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公開日:2025/04/09

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スタートアップの成長フェーズにおけるCxOの役割とは?適切な採用タイミングを考える

資金調達や組織マネジメント、オペレーションの最適化など、それぞれの専門的なスキルや知見から企業の成長を牽引するCxO人材。スタートアップにおいて資金調達の重要性が以前よりも増している等、様々な背景から、CFO採用を早期に検討し始めるスタートアップ企業が以前よりも増えているように感じます。

「CFOを採用したい」「どのタイミングから採用活動をすべきなのか」といったご相談をスタートアップ経営者の方から頂くことが、実際よくあります。ただ、回答としては「ケースバイケース。少なくとも、公式のようなものに当てはめて考えられるようなものではない」というのが正直なところです。

CxOに対して期待される成果や、それに応じて求められるスキルは、その会社の事業内容や事業フェーズ、今後の成長戦略によって大きく異なります。今回は、スタートアップの成長フェーズに応じたCxOの役割について整理しつつ「CxO人材採用の考え方」について一緒に考えていければと思います。

CxOの採用を検討しているスタートアップ経営者や、CxOポジションを目指す方の参考となれば幸いです。

 

     

    スタートアップ企業の成長フェーズとCxOに期待される役割

    CxO人材の採用タイミングを考えるにあたり、まずスタートアップの成長フェーズとCxOの役割について整理しておきたいと思います。なぜなら、会社の成長フェーズに応じて優先課題が異なり、必然的にCxOに期待される役割も変わってくるからです。

    成長フェーズの捉え方については様々な分類がありますが、今回は「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」、そして上場後の「ポストIPO」の5段階を意識して考えてみたいと思います。

     

    シード~アーリー:事業の0→1フェーズ

    事業の立ち上げ期にあたるシード・アーリーフェーズは、「正解」が見えない世界です。仮説検証を繰り返しながら市場の勝ち筋を探っていく段階なので、しばしばクイックな方向転換が必要とされます。やむを得ない事情による事業のピボットが求められるのも、このフェーズの特徴です。

    シード・アーリーフェーズではスピード感のあるアクションや方向転換が必要とされるため、それを可能にする「組織の同質性」が求められます。もちろん多様性も大切なのですが、多彩な意見を集めて慎重に検討を重ねるよりも、「クイックな行動」がより重視されるのです。

    したがって、このフェーズではCxOとしての明確な職務分担を必要としないケースがほとんどです。重要なのは組織のスピード感であり、全員が一丸となってPMF検証に向けて動くことが期待されます。

    実際のスタートアップ事例をみても、創業メンバーがそれぞれの得意領域を鑑みつつ、複数の業務を兼務していることがほとんどです。そのため、CFOの役割だけを求めて専門人材を採用するとミスマッチが起きやすいフェーズともいえます。

    もちろん、シード・アーリーフェーズから多額の資金調達を必要とするビジネスモデルであれば、CFOの役割を担う人材も早期に必要となります。創業メンバーの中にCFOに適した人材がいて、結果的にその役割を担える場合はいいのですが、それ以外の場合はしっかりと必要性を議論することが大事です。CFOというポジションを置くとしても、この段階では、ファイナンス以外の役割についてもきわめて高い比重で担うことになるという点を押さえておければと思います。

     

    ミドル:事業の拡大フェーズ

    事業仮説が検証でき、事業をスケールさせていくフェーズになると、「仕組み」での戦いが求められるようになります。このフェーズでは、オペレーションの仕組み化や組織の階層化による権限移譲などを通じた組織の生産性向上が課題であり、組織全体のオペレーション最適化に向けた「役割の明確化」が重要になってきます。

    多くの場合、CxO採用を本格的に検討し始めるのもこのフェーズです。なぜなら、「最適解らしいもの」を片っ端から試していくようなスピード感で、いかにバッターボックスに数多く立つかを重視していたシード・アーリーフェーズとは異なり、事業の拡大フェーズでは「打率の上げ方」を考える必要があるからです。

    打率を上げる。つまり意思決定の精度を高めるには、各役割に応じた専門知識や経験が欠かせません。CFOにせよ、それ以外のCxOにせよ、経営におけるそれぞれの目的を効率的に達成し、最大限の成果につなげるべく、役割に合う経験や知識を持つ最適な人をアサインする必要があります。企業が成長していくにあたって、経営陣のマインドチェンジが必要になる局面ともいえるでしょう。

     

    レイター:上場に向けたコーポレートガバナンスと内部統制の強化

    レイターステージの定義は細かくいうと色々ありますが、今回は上場準備に入っていく段階として考えたいと思います。例えばコーポレート領域の観点で見ると、このフェーズの目的は、上場審査のクリアです。そのため、所定のルールを守りながら、必要な各項目をスケジュール通りにこなし、組織を整えていく必要があります。CFOの役割としても、ある意味詰将棋のように「正解手順」通りの進行が期待されます。

     

