公開日:2023/10/28
【世界一周会計士】会計士の海外でのキャリアパスを考えるVol.2 後編 ~海外駐在と独立開業した方々のキャリア導入部分にフォーカス~
世界一周会計士の記事
→前回のインタビューはこちらです
(山田)今回の研修では、会計士や会計人材の皆さんが海外で働く3つのケースについてお話したいと考えています。
①グローバルファームによる駐在
②海外で独立開業
③海外現地就職や事業会社等
これらの形態に対して、該当する方のキャリアについて紹介するとともに、次の3つの視点をベースにお話できればと考えています。
・海外に出たきっかけ、その選択をした最後の一押し
・海外で感じた苦悩
・我々の感想
今回の記事は「②海外で独立開業」にフォーカスした内容となっております。
独立会計士の海外開業のきっかけや動機、ターニングポイント
くいっぱぐれのない会計士資格をハブにしてインドで開業
(山田)インドの野瀬さんは、執筆・講演・会社経営とマルチに活躍しており、フォロワーが16,000人を越えるX(旧Twitter)でも著名な方です。インド人をこれだけ理解している日本人は他にいないと私は確信しています。
(写真:野瀬さんとの一枚)
そんな野瀬さんの経歴ですが、会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツに入所し、東京から京都事務所への異動を経て、2010年に国内で独立。2011年からはインドにて独立開業されています。野瀬さんの奥様も会計士で、インドでは奥様と二人三脚で開業されています。
野瀬さんがインドにて独立を志すまでのきっかけのエピソードは非常に面白く、キャリアの転換期は3つありました。
まず、1つ目の転換期は、関西出身の同僚とのご結婚です。野瀬さんは、入所した当初は旧トータルサービス事業部(有限責任監査法人トーマツ)にて土曜日出勤は当たり前、毎日終電かタクシー帰りの激務の日々を過ごしていました。
そんな毎日を過ごしていると、忙しすぎて今後のキャリアのことを考える暇さえないな、と焦りを感じるようになっていたのですが、そんな折に、結婚の話が出て、京都事務所への異動を決意されました。2人とも元々出身が関西で、将来は関西での独立を考えていたからだそうです。
2つ目の転換期は、京都事務所が大阪・神戸事務所と合併する流れになったことです。
関西事務所に異動したものの、今度は逆に毎日週5で定時帰りの状態に変わってしまい、暇すぎて「このままで良いのか」と不安に感じるようになったそうです。
事務所から1分の所に住んでいたそうなので、17時半に終業して17時35分には家にいる、そんな毎日が続いていたとのことでした。まるで、ジェットコースターですよね(笑)。
時間もでき、漠然とした不安や焦りもあったことから講演や執筆活動の副業を京都事務所に異動してから始めており、事務所合併の話を聞いたことがきっかけで次に、特に”何をしようか”を決めずにノープランでトーマツを退職されています。組織が大きく変化してそれが自分にはあまり良いことにはならないなと思ったからです。
3つ目の転換期は、香港の会計事務所からインド進出の誘いを受けたことです。
トーマツ退職後は、時間が沢山あったこともあり、ニューヨークやオーストラリアで働いていた知人に会いにいったり、独立している先輩会計士に話を聞きに行ったりと、1年間自由に行動されていたそうです。
そんな折に、香港の会計事務所がインド進出を画策している話を耳にし、自分が50%超出資しても良いのであれば、彼らの会計事務所の看板を使うこと自体に抵抗は無かったため「ぜひやりたい」と伝え、インドにて開業することになりました。
当時、英語は全然話せなかったし、インドに行ったこともなかったけれど、面白そうだったから引き受けた、というのが野瀬さんの興味深いところです。
語学力も全くないし、インドにも行ったことがない野瀬さんが、香港の会計事務所の話に乗っかってインドでの独立開業に踏み切った理由、つまりは、最後の一押しについて、皆さん気になる所だと思います。
