公開日:2023/09/09
FAS業務に従事している会計士へインタビュー④
古川拳土さんの記事
こんにちは。
今回は、FASにてバリュエーション業務に従事したことのある現役会計士1名に、下記2点についてインタビューした内容を紹介できればと思いますので、最後までお読みいただければと思います。
バックグラウンド紹介
なお、前回の記事からの再掲とはなってしまいますが、インタビューさせていただいたAさんについて、簡単にバックグラウンドを紹介させていただきます。
Aさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFASバリュエーション&FA部門に転職。約1年後更に他ファームのFASへ転職し、DD、バリュエーション、FA業務に従事中。
それでは早速内容に入っていきます。
03. 入社して最初に苦労した部分
以下Aさんのコメントです。
「市販の実務本に記載されている内容はあくまで一般論や基本となる考え方にすぎず、自分が所属しているファーム・チームのプラクティスやポリシーに沿って分析を進める必要があるため、両者の相違を理解するのに時間を要しました。また、類似会社の選定であればマーケット情報を外部ツールから取得する、株主資本コスト算定の際には、直近のマーケットデータの分析結果を使用する、といった取引目的バリュエーション/会計目的バリュエーションの前提として周辺ツールの利用やデータの分析を行う必要があるため、自由に使えるようにツールの使用に慣れるのが大変でした。また、レポーティングに関して、成果物という観点でファームポリシーに沿って作成する必要があり、当該ポリシー(カラーリングやフォント等)や見せ方を意識した作りに苦労しました。」
前提として、とある論点についてどのような考え方を取るのかは、ファームによってスタンスは異なっており、基本的に当該スタンスに従う形となります。
例えばですが、公認会計士試験の経営学でも勉強しましたCAPM理論によりますと、
株主資本コスト=リスクフリーレート+(エクイティ・リスクプレミアム×β)と算定されますが、上記エクイティ・リスクプレミアムを何%とするかについては、ファームによって異なっています。最初業務に従事した際には、なかなか基礎知識も身についていなかった気がしますので、インプットした知識がバリュエーションにおける原理原則なのか、それともファーム独特の考え方(ファームポリシー)なのかは、若干頭の中で整理が必要になってきます。
また、バリュエーション業務の際には、BloombergやCapital IQなど、海外のマーケットデータツールを使用します。勿論日本語対応しておりますので、全て英語にて対応する必要があるというわけではないのですが、どの情報をどのような手順で取得していくかなど、少々コツが必要になりますので、私も苦労した記憶があります。更に私が入社した時期は、コロナ真っ只中で出社もできない状況でした。独力で試行錯誤し、どうしても分からない箇所についてはチャットで年次が近い方に質問する形式でしたので、結構苦労した記憶があります。
ファームポリシーに沿った成果物の作成についても同じく苦労致しました。
例えばExcelでの成果物(財務モデルなど)についても、フォントや罫線の使い方についてある程度決まっておりますので、成果物(調書)作成の際に大きなルールのなかった監査法人時代と比較すると、苦労した部分もありました。一方で最初はルールがあった方が成果物を作りやすいという考え方もできますので、そのように柔軟に考え方を変更し、対応しておりました。
また、他の記事でも少し触れさせていただきましたが、私が苦労した点としましては、主に3点ございます。
1点目は、「答えのない問いに対して思考すること」が挙げられます。
監査・会計は、複数の候補から適切なもの(会計処理など)を選ぶケースが多いため、答えが何となく見えるケースも多いですが、バリュエーション業務の場合は、そもそも株式価値はいくらといったような答えはありません。
入社した当初は、答えを探すことに意識が向きがちだったのですが、答え探しよりも、答えを出すためのプロセスの大事さを痛感することになりました。
例えば、バリュエーション業務の中でも奥の深いステップの一つとして、「上場類似会社の選定(※)」がありますが、当該ステップは結論に至るまでの思考プロセスが非常に重要になってきますので、思考力を養う良い経験となりました。
