公開日:2024/12/24
スタートアップと大企業によるオープンイノベーション創出はなぜ上手くいかないのか?:「共創ビジョン」型協業モデルを考える
私は、これまでVCとして、数多くのスタートアップと大企業の協業に伴走してきました。その中で、初回のミーティングは非常に盛り上がりを見せるのに、その後、なぜか上手くいかないケースを見てきました。あるいは、途中から急速に熱が冷めていき、具体的な協業の話にまで進まないケースも経験してきました。
「協業を推進するにあたって、どうすれば良いか」といったHOW論は、すでに様々なところで語られており、目にされた方も多いかと思います。そこで、「なぜ協業が上手くいかないか」について、HOWよりもさらに一段引いた視点で、構造的に捉えて、考察してみた内容をまとめてみました。
あくまでも私個人の経験にもとづく見方であり、協業における正解を示すものではありませんが、スタートアップと大企業との協業を検討する方々の参考の1つになれば幸いです。
スタートアップと大企業の「協業」がなぜ上手くいかないのか
前提として、大企業には大企業のやりたいことがありますし、スタートアップにはスタートアップとして成し遂げたい世界観があります。そして、双方の「やりたいこと」が同じ方向を向いているという判断のもと、協業の話が浮かび上がってくるわけです。
しかしながら、残念ながら「やりたいこと」の方向性が同じだとしても、双方の目指す世界が交わらず、協業に至らないままに終わってしまうケースがよくあります。
例えば、DXによる自社工場の生産性向上に取り組みたい大企業と、AIを活用した製造現場の効率化のソリューションを提供しているスタートアップがあるとします。大企業の課題をスタートアップが解決できる組み合わせとして、協業すれば一見、上手くいきそうに思えます。
しかし、内情を細かく見ていくと、スタートアップ側は早急に実績を作りたいと考えており、売上金額よりも早急に導入してくれる、もしくは協業候補として、対外的な協業アピールを打ち出すことを了承してくれる先を求めているかもしれません。一方、大企業側は、会社の構造的な基盤を見直したいと考えており、じっくり時間をかけて導入を図り、会社全体にインパクトをもたらしたいと考えているとします。
この二者が実際にプロジェクトを進めていくとどうなるか。双方の文化やスピード感、進め方の違いが徐々に顕在化していき、初回の面談では一見、同じような景色を見ていたはずなのに、ミーティングを重ねていくほど、協業点を見出せなくなっていってしまうのです。結果、最終的には協業の話が自然とフェードアウトしてしまう状況に陥ってしまいます。
少し目線を変えると、上記の事例はこんな図に表すことができるのかもしれません。
それぞれが「製造業の生産性向上」という目的・ゴールを目指しているという点は間違いありません。ただ、そのゴールに向けて進む速度も違うし、想定している進め方も違います。まっすぐ一直線がいいのか、少しジグザグでも、時間をかけて慎重に進みたいのか。それぞれの目的や文化によっても、進め方は大きく異なります。
前提として、それぞれの会社には、それぞれの事業のゴールがあります。そして、当初のプランに基づいた仮説をそれぞれが抱いています。そのため、合理的に考えて「協業」がお互いにとって唯一無二のソリューションでなければ、あえて目的達成のために、当初の仮説を捻じ曲げてまで協業する判断をしづらくなってしまうのです。
協業のゴール設定:矢印の方向をどちらに向けるのか
オープンイノベーションの文脈ではよく、協業の成功確率を高める条件として「翻訳者」の存在が挙げられます。一般的に、翻訳者は、協業におけるカルチャーの違いや進め方などのギャップを埋める役割として重要だと言われてます。
ただ、先ほど図で示した構造をもとに考えてみると、翻訳者の役割にまた違った側面が見えてきます。翻訳者がいることで双方の文脈理解が進み、大企業側もスタートアップ側も「当初の仮説を捻じ曲げてでも協業すべき理由」を見出しやすくなり、矢印の角度を変える意思決定をしやすくなるといえるでしょう。
協業におけるゴールへの矢印をすり合わせる手法として、通常は、どちらかが相手の方向性に合わせるやり方を取ります。大手企業がスタートアップに合わせるのか、スタートアップが大手企業に合わせるのか。
いずれにせよ、双方合意のもとでスタンスを明確にしておかないと、矢印が交わらないまま、成果を出せずに終わってしまいます。
オープンイノベーションにおける「Win-Win」の多層構造
では、オープンイノベーションにおいてゴールを達成するためには、そもそもどのような条件を満たす必要があるのか。同じく、オープンイノベーションを構造で捉えた上で、単純化しながら考えてみたいと思います。