この最後の一押しとして一番大きかったのは「会計士資格があるから仮にインドで失敗しても食うに困らないと思っていた」ことです。さらに、仮にインドで会社を潰してしまって日本に帰ってきたとしても、海外での出来事なので全く日本での仕事に響かないだろうし、会計士資格があれば何歳からでも日本のどこに済んでもでも仕事ができると理解していました。
また、33歳で若かったことや奥さんも一緒にインドに来て事務所を経営してくれること、当時インドに日本公認会計士の資格を持って働いている人がほぼおらず、先行者利得がとれて面白そうだったこと、1年間色々海外へ訪れていたために海外への興味が沸いていたことなども相まって、インドへの開業は悩まずに選択できたとのことでした。
国選びから戦略的に、シンガポールにて独立
(古作)私からは、いずれもアジアからで、シンガポールの萱場さんと、ベトナムの尾崎さんについてお話しできればと思います。いずれもアジアで独立されている方ですが、海外へのキャリアの決め方が印象的でしたので、このお二方について紹介していきます。
まず、シンガポールの萱場さんは、あずさ監査法人から、大手会計税務事務所に転職し、そこからシンガポール現地企業を経て独立されています。萱場さんは非常に戦略的にシンガポールへのキャリアを歩まれています。
(写真:萱場さんの事務所 CPAコンシェルジュにて)
社会人2年目でアメリカに憧れを抱き、英語をとことん勉強したのが、萱場さんの海外への道のりの始まりです。朝6時から1時間オンライン英会話に出たり、土日はフリーディスカッションができるスペースで6時間ほど英会話教室に入り浸っていたそうです。そして、英語を使う仕事をしたいと考え、監査法人退職後、米国留学を経て、東京の会計税務事務所に転職しました。
欧米への憧れもありましたが、時差の関係で日本と昼夜逆転してしまうことや、日本に直ぐに戻れないことを鑑みて、候補先をアジアに絞り、「シンガポールで仕事をしたい」と友人に相談し、現地の会社を紹介してもらったそうです。
また、アジアは日本との距離が近いので、家族や友達に何かあった時に、すぐに帰ることができるのがメリットだと仰っていました。
シンガポールの萱場さんは、シンガポールを選んだ理由が非常にロジカルです。選んだ理由は、①生活インフラが整っていることを重視していた、②英語圏に移住したかった、③ビジネスがしやすかった、の3つです。
当時はシンガポールとベトナム、香港の3つが選択肢としてあったそうです。もしかしたら皆さんが海外で働く国を選ぶ際の参考になるかもしれませんので、共有させてください。
1.生活インフラが整っていること
生活インフラについては、家族が困らないようにという点を見越してです。当時萱場さんは実際に、ベトナム(ホーチミン)のスーパーに下見にまで行って、生活イメージを沸かせたそうです。しかしながら当時はベトナムの生活インフラが不十分だったため、断念したそうです。
ただ、これは10年以上前の話なので、実際に直近のホーチミンを見てきた私にとっては非常に過ごしやすい街でした。はっきり言って楽園です。ホーチミンには日本人街があり、ココ壱番屋やすき家でご飯が食べられたり、しまいにはファミマでファミチキが買えたりします。
2.英語圏に移住したかった
2つ目の「英語圏への移住」については、お子さんのことを考えてです。萱場さんは当初、ベトナムでの現地採用を考えましたが、子供の将来を考えると、子供が将来ベトナム語を使えた場合と、シンガポールで英語を使えた場合を考えた時に、やはり英語の方が有用性があると考えたそうです。
3.ビジネスがしやすさ
そして、3つ目の「ビジネスのしやすさ」ですが、その国のカウンターパート企業の進出理由が「コストを下げに行く国なのか、そうでないか」という点を考慮して決めたそうです。前回の研修でもお話ししたので、内容が重複しますが、改めてお話しします。
例えば、人件費の安い国に進出したときに、カウンターパートにいる日系企業は、何故進出しているかというと、主にコストカットを目的として進出をしているわけです。ですので、会計サービスを提供する場合、コストとしてみられてしまい、報酬をカットされる傾向にあります。
