公開日:2023/09/21
日本の公認会計士は海外でもキャリアを築けるか?世界の最先端人材マーケット事情【グローバルサーチファームCEO×VC対談】
西中孝幸さんの記事
イントロダクション
日本の少子高齢化に伴い、マーケットの将来性を見据えて、世界で働きたいと志す方が増えてきました。公認会計士や税理士のように高度な専門性を有していれば、その知識を活かして、海外でさらに人材価値を高めていくキャリアパスも選択肢の1つになりえます。
とはいえ、実際に海外の人材マーケットの動向を国内で正確に知ることは困難です。そこで今回は、アジア太平洋地域を中心に世界の求人事情に精通しておられるWITH international Japan株式会社の代表取締役、中島潤氏にお話を伺いました。
WITH international株式会社とは
WITH international株式会社は大手人材紹介会社を始めとした登録型人材紹介会社では扱われにくい「専門性が高く採用難易度が高い」「そもそもの母集団が少ない」職種のサーチを得意とするグローバルサーチファーム。スタートアップ企業と外資系企業の人材採用の課題解決を強みとしており、企業も人も成長できる機会を提供することをその存在意義としている。
中島潤氏のご経歴
同社代表取締役の中島潤氏は早稲田大学法学部卒業。2005年ベンチャー・リンクに入社し、中小企業の新規事業支援に従事。その後、ヘッドハンティング会社のレイス株式会社やレックスアドバイザーズでの経歴を経て、2017年に外資系ヘッドハンティング会社ICPAの東京オフィス代表に就任し、同社トップリクルーターの実績を残す。2021年にWITH internationalを設立。現在まで上場企業取締役を含むCXOのリテインドサーチ、特許技術者などのニッチな職種の採用支援にて多数成果を出されており、グローバルに活躍されている。
アジア太平洋地域の求人動向:中国・韓国・東南アジア諸国の台頭と日本の影響力低下
西中孝幸(以下、西中):
中島さんの現在のお仕事について、最近の動向を含めて詳しく教えていただけますか。
中島潤氏(以下、中島):
私が展開している人材会社は、マレーシア・タイ・日本の3箇所に拠点があります。私はマレーシアに居を構えながら、スタートアップや外資系企業などのニーズに応じて、優秀な人材をスカウトする仕事をしています。
売上のメインは日本市場ですが、仕事柄、アジア太平洋地域(以下、APAC)の求人動向や給与体系のトレンドは常に把握するようにしています。公認会計士資格を持った方の転職相談を受けることも多く、「シンガポールで働きたい」といったご要望を伺うことも多いです。
APAC全体の傾向を見ると、シンガポールに限らず、インドネシアやベトナム、タイ、マレーシア等、全体的に市場が大きく成長してきています。シンガポールについては市場が飽和しつつあるため、公認会計士でも就労ビザが下りなくなっていますが、APAC諸国の多くは、国内外問わず、優秀な人材を集めようと取り組んでいます。
APACの市場が伸びている反面、円安が加速するに伴い、日本企業がこれまで築いてきたアジア諸国での影響力は落ちてきている状態です。理由としては、以下の5点が挙げられます。
-
海外での製造コストの増加に伴うコストパフォーマンスの低下
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現地の日系企業や日本人の購買力が低下したことによるマーケットの縮小
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中国・韓国の企業、および地元企業の影響力増加
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製造業を中心に販売拠点等をAPACから撤退するケースの増加
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円安給与条件が相対的に下がったことによる採用競争力の低下
これまで日本が牽引してきた自動車産業についても、昨今では日本車以上に、中国車や韓国車を多く目にするようになりました。またタイのレストランに行けば、以前まではタイ語と日本語が並列表記されているメニュー表をよく見かけましたが、最近では中国語、あるいはハングルとの並列表記が増えているのを実感します。
日本語のプライオリティが下がり、日本企業向けのジャパンデスクも縮小傾向にあるため、少なくとも地元企業や外資系企業では「日本人だから」という理由で採用が有利に働くというケースはほぼなくなったというのが実情です。
給与条件の違い:前年度給与を基準に設定する日本企業とマーケット連動型の外資・現地企業
中島:
最近の転職動向としては、APACの市場が右肩上がりな分、マーケットの成長と連動して、多くの現地企業や中国・韓国企業が人材採用により多額の投資をするようになりました。それに対して、一般的に日本企業は、本社の給与体系や前年度年収を基準に給与条件を設定する傾向があるため、採用競争で不利になりがちです。
この背景には、人材採用時の条件提示に対する考え方の違いがあるように思います。グローバルで考えると、給与が上がらなければ優秀な人材ほど転職を選ぶのが当たり前になっています。しかし、日本においては国民性もあるのか、1つの会社にロイヤリティ高く帰属してもらいたいという意向が強く、据え置き条件でオファーを出すケースも珍しくありません。
世界市場への進出を見据えた場合、日本企業はマーケットに連動した形で求人を見直していくことで、競争力を回復していけるのではないかと考えています。逆に海外で働きたい方であれば、世界のマーケット基準で通用する武器をいかに育てていくかが鍵になるように思います。
グローバルで活躍する人材のスキル要件:公認会計士資格をさらに活かすには?
