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公開日:2023/04/07

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FASでの経験から得られたもの

古川拳土さんの記事

    イントロダクション

    現在はFASからキャリアチェンジし、スタートアップにて経営企画業務に従事していますが、今回はFAS卒業者目線で、「FASでの経験から得られたもの」についてお伝えできればと考えています。

    監査法人からFASへの転職を考えている方の、何らかの参考になれば幸いです。

    なお、これからお話させていただく内容は、あくまでBig4 FASのバリュエーション部門での経験に基づいていますので、バリュエーション部門以外や独立系FASの場合はまた状況が変わってくる可能性はありますので、その点ご了承頂けますと幸いです。

    また、「M&A、ファイナンスに関する専門知識」については言わずもがなですので、下記からは割愛しています。

    大きく、①キャリア②スキル③精神面の3つに分けて得られたものについてご説明していきたいと思います。

    01. キャリア

    キャリアの幅が広がった

    FASにてM&A及びファイナンス寄りの経験を積むことが出来たので、投資銀行やプライベートエクイティファンド、(管理系ではなくファイナンス寄りの)スタートアップCFO、事業会社経営企画など、ネクストキャリアの選択肢の幅を広げることが出来ました。

    明確にやりたい業務は定まっていないものの、会計・監査+αのスキルを身に着けたいと考えている方にも、FASへの転職はおススメできると考えています。

    一般的な会計士よりも、自信を持って得意と言い張れる領域が出来た

    上記の内容と、少々重複しますが、会計士という母集団で見た場合、監査・会計のプロフェッショナルは沢山いらっしゃいますので、監査・会計という軸で強みを探すことに難しさを感じている方もいらっしゃると思います(IFRS、US GAAP、PCAOB対応等々・・)。

    そのような中、FASにてバリュエーション業務を経験したことで、自分の中で一つの強みが出来たのは大きいと考えています。

    勿論私はスタッフの間にFASを退職してしまいましたので、独立して一人で案件を取れる水準になるためには追加で一定の年数修行が必要ですが、それでもBig4という高品質な環境下で実務を2年間経験したことにより、自信を持って強みと言える水準には達することができたと思います。

    02. スキル

    ビジネスと数値を連動させて思考する能力

    バリュエーション業務では、対象会社から提出された事業計画を基に株価算定を進めていきますので、対象会社の事業内容を正しく理解し、事業内容がどう計画数値に落とし込まれているか理解する必要があります。

    (例:売上高について、どのようにKPIを設定し、因数分解されているか。KPIの伸びをどのような背景から説明しているか、など)

    スタートアップの経営企画業務では事業計画を作成する機会もあるのですが、その度にバリュエーション業務での経験が役に立っているなと感じています。

    ・結果の数値を分析する能力

    これは監査法人時代の私の反省点でもあるのですが、監査業務に従事していると、財務諸表が正しく作成されているか否かに意識が向いてしまい、最終的な財務諸表の数値よりも、その過程の数値に目が行きがちでした。

    例えば、監査手続の一環で増減分析を実施する際には、数値そのものよりも増減額に注目してしまっていました。

    FASの場合、同業他社の財務諸表と評価対象会社の財務諸表を比較分析するなど、結果数値に対する考察を行う機会が多いため、数値を一歩俯瞰して分析する能力が身につきました。

    少し話は逸れますが、FASの最終面接の際に、とある面接官から、監査のメインクライアントの営業利益率かつその業界の営業利益率の水準について説明を求められたことがありました。

    私のメインクライアントは航空会社だったため、

    ①    航空機をはじめとした固定資産が多いため、減価償却費も大きくなっている

    ②    燃料費が大きくなっている

    ③    パイロットや客室乗務員が必要なため、人件費が大きくなっている

    その結果、販管費が多額になるため、営業利益率は低くなるのではないか

    といった話を咄嗟にすることが出来たため、なんとかその場を乗り切ることに成功しました。上記のような視点は、普段から意識しないとなかなか養えないなと痛感しました。監査法人勤務の方は、日頃から監査クライアントの財務諸表を俯瞰し、PL、BSの特徴について考察する習慣をつけとくと良いかもしれません。

