公開日:2023/12/01
【世界一周会計士】アメリカ歴20年の超ベテラン監査人、西川さんにインタビュー! 世界で活躍する会計士へインタビューVol.12
こんにちは!世界一周会計士の古作祐真です。
第12弾は、アメリカ2番目の都市ロサンゼルス(以下、LA)にてグラントソントンLAオフィスに勤められている西川靖弘さんです。西川さんは、日本で事業会社に勤めた後、語学留学でアメリカへ、MBAとUSCPAを取得し、PwCに現地就職、グラントソントンで日系監査プラクティスを立ち上げ、現在はグラントソントンLAで監査マネージングディレクターとして勤務されています。
西川さんがなぜアメリカに渡ったのか、そしてUSCPAとしてどのようにアメリカで長期間働いてきたのか、そして最先端の会計監査に20年間携わってきた、西川さんが考える今後の監査の展望とは。このインタビューでは、そんな気になる西川さんのキャリアについて深堀してきました!
プロフィール
西川靖弘 / 米国公認会計士(カリフォルニア、ニューヨーク、イリノイ)
1995年:早稲田大学商学部卒業
2000年-2002年:Pace University – Lubin School of Business
2003年-2017年:PwC US
2017年-現在 Grant Thornton LA Managing Director/Japan Business Group Audit Leader
渡米のきっかけは「英語を喋りたかった」
――西川さんの簡単な自己紹介をお願いします。
西川靖弘と申します。現在、米国グラントソントンLAオフィスの監査マネージングディレクターを務めています。グラントソントンには日系企業部(ジャパンビジネスグループ)があるのですが、その監査グループの責任者として、米国にある日系企業子会社に監査サービスを提供しています。Big4同様に、監査以外に税務・アドバイザリーサービスも提供しております。
生まれは大阪の枚方で、育ちは横浜です。ただ、生後2ヶ月で父親の転勤に伴いマレーシアに引っ越し、4歳までマレーシアのクアラルンプールで過ごしていました。日本へ帰国後は渡米するまで横浜で暮らしておりました。
――海外に興味を持たれたきっかけは、やはり幼少期にマレーシアで生活した経験が関係しているのでしょうか。
マレーシアでの生活を経験したからというよりは、父親の影響とアメリカに短期間暮らした経験から海外志向が強くなったのだと思います。マレーシアでの生活では、幼少期であり、特に英語を話していた訳でもなく、普通の日本人として暮らしていました。
実は、私の父親は商社勤めのため、海外にいることが常でした。インドネシア語を話すことができたこともあり、始めはインドネシアやマレーシアなどの東南アジアへ赴任し、次第に英語を活かして中国・カナダ・アメリカに移っていったのです。
しかし、日本の教育を受けた方がいいという親の教育方針によって、私自身は帯同しておらず、大学まで日本の教育を受けて、父親は単身赴任という形でした。
大学の時にちょうど父親がアメリカにいたため、夏休みにアメリカに行き、2ヶ月ぐらい暮らしていたこともありました。その影響で海外志向が強くなったのだと思います。
――実際に現地に行かれたことで、その想いが芽生えたのですね。その後、アメリカの学校に留学したきっかけについて教えてください。
「海外に行きたい」と漠然と考えていましたが、卒業後はなんだかんだ日本の事業会社に3年ほど勤めていました。親は英語が話せるけれど、自分は全く喋れない。そんな現状を変えたくて、英語を勉強するためにアメリカに行きました。つまり、3か月間、語学を学ぶために会社を辞めて渡米しました。
当時はお金もない中、どのように生活するかを考えていた時に、偶然にも、母親のいとこがニューヨークのマンハッタンでお花のビジネスを準備しているという話を耳にしました。全く会ったことのない親戚でしたが、お金も無いし、藁にも縋る思いで、とりあえず1ヶ月だけ泊めてもらうという話で住み始めました。ただ、最終的には1年間も住み続けましたね(笑)。
