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公開日:2024/04/06

  • IPO

No.20 2023年 新規上場市場を振り返って

2023年第3四半期を終えて、株式市況が好調であったことから、96社(「表1  新規上場会社数の推移(2008年~2023年」参照)が新規上場しました。昨年に比べて5社多いペース(「表2 月次新規上場会社数の推移(2017年~2023年)」参照)です。

表1 新規上場会社数の推移(2008年~2023年)

※出所:公開資料に基づき有限責任パートナーズ綜合監査法人作成

新規上場社数は株式市況が良いと増加する傾向にあり、特に3月以降の増加は、市況が好調に推移したことが影響しているでしょう。
(「表2 月次新規上場会社数の推移(2017年~2023年)」参照)

日本の株式市況が好調に推移した要因を2つ挙げると、1つ目は米大手投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者(CEO)で世界的に著名な投資家で知られるウォーレン・バフェット氏が来日した際の発言(日本株式に積極的に投資を行う)が世界的に波及した可能性が大きいと思われます。

特に、日本の5大商社へ投資し、株式保有比率を8.5%以上まで高めたことは有名となりました。

2つ目は、㈱東京証券取引所(以下「東証」という。)上場部が3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を上場会社に要請したことです。

当該要請は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践することを目的とした、「PBR1倍割れの是正要請」として知られるものになります。

要請対象は、プライム市場・スタンダード市場の全上場会社であり、各上場企業が「現状分析⇒計画策定・開示⇒取組みの実行」といった一連の対応を継続的に実施し、毎年(年1回以上)、進捗状況に関する分析を行い、開示をアップデートしていくこととなります。

この影響もあり、各上場企業が自社株買い、増配を積極的に実施したことで、海外投資家から日本株に対する関心が高まり、4月以降積極的な投資が開始されました。その結果、ご存知のように日本の株式市場の株価は上昇していきました。

そのような株式市況での2023年の新規上場市場の特徴をいくつかご紹介します。

1.期越え比率が減少に転じたこと及び3月決算企業の減少

昨年をピークに期越え上場社数は減少に転じました。ここ数年の期越え比率は、2020年28.0%⇒2021年40.8%⇒2022年44.0%⇒2023年33.3%で推移しております。コロナ禍以降、経済環境が不透明で、急激な為替変動、物価の上昇、人手不足等さまざまな要因から業績見通しの予測が難しく、上場審査が長引く傾向にあったため、期越え比率が上昇傾向にありましたが、昨年から漸く通常の事業環境に戻りつつあることを表しているものと推測しております。

また、直前決算期もこれまでの3月決算一極集中から分散傾向にあります。この数年の3月決算直前期の企業割合は、2021年35.2%⇒2022年 28.6%⇒2023年 26.0%と減少しています。近年、監査法人の選定に窮する企業が増加、特に3月決算企業は選定が難しくなる傾向にあり、決算期の分散化が進行したものと思われます。

2.監査証明業務報酬の増加傾向と大手監査法人シェアの減少傾向

 監査証明業務報酬は増加傾向にあります。連結と単体では当然工数が異なるため、それぞれを検証する必要があります。また、直前々期と直前期では、当然直前期の方が工数は多くなることから、それぞれ確認する必要があります。表4 暦年別 Average監査証明業務報酬額の推移、表5 暦年別 Median監査証明業務報酬額の推移では、監査証明業務報酬の平均値と中央値が示されておりますが、平均値は大型銘柄の監査報酬に左右される場合もあることから、今回は中央値で検証します。

直前々期の単体中央値の推移は、
2020年10,000千円⇒2021年12,000千円⇒2022年12,000千円⇒2023年11,750千円

直前期の単体中央値の推移は、
2020年13,000千円⇒2021年14,900千円⇒2022年15,000千円⇒2023年15,750千円

単体では、この3~4年の間で監査証明業務報酬は175~275万円程増加、直前々期で12百万円、直前期で15百万円の監査証明業務報酬が目安です。

直前々期の連結中央値の推移は、
2020年12,075千円⇒2021年15,000千円⇒2022年17,425千円⇒2023年23,050千円

直前期の連結中央値の推移は、
2020年17,440千円⇒2021年20,370千円⇒2022年22,368千円⇒2023年 28,800千円

連結では、この3~4年の間で監査証明業務報酬は10,975~11,360千円程増加、直前々期で18~23百万円、直前期で23~28百万円の監査証明業務報酬が目安です。

