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公開日:2022/10/20

  • IPO

No.15 独立役員の選任について

 上場準備の機関設計で、独立役員(社外取締役・社外監査役)の選任について、人数、選任時期について質問を受けることがあります。勿論、会社毎に組織も人員構成も異なることから、何人が正解とは言えません。

 さらに言えば、独立役員を設置したから、コーポレートガバナンスが機能するとは必ずしも言い切れない実態も存在し、不正会計問題を見抜けず、結局は第三者委員会での調査に委ねた企業も存在するのです。結局は誰を選任するか、専任した方々が機能するような組織体制になっているのかがポイントかも知れません。

 しかし、東京証券取引所(以下「東証」という。)の上場規程の企業行動規範では、「経営陣から独立した役員を1名以上確保」することが求められていることから、まずは独立社外監査役を1名上場直前期までに選任する運びとなります。これは最低ラインの話で、候補者の選任が進まず、直前期中となることも多々あり、常勤監査役を含め、監査役は2名ならば、上場審査はできるため、最終的に社外監査役の選任が上場申請前になることもあります。

 独立役員についての独立性の基準は、上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2で定められており、その該当性をチェックする必要があります。

 独立性の基準を除けば、2022年新規上場企業の社外取締役選任数のAverage、Medianは2名、社外監査役選任数のAverageは2名、Medianは3名となっております(2022/9/30上場分までを公表資料「有価証券届出書」に基づきパートナーズSG監査法人にて集計)。

 難しいのは、東証の上場規程の企業行動規範で定められていることを遵守し、また、会社法の定める社外取締役、社外監査役の要件、かつ、東証の定めるコーポレートガバナンス・コードも満たす必要があることです。この3つを意識しながら、機関設計を構築する必要があります。

 まず上場管理等に関するガイドラインに定められた独立性基準とはなにか?下記はその要件をまとめたものです。

一方、会社法が求める社外取締役、社外監査役の要件は、上場規則と若干異なります。

上場規則では主要な取引先、多額の報酬を得ているコンサルティング等、親会社・兄弟会社・子会社、経営者に強い影響力を及ぼす者は独立性がないとしているのに対して、会社法上の社外取締役の要件は業務執行取締役等、子会社・兄弟会社の業務執行取締役等、親会社の取締役・従業員、当該会社の取締役等の配偶者・二親等内の親族でないこと、さらに、就任前10年間当該会社または子会社の業務執行取締役等でないこと、就任前10年間当該会、その子会社の取締役、会計参与、監査役であった場合、その就任前10年間に当該会社、その子会社の業務執行取締役等でないこと等を求めております(下表「会社法が求める社外取締役の要件」参照)。

会社法上の要件を上場規則が補完する形式になっております。従って、それぞれチェックしなければならないことになります。

 社外監査役も同様です(下表「会社法が求める社外監査役の要件」参照)。

※なお、説明の便宜上、会社法における正確な文言とはなっておりません。実際の検討に際しては、必要に応じて弁護士事務所等にご確認ください。

 一方、コーポレートガバナンス・コードでは、スタンダード及びグロース市場では、独立社外取締役※1を少なくとも2名以上選任、プライム市場では、独立社外取締役を1/3以上選任することを求めており、選任そのものは義務ではありませんが、実施しない場合には「comply or explain」ルールの下、「実施しない理由」の説明義務を負うことになります。さらに、最終的には、スタンダード及びグロース市場では、独立社外取締役を1/3以上選任、プライム市場では独立社外取締役の過半数以上を選任することを求めております(下表「コーポレートガバナンス・コードが求める独立社外取締役の要件」参照)。

 実際には、グロース市場では2名以上の独立社外取締役選任が59.5%、1/3以上独立社外取締役選任が51.5%、過半数の独立社外取締役選任が11.5%(2022年8月3日株式会社東京証券取引所公表「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」より)となっております。

※1 独立社外取締役
社外取締役の中でも、取引所の上場規則で定められる独立性基準を満たした(すなわち、独立役員の定義を満たす)、一般株主と利益相反の生じるおそれがない取締役のことをいいます。

 

 皆さまが顧客と機関設計における独立役員の選任について相談を受けた場合には、①上場規則 企業行動規範が求める独立役員の要件②会社法が求める社外取締役・社外監査役の要件③コーポレートガバナンス・コードが求める独立社外取締役の要件の3ステップでご説明いただき、将来を見越して、当該会社の規模・組織を考慮しながら、どの時期に独立役員を選任したらよいか議論・アドバイスしてみてください。

この記事を書いた人

有限責任パートナーズ綜合監査法人は、2013年に設立された法人です。私達はこれまで会社法監査などの法定監査を中心に行って参りました。今後は、昨今の株式上場(IPO)のニーズを踏まえ、経済社会を支える一員として、上場企業監査及び上場準備監査(IPO監査)を行って参ります。

 

以下、執筆者略歴
1988年に日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)入社
1999年2月より公開引受部にて、IPO予定会社の上場までのコンサルティング、主に内部管理体制整備、取引所審査対応、資本政策策定等に関するIPO全般のアドバイス業務を提供
2007年9月 第四公開引受課長
2009年3月 副部長、同年9月、副部長兼大阪公開業務課長(現 大阪公開引受課長)東海・北陸・近畿地区の公開引受業務を担当
2015年9月より企業公開・投資銀行本部 担当部長として、本部内のIPO業務に関する戦略立案及び支援業務を担当
2017年4月 三井住友銀行 成長事業開発部 上席推進役 ベンチャー企業及びIPO予定企業の支援業務
2021年1月 SMBC日興証券株式会社を退社
2021年2月 パートナーズSG監査法人(現有限責任パートナーズ綜合監査法人) IPO戦略室長に就任

 

https://partners-sg.jp/

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