マンハッタンでの生活は非常に魅力的かつ刺激的でした。コロンビア大学の語学学校に通っていたのですが、世界各国から英語を勉強したいという、意識の高い友人たちが集まっていたものですから、その影響を受けて、元々数か月のアメリカ滞在の予定が「アメリカに残って働くのもいいのでは」と思い改め、アメリカでMBA(経営学修士)を取ろうと考えました。そして折角修士で2年間いるならば、他の資格も取った方が良いと思い、そこでUSCPAを取ろうと考えたんです。
マンハッタンのペース大学には、全てのMBA科目と全ての会計科目が入った、MBAと会計の修士を合体したようなコースがあります。単位取得数は多くなりますが、これら両方をカバーできる魅力的なコースだと思い、受講し始めました。
MBA在学中にUSCPAを取得
――そんな簡単にMBAの入学ができるものなのでしょうか。入念に事前準備して決まるまで1年位はかかると勝手に思い込んでいました。
語学学校に入るために、それに近い手続きを既にしていたのが功を奏しました。一番の問題はビザだと思いますが、F-1ビザ(外国人が米国で教育を受けられるようにする非移民学生ビザの一種)を語学学校の時に取得していたため、滞在自体は6年間問題ありませんでした。
また、語学学校で英語を勉強してる間に、GMAT(修士に行くための共通テスト)とTOEFLを受験しており、さらに、ビジネス科目の単位も取っていたため、あとは出願書類を提出するだけでした。そのまま出願も問題なく進み、1年で入学許可が出ました。
余談ですけれども、通っていたペース大学がワールドトレードセンターの近くで、9.11の同時多発テロの時、まさしくそこにいました。9.11の後は校舎の中に大きなファンを置いて、常にホコリを外に出していたのを覚えています。
――会計士の中でも、海外でMBAを取りたいという話を最近耳にすることが多いため、西川さんが通われた大学のように、USCPAとMBAが合体したコースがあるという話は、そういった興味がある方にとって凄く有用な情報だと思います。
効率的にMBAとUSCPAの資格を取れると思います。
試験はなんとなく昔から得意だったというのもあり、USCPAも勉強を始めてから1年間で取れてしまいました。当時は年に2回しか試験がなく、かつ全教科を2日で受け切る必要があったため、集中して勉強せざる負えなかったのがよかったのかもしれません。
――MBAと並行しながら1年でUSCPAを取ってしまうなんて、凄すぎます…。
ちなみに話は変わるのですが、語学学校も経てビジネススクールにも行くとなると、当時の英語力はかなり高かったのでしょうか。
英語をある程度習得できたという実感が湧くまでには、やはり3年ぐらいかかりましたね。そのため、MBAに行って上達はしましたが、2年間では発展途上、という感じでした。参考までに、語学学校の卒業後に受験したTOEICの点数は920点です。
特にスピーキングとリスニングは本当に時間がかかりました。今も勉強してますし、英語に関しては常に勉強していないといけないと感じます。
――ちなみに語学学校に行く前の英語力はどのくらいでしたでしょうか。
行く前に受けたTOEICは700点くらいでしたね。
(写真:MBA時代の西川さん)
――語学学校に1年通って英語力を高めてから仕事をすべきか、もしくは語学学校に行かず、そのまま働いて現場で磨いていくべきかだと、どちらが良いと考えますか。
個人的には、少なくとも数か月は語学学校に通った方が良いと思います。
例えば、駐在していても、特に今はコロナ禍のため、1年以上ほとんど英語を話していない、なんて方も沢山います。一方で語学学校は、強制的に1日何時間も先生やクラスの友達と話しますし、授業が終わった後も友達と一緒にディナーに行ったりします。仕事でお客さんと英語で何時間も話すなんてことは、あまり無いですよね。