一方、シンガポールに進出する企業は、節税含め、コスト以外の目的が多いです。そのため、適切なサービスを提供したら、サービスに見合った適切な報酬を貰うことができます。ですので、国によってお客さんの属性が違うということを念頭に置く必要があります。シンガポールは独立するという観点で素晴らしい国だと考えたのですね。
最終的に、香港はチャイナリスクが高く、政治的リスクを抱えていることもあり、シンガポールを選ばれたとのことです。
直感で海外挑戦、25歳という若さでグループ会計事務所のベトナム代表へ
(古作)一方のベトナム尾崎さんのキャリアの決め方は直感タイプです。個人的には僕もこっちのタイプに属すると思います(笑)。尾崎さんは監査法人からSCS Globalという会計事務所に転職され、SCS Globalから開業という機会を得て、独立されています。
(写真)オフィスで尾崎さんと対談しました
監査法人の閑散期にアジアを周遊し、東南アジアの活気を目の当たりにして「いつかここで働いてみたい」と漠然とした憧れを持ち始めたのがきっかけだそうです。
確かにベトナムはバイク社会で、行ったことある方は共感頂けると思いますが、人の多さに驚愕すると思います。至るところでバイクが走っていて、白バイが2ケツしているのも見ました(笑)。クラクションが常に鳴っていて、街全体がうるさいです。
海外に興味があるのであれば、尾崎さんのように実際にその場に行って、肌で雰囲気を感じたほうがいいと思います。海外に行く良いきっかけづくりができると思います。
尾崎さんがベトナムへ行く最後の一押しは、「25歳という若さでベトナム代表を打診された点」だと思います。凄いですよね。25歳で代表を務めるなんて正直考えられないです(笑)。尾崎さんが当時のSCSグループの社長と面談したときに、「君はガッツがありそうだし、身長高いからいけるよ」と言われて、二つ返事で了承したそうです。
新拠点の責任者というポジションで背水の陣を自分で引いて、ベトナムで一旗揚げようという、尾崎さんの熱いスピリッツを感じますよね。そして、ベトナム代表ですので、もちろん給料も全部自分で決めます。その点監査法人と比べると、年収を大きく下げるキャリアチェンジでしたが、尾崎さんは直感的に承諾されたそうです。
強く望んだ海外挑戦へ一直線に努力されて、33歳にしてオランダで独立
(山田)オランダの池上さんは、昨年6月に33歳という若さでオランダにて独立開業されています。
(写真:オランダにて会社設立後、オフィスに入った頃のお写真)
まず、面白いご家族でして、池上さんが3兄弟なのですが、兄が弁護士、妹が医師、ご本人が会計士という3大国家資格兄妹なんです(笑)。
どんな経歴を辿っているかというと、新卒であずさ監査法人に入社し、アドバイザリー事業部へ異動、その後日本電産に出向し、あずさではなく、日本電産側の人間としてオランダへ駐在、帰任して2年後にオランダにて独立開業されています。
池上さん自身は、元から自分でやりたいという思いが強くあり、独立志向でした。また、学生時代からグローバルへの憧れがあったことから、監査法人入所後は海外で働きたいと宣言しまくっていて、海外研修制度にもチャンスがあれば申し込んでいたそうです(笑)。
監査事業部からアドバイザリー事業部に異動してからは、海外で働きたいと常に宣言していたことが功を奏したのか、クロスボーダーM&Aの案件を中心的に任せてもらうようになり、社内では「クロスボーダーと言えば、池上」とまで言われるようになったそうです。
また、海外研修制度のプログラムにも通過したことと、当時ヨーロッパ拠点の拡大方針を取っていた日本電産の、クロスボーダーM&Aの経験と会計知識に強い人材が欲しいという条件にマッチすることができ、事業会社側の人間としての海外駐在の機会を掴み取ったとのことでした。
そして、オランダでの生活を経て、次のようなことを感じたそうです。
・日本企業は更にグローバルで活躍できるはずなのに、ただ英語が堪能ではない、文化のすり合わせができない、などの理由でチャレンジすらしていないケースが多いのがもどかしいこと
