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公開日:2023/11/22

  • IPO

No.19 2023年3Q 新規上場市場を振り返って

2023年第3四半期を終えて、株式市況が好調であったことから、66社(「表1 新規上場会社数の推移(2008年~2023年3Q)」参照)が新規上場しました。昨年の第3四半期に比べて14社多いペース(「表2 2023年3Q月次新規上場会社数の推移(2017年3Q~2023年3Q)」参照)です。

表1 新規上場会社数の推移(2008年~2023年3Q)

※出所:公開資料に基づき有限責任パートナーズ綜合監査法人作成

新規上場社数は株式市況が良いと増加する傾向にあり、特に3月以降の増加は、市況が好調に推移したことが影響しているでしょう。(「表2 2023年3Q月次新規上場会社数の推移(2017年3Q~2023年3Q)」参照)

日本の株式市況が好調に推移した要因を2つ挙げると、1つ目は米大手投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者(CEO)で世界的に著名な投資家で知られるウォーレン・バフェット氏が来日した際の発言(日本株式に積極的に投資を行う)が世界的に波及した可能性が大きいと思われます。
特に、日本の5大商社へ投資し、株式保有比率を8.5%以上まで高めたことは有名となりました。

2つ目は、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)上場部が3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を上場会社に要請したことです。
当該要請は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践することを目的とした、「PBR1倍割れの是正要請」として知られるものになります。
要請対象は、プライム市場・スタンダード市場の全上場会社であり、各上場企業が「現状分析⇒計画策定・開示⇒取組みの実行」といった一連の対応を継続的に実施し、毎年(年1回以上)、進捗状況に関する分析を行い、開示をアップデートしていくこととなります。
この影響もあり、各上場企業が自社株買い、増配を積極的に実施したことで、海外投資家から日本株に対する関心が高まり、4月以降積極的な投資が開始されました。その結果、ご存知のように日本の株式市場の株価は上昇していきました。

そのような株式市況での2023年3Qの新規上場市場の特徴をいくつかご紹介します。

1.高い期越え比率及び3月決算企業の減少
昨年同様に、期越え上場社数は多く、毎年高い期越え比率で推移、2021年3Q期越え比率50.0%⇒2022年3Q期越え比率53.8%⇒2023年3Q 40.9%で推移しております。コロナ禍以降、経済環境が不透明で、急激な為替変動、物価の上昇、人手不足等さまざまな要因から業績見通しの予測が難しく、上場審査が長引く傾向にあります。
また、直前決算期もこれまでの3月決算一極集中から分散傾向にあります。第3四半期時点での3月決算直前期の企業割合は、2021年3Q 31.3%⇒2022年3Q 28.8%⇒2023年3Q 24.2%と減少しています。近年、監査法人の選定に窮する企業が増加、特に3月決算企業は選定が難しくなる傾向にあり、決算期の分散化が進行したものと思われます。

2.監査証明業務報酬の増加傾向と大手監査法人シェアの減少傾向
監査証明業務報酬は増加傾向にあります。連結と単体では当然工数が異なるため、それぞれを検証する必要があります。また、直前々期と直前期では、当然直前期の方が工数は多くなることから、それぞれ確認する必要があります。表4 暦年別(2020年~2023年3Q)Average監査証明業務報酬額の推移、表5 暦年別(2020年~2023年3Q)Median監査証明業務報酬額の推移では、監査証明業務報酬の平均値と中央値が示されておりますが、平均値は大型銘柄の監査報酬に左右される場合もあることから、今回は中央値で検証します。

直前々期の単体中央値の推移は、
2020年10,000千円⇒2021年12,000千円⇒2022年12,000千円⇒2023年3Q 10,900千円
直前期の単体中央値の推移は、
2020年13,000千円⇒2021年14,900千円⇒2022年15,000千円⇒2023年3Q 15,000千円
単体では、この3~4年の間で監査証明業務報酬はざっくり200万円程増加、直前々期で12百万円、直前期で15百万円が目安です。