だからこそ、英語という観点で、語学学校という選択肢は、人より一歩先に行くためには非常に有効な手段だと思います。仕事をやりながらとなると忙しさのあまり、英語に時間が割けなくなってしまうのではないでしょうか。
――ビジネスでは必須ではないけど、折角海外にいる機会があるのなら、語学学校に行って、ちゃんと英語を吸収した方がいいですよね。
あとは、社会人同士との触れ合いと学生同士との触れ合いはやはり違うと思います。年はとってもお互い学生同士のため、それなりに時間もフレキシブルですし、彼らも英語を上達させたいので、英語が話せない同士で、沢山喋りたいという人が多いです。
仕事でもアメリカ人と話もしますが、こちらの英語の上達に付き合ってくれるわけではありませんからね。仕事を辞めて3か月学ぶとなると難しいですけれど、語学学校には行って良かったと思います。
MBA卒業、そして現地のPwCへ
――ご経歴を拝見しましたが、MBA取得後は、直接現地のPwCに入社されたと伺いました。いきなり海外で働くとなると、不安はなかったのでしょうか。
元から海外志向が強かったため、海外に出る時もほとんど心配しませんでした。PwCへの就職が決まり、長いスパンで見ると、将来どうなるのかなとは若干思いましたが、当時はそこまで深くは考えず、このままアメリカに居られるという安心感の方が強かったのを覚えています。
就職前には、他にもMBA在学中に米国税理士EA(Enrolled Agent)やコンピューターの基礎的資格も取りました。
――資格取りすぎじゃないですか!?凄すぎます。アメリカ現地の就職はそんなに資格が必要なのでしょうか。
いえ、会計の学位を持っていれば基本入れますよ(笑)。社会人経験があったからこそ、時間を無駄にしてはいけないという想いがどこかにありましたね。学生のままだとぼーっと過ごしがちですけど、貰えるはずの給料が無い、いわゆる機会損失を考えると、頑張らないといけない気持ちに自然となりました。
現地就職は難しいイメージを持つ人もいらっしゃるかと思いますが、確かに大都市のBig4は誰でも行けるというわけではありません。ニューヨーク・シカゴ・ロサンゼルス辺りの人気エリアはそこそこ倍率はありますね。一方で、例えばケンタッキーやデトロイトの様な事務所であれば比較的容易に入れるかもしれないです。
――例えば「どうしてもアメリカの会計事務所で働きたい」という日本人の会計士の方は、まず地方のデトロイト辺りを狙って入社して、数年してから大都市の事務所に異動するみたいなこともできそうですよね。
Big4でも、地方都市に日本人を1人から数人置いてるところも多いですね。そのような環境でやっていく覚悟があるならば、かなりの確率で採用されると思います。ただ、日本人が全く居ない環境も十分考えられるため、そこはやる気次第でしょうか。
もし、そこで2、3年でも経験を積むことができれば、違う都市に行ける可能性は非常に高くなります。本当にアメリカで会計をやっていきたいというならば、地方都市から都会に出るというルートはアリだと思います。
ただし、地方にはおいしい日本食があまりないため、そういう点では頑張らないとダメだと思いますが(笑)。
――西川さんはPwCではどのような仕事をされていたのでしょうか。
業務内容は、始めから今までずっと監査です。主に自動車会社、製造業、商社を担当していました。会計事務所はどこもほぼ同じルールですし、やらなければいけないことは同じです。
そのため、転職に関しても、他の事業会社間の転職と違って私は会計事務所間で動いていますので、そのままPwCの知識が今のグラントソントンでも活かされていると感じています。
――海外のBig4は有資格者でなくても入社できますが、人数が多くなり、昇進するための競争率が高く、レイオフもかなりの頻度で起こるといった噂を耳にしますが、実際どうでしょうか。