・海外のBig4はあくまで海外の会社なので、基本的に日本人が居なかったり、居たとしても2〜5年で帰任してしまいます。その結果、最終的な対応は日本人ではなく、現地の方になるケースが多くなってしまうこと
だからこそ、「ヨーロッパに拠点を置く日本企業をもっとサポートしたい」という強い想いを持つようになり、帰任後にオランダでの独立を決意します。
オランダ独立の最後の一押しは、池上さんに①クロスボーダーM&Aに詳しかったこと、②事業会社の経験があるという強みがあったこと、③ヨーロッパで独立開業している日本人が意外にも少なく、バリューがあると考えていたことです。
オランダという国を選んだ決め手は、欧州周辺国へのアクセスが良く、移民へも開放的で、英語でビジネス可能なことや家族もオランダ生活に馴染んでいたことです。
結婚を機にアフリカへ移住、その後はアフリカ6か国に跨る会計事務所を経営
(山田)アフリカ6か国にて会計事務所を経営される笠井さんも、興味深いキャリアを歩まれている方です。
(写真:ルワンダでお会いした笠井さん)
会計士試験合格後に大手会計士予備校講師+監査法人の非常勤を勤め、その後、起業を見据えて慶應MBAを取得。MBA修了後は、ルワンダにてナッツカンパニーのCFOに就任し、アフリカ各国に順次会計事務所を開業しています。
まず、モテるために会計士を目指したという笠井さん。ふざけていそうですが、会計士合格後は、真面目に起業を見据えてMBAを取得されています。
なんと奥さんとは、そのMBAに通っていた際に出会い、結婚まで至ったそうなのですが、奥様がアフリカに精通しており、将来アフリカで生活するという強い想いを持った方でした。
笠井さんのMBA修了後に結婚して、アフリカに一緒に来るか、離婚するかという2択を突きつけられてしまい、元から海外志向は全くなかったもののアフリカ行きを決断しています(笑)。海外志向もなかったため、当時のTOEICは400点台だったとのことです。
アフリカに行くにあたっても、アフリカに適性があるかどうかテストする、と奥様に言われ、ケニアに2週間放り込まれたそうです(笑)。
何とか2週間生き延びて帰国したら合格と言われ、アフリカ行きが決まりました。
奥様は学生時代からアフリカで活動をしていたことから、アフリカに精通しており、笠井さんは「アフリカで職がないけど大丈夫かな?」と確認したところ、ものの3日でルワンダナッツカンパニーのCFOのポジションの話を持ちかけてきて、トントン拍子でルワンダへの移住が決まったとのことでした。
ナッツカンパニーのCFOを勤めて、ルワンダの税制を覚え始めた頃に、次第に多くの企業からうちの会社を見てくれないか?と頼まれるようになったことで、奥様からも会計事務所を立てなさいと言われ、立ててみたらケニアからも話が来るようになり、気付けばアフリカ6か国に会計事務所を進出するまでに膨らみました。
そのため、笠井さんはだいぶ特殊ですが、奥様との結婚により、アフリカ行きがほぼ確定し、また、ルワンダ企業のCFOのポジションを引っ張ってきてもらったことで、敷かれたレールをとりあえず走ろうと考えてアフリカに移住しています。
その後、税制を覚えたところ、アフリカに住む日本会計士というポジションの方が他に居ないため、多くのニーズをとらえて、6か国に会計事務所を展開するに至っています。
海外生活における共通の苦悩と、その地域特有の苦悩
(山田)インドとアフリカの苦悩が面白かったので取り上げたいと思います。
まず、インドについてですが、野瀬さんにとって、正直、イメージよりは全然良い国だったそうですが、やはりインド人の特性とインフレには相当苦労されているそうです。
まずは、インドのインフレの凄さです。
野瀬さんはインドにて開業して既に11年が経過しているのですが、毎年、従業員の給料が10%上がってしまうと仰っていました。でないと、他の企業が10%以上給料を上げているので、皆辞めていってしまうんですよ。
開業3年目のタイミングでインド人会計士を採用したそうなのですが、当時採用したインド人会計士への初任給の金額と現在新しくインド人会計士を雇おうとした場合の初任給の金額は約2倍の違いになっているそうです。つまり、8年で支払う給料が2倍になっているということです。2倍ですよ2倍。
