公開日:2021/10/21
監査法人勤務から独立後の業務 ~税理士登録はすべきか
岡田昌也さんの記事
イントロダクション
今回は、公認会計士が独立したときの税理士登録について述べさせてもらいます(もちろん、勝手な個人的な意見ということでお読みください)。
公認会計士取得を目指す理由の一つとして、公認資格さえ取れれば税理士登録もできるというのは、大きなメリットの一つとされております。合格までの年数や各科目の難易度を考えると、税理士になるためには税理士試験よりも公認会計士試験のほうが早道ではないかと言われることもあるようです(試験制度が全然違うので、単純な比較は出来ませんが)。
それらはさておき、監査法人勤務の公認会計士が独立するとき、ほとんどの人が税理士登録をします。私も当然のことながら、独立に際して税理士登録をするかどうか検討しましたが、登録しないことに決めました。現時点においても登録しておりませんが、税理士登録をしていない私自身の経験を踏まえて、登録すべきかどうかについて改めて考えてみました。
① 会計士業務と税理士業務の違い
・ 顧客の規模の違い
監査法人の顧客は、上場会社又はそれに準ずる規模の会社ばかりです。監査業務でなくとも、中小企業を相手にすることはほとんどありません。一方、税理士業務はその逆で、ほとんどが中小企業・中小零細企業相手となります。
そうなることは私も独立前から十分に理解していたつもりですが、実際にそうなってみると、これほど違うものか、と少し愕然としました。上場会社であってもオーナー企業は多いですが、上場会社のオーナー企業と非上場の中小零細のオーナー企業とでは、まったく違います。これは実際に経験してみないと本当の意味で理解することはできないと思います(いい意味でも悪い意味でも)。
・報酬単価の違い
顧客の会社規模の大きさと報酬単価はある程度比例します。モノを創り出さずに無形のサービスを提供する公認会計士に対して、ある程度の報酬を払ってくれる会社は、実際には非常に限定されます。
監査法人時代の業務報酬は、1日当たり10万円前後かと思いますが、非上場の中小零細のオーナー企業で、その単価で支払ってくれるところはほぼ皆無です。すると、税理士の税務顧問業務という土俵で勝負することになりますが、過当競争により、1日単価は大幅に下がることになります。
・交渉相手の違い
もしかしたら、これが一番違うところなのかもしれませんが、顧客側の窓口はオーナー社長の親族になることが多いです。オーナー本人、奥様、兄弟、子供であることが多く、親族でないにしても社長の右腕・金庫番であり、オーナー社長への忠誠は絶対です。
このため、会社のためというよりも、オーナー社長のため、という側面が強く、会社税務と個人税務が混在します。事業経営者の個人税務となると、必然的に財産承継・事業承継の税務も必須となります。
監査法人勤務ではこういった状況はまずありませんが、中小零細企業のこういった状況で仕事をするとなると、守備範囲が広がり、監査法人時代とは違った意味で、ものすごいプレッシャーを感じることになります。
② 難易度及びリスク度合い
・税法全般という範囲及び法律の細かさ
税法は複雑多岐に渡り、毎年細かな点が改正され、関係省庁も複数あり、重要性の基準値もありません。税金の種類も、法人税、所得税、贈与税、相続税、消費税、地方税全般等々、ものすごく範囲が広く、法律ですので条文が細かいです(読みにくい!)。
別に会計基準や監査基準が簡単だ、と言うつもりはありませんが、税法は“法律”ですので、“基準”とはまた違った扱いの難しさがあります。法律は“知らなかった”は全く通じませんし、重要性判断が入る余地は基本的にはありません(もちろん“基準”も知らないというのは通じないです)。仮に、法律のほうがおかしい、と万人が思ったとしても、法律である以上それに逆らうことはできません。
・損害賠償リスク
私が税理士登録を躊躇する一番の理由ですが、損害賠償リスクが極めて高いことです。
監査業務の場合は、財務諸表全体が適正であれば、個々の論点が間違っていたとしても、まず大きな問題になることはないと思われます。しかしながら、税務業務の場合は、少しでも間違えば過大納付することになりかねず、還付してもらえなければ全額賠償することになります。