また、大手監査法人(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)のシェアは2021年60.0%⇒2022年51.6%⇒2023年47.9%と年々減少しています。大手が新規上場企業の選別を行い、その分が他の準大手、新興を含む中小監査法人に流れる傾向にあります。特に、大手のシェア減少の受け皿になっていた準大手ですが、受けきれない企業分が中小監査法人に流れていることが分かります(「表7 監査法人規模別シェアの推移」)。

3.業種別では情報・通信業が大幅にシェア拡大、サービス業がやや減少

情報・通信業が2022年 35.2%⇒2023年 40.6%と大幅にシェア拡大しつつあります。特に、AI、DXを中心としたシステム開発、ソリューション、コンサルティング系企業が多く、市場ニーズが高いことを伺わせます。その中でも、ゲーム・3Dアニメ・3DCG等の映像開発の㈱テクノロジーズ、VtuberのキャラクターIP開発等のカバー㈱、建設業界を中心としたDXコンサルティング等の㈱Arentなどが挙げられます。

情報・通信業の次に新規上場が定着してきた業種はサービス業ですが、2022年 33.0%⇒2023年  28.1%とやや減少しています。

上場した企業の事業内容は、ITシステム受託開発、コンサルティング、人材紹介、訪問看護・福祉サービスなどで、その中でも、特に注目されたのは宇宙ビジネスの企業2社です。月面開発事業を手掛ける㈱ispaceと小型SAR衛星の開発・製造事業の㈱QPS研究所です。上場時から時価総額がそれぞれ約3.7倍、約3.6倍となり、期末時価総額UP率では2位と4位となりました(「表30  2023年  新規上場会社  時価総額UP率ランキング【2023/12/29終値べース】」参照)。

4.新規上場時の時価総額、調達額が増加傾向

コロナ禍の影響で2022年の新規上場時の時価総額の分布は50億円未満が42.7%を占め、小型IPO案件が多い傾向でしたが、2023年の50億円未満は35.4%と株式市況好転の影響で、全体的に時価総額が上方へシフトしつつあります。

同様に、2022年の調達額も小型化傾向でしたが、2023年の調達額も時価総額同様に全体的に上方へシフトしつつあります。

詳細は下表(「表9 新規上場会社 時価総額の分布状況《OAによる調達を除く》」)と(「表10 新規上場会社 調達額の分布状況《OAによる調達を除く》」)をご覧ください。

以下2023年通期のデータを記載しますのでご覧ください。

✓ 主幹事証券会社別の主幹事会社数の順位は、2022年はSMBC日興が首位でしたが、2023年は野村、大和、みずほ、SBIが同数で首位となっています

✓証券代行機関は2022年に三菱UFJが首位に返り咲きましたが、2023年も2年連続で首位となりました

本店所在地の状況は
✓東京は74.7%(2022年)  ⇒ 65.6%(2023年)と約7割の圧倒的なシェア 
✓大阪は5.5%(2022年) ⇒ 11.5%(2023年)と増加傾向
✓その他道府県にも広く分散する傾向が見られます

上場市場別の状況は
✓グロース市場占有率は2022年(グロース&マザーズ)76.9%、2023年68.8%と圧倒的なシェアを継続
✓一方、プライム市場占有率は2021年(市場第一部)6社で3.3%ありましたが、市場再編の影響から2022年(東証第一部)3社で3.3%、2023年 2社で2.1%と減少傾向で低迷、上場形式基準変更の影響を受けております

会社設立経過年数の状況ですが、
 平均値は2022年が16年11カ月⇒2023年は 18年8ケ月と僅かに長くなり、中央値は2022年が12年9カ月⇒2023年13年9カ月とこちらも長くなり、老舗企業の上場が目立ちました
✓最短上場期間は、2022年は㈱M&A総合研究所の3年8カ月、2023年は㈱ハルメクホールディングスの2年8カ月です
 最長上場期間は、2022年はフルハシEPO㈱の74年2カ月、2023年は笹徳印刷㈱の73年2ケ月です

役員数の分布状況ですが、
✓役員数は、ガバナンス強化のため社外取締役増員の影響で増加傾向です
2022年の平均値かつ中央値8名から2023年は平均値9名に増加、中央値は8名のままでした