こうした給与水準の変動からも、発展途上国の凄さを伺えますね。もちろん、給料に限った話ではなく、家賃や食費なども上昇しており、毎年10%のコスト増と闘わなくてはならないというのは、想像に難くない苦悩だなと感じました。
また、前回の内容とも被る所がありますが、言うはタダ精神でスーパーポジティブシンキングなインド人がここぞとばかりに文句を言いだすのも面白くもあり、確実に苦悩だそうです(笑)。
新卒の給与水準が上がっていくと、昔から居るインド人会計士が「今の新人の初任給が俺が入社した時の約2倍になっているんだから、自分が新人だった頃も同じ給料だったと仮定して、現在までの給料の累積差額分を支給してくれ」って言いだすんです(笑)。
インフレの影響によって、食費や家賃の物価も上がっているため、給料の額面だけで見ると金額が上がっていても、結局生活の中で買うことのできる物品って変わらないはずじゃないですか?それでも、インドの方はそういった他の要因を度外視して、お金が貰えるかもしれないのなら、何でも言ってくるそうです。OKと返答が来たら儲けもんとでも思っているんでしょうね(笑)。ある意味、ロマンであふれているなとは思います(笑)。
もう一つは、インド人は義理人情とかはそこまでなく、淡白に直ぐ従業員が辞めてしまうことがかなりの苦悩だそうです。
期限を守って欲しい等の日本の文化を理解してくれて、丁寧に教育をして、長く一緒に仕事がしたいなと考えていたような従業員からも、ある日突如「もっと良い給料が貰える会社があるから辞めます」と言われたりしてしまいます。
希望の給料を聞いて、会社が出せる限度額も提示して、結果的に折り合わなかった時に辞める。というのは、別にあって然るべきことですが、経営者としてはやっぱり辞められてしまうととても悲しいそうです。
(写真:野瀬さんの事務所で誕生日パーティー)
苦悩を乗り越えるための工夫とは
コスト面については、人の入れ替えは厭わないこと、新しいお客さんを頑張ってとりつつ、オフィス費用などの固定費をかけ過ぎないことを意識しているそうです。
これ以上はAさんに昇給はできないと伝えれば、Aさんは勝手に辞めていきます。裏を返せば、この人に辞めて欲しいなと思ったら昇給さえしなければ勝手に辞めていってくれるのです。
絶対に辞めて欲しくない人には相応の報酬を提示し、入れ替わっても問題ないという評価の方にはそれなりの対応をする。毎年10%上がり続ける人件費のために粗利を10%増やし続けるというのは相当難しいため、こういうシビアさが大切になるそうです。
また、インド人の特性面に対しては、無理なモノは無理と淡々と答えることを心掛けているそうです。インド人は、OKが来たら儲けもんだと思っているので、それに対してひるんではいけません。駄目なものは駄目なのです。
その他には、何事もインド人には期待し過ぎないことを大事にしていました。裏切られた時のショックが大きすぎるがゆえに、最初から期待をしない、というやり方ですね。
細かい工夫で言うと、スタッフに残業はさせず、定時になったら必ず帰らせるという工夫もしていました。「二人になった時にセクハラにあった」や「残業代を貰っていない」などの言うはタダ精神でお金を貰う為に何を言い出すか分からないので、そういう不安材料を少しでも無くしておくためだそうです(笑)。
(山田)アフリカの笠井さんは、まず現地の会計士のレベルに驚いていました。笠井さんから伺ったエピソードをご紹介します。
国税庁からとある会社に監査が来た時のことです。法人税の額が間違えているという連絡が来て、彼らが主張する法人税額を確認したところ、利益剰余金に対して×30%をしていたそうなのです(笑)。
利益剰余金は過去の活動の累積であって、これはもう税金を既に支払った後の結果なんですよ、と伝えても、”No, you have to pay”としか言ってこない。こんなレベルの指摘を自信満々に言ってくるそうなんです(笑)。最初は、賄賂を求めているのかな?と思ったものの、そういうわけでもなく大真面目に言ってきていて、基礎レベルが違い過ぎて会話が成り立たないことが苦悩というか困るそうです(笑)。
