわりすぎ、です。
特にインド人からすると、期末でもないのに貸借対照表を1円単位で合わるのは、やりすぎだそうで、「百万単位の決算書で1円ズレていようが結果は変わらない、少し合わなければ雑費にしようぜ」という感覚です。
また、欧州やイスラエルではあくまでライフの方が重要視されているため、17時半以降働くというのは、よほどのことがない限り基本しないそうです。更にタイやベトナムでも同様に「やることをやればOK」。時間に拘束されるというのは特にない様子。
とはいえ、この3大クレイジーを駆使することが日本人の競争優位性になり、バリューになっていくのだと思います。
(司会)ありがとうございました。私が感じていたフィリピンのカルチャーショックが大分マイルドに思えてきました(笑)。
山田さんが話題に挙げた日本人の3大クレイジーは私も凄く感じました。最初にマニラに赴任した当初は、日本の働き方が染みついていますから、当時は現地でのショックを受けました。その後、5年駐在して日本に帰国したら、しっかりフィリピンに染まっていたせいか、逆カルチャーショックを受けてしまいました(笑)。日本人の感覚に戻すのにかなり時間がかかりましたね。
ハードシングスや海外でサバイブするのに必要な事
(司会)実際に海外で活躍されている会計士を世界各国で見て、会計士に限りませんが、海外で生き抜くために、途中痛い目に遭うこともあるのではないかと思います。
海外でのハードシングスや海外でサバイブするために、どのようなことを考えているのか。その点についてお伺いできればと思います。
(山田)まず大前提として、海外では意見をはっきり伝えることが重要だと考えています。イスラエルの件でも話題に挙がりましたが、日本人の良い所でもある、空気を読んだり、オブラートに包んだり、気を遣ったりという所作は、「結局何が言いたいのか分からない」という印象を与えてしまい、仕事上悩みの種になってしまうという話はよく聞きました。
特に英語に苦手意識があり、話すのを避けることは非常に良くないです。仮に拙い英語でも意見をしっかり伝えるために積極的に話すことが大事です。
また、前の話題にも関連しますが、最も重要なことは「文化を理解し、日本の価値観を外国人に期待し過ぎないこと」だと考えています。
インドで会計士として独立開業されている野瀬さんという方がいて、彼は日本人の中でインド人をこれだけ理解している人は他にいないのではないか、というくらいインド人に精通しています(笑)。
そんな野瀬さんの会社では、奥さんを除いて従業員全員がインド人なのですが、会社を経営していく上で彼らと仕事の価値観を擦り合わせることが何より大変だったと語っていました。
(写真)インドで会計士として独立開業されて11年目の野瀬さん
お話の中で特に印象的だったのが、カースト制度の名残が彼らの考え方に未だ色濃く残っているという点です。自分たちの階層、つまり「担当以外はどうなっても知らない」という考え方です。
例えば、極論雨が降っていたら午前中は仕事に行かなくて良いと考えます。なぜなら、「雨が降って道が混んだのは私のせいじゃない。道が混んでしまったのだから仕方ない。それでも私は来ました」と。
もう少し具体性の高い、行政との事務手続に関するエピソードを紹介します。
私たち日本人の考えだと、行政手続では、書類を提出した後に役所から許可証が下りて、始めてその仕事が完了したと認識するはずです。
一方で、インドでは書類を提出した時点で、彼の仕事は終わりだと考えてしまうようです。許可証が指定の日を過ぎて受け取れていなくても、役所に督促はしないのです。なぜなら、「私の仕事はもう終わっている、許可証を出していないのは役所の仕事で、私には関係ない」というビックリするような考え方をします。
カースト制度という考えは、身分だけではなく、この苗字の人はこの仕事、といった職業まで決まっていた歴史が過去にあります。このような相手の価値観や文化の違いを理解して、対策を考えたり、最低限守って欲しいラインを伝えたり、などの工夫を施して乗り越えることが大事だと感じました。
(古作)海外でのサバイブという観点で、インド人の「言うのはタダ精神」が個人的に勉強になったので共有させてください。
これまた、インドで独立して11年目の野瀬さんのお話です。