直前々期の連結中央値の推移は、
2020年12,075千円⇒2021年15,000千円⇒2022年17,425千円⇒2023年3Q 23,050千円
直前期の連結中央値の推移は、
2020年17,440千円⇒2021年20,370千円⇒2022年22,368千円⇒2023年3Q 25,000千円

連結では、この3~4年の間で監査証明業務報酬はざっくり500万円程増加、直前々期で18百万円、直前期で23百万円が目安です。

また、大手監査法人(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)のシェアは2021年61.3%⇒2022年57.7%⇒2023年3Q 42.4%と年々減少しています。大手が新規上場企業の選別を行い、その分が他の準大手、新興を含む中小監査法人に流れる傾向にあります。

3.業種別では情報・通信業が大幅にシェア拡大、サービス業がやや減少
情報・通信業が2022年3Q 34.6%⇒2023年3Q 42.4%と大幅にシェア拡大しつつあります。特に、AI、DXを中心としたシステム開発、ソリューション、コンサルティング系企業が多く、市場ニーズが高いことを伺わせます。その他投資家から評価された企業は、VtuberのキャラクターIP開発等のカバー㈱、企業のDXニーズに対応したプロフェッショナルサービスを提供する㈱ABEJA、建設業界を中心としたDXコンサルティング等の㈱Arentなどが挙げられます。
情報・通信業の次に新規上場が定着してきた業種はサービス業ですが、2022年3Q 36.5%⇒2023年3Q 25.8%とやや減少しています。
上場した企業の事業内容は、ITシステム受託開発、コンサルティング、人材紹介、訪問看護・福祉サービスなどで、その中でも、特に注目されたのが月面開発事業を手掛ける㈱ispaceです。上場時から時価総額が5倍以上となり、時価総額UP率では第3四半期No.1となりました。

4.新規上場時の時価総額、調達額が増加傾向
コロナ禍の影響で2022年3Qの新規上場時の時価総額の分布は50億円未満が44.2%を占め、小型IPO案件が多い傾向でしたが、2023年3Qは株式市況好転の影響で、全体的に時価総額が上方へシフトしつつあります。
同様に、2022年3Qの調達額も小型化傾向でしたが、2023年3Qの調達額も時価総額同様に全体的に上方へシフトしつつあります。
詳細は下表(「表8 新規上場会社 時価総額の分布状況《OAによる調達を除く》」)と(「表9 新規上場会社 調達額の分布状況《OAによる調達を除く》」)をご覧ください。

以下2023年第3四半期のデータを記載しますのでご覧ください。

✓ 主幹事証券会社別の主幹事会社数の順位は、2022年3Qはみずほが首位でしたが、2023年3Qは野村とみずほが同数で首位となっています

✓ 証券代行機関は2022年3Qに三菱UFJが首位に返り咲きましたが、2023年3Qもシェアでリードしております

✓ 東京は69.2%(2022年3Q)  ⇒ 69.7%(2023年3Q)と約7割の圧倒的なシェア
 大阪は7.7%(2022年3Q) ⇒ 12.1%(2023年3Q)と増加傾向
 その他道府県にも広く分散する傾向が見られます

✓ グロース市場占有率は2022年3Q(グロース&マザーズ)76.9%、2023年3Q 69.7%と圧倒的なシェア
 一方、プライム市場占有率は2021年3Q(市場第一部)で5.0%ありましたが、市場再編の影響で2022年3Q(東証第一部)1.9%、2023年3Q 1.5%とそれぞれ1社ずつで低迷、上場形式基準変更の影響を受けております