西中:
世界のマーケットで評価され続けている日本人も一定数いると思いますが、そういった方々の共通点があれば教えてください。たとえば日本で公認会計士資格を取った後、APACでさらに活躍の場を得るためには、どのような点を意識すればいいのでしょうか?
中島:
日本人相手のビジネスをしている場合を除き、世界で活躍しておられる方には以下の2つの共通点があると思います。
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円滑なコミュニケーションが可能な言語能力(英語、もしくは現地語が問題なく話せる)
-
マーケットから求められる専門知識やノウハウを有している
公認会計士の方であれば、英語や現地語を習得されていれば、十分APACに進出可能です。日本で求められているスキルの水準は世界的に見ても高いため、コンフォートゾーンから踏み出す勇気さえあれば、能力次第でより好条件のポジションを獲得できるでしょう。将来的に独立を目指しておられる方にとっても、国外に目を向けるだけで、一気にチャンスが広がると思います。
特に海外だとFP&A(Financial Planning & Analysis:業務管理および財務計画の立案などを行う業務)に対する評価が高く、予実管理をしながらPLを組み立てられるようなスキルをお持ちの方であれば、高待遇のポジションも期待できます。その他、複数の国にまたがった国際取引をしているような企業であれば、高い会計知識を必要としているため、価値を発揮しやすいはずです。
いずれにせよ「伸びている市場に身を置き、ともに成長する」ことを意識すれば、日本人が世界のマーケットで活躍することは十分可能だと思います。公認会計士に限らず、資格というのはスタートラインなので、そこからさらにプラスアルファで武器を積み上げていくことで、さらなるキャリアアップが期待できます。
特に、専門知識に加えて以下のようなスキルやノウハウをお持ちの方であれば、世界でも十分に戦えます。
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ゼロイチからリソースを調達し、新たなビジネスを立ち上げる能力
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相手の懐に入り込むコミュニケーションスキル
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異文化を尊重し、日本とは異なるやり方や価値観を受け入れられる柔軟性
日本人の多くは元々真面目で仕事熱心です。さらに周囲の空気を読む調整能力があり、細かな仕事を丁寧にこなす能力が高いため、ソフト面では世界的に見ても高水準の能力を有しています。加えて、上記に挙げたスキルやノウハウも身につけていれば、世界の多様な文化の中でも、CPA等ハード面のスキルを存分に活かすことができるでしょう。
APACは特に事業の成長と拡大を重視する企業が多いエリアなので、守りよりも攻めの姿勢が好まれます。新たなビジネスに挑戦したい方にとっては、ぴったりのフィールドでしょう。国ごとの動向については、JETROがデータにまとめていますので、ぜひアンテナを張ってみてもらえたらと思います。
ビジネスを通じて目指すところは人それぞれ違うでしょう。日本国内からマーケットを盛り上げていきたいという方もいらっしゃるでしょうし、その方向性も素晴らしいと思います。ただ、今のままだと日本のマーケットが縮小していくことは避けられないでしょう。
今回の話を参考に、コンフォートゾーンから一歩踏み出し、世界で価値を発揮してくださる方が増えたらうれしいです。
この記事を書いた人
新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。
2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。
2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。
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