社員から唐突に「来月から給料を倍にしてください」と法外な昇給を求められることがあるそうです。日本では考えられませんが、インド人の方々は、自分の希望を伝えるという点にフォーカスしていて、「そうすることによって相手がどう思うか?」ということは良いか悪いかは置いておいて、後回しにする方が多いようです。
野瀬さんが飛行機に乗ると、インド人が自分の席に勝手に座っているというシチュエーションに出くわすらしいのですが、声を掛けると、「窓側の席が良い、家族の隣が良い」という、野瀬さんにとってはどうでもいいような理由を並べてきて譲ろうとしません。しかし、CAから説得されたら意外にも直ぐ移動する様です。
彼らは、「言うだけならタダだし、譲ってもらったらラッキーだから、とりあえず言ってみる」という精神で交渉するみたいですね。何が減るでもないし、トラブル慣れしていない日本人が折れてくれたら儲けもの、という軽い感覚。「忖度」という概念が分からない、といった方が分かりやすいでしょうか。
(山田)インドの「言うのはタダ精神」で思い出したのが、インドでは拝金主義の方が多い印象でした。「給料上げてください」という発言は、日本では、皆さん道徳や倫理観を重視するため、憚られることが多いですよね。しかし、多くのインドの方の中ではお金が一番で、自分の家族を養えればOKという考えがあるため、社長に対して平気でそういう発言ができるのです。
その点で、「相手の価値観が何か」ということを知っておかないと、理不尽さを感じてしまいますが、何主義かを理解すると、意外とコミュニケーションが上手くいくと考えています。
(古作)今後、どの国で仕事をするか?という疑問に当たってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスでサバイブする上で、シンガポールの独立会計士の萱場さんという方に伺ったお話で、「国のポジショニングを大切にする」という視点が個人的に勉強になったので共有します。
例えば、皆さん、働く国をどのような理由で決めますか?
住みやすさでしょうか。物価の低い場所でしょうか。
萱場さんが仰っていたのが、「お客さんの属性を考える」という視点です。
例えば、会計士として独立したとして、人件費の安い国に進出したときに、カウンターパートにいる日系企業は何故進出しているかというと、主にコストカットを目的として進出をしていますよね。そのため、「会計サービス=削減すべきコストの一つ」として見られ、報酬をできる限り少なく見積もられる可能性があります。
一方、シンガポールに進出する企業は、節税対策目的の企業が多いです。つまり、適切なサービスを提供したら、適切な報酬を頂くことができます。日系企業を相手にする際には、国によってお客さんの属性が違うということを念頭に置く必要があります。
と考えるとドバイとかは、税金対策で進出している企業が多いですし、実際ドバイで会社を設立された方にも伺ったのですが、ビザも取りやすいみたいです。非常にチャンスですよね。
(写真)オイルマネーや暗号資産で急発展を遂げているドバイの中心街
(山田)「海外で失敗しても日本に戻ればOK」という精神は、本当に全ての海外で活躍する会計士の皆さんを見て感じましたね。ただ、会計士以外の方にも沢山出会ってきたのですが、正直海外でサバイブしてきた方であれば、会計士関係なく、日本に戻ったら何かしらの分野で活躍できるのではないでしょうか。
ベトナムでツアー会社を営む方、インドネシアやシンガポール駐在の方、ケニアやウガンダで飲食店を経営される方、例を挙げればきりがないですが、異文化を理解し、日本の良さも理解し、海外で試行錯誤された方々には、そういった“試行錯誤の上で何とかする”ための考え方のフレームがあるはずです。がむしゃらに海外で数年それを磨き上げた方が、日本で全くそれに触れていない人と並んだ時に、負ける訳がないと個人的には感じています。
資格・語学の重要性
(司会)法人内でも多くの方が「海外に興味があります!」と手を挙げている状況ですが、その中でも、海外に出る一つのハードルとして、「語学」を挙げている方が非常に多いです。私自身もフィリピンに赴任する際には非常に心配していました。
また、先ほどお話に挙がった会計士や税理士といった資格の重要性について、多くの方が感じているかと思います。そのような海外に行きたい方を勇気づけられるようなエピソードがあれば、是非お伺いしたいです。
(山田)まず、語学の重要性について結論を述べると、もちろん重要だと思います!