もう一つ驚いた話があります。
ルワンダでとある業界で10年CFOをやっている大ベテランがいるのですが、彼が作った財務諸表を見たところ、売掛金がマイナスになっていたのです。
なぜ、マイナスなのか教えてくれ!と聞くと、
「売掛金というのは、投資家からお金を貰うだろ?事業に必要なモノを買うだろ?お金が残るだろ?それが売掛金なんだ」と大真面目に教えてくれたのだそう(笑)。
笠井さんが、それはおかしいと伝えても、貸借が一致しているから大丈夫と言いだし、その内容を確認してみたら、Excelで作った単式簿記で、貸借をイコールで結んでいるだけだからそりゃ一致するよね、という財務諸表だったのです(笑)。一致させるために調整している金額がどこかを確認したら借入金だったので、「この借入金の契約書はある?」と聞いても、「そんなものはない、なぜならこれは借入金だからだ」という回答をしてくるんです(笑)。
その会社はルワンダだとトップの売上でそのような財務諸表の作り方をしているのに、監査でも引っかからないんですよ。皆そのレベルだからディスカッションしても、何となくOKになってしまう。そのかみ合わなさがきついそうです。
従業員という視点でも教育が行き届いていないからか、民度がよっぽど低い人を雇ってしまった時などは困るそうです。
ルワンダで一番の大学を出ている人を雇って、在庫を数えて貰った時のこと。20数個しかないはずの在庫に対して、彼は300個と答えてきたそうです。笠井さんが一緒に数えたところ23個しかなかったのに、なんで300個と答えたの?と聞いたところ、「俺が数えた時は300個あったんだ」と答え始めたそう(笑)。
感性が違い過ぎて驚いた話もあります。
雇っていたドライバーの話なのですが、ガソリンの減りが笠井さんの想定よりも早くて違和感を覚えて、私用で使っていないかドライブレコーダーを確認したそうです。結果、やはり私用で使っていることが分かったので、まずは、ドラレコを確認したことは言わずに、「私用で使っていないか?」と確認したところ、案の定「使っていない」と答えたそう。
そこで、ドラレコを見せながら私用で使ってるよね、と伝えたら、なんて答えたと思いますか?(笑)
「これは俺じゃない。ドラレコは確かにここに行っている。でも俺は行っていない。なぜあなたは私の言うことではなく、ドラレコが正しいと思うのですか?」と反論してきたそうです(笑)。
挙句の果てに、何を真理とするのか、自分のみている者は何が正しくて何が間違えているのか、何を基準に判断するのですか?と言い出す展開。そういう哲学みたいなことを言い出して、会話が成立しないことがあるみたいなんです。
上述の様な方は確かに、アフリカには割合としては多いです。でも、そういう人は雇ってしまったとしても退職してもらうなどして、そういったことをしないような方を雇って教育すれば、日本だろうがアフリカだろうが変わらないというのが笠井さんの持論でした。
独立会計士の海外での仕事の受注の仕方
(山田)仕事の受注の仕方については、基本、紹介が多いという共通点がありました。
インドの野瀬さんも、オランダの池上さんも、アフリカの笠井さんも、現地で日本人の会計士が対応してくれるというポジションだけで信頼して仕事を任せてもらえると仰っていました。会計士の先人が築いてくれた信頼の徳というのでしょうか、それがあまりにも大きく、仕事に繋がっていて感謝してもしきれないとのことでしたね。
これら3つの国は、確かに海外在住の日本人が多くないため、そこにポジションを取る日本会計士というだけで稀有な存在になります。
また、インドの野瀬さんの場合は、当時のインドにて地道に地盤を広げていった印象もあります。
開業当初は、共同出資の香港会計事務所からの紹介から始まり、その後は、現地インド人会計士と組んで営業をスタート、やっと自分に給料が払えるようになってからも、徐々に徐々に名が広がっていき、現在では、インドの日本人会計士と言えば野瀬さんというポジションを築かれており、インドの案件があれば野瀬さんに紹介が行くような流れができているように感じます。