まず、学位があれば採用はされると思います。あとは事務所によって違うのですが、グラントソントンの場合は、マネージャーになるまでにUSCPAを取得していないとダメです。
グラントソントンもしくは他の会計事務所は基本アソシエイト2年、シニア3年で、6年目にマネージャーになります。PwCはアソシエイトが3年ですので、7年目でマネジャーになります。
短く早くマネージャーになれる他のBig4やグラントソントン等を取るのか、若しくはPwCブランドを取るかというところは、個人的な判断になります。
――働き方の細かい話になるかもしれませんが、西川さんが配属された監査チームは、完全にローカルのチームで、日系企業は関係なく現地の会社を監査するようなチームでしたでしょうか。若しくは日本人が多く、業務の半分ぐらい日系企業を監査するようなチームでしたでしょうか。
アソシエイトやシニアの頃は、日系企業にもアメリカの企業にもアサインされていました。
日系企業部の一員として雇われてますので、どちらかというと、まずは日系企業を埋めようという動きはありますが、必ずしも日系だけにアサインされるわけではなく、アメリカの企業にもアサインされます。逆にアメリカ人も、日系企業にアサインされることもあります。
しかし、上の方に行くと、やはり担当しなければいけない日系企業が増えてきます。マネージャー辺りになってくると、自分の担当する日系企業のクライアントの仕事をほとんどやるというイメージになります。
――上に行けば行くほど日系企業の割合が増えていくのですね。
上に行くほど担当する企業数が増えていきます。例えば、シニアの場合は年間5社だとすると、マネージャーは10社程度になります。下の年次の方がアメリカ企業にアサインされる率は高いと思います。
――PwCともなると、出世競争も激しいと思います。西川さんはその厳しい環境下でシニアマネージャーに昇進されていますが、競争がある中、どのように勝ち残ってきたのか教えてください。
自分は、人より時間をかけて努力しないと、他の人と対等にはやれないと思っていたため、アメリカ人と同じ様に働くのではなく、時間をかけて多くの仕事をこなしてやっと彼らと同じぐらい、と考えていました。
もちろん英語の問題やアメリカ文化への順応というのもありますし、何にもせずにアメリカ人と対等、という考えは根底からありませんでした。外国人として英語もできないですし、子供の頃から共有してきたアメリカ特有のカルチャーがある訳ですよね。そのようなバックグラウンドを前提に仕事は進みますから、その分、時間をかけて努力をしてカバーしようと考えてました。
コロナ禍になり、グラントソントンはハイブリッド出社を採用していますが、私は毎日出社しています。週一くらいでたまに出社する同僚とも会える機会を少しでも増やし、社内ネットワークを強める等の努力をしています。
人より良い成果を出していれば、基本ダメと言われることはないのも、アメリカの特徴ですね。
――日本人は成果主義よりは、どちらかというと根回しとか上司にいかに好かれてるか、そういう仕事以外の部分が多くを占める気がしますが、アメリカでは成果を重視する文化がやはり根付いているのでしょうか。
アメリカ人は昔から、会議の時には上下関係がなく、自分が思ってることを言う、という発想が根底にあり、そこでオープンな根回しがされています。アメリカで教育を受けていないと、日本人には非常に難しい考え方です。事実の正誤は問わず、構わず主張します。彼らは、自分が間違っていても気にしませんからね(笑)。
Big4からの転職
――PwCからグラントソントンに転職されたきっかけを教えてください。
PwCの組織規模が大きく、閉塞感を感じ始めたことがきっかけです。
世界一大きい会計事務所なため、アメリカでも当時は4万人ぐらい居ました。ニューヨーク(以下NY)オフィスでも9,000人、シカゴ1,000人、LA2,000人でした。ちなみにグラントソントンNYオフィスにも約1,000人います。
