公開日:2022/06/26
No.13「内部監査」について
中村和郎さんの記事
最近、不正会計が相次いでおり、それを見抜けなかった監査法人の是非を問う声があがることもあります。東京商工リサーチの調査(公開日付:2022年1月21日「不適切な会計・経理の開示をした企業は51社、最多は製造業の17社【2021年】」)によると、会社及び子会社・関係会社を発生当事者としたものも見受けられ、連結対象にならない子会社等を利用して、不適切な取引を行っているものもあります。
上場会社ならば、本来、不適切な問題点を自己発見できなければ、上場会社としての社内体制上、問題点の自己発見能力の欠如、ガバナンス体制が十分機能していないと指摘されるところです。
社内の不正を自ら自己発見するための「自浄作用」として、また、ガバナンス機能として重要な組織が「内部監査」です。
下記は新規上場会社のコーポレート・ガバナンス体制図の抜粋です。まず、最初に手掛けるべき重要な組織作りの参考にしてください。
内部監査は、新規上場の重要な審査項目のひとつです。
社長直轄の独立した組織として、一般的には内部監査室もしくは監査部のような名称で存在します。一方、新規上場会社の会社規模が小さく、従業員数が100名未満の場合は、独立した組織とせず、経営企画部のような別の部門が内部監査を実施し、当該内部監査兼務部門の監査は、内部牽制が働くように、さらに別の部門が監査を実施し、監査の独立性を担保する方法が一般的です。いわゆる襷掛けによって監査の独立性を維持しております。会社の規模に応じて、監査方法の実態は異なります。
IPOにおける内部監査の重要なポイントは
1. 1年1サイクルで原則全ての部署を対象に監査を実施
2. 内部監査の品質を維持するために、部署ごとの監査手続書を作成し、監査テーマを明確化する
3. 監査実施後、被監査部門の改善報告書通りの改善の実施状況を確認し、フォローすること
4. 三様監査
まず、1.1年1サイクルで原則全ての部署を対象に監査を実施することが、新規上場会社の審査では求められております。但し、店舗展開している企業で、例えば100店舗以上の店舗数があり、1年では監査することが難しい場合には2年間に分けて監査することは可能です。その場合でも、直前期中までには、全ての店舗の監査を実施し、フォロー監査も行うことが求められることでしょう。
下記は内部監査の標準サイクルです。
次に、2.内部監査の品質を維持するために、部署ごとの監査手続書を作成し、監査テーマを明確化することが求められます。
部署ごとに業務が異なることから監査手続きも、監査テーマも異なります。そのための事前準備として、部署ごとに監査手続書を作成し、監査テーマを明確化する必要があります。また、効率的な監査を実施するために内部監査チェックリストを作成し、網羅的かつ効率的に監査を実施する必要があります。
監査を実施する監査部門の心得として、事前に十分な準備を行うこと、被監査部門と十分な事前の意見交換を行い、監査を実施すること、監査の重点項目の順位付けを行うこと、日常的にマネジメントとコミュニケーションを取ること、真摯な姿勢で監査に臨むことが必要です。
次に、3.フォロー監査の実施です。提案された改善事項がどのように改善され実行されているか、その実態について監査し確認することが重要です。改善提案事項が単なる形式的な提案に終わることなく、実施の可能性を高めることに繋がります。
内部監査は上場審査で求められるから組織化し、形式的に実施してしまう会社もいる中、本気で内部監査に取り組んだ会社もありました。通常の会社の3倍以上指摘事項があったことを記憶しております。どの組織も指摘事項の山です。一見すると、指摘事項が多いから問題ばかり多い企業に思えますが、本気で取り組んでいるから、指摘事項も多くなるのです。そして、その会社は、指摘事項の全てをフォローし、改善を実施し、その状況を改善報告書に詳細に記載し、取引所に提出しました。東証から、かなり賞賛されていたことを記憶しております。
なぜそのようなことができたのか?それは経営者であるトップの社長が本気で取り組んだこと、そして、トップのそのような姿勢を受けて各組織が本気で問題点の改善に取り組み、前向きな姿勢で組織運営を行っているからに他なりません。経営者の姿勢が重要だということです。
最後に、4.三様監査ですが、いわゆる内部監査、監査役監査、公認会計士監査の3つです。これらは、それぞれ監査主体が異なり、内部監査は内部監査人すなわち会社の内部監査部門によって行われ、監査役監査は監査役が行い、公認会計士監査は独立した存在である公認会計士または監査法人によって実施されます。
内部監査は社内業務が社内規程に準拠して運営されているかどうかの内部管理体制を経営者特命にて監査するものです。三様監査はそれぞれミッションが異なりますが、それぞれが情報交換することによって、監査の実行性を高めていくこと繋がります。
さらに、日本監査役協会の監査役監査基準の第38条においても、監査役は内部監査部門と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査の実施をすることが求められております。
何から何まで自ら監査することには限界があり、限られた時間内で最大限の効果を求めるには、それぞれが緊密な連携・情報交換によって効率的な監査を実施する必要があります。そのためには三様監査は欠かせないものと言えるでしょう。
以上のポイントを踏まえて、皆さんの監査先において、重要な課題がないか内部監査部門の強化のアドバイスをしてみてください。そのことが、きっと皆さんの監査人としての監査を助けることに繋がるでしょう。
この記事を書いた人
有限責任パートナーズ綜合監査法人は、2013年に設立された法人です。私達はこれまで会社法監査などの法定監査を中心に行って参りました。今後は、昨今の株式上場(IPO)のニーズを踏まえ、経済社会を支える一員として、上場企業監査及び上場準備監査(IPO監査)を行って参ります。
以下、執筆者略歴
1988年に日興證券株式会社(現SMBC日興証券株式会社)入社
1999年2月より公開引受部にて、IPO予定会社の上場までのコンサルティング、主に内部管理体制整備、取引所審査対応、資本政策策定等に関するIPO全般のアドバイス業務を提供
2007年9月 第四公開引受課長
2009年3月 副部長、同年9月、副部長兼大阪公開業務課長(現 大阪公開引受課長)東海・北陸・近畿地区の公開引受業務を担当
2015年9月より企業公開・投資銀行本部 担当部長として、本部内のIPO業務に関する戦略立案及び支援業務を担当
2017年4月 三井住友銀行 成長事業開発部 上席推進役 ベンチャー企業及びIPO予定企業の支援業務
2021年1月 SMBC日興証券株式会社を退社
2021年2月 パートナーズSG監査法人(現有限責任パートナーズ綜合監査法人) IPO戦略室長に就任
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