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公開日:2025/07/02

  • イベントレポート

【カンファレンス2025イベントレポート】AI時代における監査の未来

ファシリテーター

山本 健太郎(株式会社SoVa 代表取締役)

 

スピーカー

久保田 正崇(PwC Japan有限責任監査法人 代表執行役)

松岡 俊(株式会社マネーフォワード 執行役員グループCAO)

齋藤 雅司(有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 パートナー)

横山 雄一(太陽有限責任監査法人 業務推進室 室長)

 

壮大な期待と緊張感に包まれた会場

ファシリテーターの山本氏が、開口一番に放ったのは「登壇者、豪華すぎませんか?」というひと言。その瞬間、会場の期待感がぐっと高まりました。

「今日は、“AIはあくまで補助です”みたいな教科書的な話で終わらせるつもりはありません。業界のトップは、“AI監査”の未来をどこまで本気で見ているのか。オフレコも交えて、どんどん突っ込んでいきたいと思います」と宣言し、セッションは一気に熱気の渦へと突入していきました。

 

AI活用のリアル――現場の「できていること」「できていないこと」

セッションの冒頭では、「実際にAIはどこまで監査の現場で役に立っているのか?」という問いから議論がスタートしました。

横山氏は、「ChatGPTのような生成AIを監査基準やマニュアルと結びつけて現場で活用しています。さらに画像AIを使って改ざん検知にも取り組んでいます」と紹介する一方で、「ただ、現場全体への浸透はまだ難しい。AIを使いこなせるかどうかは人によって大きな差がある」と、現実のハードルを率直に語りました。

松岡氏も、「企業側のデータがバラバラで汚い。あちこちに散らばっていて、非効率。AI以前の問題がまだたくさん残っている」と、現場ならではの悩みを共有します。

一方で齋藤氏は、「もう“データが標準化されていないから無理”というのは言い訳にならない」と断言。「今のAIは、多様なフォーマットを学習し、自律的に処理するフェーズに入っている」と、技術進化の“突破力”を力強く示しました。

現場感覚と技術の最前線――その両者のリアルな手触りがぶつかり合い、会場の空気をじわりと揺さぶっていきます。

 

 「監査をぶっ壊せ!」AI技術から見たゲームチェンジの可能性

久保田氏が口火を切ったのは、「2016年から“AIで監査をぶっ壊せないか”とずっとチャレンジしてきました」という一言。強い言葉に、会場がざわつきます。

「当時、“会計士はAIに取って代わられる職業2位”という論文を読んで、自分で自分の業界を壊してやろうと思ったんです。でも現実は、目の前に立ちはだかる“紙の山”。それに阻まれて、無理でした」と振り返ります。

しかし、生成AIの登場によって状況は一変。「文字も画像も“読む”“推論する”という壁が突破された。今では、“5人で巨大クライアントを監査できる時代が来るかもしれない”という可能性を本気で感じています」と、技術の進化がもたらす変化に確信をにじませました。

「イノベーションというのは、すべてのパーツがある瞬間につながって、一気に爆発する。その“瞬間”が、もうすぐ来る気がしている」と熱を込めて語る久保田氏。

その言葉に、会場には「本当に数年で業界構造が変わるかもしれない」というわくわくと、一抹の緊張感が静かに広がっていきました。

 

日本独自の課題――外圧と変革、そして“人の意識”

松岡氏が、「PDF化は進んできたものの、紙の書類をただスキャンして放置している企業もまだまだ多い」と語ると、横山氏はそれを受けて、「日本は欧米と違って中小企業の数が圧倒的に多く、デジタル投資が追いついていない」と指摘。「“コロナ”という外圧でクラウド化が一気に進んだように、AI普及にも何か大きな“きっかけ”が必要だ」と続けました。

久保田氏も、「制度も技術も、もうほとんど揃っている。あとは“意識”が切り替わるような大きなイベントが来るかどうか」と語り、現場の変革は“マインドセット”の転換にかかっていると強調します。

そして一同は、「AIが一気に推論できるようになり、その精度が“人間以上”になったとき、業界全体にパラダイムシフトが起こる」という大きな認識で一致。会場には、近づきつつある変革の気配と、その先にある可能性が静かに漂い始めていました。

 

AI活用に立ちはだかる“ガバナンス”と“リスク”

AIが監査に役立つようになればなるほど、次に浮かび上がってくるのが、「何を信頼できるのか」「どう担保するのか」という、信頼の本質に関わる問いです。

齋藤氏は、「AI監査におけるリスク対応は、透明性・安全性・バイアス(公平性)・セキュリティ。この4つの軸が重要なポイントになる」とし、「現場で起こりがちな“ブラックボックス化”をどう扱うか。社会的な合意形成や制度設計も、まだまだ課題が多い」と冷静に指摘しました。

横山氏は、自身の現場で起きたエピソードを披露。「“AI信者”のようなスタッフが現れて、すべてAIに振り切った判断をして、実際すごいアウトプットを出したんです。でも、その一方でリスクもすべて受け入れてしまう。その温度差をどうマネジメントするかが本当に難しい」と語り、現場ならではの葛藤がにじみ出る一幕となりました。

 