一方で、私の語学力はというと、てんでダメです(笑)。TOEICは445点しかありません。
それでも、日常生活においては「伝えたい!」という気持ち全開でいけば、意外にもコミュニケーションは上手くいったりします(笑)。とはいえ、電話でのやりとりや、何かを説明するときには英語力不足で困ってしまいますが…。
では、実際に海外で働く際に「事前に」英語ができる必要があるかというと、実はそんなことないというのが、多くの日本人に伺ってみた感想です。(もちろんできるに越したことはないです!)
実際にベトナムで事業立上げをした尾崎さんや、インドネシア現地法人の田島さん、インドで独立開業した野瀬さん、アフリカ6か国に会計事務所を出している笠井さんなど、海外へ出る前は、準備よりも海外に出るという行動を優先させた方々です。
本当に大事だと思うのは、「当事者意識」です。
私自身も国内で仕事していた時は、英語の重要性なんて分かりきっているけど、やる意欲が湧かないし、むしろ国内の業務だけで一生良いとすら考えていました。しかし、やはり海外を回っていると、英語は学ぶべきだと心から思うし、勉強をしようという意欲に駆り立てられました。そして今では国内業務だけで終えるのはもったいないとさえ考えています。
各国に先に飛びだした会計士の皆さんは、現地に赴いてから、まず語学学校に通い、仕事をしながら勉強したとのことです。そして、そのほうがやはり吸収も早いというお話でした。
結論、何が言いたいかといいますと、語学はもちろん重要。ですが、「海外に行きたいけど語学力が足りないから」と足踏みされている方は、ぜひ海外に飛び込む勇気を優先させてほしいです。後から語学はついてきます!先人の方からの教えです。
(古作)英語ができなくても海外で仕事ができるという勇気のでるエピソードがあります。「非英語圏であれば、最初は英語が全然できなくてもいい」と仰っていたのが、先ほどもお話に挙がった、インドネシア現地法人の会計士の田島さんです。監査法人時代のTOEIC点数は585点。そこから現地法人への就職活動を始めたといいます。
では、実際にどういう仕事をされていたかというと、現地法人の場合、実務担当の方、いわゆるインドネシア人が主に英語を使うそうです。会計士としてジョインする場合、専門的見解の論点についての判断が主な仕事で、実質的に英語を使う機会は、定型的なメールの文面の作成や仕訳を英語で覚える程度、だそうです。意外にも拍子抜けしたと田島さんも仰っていました。
もちろん英語圏だと英語は必須で、イギリスなどではバンバン使いますが、非英語圏は世界196カ国の内、138カ国もあるんですよ。と考えると日本以外にも働く環境がありますよね。そう考えると、チャレンジする勇気だけなのかな、と思ったりもします。
(写真)インドネシア現地法人に務めている田島さん
(山田)資格の重要性に関しては、言わずもがなですね。
どの国の経営者や会計士の方とお話をしても、日本人会計士を是非とも雇いたいと言っていました。特に日系企業が進出しているような発展途上国や欧州の国では、資格があればこうも採用が沢山あるのか、と感じさせられます。
また、会計士業界や日本のコミュニティは良くも悪くも、狭いコミュニティだと思っています。これが海外になると更に効いていて、海外に飛び出した会計士を応援したいという、会計士という共通点だけで助けてくださる諸先輩方が多くいると感じています。
実際に、オランダで開業された池上さんという方は、欧州で独立するなら「サポートしたいから、そういう会計士がいたら是非連絡してほしい」と仰っていました。
アフリカも非常に面白いと思います。カルチャーショックで古作さんも言っていましたが、私たちが想像する以上にアフリカは発展し、都市化が進んでいます。人口も増加し、ケニアやナイジェリアなど、これから更に先進国化していくだろうと言われています。実際に日系企業もガンガン進出しているとのことでした。
それらの国でどこでも挑戦の門戸が開けているのが会計士や税理士の資格。
要するに、会計士資格も超重要になるよという話でした!
