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公開日:2023/09/09

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FAS業務に従事している会計士へインタビュー③

古川拳土さんの記事

こんにちは。

今回は、FASにてバリュエーション業務に従事したことのある現役会計士1名に、下記2点についてインタビューした内容を紹介できればと思いますので、最後までお読みいただければと思います。

    なお、インタビューさせていただいたAさんについて、簡単にバックグラウンドを紹介させていただきます。

    Aさん:監査法人にてシニアスタッフまで上がった後、他ファームのFASバリュエーション&FA部門に転職。約1年後更に他ファームのFASへ転職し、DD、バリュエーション、FA業務に従事中。

    バリュエーション部門における業務について、念のためおさらいしておきます。
    バリュエーション部門には、大きく以下の4つの業務内容があります。

    ・取引目的バリュエーション

    M&Aにおいて、買収価格を決定する際に実施するバリュエーションです。M&Aにおいて買い手または売り手側と交渉する際の根拠となる企業価値水準を算定する業務となりますので、両者の交渉に影響を及ぼす可能性のある、非常にやりがいのある業務となっています。バリュエーション部門と聞くと、通常皆様が想像されるのがこちらの業務かと思います。

    ・会計目的バリュエーション

    取得価額の配分(「PPA:Purchase Price Allocation」)や減損テスト等監査業務への関与が、会計目的バリュエーションに該当します。

    「PPA」とは、企業結合の会計処理を実施する際に、M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産および負債の基準日時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産および負債に配分する手続きを指しています。具体的には、買収された企業の取得価額が1億円の場合、その取得価額をどの資産にいくら配分し、のれんが最終的にいくら計上されるのかを算定することとなります。

    「減損テスト」とは、(J-GAAP、IFRS問わず)減損会計基準に基づき、帳簿価額と回収可能価額を比較する手続きを指しています。将来キャッシュフローを割引計算するという意味では、取引目的バリュエーションと共通している手続きとなります。

    ・ビジネスモデリング

    クライアント(電力会社など)とともに投資判断に必要なシミュレーションモデル、プロジェクトファイナンス等のキャッシュフローモデル、および社内管理用の各種モデルを策定する業務です。こちらの業務は、会計士も勿論関与する機会はありますが、どちらかというと前職でIRR等の投資効率シミュレーション経験のある、商社出身者や投資銀行出身者が得意とする領域の業務となります。

    ・監査サポート業務

    メンバーファームの監査法人から依頼される、他社が算定した株式、または無形資産評価の前提条件、および算定手法が適切かどうかをレビューする業務となります。例えば私の前職であるEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ですと、EY新日本監査法人の方とやり取りをしていました。

    監査基準委員会報告書 620「専門家の業務の利用」に規定されている業務の一つでもあります。

    バリュエーション部門と聞くと、通常は上記1つめの「取引目的バリュエーション」をイメージされるかと思いますが、2つめ~4つめについても取り扱っており、意外と業務の幅は広くなっています。

    前置きが長くなってしまいましたが、内容に入っていきます。

    01.  FAS入社前に実施した事前準備

    以下Aさんのコメントです。

    「バリュエーションに関する基礎知識については、市販の書籍を数冊読むことでキャッチアップに努めました。また、そもそも M&A 全体において、バリュエーションがどの段階においてどのように利用されるかに対する知識も不足していましたので、M&A 全体のプロセスを解説するような本(改訂5版 M&A実務のすべて | 北地 達明, 北爪 雅彦, 松下 欣親, 伊藤 憲次 |本 | 通販 | Amazon)などを通じて、バリュエーション実施の前提としてまずは M&A 全体の流れを勉強しました。

    PPA に関してはほぼノータッチだったと記憶しています。会計目的の評価は、利用場面や目的は理解しやすいのですが、PPA であれば評価手法の理解、減損テストであれば会計基準の理解(JGAAP だけでなく IFRS、時にはUSGAAP でも)が必要となりますが、そこまでは準備の手が回りませんでした。」

    私もAさんと同様の状況でして、面接対策の段階から、M&A全体のプロセスについては理解するよう意識していました。
    また、バリュエーションに関しては、入社前に下記の3冊を購入しました。

    図解でわかる企業価値評価のすべて | ㈱KPMGFAS |本 | 通販 | Amazon
    コーポレートファイナンス 戦略と実践 | 田中 慎一, 保田 隆明 |本 | 通販 | Amazon
    企業価値評価の実務Q&A〔第4版〕 | 株式会社プルータス・コンサルティング |本 | 通販 | Amazon