また、米国にある日系企業とのサイズ感に関しても思う点がありました。日本では大きな会社であっても、やはり米国子会社になるため、担当している他のアメリカの上場企業と比べると、サイズ感が違います。日系企業が社内で存在感が薄いという点で、ミスマッチを感じていましたね。
グラントソントンでの監査プラクティス部をアメリカで始めるという話を耳にして、意を決して日本人が誰も居ないLAオフィスに一人で移ってきました。
グラントソントン日系企業部リーダーの渡辺さんに紹介してもらったのですが、実はPwCシカゴでの同僚で、6,7年ほど一緒に働いていたんです。
グラントソントンへの転籍のためにNYからLAに引っ越してきました。基本的にLAを主要拠点としている理由は、日系企業がLAに多いからです。
――NYに日系企業が多いわけではないのですね。
ニューヨークは家賃が非常に高く、日系企業はほとんど居ないというのが現実です。あるとしたら、超大手の金融機関や商社など、マンハッタンにオフィスを構えられるだけの余裕がある企業だけですね。
――LAでは監査とマーケティングどちらをやっているのでしょうか。
監査とマーケティング両方に携わっています。
今は有難いことに、お客様が毎年右肩上がりに増えています。特にコロナに入ってから、会社に往査して監査することも殆ど無くなってきているため、LAのみならず、全米をターゲットにマーケティング活動を行っています。LA外のエンゲージメントは、エンゲージメントリーダーは私ですが、チームは現地に任せるような形を取っています。
――となると、西川さんが担当されているクライアントはかなり多そうですね。
多いですね。具体的な数は言えませんが、普通のパートナーよりは多いと思います。
アメリカ三大都市の雰囲気は様々
――話が若干変わりますが、NY、シカゴ、LA大都市の3都市で働かれた中で感じた、地域毎の働き方の違いを教えてください。
西海岸のLAが一番リラックスしている雰囲気です。NYは全体的に硬い人が多いという印象です。LAではまずスーツは着ないですし、ジャケット着用もほとんどありません。お客様もTシャツだったりしますが、NYはフォーマル感があるため、さすがにTシャツということはないですね。
また、NYはどちらかというと電車通勤です。高い家賃を出せる人以外は基本電車を利用しています。一方LAは車生活です。コロナの前後で変わってはいますが、基本的にかなり渋滞するため、NYの方が皆オフィスに出社している一方、LAは家で仕事をするという方が多いです。私は車が好きなので、LAの生活は気に入っています。
食の観点で言えば、まずレストランの質はNYに敵わないですね(笑)。少し電車に乗れば色んなレストランに行けますし、非常に高いですが日本食も非常に良いです。流石に東京には及びませんが、東京に近いクオリティのお店がNYには多いです。
仕事が終わった後に同僚と飲みに行くことが多いのがNY。車社会だからというのもありますが、飲み文化が無いのがLA。住んでる地域が違うため「ちょっと帰りに一杯」という話はほとんどないです。
――NYはフォーマルで一見機械的なコミュニケーションが多そうですが、飲み会を開いたりする点では距離が近いのですね。LAはTシャツ出勤できるほどラフな雰囲気だけれど、飲み会が開催されないのが、面白い構図だなと思いました。
――自分の家庭のことも考えられると、例えば家族を大事にするとなると、LAの方が働きやすいですね。
家庭を大切にするという面では、実はシカゴの人気が高いですね。家賃がリーズナブルで、且つダウンタウンも発展していて、NYほど厳しくなく、LA程ふざけていない。バランスが取れています。
ただし、シカゴやNYは本当に寒いです。毎日車で往査をしていた時は、帰りに車の上に雪がたんまり積もっていることもありました(笑)。
(写真:グラントソントン LAオフィスの様子)
アメリカで働くために必要な事とは?
