
公開日:2021/05/24
権威勾配(権威の角度)その2
株式会社Assatteの記事
前回の記事では「権威勾配」について解説し、リーダーが権威勾配をコントロールすることの重要性を述べました。そこで今回は、権威勾配の調整に役立つ「言葉の使い方」について以下の三つの場面を例に紹介したいと思います。
【挨拶場面】
挨拶は権威勾配をゆるめることに貢献します。いきなり仕事の話を切り出す前に「おはよう!」と一言入れるだけで、相手の緊張をやわらげることができます。何かをして貰ったら「ありがとう」と感謝の言葉を伝えることも重要です。また、あなたは何の考えもなく「お疲れ様」と言ってはいないでしょうか。心のこもらない「お疲れ様」は、相手と距離を取る手軽な方法ですが、この言葉には権威勾配をきつくする働きがあります。もちろん本当に相手を労う気持ちで言ったのであれば、権威勾配はゆるくなります。つまり同じ言葉でも、使い方によって人間関係に及ぼす影響は異なるのです。これらは人間関係において「当たり前のこと」ですが、この当たり前ができていない職場が多いのです。
直接、顔を合わせる機会が減ってきた現在、テキストのやりとりで仕事を進めることが多くなり、言葉で気持ちを伝えることが疎かになっているようです。日本では、感謝を言葉で表現するのを気恥ずかしく思う人が多く、言葉の代わりに会釈などの非言語行動がよく使われます。しかし、その延長でテキストのやりとりをすると、気持ちを表現しきれずに相手との摩擦が起こってしまいます。文面の最後に「いつもありがとう、助かっています」などの一言を入れるだけで、相手の反応は全然違うものになります。相手とうまくやるためには、自分の気恥ずかしさなど取るに足らないことでしょう。
【フィードバック場面】
フィードバックは組織の立場が影響するため、特に注意すべき場面です。権威勾配がゆる過ぎると、どんなに良いフィードバックをしてもメンバーの行動を変えることはできません。反対に権威勾配がきつ過ぎると、メンバーはフィードバンクされた内容を「自分で考えるもの」のではなく、「従うべきもの」と捉え、意見や工夫を出すことを放棄してしまいます。
フィードバックでは「誰が正しいのか」という考え方になっていないか注意をする必要があります。「良悪」、「正誤」などの言葉が多く使われる関係性では、この傾向が強いと言えるでしょう。そして多くの場合、リーダーが言う内容が「良/正」として、それ以外のものは「悪/誤」とラベル付けされてしまいます。つまりリーダーという人間が正しいかどうかが論点となり、本来、議論すべき中身が置き去りになるのです。このようなフィードバックが続くと権威勾配はきつくなり、メンバーが意見を言えない雰囲気が出来上がります。
「良悪」や「正誤」は言葉の力が強く、評価的なニュアンスも含まれるため、意図的に権威勾配をきつくしたい場合以外は使わないほうが無難です。もし使うとしても「良い、悪い」、「正しい、間違っている」と断定せずに、例えば「こうしたほうが良いと思う」のように「思う」を付け足したり、「私はこうしたほうが好き」、「こっちのほうが自分の考えに近い」などの表現を使うと、やわらかい印象で相手に伝えることができます。
「あなたはこうしなければならない」というメッセージの出し方は「You message」と呼ばれ、多くの場合、評価や断定のニュアンスが強くなります。一方で、「私はこう思う」というメッセージの出し方を「I message」と言い、相手の考えを否定せずに、異なる選択肢を与えることができます。権威勾配がゆる過ぎると感じたら「You message」、きつ過ぎると感じたら「I message」といったように使い分けてみましょう。

【非常事態の場面】
非常事態や危機的な状況など、迅速な対応が求められる場面では、リーダーは権威勾配をきつくする必要があります。その際には、You messageを中心に、断定的な言葉を使うことで緊張感を作り出すことができます。ただしリーダーが日頃から評価的、断定的な言葉を使い過ぎていると「言葉の力」が弱まり、肝心な場面でメンバーの緊張感を高めることが難しくなります。そのため、普段はやわらかい言葉を使い、有事の際に強い言葉を使うなど、リーダーは「言葉の勾配」を意識して使い分ける必要があります。
今回はリーダーとメンバーに絞った内容でしたが、人が集まるところには必ず権威勾配が存在します。しかし本来、人間には上下関係は存在しません。あくまで組織や社会を運営する役割として権威が付与されているだけです。「自分のほうが偉い」などの考えを持つ人は権威に心を支配されているのです。人を地位や肩書だけで判断していると、自分も相手からそう見られるようになります。いつか必ず失う地位や肩書にとらわれず、誰に対しても一人の人間として向き合うことを忘れないでください。
この記事を書いた人
株式会社Assatte(アサッテ)です。「未来に進む勇気をすべての人に」を理念に、個人と組織が少し先の未来(明後日)に歩みを進めるご支援をさせて頂いております。心理学の専門家(Ph.D)や、組織コンサルティングの重鎮、大学教員などのメンバーが「アリストテレスに勝つ」ことを目指し、日々、人間理解への探求と実践を続けています。
すべての人が過去や現在に囚われることなく、未来に進むことができる。そして目の前の人だけでなく、その人が影響を与える次の世代の人のことまで考える。そんな社会は、より明るく、きっと面白いものであるに違いありません。その実現に向けて、CPASSでは「仕事」や「人間関係」、そして「未来」につながる情報や機会を提供したいと考えております。
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