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公開日:2022/06/02

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CFOを目指す会計士なら知っておきたいスタートアップの求人像|VC目線からの提言

西中孝幸さんの記事

    イントロダクション

    公認会計士の方のキャリアパスの一つとして、スタートアップへの転職を選ぶ方も増えてきました。とは言え、スタートアップのCFOと一言で言っても、コーポレート体制の整備や上場準備の部分を担うのか、それともファイナンス領域を中心に活動するのか、企業によっても求めるスキルや実績が異なります。

    そもそもスタートアップはどんな人材を求めているのか?
    そして、スタートアップのCFOにはどんな人がマッチしやすいのか?

    ベンチャーキャピタル(VC)で10年以上スタートアップ支援に関わってきた立場から、これらの問いについて、パーパス・スキル・マインドという3つの観点から考えていきたいと思います。

    合わせて、CFOとしてスタートアップに参画した後、その方の年収や人材としての市場価値がどのように変化していくのかという点についても、私なりの視点から実態をお伝えできればと思います。

    今後のキャリアパスとして、スタートアップのCFOを検討されている方の参考になれば幸いです。

    スタートアップの経営者が重視する求人像:パーパスのすり合わせとスキル面のマッチング

    すでにスタートアップで活躍している公認会計士の方たちを見ていると、あくまでも私個人の考えではありますが、ある一定の共通項があるように思います。

    その共通点とは、「スタートアップで働くパーパス(purpose)を明確化している」という点です。

    公認会計士の採用に限った話ではないのですが、スタートアップの経営者の方々を見ていると、自社の中核メンバーを集める際には、その人のスキルや実績以上に、パーパスの部分のマッチングに重きを置いている人が多いように思います。

    つまり、個人のパーパスと会社の方向性(パーパス)とが合っているかという点を採用基準として重視しているわけです。

    また、後に詳しくお話しますが、スタートアップのフェーズによっても人材に求めるスキルが異なります。

    そのため、転職時のミスマッチを防ぐためには、

    1. 自らのパーパスやスキルを明確にしておく
    2. 転職を検討しているスタートアップのパーパスや求めるスキルを確認する
    3. 1と2がマッチしているかを自分なりに検討する
    4. 面談を通じて、3で検討した内容をさらにすり合わせる

    という4つのステップを、一つずつ丁寧に行っていくことが望ましいと思います。

    なぜスタートアップを転職先として選ぶのか:パーパス(purpose)の明確化

    最初に、スタートアップへの転職全てに共通する「パーパス」について見ていきましょう。

    前提として、以前の記事でもお話した通り、スタートアップは過去に前例のないチャレンジを行い、新しいマーケットを創り出していくことをミッションにしています。

    参考:VCの視点から考える「スタートアップ」と「ベンチャー」の違いとは

     今までにないチャレンジを行うわけですから、いくら事業計画を綿密に立てたところで、スタートアップのビジネスは予測したとおりにいかないことがほとんどです。特にシードやアーリーの段階にあるスタートアップの場合は、朝令暮改どころか朝令朝改の対応に迫られるケースも多いでしょう。

     そのため、スタートアップで働くというキャリアを選ぶのであれば、予測できないトラブルに対して高速でPDCAを回し続け、数々のハードシングスを乗り越えていく力が求められます。

     もしそういった高速PDCAありきの世界観に対応できない方がスタートアップに就職してしまうと、お互いにとって不幸なミスマッチになってしまうでしょう。

     スタートアップに入社した後にハードシングスを越えていくための力になるのが、その人自身のパーパス(purpose)です。

    つまり、「そのスタートアップで働きたい理由は何なのか?」という問いに対して、何らかのビジョンなりパッションなりを持って明確に答えられる人であれば、ミスマッチは生じにくいと考えます。

     実際のところ、スタートアップの経営者や経営チームはバイタリティに溢れた人が多く、それこそオフィスに寝泊まりしてでも仕事に打ち込む人が多いのは事実です。

    そういった経営者や経営チームの割合が比較的多いことから、「スタートアップにはワークライフバランスなんてない」という言説を一時期、Twitterなどでも多く見かけました。

    確かに体育会系的なビジネスの進め方は、飛躍的な成果を短期で出すためには必要なこともありますが、その方法自体をいい悪いという二元論で論じるのはやや視点がずれているように感じます。

    むしろ寝食を忘れるほど仕事に集中するだけの原動力、つまりその経営者のパーパスやビジョンがどこにあるのかという点に着目すべきだと私個人は思うのです。

    スタートアップに入社したからという理由で、もし自分なりのパーパスを見いだせないまま日夜仕事に打ち込んだとしたら、いずれどこかに無理が生じるでしょう。

    だからこそ、スタートアップをキャリアパスの一つとして検討している方には、ぜひご自分のパーパスを明確にするところから転職活動を始めてもらえたらと思います。

    その上で、ぜひスタートアップの経営者と面談を重ねる中で、ぜひ「その会社のパーパスと自分のパーパスの方向性にズレはないか」「自分の人生の時間を投資したいと思えるか」を慎重に検討していくことをおすすめします。

    スタートアップのフェーズによって異なる求人像とスキル面への期待

    次は、スキル面にも目を向けていきましょう。企業の内情やフェーズによって人材に求めるスキルは異なるため、それぞれのスタートアップの状況を正確に把握しておく必要があります。

    たとえばPMF(プロダクトマーケットフィット)やバリュープロポジションが確立できているミドルやレイターのフェーズの企業の場合、ある程度定まった勝ちパターンを効率的に実践していく実行能力が期待されます。