 女性役員の登用率は、ジェンダー問題解消に向けて改善傾向です
2022年 59.3%から2023年 67.7%に増加しました

 監査等委員会設置状況は、こちらもガバナンス体制強化で約1/3の企業が採用しております
2022年 17.6%から2023年 31.3%と増加しております

従業員の分布状況は
✓最頻ゾーンは100名~500名未満です
 平均値で320名(2021年)、315名(2022年)、414名(2023年)となっております
 中央値で158名(2021年)、99名(2022年)、204名(2023年)となっております

代表者の年齢分布の状況は
 最頻ゾーンは2020年50~60歳未満でしたが、2021年、2022年、2023年は40~50未満と若返る傾向です
✓平均値は2020年51歳8カ月、2021年 50歳7カ月、2022年51歳3カ月、2023年51歳5カ月と最近は横ばい傾向です
✓中央値は2020年51歳9カ月、2021年48歳3カ月、2022年49歳11カ月、2023年49歳9カ月と年々若返る傾向です

潜在株式比率の状況は
✓潜在株式比率の分布状況は毎年5%~10%未満が最頻ゾーン
 2023年は10%~15%未満19.51%(2022年 12.50%)と増加し大きな変化が見られます。逆に、2023年は5%~10%未満が47.56%(2022年52.50%)と減少しております
 平均値は2022年8.31% ⇒ 2023年8.34%、中央値は2022年 8.16% ⇒ 2023年 7.70%となっております
 潜在株式比率は、有価証券届出書提出日現在の潜在株式数を上場時発行済株式総数で除して計算しております

オファリング・レシオの分布状況は
 2023年のオファリング・レシオは25%~30%未満のレンジが29.17%(2022年14.29%)を占め最頻ゾーンとなりました
 オファリング・レシオのレンジの分布状況は上方にシフトしております
 40%以上のゾーンも2023年11.46%(2022年3.30%)と増加傾向です
 2023年はファンド株主による大型銘柄が増加しており、それに伴う潜在株比率も増加傾向です 
✓オファリング・レシオは、公開株式数(公募株式数+売出株式数)を上場時発行済株式総数で除して計算しております

初値UP率の分布状況は 
✓株式市況が好転したことから2022年に比較して2023年の方が高いパフォーマンスとなっております
 公開価格の2倍以上となった割合は、2022年は18.7%に対して、2023年は27.1%と大きく増加、3割弱を占めております
 逆に、公開価格割れの企業が2022年は19.8%に対して、2023年は27.1%と増加しております
 平均UP率も2022年 51.8%に対して、2023年63.2%で高パフォーマンスとなっております
✓UP率の中央値は2022年 35.9%に対して、2023年26 .5%と減少しております
✓このことから、投資家の銘柄の選別が進み、銘柄の善し悪しにパフォーマンスが左右されております

時価総額UP率の分布状況は
✓全体的には株式市況は良かったにも関わらず、9月以降の市況の低迷もあり、上場時時価総額を下回った企業が4割存在し、新規上場企業の上場後の株価低迷ぶりが浮き彫りとなっております
 平均パフォーマンスは31.9%、中央値は12.0%で中央値ではIPOディスカウント分を上回ることができておりません

初値時価総額UP率の分布状況は
✓初値天井の状況になっております。初値時の時価総額を上回ることができていない企業が約2/3存在します
 初値時からのパフォーマンスの平均値はマイナス11.6%、中央値もマイナス17.1%の結果です

この記事を書いた人

有限責任パートナーズ綜合監査法人は、2013年に設立された法人です。私達はこれまで会社法監査などの法定監査を中心に行って参りました。今後は、昨今の株式上場(IPO)のニーズを踏まえ、経済社会を支える一員として、上場企業監査及び上場準備監査(IPO監査)を行って参ります。

 

以下、執筆者略歴
1988年に日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)入社
1999年2月より公開引受部にて、IPO予定会社の上場までのコンサルティング、主に内部管理体制整備、取引所審査対応、資本政策策定等に関するIPO全般のアドバイス業務を提供
2007年9月 第四公開引受課長
2009年3月 副部長、同年9月、副部長兼大阪公開業務課長(現 大阪公開引受課長)東海・北陸・近畿地区の公開引受業務を担当
2015年9月より企業公開・投資銀行本部 担当部長として、本部内のIPO業務に関する戦略立案及び支援業務を担当
2017年4月 三井住友銀行 成長事業開発部 上席推進役 ベンチャー企業及びIPO予定企業の支援業務
2021年1月 SMBC日興証券株式会社を退社
2021年2月 パートナーズSG監査法人(現有限責任パートナーズ綜合監査法人) IPO戦略室長に就任

 

https://partners-sg.jp/

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