 平均値は2022年3Q 18年9カ月⇒2023年3Q 18年7ケ月と僅かに短縮され、中央値は2022年3Qが14年3カ月⇒2023年3Qが12年11カ月と短縮傾向です
 最短上場期間は、2022年3Qは㈱M&A総合研究所の3年8カ月、2023年3Qは㈱ハルメクHDの2年8カ月です
 最長上場期間は、2022年3QはフルハシEPO㈱の74年2カ月、2023年3Qは笹徳印刷㈱の73年2ケ月です

 新規上場会社の役員数は、ガバナンス強化のため社外取締役増員の影響で、2022年3Qの平均値かつ中央値8名から2023年3Qは9名に増加しております
 女性役員の登用率は2022年3Q 50.0%から2023年3Q 65.2%に増加、ジェンダー問題解消に向けて改善傾向です
 監査等委員会設置状況は2022年3Q 19.2%から2023年3Q 24.2%と増加し、約1/4の企業へ拡大傾向です

 最頻ゾーンは100名~500名未満です
 平均値で263名(2021年3Q)、278名(2022年3Q)、459名(2023年3Q)となっております
 中央値で174名(2021年3Q)、101名(2022年3Q)、181名(2023年3Q)となっております

 最頻ゾーンは2020年3Q 50~60歳未満でしたが、2021年3Q、2022年3Q、2023年3Qは40~50未満と若返る傾向です
 平均値は2020年3Q 51歳11カ月、2021年3Q 52歳3カ月、2022年3Q 52歳2カ月、2023年3Q 51歳1カ月と年々若返る傾向です
 中央値は2020年3Q 51歳10カ月、2021年3Q 50歳11カ月、2022年3Q 50歳4カ月、2023年3Q 50歳2カ月と年々若返る傾向です

 潜在株比率の分布状況は毎年5%~10%未満が最頻ゾーン
 これまでは10%未満累計で7割5分程でしたが、2023年3Qは10%~15%未満21.82%(2022年3Q 8.51%)と激増し大きな変化が見られます
 平均値は2022年3Q 8.28% ⇒ 2023年3Q 8.61%、中央値は2022年3Q 7.36% ⇒ 2023年3Q 7.62%となっております
 潜在株式比率は、有価証券届出書提出日現在の潜在株式数、上場時発行済株式総数を潜在株式数/発行済株式総数で計算しております

 株式市況が好転したことから2022年3Qに比較して2023年3Qの方が高いパフォーマンスとなっております
 公開価格の2倍以上となった割合は、2022年3Qは17.3%に対して、2023年3Qは34.8%と大きく増加しております
 平均UP率も2022年3Q 48.4%に対して、2023年3Q 80.2%で高パフォーマンスとなっております
 UP率中央値も2022年3Q 35.0%に対して、2023年3Q 45.7%と大幅に上昇しております

この記事を書いた人

有限責任パートナーズ綜合監査法人は、2013年に設立された法人です。私達はこれまで会社法監査などの法定監査を中心に行って参りました。今後は、昨今の株式上場(IPO)のニーズを踏まえ、経済社会を支える一員として、上場企業監査及び上場準備監査(IPO監査)を行って参ります。

 

以下、執筆者略歴
1988年に日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)入社
1999年2月より公開引受部にて、IPO予定会社の上場までのコンサルティング、主に内部管理体制整備、取引所審査対応、資本政策策定等に関するIPO全般のアドバイス業務を提供
2007年9月 第四公開引受課長
2009年3月 副部長、同年9月、副部長兼大阪公開業務課長(現 大阪公開引受課長)東海・北陸・近畿地区の公開引受業務を担当
2015年9月より企業公開・投資銀行本部 担当部長として、本部内のIPO業務に関する戦略立案及び支援業務を担当
2017年4月 三井住友銀行 成長事業開発部 上席推進役 ベンチャー企業及びIPO予定企業の支援業務
2021年1月 SMBC日興証券株式会社を退社
2021年2月 パートナーズSG監査法人(現有限責任パートナーズ綜合監査法人) IPO戦略室長に就任

 

https://partners-sg.jp/

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