――現在監査グループリーダーとしてお仕事をされている中で、西川さんの感じるやりがいを教えてください。
お客様が増えてきて、アメリカ人にも日系企業の監査に参加してもらい、毎年どんどん組織が大きくなるのを実感するのが凄く嬉しいです。
――組織の成長はBig4では中々感じられないですが、グラントソントンでは成長ポテンシャルがあるのも大きいですよね。
Big4では中々実感できませんね。人が多く、少なからず政治もありますし。グラントソントンは現状、その段階ではなく、みんなで力を合わせて大きくする流れがあります。アメリカ人も非常に協力的です。
今や日系企業はローカライズが進んでいます。一昔前は管理職に多くの日本人が入っていましたが、お金もかかりますし、現地のビジネスにすぐに対応するのも大変ですので、今は経理は出向者一人とか、代表もアメリカ人が就いていたりします。
それに応じて、我々監査チームも適材適所に対応していて、日本語が必要なクライアントは日本人を、アメリカ人が多いクライアントはアメリカ人を配置して、チームアサインを変えています。
――西川さんが思う「こういう日本人会計士に働いてほしい」というポイントがあれば教えてください。
そうですね。①親戚家族から離れて何年もやっていける覚悟のある人、②英語・会計のできる人、③ビジネスセンスのある人でしょうか。日系企業は規模が比較的小さく、シニアでも社長の様な経営者層と話する機会が多いです。
ただ、全てを持っている人は当然限られますので(笑)、一番優先すべきは「アメリカで暫く頑張ってみよう」という気持ちのある人ですね。
――日本の事業会社で働いた経験を踏まえて、アメリカ人の働き方と比較するとどうでしょうか。
アメリカ人の中には、日本人と比べて能力が凄いという人が沢山います。但し、全体的に夜遅くまでやっているイメージはないですね。隠れてやっているかもしれませんが、外に見える残業は少ないです。
――アメリカでは金曜日は15時くらいに仕事を切り上げると聞きます。日本人は金曜日に残業して土日に持ち込まないようにしている人が多いですよね。
――西川さんがアメリカで感じたカルチャーショックを教えてください。
アメリカ企業の勢いを目の当たりにしていること、でしょうか。
昔は新技術と言えば、必ず日本企業から出ていましたが、今やアメリカ企業ばかりです。そんな中でも、日系企業をサポートしたいと心から願っています。
――UberもAirbnbも世界一周旅では必要不可欠でしたが、全てアメリカ発ですよね。
日本人がリスクを取らない文化もあるのも要因だと思います。ここ10年でゲームチェンジがありました。アメリカはお金持ちが多いので、お金に余裕があり、起業家サポート文化が醸成されている点で優れています。
――20年間にわたりアメリカ経済を目の前で見ている西川さんは、日本企業が衰退した理由をどうお考えですか。
マーケットが求めているニーズが、製品からサービスにシフトしたからだと思います。
恐らく、日本企業の製造技術力は変わっていないですし、依然として世界一だと思います。「ソニーのウォークマンが凄い!」という時代が一世を風靡しましたが、現在は付随するサービスをマーケットが求めています。日本はその部分が元々強いわけではありませんからね。
また、衰退の要因には「英語」があると思います。製品・サービスを英語で始めると、全世界で市場のマジョリティを一気に取れますが、日本語の製品・サービスで始めると間に翻訳作業が入るので、スピード的にも中々勝てません。先にアメリカで英語でサービスを発信する会社に、先にマジョリティをとられてしまいますね。
今後は「監査のデジタル人材」が重宝される
――新しい監査技法はアメリカから来ているイメージですが、そんな最先端のアメリカに居るからこそ、監査は今後どのように変わっていくとお考えでしょうか。
間違いなく「デジタル化」が進んでいくと思います。
ご認識の通り、監査はアメリカ発信が多く、監査基準はアメリカが引っ張る形で厳格化が進んでいます。アメリカは特に厳しい印象です。ですがその甲斐もあり、マーケットからの信頼も得ています。
要求事項が増えてきている中で、どのように効率的に監査をするかが論点となっています。ここ数年でデジタル化・AI化が進むことは確実でしょう。例えば、証憑を読み込んだら自動で明細とマッチさせるようなツールだったり、契約書を読み込んだら会計論点が列挙されるようなツールが出てくるはずです。そして、これらが使いこなせるような人材が求められるでしょう。