    ポストIPO:市場との対話と持続的成長戦略

    上場した後は、企業価値の向上・成長に向けて、市場との対話を常に行っていくフェーズに入ります。また、上場したということは、企業からすると資本市場という強力な資金調達手段を獲得したということでもあります。そのため、自社の成長に向けた資本市場の活用も期待されます。したがって、CxOの役割を担う人材にもより高度な専門性が求められるようになります。

     

    CxOの採用タイミングと陥りやすい3つの失敗パターン

    ここまでの話を踏まえた上で、「CxO人材の適切な採用タイミングはどう判断するべきか」という問いをあらためて一緒に考えていけたらと思います。CxOとは、あくまでもその企業価値向上に向けた役割分担の一つにしか過ぎません。そのため、スタートアップのように短期間で組織の成長フェーズを経験していく場合、段階に応じてCxOが果たすべき役割も当然変わっていきます。

    そのため、前提として「CxOの肩書きに合う人材を確保する」のではなく、「フェーズに応じて必要な役割を果たせる人材にCxOのポジションを与える」方が望ましいといえます。したがって、創業メンバーが必ずしもCxOの役割を担うとは限りませんし、会社のフェーズによってはポジションの流動も十分あり得るのです。

    過去の経験から、CxO人材を採用して上手くいかなかった事例を振り返ってみると、大きくわけて3つのパターンが多いように思われます。

    1. 期待値のズレ
    2. 役割の固定化による柔軟性の欠如
    3. あいまいな理由による採用

    期待値のズレ

    「期待値のズレ」とは、事業のフェーズに応じて創業者が期待する役割と、参画する側がCxOポジションに期待する内容とがズレている場合を指します。

    たとえばアーリーフェーズにおいて、経営者はCFOに対して資金調達だけでなく事業開発もしくは事業成長に関わる役割を期待しているとします。一方で、CFOとして参画を検討している方が、自らの専門知識や経験をもとに価値発揮を考えており、未経験の事業開発領域に踏み込むことには躊躇があったり、自分の役割ではないと考えていたりしたらどうでしょうか。双方の期待値にズレが発生しているため、マッチング前に認識のすり合わせができなければ、お互いが不幸になる可能性があります。

    また、上場準備のためにCFOを採用したものの、想定通りに業績が伸びず、企業の成長計画と当初期待されていた役割が一致しなくなってしまうようなケースも、このパターンに当てはまるでしょう。上場準備に向けたCFOの役割が一旦保留され、曖昧になってしまうことで、参画した側からすると、当初期待していたパフォーマンスを発揮しづらくなってしまいます。その結果、CFOとしてせっかく採用した方が、自らの経験や知識を活かしづらいといった理由から、会社を離れてしまうのです。こういったケースは実際、しばしば散見されます。

     

    役割の固定化による柔軟性の欠如

    マーケットやユーザーニーズといった外的環境への対応はもちろんのこと、資金不足や大量離職といった問題から内的環境も急変しやすいスタートアップは、状況に応じた柔軟な変化が常に求められます。そのため、アーリーフェーズ以降、CxOの役割を最適化した状態であっても、必要に応じて役割を再編しなおす選択をとることもあります。

    たとえば、会社の業績そのものが伸び悩んでいる状況下で、CFOが管理業務に集中しすぎており、売上向上に貢献できていない状況を考えてみましょう。CFOに限った話ではありませんが、事業環境の変化に対応できないまま、CxO人材が特定の役割にのみ集中してしまっていると、会社の成長を阻害してしまう可能性があります。CxOのポジションは、大前提として「企業価値向上にコミットする」役割です。どのCxOであっても、その前提は常に意識しておく必要があるでしょう。

     

    あいまいな理由による採用

    最後のパターンについては、これまで語ってきた内容とは少し異なります。 「なぜ今のフェーズにおいてその人材が必要なのか」「どんな役割を期待するか」といった議論がなされないまま、曖昧な理由で採用を進めていった際に生じやすい失敗事例で、「優秀な人材をとにかく早期に確保したい」「攻めのCFOが欲しい」などといった動機のもと、採用を急いだことによるミスマッチが多いように思います。

    優秀な人を採用することは大事ですが、その場合、その人に与える役割をどのように調整し、マネジメントしていくかを事前に考えておく必要があります。具体的な職務内容と期待される成果を採用前に明確にしておけば、役割のミスマッチはある程度防げるでしょう。

     

    まとめ

    いずれにしても、CxO人材の採用は会社の成長計画と期待される役割を事前にしっかりとすり合わせ、本当にそのポジションが必要かということを含めて、慎重に検討していく必要があります。

    逆に、CFOをはじめ、CxOのポジションを目指す方は、期待される役割と自分のイメージしている職務内容が合致しているかを事前にしっかりと確認しておくことが大切です。その上で、会社の企業価値向上にコミットする覚悟を持って参画されると、双方にとって望ましい関係性が築きやすくなるでしょう。

    この記事を書いた人

    新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。

    2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。

    2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。

    https://x.gd/eUsrb

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