監査される側・する側で求められる新しい協業

松岡氏は、「これからは、“AIで処理された会計フロー”そのものが監査対象になる」と語り、未来の監査像を示します。AIが処理経路や根拠を自動的に記録し、企業と監査法人が“AI同士”で相互に監査を行い合うような時代が、そう遠くない将来にやってくるという見立てです。

齋藤氏も続けて、「AIを活用するには、技術的・制度的なガバナンス、そして社会からの信頼を支える仕組みづくり――この三つが同時に進化しないと、新しい“監査の信頼”は成立しない」と、制度面と社会的受容の両立の必要性を強調しました。

ここで議論は、「AIが生成した監査報告書を、社会は本当に信じられるのか?」という核心へと踏み込みます。

「今はもう、“リスクゼロ”をうたう時代ではない。むしろ、リスクをどれだけ可視化し、そこに対するガバナンスがどう成立しているかを、第三者が透明に示すことこそが、社会的信頼の源になる」と語る齋藤氏。

久保田氏も、「私たちが使うAIツールも、どのように作られ、どのようなガバナンスがあるのかを含めて、透明に開示することが求められる。これからは、監査法人も企業も、“監査AIのガバナンス”について説明責任を問われる時代に入っていく」と続け、AI時代における信頼構築の新たなルールを示唆しました。

 

監査現場でどう“生き残る”のか――新しい会計ファイナンス人材像

セッション後半では、会場の若手や受験生に向けて、「AI時代に、会計人材としてどう生きていくべきか」がテーマに掲げられました。

久保田氏は、「かつては何十人、何百人でしかできなかった仕事が、AIの力で個人や小規模法人でもできるようになる」と語り、「“BIG4の市場の10%を、たった1人で取る”なんて未来も、今や夢物語ではない」とインパクトのある“未来マップ”を提示。「“AIを使いこなす人”と“AIに使われる人”の二極化は、すでに始まっている」と警鐘を鳴らしました。

齋藤氏は、「プロンプトエンジニアリング、つまり“問いを立てる力”や“仮説を組み立てる力”が、これからの会計人の命になる」と語り、「AIが進化すればするほど、使いこなせるかどうかで差が広がる。説明責任(アカウンタビリティ)を果たせる会計ファイナンス人材こそが、最強の存在になる」と明快に示しました。

松岡氏は、BPO(業務アウトソーシング)の現場経験をもとに、「単なる作業員ではなく、業務のプロセスを“設計”し、それを説明・評価できる力を持つ人が生き残る」と、実務の肌感覚を共有。

そして横山氏は、「とにかく、まず“手を動かしてみる”ことが大事」と語り、「現場で自らAIに飛び込んでいく人が、イノベーションの先頭に立つ」と、“ファーストペンギン”精神を熱く呼びかけました。

 

『明日スタッフ2年目だったら何する?』――究極の“リアルアドバイス” 

セッション終盤、ファシリテーターの山本氏がふいに会場に問いかけます。

「もし明日、皆さんがJ2・J3(監査実務2〜3年目)のスタッフだったら、何をしますか?」

この突然の質問に、登壇者たちも素のままに意見を交わしはじめます。

久保田氏は、「毎朝いろんな生成AIサービスを契約して、思いついたことにどんどんぶつけて起業アイデアを考えます。こんなに“無限大のチャンス”が転がってる瞬間、なかなかない」と語り、柔軟な発想と行動力の重要性を強調。

松岡氏は、「結局、良くも悪くも触ってみないと分かりません。全部のツールを実際に“使って”みてこそ、危機感も希望もリアルに肌で感じられる」と、行動の大切さをシンプルに伝えます。

横山氏は、「AIを使いこなしていくうちに、“もしかしてGAFAみたいなテック企業の方が未来ある業界かも”って思うかもしれない。そんな柔軟さと行動力が、業界の地図を塗り替えていく」と語り、視野の広さと変化を恐れない姿勢を呼びかけました。

齋藤氏は、「若い世代こそ、個別業務だけでなく全体像を意識して、異分野とのコミュニケーションや仮説立てに積極的に取り組んでほしい」と、未来の会計人への期待を込めて語りました。

登壇者たちの言葉はどれも具体的で熱く、まるでベンチャー誌の「今すぐ一歩踏み出そう!」というコピーのよう。参加者の多くが、うなずきながらその言葉を受け止めていました。

 

監査の「コア」はどこに戻るのか――“機械作業”から“人間”へ

セッションの締めくくりに、久保田氏が語ったエピソードが静かに、そして印象的に響きました。

「最近の監査は、あまりにも機械的な作業になりすぎてしまった。でも、AIの進化が本格的に突き抜ければ、人は本来の“プロフェッショナル”な領域へと戻っていけるはず。つまり、本質的な説明責任を担う、本来あるべき仕事に立ち返るんです」

この言葉に対し、山本氏も「まさに日本はこれから人口が減り、働き手も不足していく。“AIによる効率化”は、実は大きなチャンスなんです」と補足し、前向きな視点を加えます。

セッションは、単なる“代替”や“淘汰”といった恐怖を煽るのではなく、むしろ「より志ある、やりがいや誇りを感じられる職域」が残っていく未来を、具体的かつポジティブに描き出して締めくくられました。

 

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