――厳格化が進む理由は何でしょうか。
一番の理由はやはりエンロン事件でしょう。何十年も経っていますが、アメリカの監査史で最も際立っています。悪い企業一つのせいで、全ての企業が厳しい監査を受けることになりました。そして、この状況が変わることは無いと思います。
――西川さんの今後の展望について教えてください
先程話した通り、まだまだ発展途上のグラントソントンを、もっと大きくしていきたいという想いは、入社当時から変わっていません。当分はそれを目標にしています。アメリカ人と日本人のハイブリットチームで監査を行っていく。ここに参加する日本人も圧倒的に成長できるはずなので、こういう環境も提供していきたいです。
常に勉強するという厳しい環境ですが、その分の成長はどこでも経験できるわけではないと思います。そもそもLAのダウンタウンで働いた経験を持つ日本人は、何パーセントといないでしょう。苦労する分、成長と報酬は保証されています。是非興味のある方は飛び込んでみてください。お待ちしています。
――若手会計士、会計人材に一言お願いします。
計画は大事ですが、余りに先のことを考えると、何もできなくなると思うのです。短いスパンでやりたいことを考えてみましょう。例えば、海外赴任の機会を得たいのなら、海外に行くには何をすればいいか等を考え、行動すれば良いのです。
80、90年代と比べて、世界をけん引するアメリカの超巨大マーケットを間近で見られるのも貴重な経験です。今、海外留学・会計専攻する日本人も減っているため、敢えてアメリカに出てくると、差別化にもなります。留学生は一時期の半分以下に減っています。コロナ後、更に留学生が減っています。一方、日本人の求人の需要はまだまだ多いです。そのため、今がチャンスですので、是非アメリカに出てきてほしいです。
――アメリカはずっと昔から発展しているから、レッドオーシャンに感じがちですが、逆に今がチャンスなんですね。ありがとうございました!
最後に
いかがだったでしょうか。
西川さんは語学学校に進んだ後、周りの学生から影響を受け、MBAに進学し、更にUSCPAを取得しています。もし仮に、、英語を学ぶために、日本の英会話教室に行っていたら、今の西川さんは居なかったかもしれません。本場の環境に飛び込むことの大切さを改めて感じました。
そして、西川さんが必要だと思う、アメリカで活躍できる要素として「アメリカで頑張ってみようという意気込み」を挙げていました。英語や会計、ビジネスセンスなど専門的スキルも勿論必要ですが、まずは飛び込んでみようという西川さんからの熱いメッセージをインタビューで感じました。
またそれに加えて、実はアメリカで勉強する日本人が減少しているというのもポイントです。実際に、2000年の日本人留学生は46,870人(全体の8%)でしたが、20年後の2020年には17,544人(全体の約1.6%)にまで減少しています。勉強したいと闘志を燃やしている方は、今が正にチャンスなのではないでしょうか。
(出典)https://statisticsanddata.org/data/international-students-in-us-by-country-of-origin/
それでは、第13弾もお楽しみに!
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この記事を書いた人
両者ともに、大学在学中に公認会計士論文式試験に合格後、KPMGあずさ監査法人グローバル事業部へ入社し、大手総合商社を主軸としてIFRS監査に従事。法人内の採用プロジェクトにも関与。
古作は、同法人にて5年間、監査業務に従事し、各種主査を経験。また、DX部署にて監査SaaSツール開発や次世代監査(ドローン監査等)の業務にも従事。
山田は、2年3ヶ月の同法人勤務後、2021年7月に独立。CPASSでのキャリア支援業務の他、フリーランスとして上場支援・キャピタリスト・リクルートコンサルなど複数社に従事。2022年7月には、会計コンサル会社を共同創業。
会計は世界共通のビジネス言語。この言葉を証明するため、グローバルで活躍する会計士の情報や、自身の会計の知見を活かした各国でのコラムを執筆して参ります。
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