Twitter・講演・著書経由で仕事の依頼が来ることもあるそうで、「会計士の信頼×マルチな活動×インドでの実績」のかけ算が猛威を奮っている例だと感じました。
アフリカの笠井さんは、先ほどもお話しましたが、最初のCFOの話は奥様が引っ張ってきてくれて、そこで働いて、税制を覚えてきたら次第に、日本の会計士に見て欲しいと声をかけられる様になり、気付けばアフリカ6か国にまたぐ会計事務所になっていたとのことでした。
特に、現在アフリカにいる日本会計士は笠井さんしかいないため、引っ張りだこな状況であり、仕事がまわらないから日本人の会計士または税理士が喉から手が出るほど欲しいそうです。
いずれの皆さんも前職からの知り合い経由の紹介も多く、営業を特段しまくっている状況ではないというのが印象的でした。
まとめ
(古作)最後に簡単にまとめますが、海外に出るきっかけは、殆どが何かしらに引っ張られる外的要因(具体的には何かにApplyすること等)に起因していると思います。
駐在員の方は赴任プログラムに「応募」していますし、シンガポールの萱場さんもまずは転職で英語が使える仕事場に「応募」し、ベトナムの尾崎さんも看板を借りて開業するために「応募」しています。
昔の本ですが『夢をかなえるゾウ』でも「世の中の成功した人すべてに共通する特徴は、応募している」ことだ、と語っていたのを思い出しました。
ですので、興味のあるプログラムがあれば、まずは勇気を出して応募してみることだと思います!
(山田)本日、ご紹介したのは、グローバルファームでの海外駐在と海外で独立開業された皆さんでした。元から海外志向があった方もいれば、ノリと勢いで海外へ飛び出た人もいらっしゃいましたが、彼らに共通するのは、再三になりますが、行動力です。
万全の準備をしてから、というよりは、”面白そう、やってみたい”、という好奇心から海外に出た結果、足りないものを少しずつ見つけて足していって、上手く立ち回っているというイメージを持ちました。
もちろん、海外に出れば苦悩ともぶつかります。しかし、その苦悩を理解し乗り越えるための工夫をこなして、何とかやっていく、というのが海外に出る醍醐味でもあり、価値観の広がるきっかけでもあり、日本では味わうことのできない貴重な経験なのではないでしょうか。
いくら日本で英語を完璧にしてから、アフリカへ行ったって、話の通じないアフリカ人に理解してもらう事はできないですし、インドだとしても、言うはタダ精神でズカズカと要望を言ってくるインド人との交渉に勝てません。
どんなに準備してから行ったとしても、完璧を求めてブラジル人に注意し過ぎてしまい、誰もいうことを聞いてくれず上手くいかないという状況を作ってしまう事だってあると思います。
結局はその国に赴き、そこで経験し、理解し、解決方法を見つけていく、「現場力」が大切になるのだと思います。だからこそ、ファーストステップとして”挑戦する事”が大切になるのではないでしょうか。
本日もありがとうございました。
(写真:リオデジャネイロ セラソンの階段にて)
インド野瀬さんの事務所(野瀬公認会計士事務所)URLはこちら。
シンガポール萱場さんの事務所(CPA CONCIERGE)URLはこちら。
ベトナム尾崎さんの事務所(SCS Global)URLはこちら。
https://www.scsglobal.co.jp/office/vietnam
オランダ池上さんの会社(IKG FAS)URLはこちら。
アフリカ笠井さんの事務所(Africa Accounting Advisory)URLはこちら。
YouTubeのアカウントはこちら。https://www.youtube.com/channel/UC2pMYpNJfaWKu_76c3ef94Q
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古作:https://x.com/yuma_kosaku
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