    ・財務三表モデルの作成能力

    財務三表モデルとは、Excelなど表計算ソフトで作成される、BS、PL、CFの三表が連動しているシート(PLを変化させると、連動してBSとCFも変化するなど)を指しますが、監査法人に勤務しているとなかなか作成する機会も見る機会もないかと思います。

    バリュエーション業務で当該能力は必須なのは間違いないですが、現在の経営企画業務の一貫で事業計画を作成する際にも、事業計画に財務三表モデルを含めた方が外部の利害関係者からの信頼度も増しますので、身につけておいて良かったなと思っています。

    簿記に対して一定の理解がある会計士なら、正直身に着けるのはそこまで苦ではないかと思いますので、是非機会があれば財務三表モデルの作成にチャレンジされると良いかなと思います。

    ・自己研鑽を積極的に行う習慣

    監査法人時代は、(これは私が良くなかったのですが)、お恥ずかしながら会計・監査の専門書を購入したことは殆どありませんでした。バリュエーション業務は、会計士試験における経営学や管理会計論で少々触れてはいたものの、会計・監査とは少し離れた、ファイナンス知識が求められる業務でしたので、危機感からか専門書を購入し、独学で知識のインプットを進めるようになりました。

    プロジェクト中に、上司におすすめの書籍を教えて頂き、土日に書店に向かい購入し、そのまま読み進めることもありました。

    上記の習慣は、今後新たな分野の知識をインプットする際にも役に立つ習慣かと思っていますので、良い習慣を作ることが出来たな、と考えています。

    ・答えのない問いに対して思考する能力

    監査・会計は、複数の候補から適切なもの(会計処理など)を選ぶケースが多いため、答えが何となく見えるケースも多いですが、バリュエーション業務の場合は、そもそも株式価値はいくらといったような答えはありません。

    入社した当初は、答えを探すことに意識が向きがちだったのですが、答え探しよりも、答えを出すためのプロセスの大事さを痛感することになりました。

    例えば、バリュエーション業務の中でも奥の深いステップの一つとして、「上場類似会社の選定(※)」がありますが、当該ステップは結論に至るまでの思考プロセスが非常に重要になってきますので、思考力を養う良い経験となりました。

    (※)バリュエーション業務では、評価対象会社は非上場会社となる場合が殆どでして、その場合、例えばDCF法におけるβとして、上場類似会社(評価対象会社とビジネス面・財務面で似ていると考えられる上場会社)のβの平均値もしくは中央値を使用することが実務上一般的です。当該βを算定するためにも、「上場類似会社の選定」は必要となってきます。

    少し話は逸れますが、私は監査法人からのネクストキャリアとして戦略コンサルティングも考えていましたので、フェルミ推定やケース問題の書籍を購入し、勉強していました。フェルミ推定やケース問題の際に使用するような思考方法に慣れることができれば、答えのない問いに対して論理立てて思考することに抵抗はなくなるのかもしれません。

    ・思考スピードの成長

    監査法人にも勿論優秀な方はいらっしゃいましたが、FASの場合バックグラウンドは会計士に限らず様々(証券会社や商社出身者など)であり、かつそのような業界で活躍していた方がFASへ転職してきているため、監査法人よりも優秀な方の層が厚かったように感じています。

    そのため、思考スピードの速いプロジェクトマネージャーのプロジェクトにアサインされることも多々あり、自分の知識力不足もあり苦労することも多かったのですが、なんとかキャッチアップしようと努力する過程で、自分自身の思考スピードも鍛えられた気がします。

    ・プロジェクトマネジメント力及びやり切る力

    私の所属していた部門では、基本的にスタッフ、プロジェクトマネージャー、パートナーの3人でプロジェクトを回していました。そのため、成果物の作成は全てスタッフにて実施する形式でしたので、プロジェクトの全体像は掴み易かった気がしています。

    監査は、インチャージをやらない限り中々プロジェクトの全体像把握は難しいですが、私の部門では前述のようなチーム体制だったため、プロジェクトマネジメント力は養いやすい環境でした。