協業を検討しているスタートアップと大企業は、通常「それぞれ同じ方向を向いているが、異なるゴールを掲げて目指している」状態にあります。この場合、一方が矢印の向きを変え、もう片方のゴール達成に向けて力を合わせようとしないかぎり、矢印が交わりません。その結果、協業によるゴールの達成は難しくなるでしょう。
この矢印を交わらせようと、多くのケースでは、HOWの部分に焦点を当てて協業の話を進めようとします。逆を言うと、双方が達成したい共通のゴールや各々のWHYについて話し合うケースは少ないのが実情です。
HOWの部分のすり合わせだけで協業を進めようとすると、交わろうとした矢印自体が向かう先を見失い、結果的にまた矢印が合流できないまま元に戻ってしまいます。そうなると、協業の話が具体的に進まず、自然とフェードアウトしてしまいがちだというのは先述の通りです。
スタートアップと大手企業がそれぞれのスタンスや役割分担を明確にしないまま、HOWだけを見て、「双方Win-Win」という曖昧なイメージを持ったまま、手を組もうとすると多くの場合うまく行かなくなってしまいます。
なぜなら、それぞれ強みが違うため、全ての面でWin-Winになることはありえないからです。ある一定の部分ではWin、ある一定の部分ではLoseになる多層構造で捉えた上で、全体を俯瞰して見た時にお互いが納得できるのであれば、協業関係が継続しやすくなるでしょう。
協業における共通認識づくりと役割分担の明確化
ここまでの話をもとに、成果が出やすい協業の在り方を考えてみたいと思います。思うに、どちらのゴールに向かって、矢印を向けていこうとしているのか、プロジェクトを進めながら徐々にでもいいので、双方が役割を分担しながら、共通認識をつくっていくとよいのではないかと考えます。
協業における役割分担を、シンプルに分けると以下の2種類に分かれます。
・ビジョンを担う旗振り役
・アセット提供役
熱量を持ってプロジェクトを推進する担当と、そこに共感して力を貸す担当と言い換えてもよいでしょう。
たとえば、大手企業側の課題を解決するためにスタートアップが全コミットするケースであれば、旗振り役は大企業です。そこにスタートアップのアセットである自社技術やプロダクト、サービスを提供することで、目標を達成していく流れになります。
逆に、急成長中でビジョンも明確なスタートアップに対して、大手企業側がその実現を加速させていくためにアセットを提供する流れもよくあります。
このように、双方の役割分担を明確にした上で、相手の「やりたいこと」にコミットしていく流れであれば、商売としても分かりやすく、オープンイノベーションの成功確率も高くなります。
スタートアップと大手企業の「共創ビジョン」型協業の実現に向けて
協業の現場においては、HOWの議論の方が盛り上がりますし、一見同じ方向を向いているため、わざわざ共通の新たなゴールを作らなくても、上手く協業が進みそうだと感じられる方も多いかと思います。
しかし、これまで述べてきたように、それでは上手くいかないケースがほとんどです。現時点において、片方のゴール実現に向けて矢印を添わせるやり方のほうが上手くいきやすいように思います。ただし、それが協業の理想形というわけでもないと考えています。
個人的な思いではありますが、オープンイノベーションにおける協業の理想形は、スタートアップと大手企業が、お互いが納得・共感できるゴールづくりから始めていくことではないかと考えています。イメージとしては、元々それそれが描いてた目的・ゴールを一旦手放して、ゼロから共通のゴールを築いていくというものです。
どちらかの「やりたいこと」に沿わせるのではなく、それぞれの強みを活かしつつ、「自社だけではできない世界観を一緒に目指す」。協業のゴール設定のところから共創して進めていければ、オープンイノベーションを通じてよりインパクトある価値を生み出していけるのではないかという仮説を立てています。
これも仮説段階であり、決して正解を述べているものではありません。一つの考え方として、オープンイノベーションの協業に関する考察を深める一材料になればと思います。皆様と今後も議論を深めていければ幸いです。
この記事を書いた人
新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。
2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。
2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。
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