(※)バリュエーション業務では、評価対象会社は非上場会社となる場合が殆どでして、その場合、例えばDCF法におけるβとして、上場類似会社(評価対象会社とビジネス面・財務面で似ていると考えられる上場会社)のβの平均値もしくは中央値を使用することが実務上一般的です。当該βを算定するためにも、「上場類似会社の選定」は必要となってきます。
2点目は、「成果物における数字に対する責任の重さ」です。
監査の場合には、成果物として監査調書がクライアントへ提出されることはないですが(協会レビューなどはまた別ですが)、FAS業務の場合、例えば作成した財務三表や、株価算定シートがそのまま成果物となるため、数字一つ一つに対してより責任を持つ必要があります。最初はケアレスミスも多く、反省することも少なからずありました。
3点目は、PowerPointの操作についてです。監査法人時代は、監査調書の作成は基本的にExcelかWordだったためPower Pointにてスライドを作成する機会は殆どありませんでした。そのため、最初は操作方法などが分からず苦労致しました。
04. 03.を乗り越えるためにどのような工夫を実施したか
以下Aさんのコメントです。
「周りの上司や同期に積極的に質問・コミュニケーションを取り、なるべく早期に疑問点を解決するように心がけました。また多忙な職場であったので、資料等を見れば解決するものは自分で解決するようにし、周囲のメンバーに確認を取る際は、何がわからないかを簡潔かつ明確にしてスムーズなコミュニケーションとなるように常に工夫していました。ファームポリシー等は慣れるしかないため、案件の積み重ねや別の担当者が作成した過去のレポート・モデルの読み込み等を繰り返し行いました。バリュエーションに関しては、様々な業種や前提における案件をこなしていくことが、スムーズに作業できるようになるための近道であると感じています。」 Aさんにコメントいただいた内容は、私も意識していた部分となってきます。
私の場合ですと、プロジェクトマネージャーが結構多忙な方が多く、加えてコロナ真っ只中での入社でしたので、なかなかオフラインで気軽に質問ができるような状況ではありませんでした。そのため、まずは年次が同じくらいの方との繋がりを作る機会には積極的に参加し(ランチ会など)、不明点が出てきて、ある程度悩んでも解決しなかった際には質問させていただいていました。入社直後は横のつながりをいかに作っていくかが重要だと考えています。
また、親しい方がいらっしゃる場合には、その方々に過去の案件のレポートや財務モデルを共有いただくのも、業務理解のための手っ取り早い方法かと考えています。私の所属していたファームの場合には、入社当初は直近の年次の方にバディーとしてサポートいただく制度がございましたので、当該バディーの方にレポートや財務モデルをいくつか共有していただき、勉強させていただいていました。
また、私が③にて挙げさせていただきました、「答えのない問いに対して思考すること」については、案件をこなす中で必然と身についてきました。案件をこなしていくうちに、なんとなく考え方の切り口みたいなものが身についてきた感覚です。ただ、基本的にプロジェクトマネージャーの方も(OJT目的もあり)答えを教えてくれることはないため、プロジェクトマネージャーを説得できるまで何度も意見をぶつけた経験は、大変でしたが記憶に残っています。
「成果物における数字に対する責任の重さ」については、ミスを減らすためにチェック体制を構築することで、徐々にミスも減っていきました。
チェック体制の例としては、第三者が作成した成果物をチェックするつもりで、自分の成果物を細かくチェックしたり、1回目のチェックの30分後くらいに、頭をリフレッシュさせた状態で再度チェックするなどです。
PowerPointスキルについては、正直慣れるしかない気がしています。
操作方法やショートカットをネットで検索し、一つ一つインプットしていく作業を続けた結果、いつの間にか慣れていっていました。根気強くPowerPointを触り続けることが大事な気がします。
まとめ
以上、2回にわたり私の経験も含めつつ、バリュエーション経験会計士の声を届けてきましたが、バリュエーション業務に興味がある方や、これからFAS バリュエーション部門に入社予定の方にとっては参考になると嬉しく思います。
最後までお読み下さりありがとうございました。
この記事を書いた人
慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。
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