税法は複雑多岐、かつ毎年改正されているため、常にそれらにキャッチアップしていかなければならず、監査法人のマネジャークラスとして「まあ重要性がないからいいか」というのに慣れてしまった公認会計士がやるには、リスクが高すぎる業務としか思えません。
③ 事業収入の安定度
上述したように、独立したての公認会計士が税務業務を行うことは、昨今の複雑化した税法を考慮すると、個人的にはあまりお勧めできません。しかしながら、税務顧問業務は基本的には契約は毎年更新されますので、事業収入は非常に安定します。監査法人の監査契約も同様に、上場会社である以上は会計監査契約は更新されることがほとんどですので、非常に安定しております。
一方で、独立した公認会計士が行う会計指導業務は、契約更新は前提ではなくなります。例えば、新会計基準への対応アドバイス業務などは、1年程度で契約終了となります。デューデリジェンス業務になると、1か月程度で終了し、その会社からのリピート業務は通常ありません。
このように、事業として考えると、税務顧問業務は非常に安定した収入源となりますので、その点で公認会計士業務と比較し、はるかに優れた業種になります。
④ 事業収入の安定度
上述したように、独立したての公認会計士が税務業務を行うことは、昨今の複雑化した税法を考慮すると、個人的にはあまりお勧めできません。しかしながら、税務顧問業務は基本的には契約は毎年更新されますので、事業収入は非常に安定します。監査法人の監査契約も同様に、上場会社である以上は会計監査契約は更新されることがほとんどですので、非常に安定しております。
一方で、独立した公認会計士が行う会計指導業務は、契約更新は前提ではなくなります。例えば、新会計基準への対応アドバイス業務などは、1年程度で契約終了となります。デューデリジェンス業務になると、1か月程度で終了し、その会社からのリピート業務は通常ありません。
このように、事業として考えると、税務顧問業務は非常に安定した収入源となりますので、その点で公認会計士業務と比較し、はるかに優れた業種になります。
(まとめ)
表題を「税理士登録はすべきか」としてしまいましたが、各個人の好き嫌いですので、どちらでもいいです。税理士登録だけはするが、税理士としてのサインはしない、という人も大勢います。また、税理士登録をして、一心不乱に勉強して経験を積んで、短期間で非常に税法に詳しくなる人も大勢います。さらに、独立して税務業務も含めて、一気に事務所規模を大きくしていくツワモノ会計士も大勢おります。独立後の公認会計士の仕事は、税務業務も含めて、オーナー経営者に寄り添うことができる仕事が多く、とてもやりがいのある仕事であることは確かです。
独立して事業を営むわけですから、リスクのない事業などあるわけはなく、ハイリスク・ハイリターンを前提として税務業界に飛び込んでいく人も多く、その中で私だけがリスクに過剰に反応しているだけなのかもしれません。これから独立をされていく公認会計士の方は、本稿の私の記述については、こういう人もいるんだなあ、という程度で読んでいただければ幸いです。
最後に、くどいかもしれませんが一言だけ。
税法は法律ですから、「だいたい合っているから大丈夫だろう」とか「普通に考えればこれでいいだろう」とか「重要じゃないからまあいいだろう」という考えは捨てなくてはいけません。これで痛い目に合った同僚会計士は何人もいます。くれぐれもご注意ください。
この記事を書いた人
ローカル・中小・大手監査法人を経て、2019年8月に独立。
監査法人時代のM&A業務の経験を生かして、デューデリジェンスを中心とした業務を提供している。その他、上場会社に対する会計指導業務やIPO準備支援も提供している。
なお、南山大学ビジネススクールの准教授に10年間就任した経験を活かし、現在でも名古屋市立大学及び南山大学にて非常勤講師を兼務している。岐阜県大垣市出身、慶應義塾大学法学部卒業。
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