世界各国の特徴
(司会)ここまでで様々な国のお話が出てきましたが、折角ですので各国の特徴について教えて頂けますでしょうか!こういう話はいろんな国を知っている方でしかないとできないと思いますので。
①アジア
(山田)後になってすごく思うのですが、日本人がめちゃくちゃモテたのが、アジアだったなと感じています(笑)。冗談はさておき、まず東南アジアはよく聞くと思いますが、非常に活気と熱気に溢れていました。街が元気です。
あとは、海外を色々とまわって思いますが、アジアは非常に綺麗だったなということです。
タイやベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール、カンボジアなどなど、相当クオリティの高い街並みと綺麗さを誇っていると思います。
これは中国や日本が近いことから、インフラの整備が早く進んだのではないかなと感じています。
②中東
(古作)中東というと、テロのイメージを持つ方がいらっしゃると思います。イスラム過激派、タリバン等、どうしても危険なイメージが先行してしまいがちです。
「イスラム教が危ない」と思っている方が居たら、正直、それはメディアにやられていると思った方が良いです。世界の4人に1人がイスラム教徒です。まずはその文化を知るべきだと思います。
私のイメージですが、最初に挙がってくるのは、人がめちゃくちゃ優しいということです。サウジアラビアに行ったとき、アラブ衣装のトーブを着ていたのですが、すれ違う人、みんな話しかけてきて、写真を撮ってくれとせがまれたりしました。道を歩いていたら「乗っていくか?」と2回も話しかけられ、車にも乗せてもらいました。勿論タダです(笑)。
(写真)伝統衣装のトーブを着た我々と写真を撮るサウジアラビア人
アルコールやタバコ、俗世的なモノは禁止なため、イスラム教の厳しい国では、ビールは勿論のこと、アルコールが一切飲めません。投機的取引もイスラム教では禁止されているため、カジノもありません。最近はUAEのドバイが、アルコール関税30%を1年間停止するなど、欧米諸国に歩み寄っている傾向は見受けられますね。
③ヨーロッパ
(古作)多くの方がヨーロッパに行ったことがあると思いますので、詳細は割愛しますが、イメージ通り、ソーシャルインパクトを意識した活動を多く行っているイメージです。
ロンドンでは、電気自動車がよく走っていました。驚いたのが、なんとロンドン都内にはガソリン車の通行税がかけられていて、あるゾーンを通過したら、12.5ポンド(日本円で2,000円)。大型車は100ポンドとられます。友人が道を間違えてゾーンに一瞬入ってしまっただけでも、後日写真付き請求書が送られてきたそうです。かなり厳しく取り締まっている模様でした。
あとは、意外と英語を話せない人が多いのも特徴ですね。ヨーロッパで英語圏なのは、実はイギリスとアイルランドと、マルタ共和国の3カ国のみであることをご存じでしょうか。唯一英語圏であるイギリスだけはどうしても英語の能力が必要ですが、フランスやドイツなどは意外と片言の人が多いです。
④アフリカ
(山田)アフリカ全体で言うと、まず、皆さん明るくコミュニケーションが非常に活発です。冒頭でも話しましたが、通りすがりの人は基本的に眼をあわせてくるし、グッとポーズしたり、手を振ってきたりします。
そんなアフリカ人ですが、実は陽気なだけではなく、この挨拶が身を守る術なのだと現地在住の方から教わりました。挨拶をすることで私は怪しいものではない、危ないものではないということをアピールする事に繋がるのだそうです。確かに言われてみると、ヨハネスブルグなどの、治安の悪い地域で何かヤバそうな雰囲気を醸し出している人は眼も合わないし、挨拶なんてもってのほかでしたね。
もう一つは、表現の仕方が難しいのですが、話が通じない人がこんなにも多いのか、ということを痛感しました。これはアフリカ人自体を否定したい訳ではなく、教育の大切さを実感した、という話でもあります。
“Do you know?”と聞いても、”Because”と返事してきたり、何の話をしているのか全く分からなかったり、仮に自分がミスをしても、その時は俺の言う通りだったんだと謎の理論を押し通すのです(笑)。