    逆に、シードやアーリーのスタートアップであれば、そもそもどんな顧客課題を解決していくべきなのか、手数を打ちながら探索していく段階です。そのため、勝ちパターンが見えない段階でも粘り強く行動し続けられる人が期待されているでしょう。

    このようなスタートアップのフェーズによる違いを理解しておくと、転職活動の際に自分に合った働き方ができる企業なのかどうかを判断しやすくなると思います。

    パーパスのすり合わせと合わせて、ぜひ自分のスキルを見つめ直しながら、どのフェーズのスタートアップと相性がよいのか、リサーチの上で検討してみるとよいでしょう。

    スタートアップのフェーズによっても異なる“CFO”に必要なマインド

    合わせて、スタートアップがCFOに求めるマインドについても触れておきたいと思います。

    これまでのスタートアップは、上場申請年度の直前々期からIPOに向けた体制が本格化していくタイミングでCFOを採用する傾向にありました。

    ところが、昨今ではシリーズAやシリーズBの投資ラウンドにあるスタートアップでも大型の資金調達を狙うケースが増えており、同時にアーリーやミドルのフェーズでもCFOを採用するケースが増えてきました。

    そのため、特にマーケットに対する理解や経験値を兼ね備えた投資銀行出身者をCFOとして採用したいというニーズが高まっているといえるでしょう。すでに上場を果たしたメルカリやマネーフォワードの事例においても、投資銀行出身のCFOが参画していました。

    こういった説明をすると、投資銀行出身でなければCFOの役割が果たせないかのように思われがちですが、アーリーやミドルのフェーズで参画後上手くいっている方の経歴を拝見すると、会計士の方もいれば、事業会社やコンサルファーム出身の方もいます。

    では、どういう方がアーリーやミドルのフェーズでCFOとして上手くいきやすいのか?ということなのですが、大切なのはスタートアップの経営チームの一員として、組織のために必要な“ロール”を果たすことだと思われます。

     要するに、適材適所が基本とはいえ、それこそコーポレート体制の整備やファイナンスといった枠組みにとらわれず、会社経営のために必要なことを率先してこなすというマインドが求められるのです。

    もし会計士として、会計領域のみの仕事に携わりたいという場合は、すでに上場した企業、もしくは上場直前のスタートアップを転職先として検討する方が双方にとってよい結果につながると思います。

    スタートアップに転職した際の人材としての市場価値や年収の変化

    さて、自らのパーパスやスキル、マインド面をふまえて、転職先のスタートアップを検討していく中で、自分の将来がどうなっていくのか、年収や人材としての市場価値の変化が気になる人も多いことでしょう。

    最後に、スタートアップに転職した後のビジョンがイメージしやすいように、年収や人材の市場価値の変化についてもお話しておこうと思います。

    スタートアップに転職する場合、年収が下がるケースは珍しくありません。特に、ミドルやレイターに比べてリソースが少ないシードやアーリーの企業に転職した場合は、年収が下がるケースが大半かもしれません。

    とはいえ、最近ではVCなどから資金調達を行った上で、組織に必要な人材を確保しようとするスタートアップが増えていることから、極端に年収が下がるケースはあまり見なくなりました。

    具体例を挙げると、たとえば現在監査法人に勤務していて年収1500万を得ている会計士の方が、スタートアップに転職した後、年収が1000万にダウンするというような事例は比較的良く目にするケースだと思います。

    年収500万ダウンというとそれなりに大きな下げ幅なわけですが、それでもスタートアップというキャリアパスを選ぶ人が増えている背景には、その人自身のパーパスに加えて、将来的なリターンへの期待値を織り込んでいるからです。

    実際、スタートアップの一員に加わった後、年収が大きく下がった方々に転職を決めた背景を金銭的な観点からお伺いしたことがあります。多くの方が仰るには、数千万円単位で資産を積み上げるくらいなら5年間死ぬほど働けば可能だが、億を超える資産を築くのであればキャピタルゲインといったアプローチでないと実現できないというお考えでした。

    スタートアップに転職する場合、ストックオプションを獲得できるケースも多く、一時的に年収が下がったとしても上場時に大きなリターンが見込めます。

    もちろん上場までスムーズに進まないケースもありますが、その場合でも、スタートアップでCFOのようなポジションで企業経営に携わってきた経験はその後のキャリアステップで高く評価されるようになってきています。

    つまり、転職先に選んだスタートアップが仮に事業撤退や倒産の道を歩んだとしても、在籍した期間でしっかりと価値を発揮していれば、自分の人材価値を損ねることにはならないのです。スタートアップで経営を進めていく中で、いかにハードシングスに向き合い、対処してきたか次第で、むしろ自分の市場価値を大きく高めることもできるでしょう。

    今回の記事では、スタートアップの求人像を全体的に取り上げましたが、2022年6月更新予定の次の記事ではスタートアップのCFOについてさらに詳しく掘り下げていこうと思います。

    より具体的な事例などもお伝えできるかと思いますので、ぜひ楽しみにお待ち頂ければ幸いです。


    ▼VC視点から見た「スタートアップ」というキャリアパス:他記事一覧▼
    (他記事も合わせて読んでいただくことで、より理解が深まります)

    VCの視点から考える「スタートアップ」と「ベンチャー」の違いとは

    ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を決める基準とは

    この記事を書いた人

    新卒でJAFCOに入社。VC投資、ファンドレイズ、M&A、投資先支援といった幅広い業務を経験。

    2014年より、シード・アーリステージを中心に30社以上の投資先支援担当として、事業開発、業務提携などに貢献。

    2017年から、採用支援に携わり、これまでにエグゼクティブクラスを中心に面談を実施。投資先のコアメンバー採用において多数の採用支援実績あり。

    https://note.com/vc_jafco/

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