    上記3冊は、以前執筆させていただきました記事(FAS部門及び関連書籍の紹介(その2) |CPASS(シーパス) (cpass-net.jp)
    でも紹介させていただいていますが、
    1冊目は入門書として最適な書籍、
    2冊目はバリュエーション業務を具体的にイメージするのに最適な書籍、
    3冊目は実務でも辞書として使える書籍となっています。

    私の場合、1冊目と2冊目までは入社前に読み終わることができましたが、3冊目は結構細かい内容も記載されていますので、実務に携わり始めてから本格的に読み進めよう、といった形で割り切っていました。

    PPAに関しては、おそらく入社して通常のバリュエーション業務に慣れた後アサインされることになるかと思いますので、個人的にはまずは通常のバリュエーション業務に関する知識のインプットを進める形で問題ないと考えています。

    また、私の場合は担当エージェントが親切な方でしたので、入社後ご一緒させていただくことになるであろう上司とのカジュアル面談もセットさせていただく機会がありました。当該カジュアル面談にて、入社前に不安に思っている内容を質問することができましたので、大変ありがたい機会だったと感じています。

    もし希望されるのであれば、是非皆様も担当エージェントにカジュアル面談が可能かお聞きしてみるとよいかもしれません。

    02. 入社して最初に担当した業務

    以下Aさんのコメントです。

    「知り合いの同業者からは、会計ファームであればまずは監査サポートとしてバリュエーションやPPAのレビュー業務をこなし、一定の経験を積んで自ら評価主体となって作業を行うケースが多いと聞きます。私が所属していたチームでは、特にそのようなルールがあるわけではなかったですが、最初の担当業務は取引目的バリュエーションとしては大手製薬会社の同業他社買収にかかる監査サポート、会計目的バリュエーションとしては大手総合商社の在外企業買収における無形資産評価(監査サポートではなく)、であったと記憶しています。
    基本的に取引目的バリュエーション/会計目的バリュエーションともに、責任者、プロジェクトマネージャー、作業者の3人体制が多く、スタッフとして入社後は作業者として プロジェクトマネージャー の下で作業を進めることが多いかと思います。具体的な担当としては、モデル作り(類似会社の選定、割引率の算定、(PPA であれば)減衰率の検討、計算モデルの作成)やレポートドラフトの作成を実施しました。」

    私の場合も、入社後最初に担当した業務は監査サポート業務でした。
    前職で経験がある場合を除き、入社後いきなり独力で財務モデルを作成しバリュエーションを実施するのはハードルが高いため、まずは監査サポート業務にて他ファームのバリュエーション結果報告書を何件かレビューし、バリュエーション業務の流れを体感し、慣れてきたタイミングでバリュエーション案件にアサインされる流れが王道な気がします。

    また、監査の場合ですと、複数メンバーで勘定科目を分担し検討を実施するため、全科目担当しきるのには一定程度の期間を必要とする認識ですが、バリュエーションの場合ですと、基本的にスタッフ1人(場合によっては2人)が全ての作業を実施し、スタッフの成果物をプロジェクトマネージャーがレビューする、という体制となるため、早い段階から一通り作業を体験できるのは良い部分かなと考えています(裏を返せば、全て自らで対応しないといけないため、大変な部分もあります)。

    まとめ

    本日は、
    ・FAS入社前に実施した事前準備
    ・入社して最初に担当した業務
    の2点について、インタビューした内容を紹介させていただきました。

    特に2点目については、中々実際に業務に従事している方に具体的な内容をヒアリングする機会はないですので、参考になる方も多いのではないかと考えています。

    次回は、
    ③ 入社して最初に苦労した部分
    ④ 上記を乗り越えるためにどのような工夫を実施したか
    の2点について、インタビューさせていただいた内容を紹介できればと考えていますので、乞うご期待下さい。
    最後までお読み下さりありがとうございました。

    この記事を書いた人

    慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験に合格後、2017年2月より有限責任監査法人トーマツへ入所し、会計監査業務、内部統制監査業務、定期採用関連業務に従事。その後2020年7月より、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にて企業価値評価業務や会計監査支援業務、財務分析業務等に従事。
    2022年4月より株式会社Clearにて経営企画業務、その他コーポレート業務全般(経理、労務、財務、法務)に従事。

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