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公開日:2025/05/19

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スタートアップ採用の見極めポイントとは?「伝える力」で人を巻き込むために

ベンチャーキャピタリストとして、様々なスタートアップの採用や組織づくりを支援させていただく中で、求める人材像のお話をよく耳にします。特にシード・アーリーフェーズのスタートアップだと、人材を育てるだけの余力がないことから「自走して結果を出してくれる優秀な人材」を多くの場合求めています。

そのため、「どのような点を見ればそういった人を見極められるのか」といったご質問をいただくこともしばしばあります。質問の意図は理解できるのですが、前提として私は「人を見極める」という表現自体が不適切だと感じています。

なぜなら、候補者のキャリアやスキル、待遇といったものを企業側が見極めるというスタンスでは多くの場合、採用しても上手くいかないから。見極めるべき対象は「人」ではなく、「双方が求めているものがWin-Winのマッチングになるか」。つまり、双方の相性こそが問題なのです。

その前提をもとに、スタートアップと転職を検討している候補者双方の目線から、適切なマッチングについて考えを深めていければと思います。

    スタートアップ採用でミスマッチを防ぐ2つの視点

    スタートアップと人材との間でWin-Winのマッチングを成立させるためには、「フェーズと相手の価値観が合うか」「候補者のやりたいことを軸としたキャリア選択か」の2点の検討が必要だと考えます。

    1点目について、そもそもスタートアップは変化と想定外が当たり前の世界です。特にシードからアーリーフェーズにかけては、明確な「答え」がどこにもない中を突き進んでいくわけですから、予定調和に進むことはほぼないと言っていいでしょう。そのため、「計画通りに進める」のが好きな人や「整えられた組織体制」を求める人は、ミスマッチになりやすく、フェーズに合っていないと考えられます。

    裏返して「臨機応変に動きたい」「ゼロから新しくつくるのが好き」といった価値観の人なら、スタートアップ(正確にはシード、アーリーフェーズ)に合いやすいといえます。しかし、それだけではミスマッチを減らすことはできません。なぜなら、スタートアップは世の中に星の数ほどあり、同じ領域で似たサービスを展開していても、目指すビジョンや価値観がそれぞれ異なるからです。

    そこで必要なのが、2点目の視点です。無数の選択肢の中で、「なぜその会社を選ぶのか」「その会社で何を成したいのか」が、候補者のキャリア選択において明確かどうか。そして、その人の実現したい夢なり情熱なりが、スタートアップの事業内容やビジョンと重なるのかどうか。自社に合う人材を採用するためには、この部分の見極めが非常に大切です。

    過去の経歴や成し遂げてきた業績、あるいは役職や報酬といった外的要因も必要な要素ではありますが、そこだけを判断基準にしてしまうと、多くの場合、ミスマッチが生じます。候補者の側からすると、内発的な「やりたいこと」が軸にないため、想定外の変化に対応しきれなくなってしまいますし、スタートアップからしても、条件面だけで採用しようとすると、そもそも期待しただけの成果をその人が発揮しづらくなり、オファー条件と釣り合いがとれなくなってしまいます。

    優秀な人材を巻き込むには?「伝える力」と「熱量」

    「優秀な人材を巻き込んで、仲間にする」というのは、スタートアップに限らず、多くの企業にとって重要な課題です。しかし、大手企業と比べ、スタートアップには資金をはじめとしたリソースが潤沢ではありません。

    だからこそ、候補者の「やりたいこと」に耳を傾け、自社の事業やビジョンと合うなら、その実現につながる機会を提供することが大切なのです。そのスタートアップだからこそ出来ることや輝ける場所を提供できるなら、報酬や条件面がその人のキャリアと見合わなくても、優秀な人が入ってくれる可能性が高まります。

    裏を返すと、優秀な人を仲間にするためには、そのスタートアップが何をしていて、どこを目指しているのかを広く発信していく必要があります。求める人材がどこに眠っているのか、わからないわけですから、とにかく声をあげていくしかない。そのときにポイントになるのが、解像度と共感度です。

    たとえば「日本を変える」と言われても、何をどんな風に変えるのかが受け取り手には伝わりません。どんな領域でどんな課題に挑み、未来にどんな夢を描くのか。もっと詳しく、受け取り手がリアルにイメージできるところまで、「やりたいこと」を煮詰め、伝え方を工夫していく必要があります。

    ただスタートアップの場合、世の中にまだ生まれてない、新たな取組をしているわけですから、100%の解像度で伝えることは現実的に不可能です。もしかしたら10%か20%しか見えていないかもしれないビジョンを伝え、人を巻き込むためには、「共感」を生み出す必要があります。

    共感を生み出すためには、解像度に加えて、経営者の熱量が問われます。たとえばムーブメントを起こすために必要なリーダーシップの示唆として、あるワンシーンを切り取った動画があります。

    https://youtu.be/OVfSaoT9mEM?si=DQ6FyN9hD9VySF6P

    周囲から浮いていてもひたすら踊り続けたリーダーがいて、その熱量が伝播し、ファーストフォロワーが生まれ、やがて1つのムーブメントになっていく。このファーストフォロワ-に声が届き、最初の仲間が生まれるまで、リーダーは本気の姿を見せ続ける必要があることを、この動画は示しています。

    声をあげるといっても、人によってやり方は様々です。メディアでマスに向けて発信するのが得意な人もいれば、知り合いから一人ひとり、直接語りかけて説得していく方が向いている人もいるでしょう。あえて語らず、背中で見せるタイプの人もいるはずです。大切なのは、時間や熱量といったリソースを仲間集めに集中して投下し、継続し続けることなのです。

    もちろん採用活動以外にも、経営者の仕事はたくさんあります。他の業務とのバランスは難しい部分ではありますが、多くのスタートアップを見ていると、ここぞというタイミングで集中的にリソースを割く方が仲間集めが上手くいきやすいように感じます。

    スタートアップの採用活動と転職活動、いずれも明確な正解があるものではありません。本記事でお伝えした内容も一見解にすぎませんが、スタートアップと転職者、双方の「やりたいこと」が重なり、Win-Winのマッチングが増えていく一つのきっかけになればうれしいです。

    この記事を書いた人

    新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。

    2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。

    2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。

    https://x.gd/eUsrb

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