    加えて、基本的には他にスタッフがいないかつプロジェクトマネージャーはスタッフの作成した成果物のレビューに徹していましたので、自分で成果物をゴールまで持っていかざるを得ない環境でした。そのため、「やり切る力」もついたかなと考えています。

    以下は、スキル面の中でも、成果物作成に関係する内容となりますので、上記の内容と比較して、少々具体的な内容となります。

    ・成果物に対するセルフチェック力

    監査の場合には、成果物として監査調書がクライアントへ提出されることはないですが(協会レビューなどはまた別ですが)、FAS業務の場合、例えば作成した財務三表や、株価算定シートがそのまま成果物となるため、数字一つ一つに対してより責任を持つ必要があります。

    最初はケアレスミスも多かったのですが、私なりにミスを減らすためにチェック体制を構築できたので、徐々にミスも減っていきました。

    チェック体制の例としては、第三者が作成した成果物をチェックするつもりで、自分の成果物を細かくチェックしたり、1回目のチェックの30分後くらいに、頭をリフレッシュさせた状態で再度チェックするなどです。

    ・綺麗なExcelシートを作成する能力

    監査と異なり、FAS業務ではExcelシートがそのまま成果物になります(正確にはExcelファイル自体というよりは、PDF化されたExcelシートですが)。なので、見た目の綺麗なExcelシートを作成することも意識するようになりました。

    具体的には、他案件のExcelシートを参考にしながら良い部分を真似していき、自分なりのルール(フォントや色遣いなど)を構築していきました。

    上記の経験は、Excelにて成果物を作成する機会の多い現職でも、かなり役立っています。

    ・Power Pointスキル

    監査法人時代は、監査調書の作成は基本的にExcelかWordだったためPower Pointにてスライドを作成する機会は殆どありませんでした。一方FASの場合はレポートをPower Pointにて作成するため、監査法人時代よりもPower Pointのスキルは向上しました。

    それでもコンサルに比べると、ゼロベースで図や表を作成し、キーメッセージをひたすら考え抜くような経験は少なかったため、その辺りのスキルは現職にて必死に修行している最中です。

    ・Excel処理力

    監査法人時代と比較すると、Excel作業そのものの分量も圧倒的に増え、ショートカットキーをより積極的に使わなければ、と危機感を覚えました。そのため、書籍を購入し、使えるショートカットキーの数を増やす努力をしていきました。その結果、Excel処理スピードをかなり上げることができました。

    03. 精神面

    ・メンタルが鍛えられた

    証券会社出身の方など、監査法人時代の上司よりも厳しい方も何名かいらっしゃったため、そのような上司の下で働くことにより、かなりメンタルは鍛えられました。

    ・「タイトなスケジュール」に対する耐性

    クライアント都合によりプロジェクトのスケジュールがタイトになってしまうことも多々あったため、スケジュールの瞬間的なタイトさを比較するとFASの方がキツかった気がしています。一瞬一瞬は結構大変でしたが、そのような追い込まれる経験を積んだことにより、タイトなスケジュールに対する耐性がつきました。

    ・プロフェッショナルマインドの醸成

    FASの場合、プロジェクトベースでクライアントから報酬を頂いている立場であるため、クライアントに良いアウトプットを提供できない場合、継続的に案件が受注されない、という危機感がありました。そのため、クライアントの期待・要求には何が何でも応えないといけない、という意識は高まった気がしています(上司もそのようなマインドで業務に臨んでいました)。

    まとめ

    五月雨式に記載させて頂きましたが、上記が「FASでの経験から得られたもの」となります。

    転職当初は大変なこともありましたが、ソフトスキル・ハードスキル共に確実に成長できましたので、個人的にはFASへの転職は大正解だったと考えています。

    当記事を読まれた方で、もしFASへの転職に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、CPASSキャリアのエージェントの方にキャリア相談してみると良いかもしれません。

    (ちなみにですが、私もスタートアップへの転職を考え始めたタイミングで、CPASSキャリアのエージェントの方には相談させていただき、気さくに貴重なアドバイスをいただきました。)

    最後までお読みいただきありがとうございました。

    この記事を書いた人

    慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
    2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。

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