例えば、棚卸で在庫をカウントした時に、明らかに23個しかないのに300個と記載されて、「おかしいだろ?一緒に数えよう」と言って、一緒に数えたら23個しかなかった時に、「なんでさっき300個って書いたの?」と聞いたら、「俺が数えた時には300個あったんだ!」と主張してきたり(笑)。
こういうことは、教育さえ施されていれば、やってはいけないことと理解するものの、教育の機会が足りていないから生じてしまうというのが皆さんの見解でした。現に、日本人が鍛えたアフリカ人の皆さんは、日本から来る学生インターンよりよっぽど優秀なケースが多いそうなのです。
これに関連するエピソードとして、アフリカで活躍する笠井さんのお話がとても興味深かったです。
ウガンダの国税庁から税務調査が来た時の話です。法人税をもっと払いなさいと通告されたため、計算根拠を見たところ、なんと利益剰余金に対して法人税をかけていたのです。笠井さんが「利益剰余金というのは、過去の利益に対して税金支払済のものを積み重ねたものであり…」と説明しても、”No, You must pay” としか返答してくれなかったそうです(笑)。
そういった間違いなどがあっても、基本謝らない、直さないことが多いみたいです。これが苦労するところでもあり、楽しい所でもあるという話でした。
最後に
(司会)あっという間の1時間半でしたが、お二人とも「ここは伝えたい!」というメッセージがあれば一言お願いします。
(山田)日本に居続けて変化がないことの方が楽だと思います。私自身も、世界一周に行く直前の1年間が割と楽しく上手くいっていたので、正直世界一周に行くか迷いました。
しかし、新しいことに挑戦することで得られるものの大きさ、私で言うと自分をエンタメ化することなど、その未知なるものに出会うことを優先しました。
結果、やはり海外に出た方が少なからず辛い目に合います。フランスで荷物をスラれたり、沼や砂漠にはまって車が動かなくなったり、宿が無くて空港や車の中で1泊を過ごしたり、外国人を理解できずイライラして喧嘩したり。
そうやって、何事かにぶつかり、解決に向かい、新しいことを知る。それが人間の幅を広げ、見える世界が変わり、より自分にとって楽しいこと・大切だと思うことにフォーカスさせられるようになるのではないでしょうか。
人生が一度きりと考えた時に、自分にとってより楽しいこと・大切だと思うことを優先的にやれる方がきっと悔いのないものになるのだと信じています。
興味がある方は、あとは飛び出す勇気だけだと思います!事前準備云々で躊躇せず、ぜひ自身の世界を広げていってください。
(古作)海外に出てみると、自分の常識がいかに非常識か、ということを目の当たりにする場面に多々遭遇します。誰もマスクなんてしていないですし、「コロナなんてもう過去の話だろ?」という調子です。
日本にいると、周りとの考え方が同じになるため、どうしても凝り固まってしまいます。そういう意味で多様性は大事なのですが、どうも軽視されていて、企業に至っても「多様性は一つの努力目標」や「一種のスパイス」とされがちです。
しかし、実は多様性は必須のスキルであることをご存じでしょうか?
面白い研究があります。
「アメリカの経済学者の調査によれば司法業務や金融業務において、人種的多様性が平均から1標準偏差上がっただけで、生産性が25%高まった。」
「マッキンゼーがアメリカ企業に行った研究では、経営陣の人種及び性別の豊かさが上位1/4に入っている企業は、下位1/4の企業に比べてROEが100%も高いという結果が出ている」(引用:多様性の科学 著:マシュー・サイド)
グローバルに働くことは、多様性を身に付け、今後のキャリアを確実に良いものにするステップとなります。
最後に必要なのは勇気だけですので、是非チャレンジしていってください!
インド野瀬さんの事務所(野瀬公認会計士事務所)URLはこちら
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