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公開日:2021/07/23

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発展途上国の貧困問題解決に向けて発展途上国における官民不正、汚職に立ち向かう会計士、八田拓三(株式会社アクファム 代表取締役)のキャリア!

今回のロールモデルは、官民資本の利用に関わる不正や汚職を無くすことをライフミッションに置いて道なき道を突き進んでいる八田拓三さんです。八田さんのこれまでのキャリアの歩みや、途上国で経験したリアルをお話していただきました。途上国支援、不正や汚職防止などに興味のある公認会計士の方はもちろんのこと、現在勉強中の方にもとても興味深い内容ですので、是非ご参考になさってください。

    八田拓三さんのプロフィール

    株式会社アクファム 代表取締役
    SCS国際有限責任監査法人 代表社員
    株式会社Synspective Internal audit office lead公認会計士 公認内部監査人 公認不正検査士

    2006年に公認会計士試験に合格後、あずさ監査法人に入社、約4年間、国内の保険会社等の監査業務に従事。
    その後、かねてからの夢であった国際協力の世界に飛び込むため、バングラデシュに単身飛ぶも自身の未熟さを痛感して挫折。
    海外で働ける人材になるべく国際会計事務所SCSグループのインドジャパンデスクヘッドとしてニューデリーに駐在。インド始め、アジア地域における進出アドバイザリー、国際税務、財務不正調査、合弁交渉代理、M&A及び財務DD等の業務に従事。
    この過程で途上国・新興国における官民ガバナンス(監査、司法(裁判所)、行政)の機能不全に愕然とし、生涯をかけたい開発課題と確信し、犯罪学研究で著名な英国ポーツマス大学にて、不正汚職対策研究に没頭して修士号取得。
    その後SCS Group 東京オフィスにて、アジア全域における海外経営管理、及び海外財務調査、海外不正調査、及び海外内部監査を専門として、年間半分以上海外出張しながら、15か国150件以上に及ぶプロジェクトを遂行後、2017年4月、株式会社アクファムを創業するも自身の大病とコロナ禍でほぼ休眠状態に。
    現在はベンチャー企業で社内管理体制の構築と内部監査業務に従事しつつ同社のミッション達成にコミットする傍ら、SCS国際有限責任監査法人の代表社員として会計監査の未来に熱い夢を抱き、また自身の会社においては官民不正汚職の撲滅という自らのライフミッションと課題の大きさに圧倒されつつも、自らを信じて悩みながらもがき続けている。

    八田拓三さんの略歴

    2006年:公認会計士第2次試験合格(慶應義塾大学経済学部4年次)
    2006年:あずさ監査法人の国際金融部に入社
    2011年:監査法人退職後、バングラデシュに移住
    2011年:国際会計事務所SCSグループのインドジャパンデスクヘッドとしてニューデリーに駐在
    2013年:公認不正検査士試験合格
    2014年:英国ポーツマス大学にて、不正汚職対策学理学修士(不正コストの測定)の修士号取得
    2016年:9年間の付き合いを経て結婚
    2017年:株式会社アクファムを創業、第一子誕生
    2019年:第2子誕生
    2020年:第3子誕生

     

    01. キャリアの変遷、展望

    ――会計士を目指したきっかけを教えてください。

    きっかけは大学入学時のビラ配りで受け取ったCPA専門学校のチラシですが、目指した動機を一言でいえば、将来のキャリア選択の自由がほしかったためです。具体的には当時社会課題の解決に人生をかけたいという意志はありましたが、どのテーマ(貧困、差別、平和構築、障がい者支援、高齢化問題等)にかけるか決めきれない中、将来、職業の収入の大きさで仕事を決めたくなかった(つまり、すごく収入が低い仕事でもそれがやりたいなら選択できるようにしたかった)ため、会計士という国家資格を取っておけば、どんな挑戦をして失敗しても、いつでももどってこれる経済的な保証になる、会計士を副業とすればあとは全部ボランティアしてるみたいな生活すらできるんじゃないか、と思ったことがきっかけです。

    ――監査法人時代はどのように過ごされていたのでしょうか?

    合格後は、あずさ監査法人の国際金融部に所属していました。約4年間在籍し、大手保険会社の財務諸表監査、内部統制監査、USGAAPの監査と、いわゆる王道の監査をやっていました。ありがたいことに2年目には小さな会社のインチャージをさせてもらい、4年目には大手上場企業のインチャージまで経験させていただきました。

    もともと、世界の貧困問題等の社会課題の解決に自分の人生をかけたいと考えていたので、いち早くその道に進みたかったため、入社当時から監査法人を出ることを考えていました。”最短で成長して最短で辞める”という目標のもと、当時一番ハードと言われていた部署に入りました。当時は監査小六法を持ち歩き電車でも読んでいましたし、各種の会計・監査基準や専門書をたくさん読んで、自分の担当外の調書もよみあさり、先輩とのお酒に朝まで付き合って色々聞いたりとにかくどん欲にインプットしていました。周りにはよく朝まで付き合うねと言われましたが、私はクライアントに時間10万円以上請求する監査経験30年におよぶパートナーと話せる機会だと思っていたのでとにかく行きたくて行っていました。4年間経験を積む中で、上場企業のインチャージができたこと、難しい論点について、マネージャーやパートナークラスの方々と監査上の結論や判断が一致してきたことで、一旦これでいいかな、いつでも戻ってきてもそれなりにはやれそうだなという自信をつけることができました。

    ――そのあといきなりバングラデシュに飛び込んだのはなぜでしょうか?

    自らが人生かけて取り組む社会課題を見つけるためにアジア最貧国と言われていたバングラデシュに旅立ちました。しかしながら、助けに行ったにもかかわらず現地でずっと助けられっぱなし、という実情に挫折しました。まず、公用語がベンガル語なので、英語も通じないケースが多く、現地の日本人や現地人に助けてもらわなければ、生活することもままならない不甲斐ない状態でした。また、現地の人に尽くす“本物”の方たちと出会い、その努力と決心を目の当たりして、自分の浅はかさを痛感しました。

    途上国に行くこと自体が初めてで、色んな事に驚きましたが、一番衝撃を受けたのは、次元の違う「物乞い」に遭遇したことです。日本でもホームレスをみていたし、途上国の物乞いはテレビ等で見聞きはしていましたが、にわかには信じがたいのですが、目玉を意図的にくりぬいた小さな子供や、足がない子供、知的障害者等を大人が通行人に見せつけて、同情を誘うという物乞いの方法でした。更に後で知ったのですが、その子供たちをレンタルして、物乞いの商材としていたというのです。

    そこで、ふと「バングラデシュは世界でも有数の国際援助を受けている国なのに、なぜこんなことが起きるのか」という疑問が浮かびました。直感的に不正や汚職だなによってお金がちゃんと行き届かないんだろうな」と感じ、もし不正汚職なく、お金がちゃんと使われたらこんな悲しい非人道的なことはなくせるのではないかと考えました。それと同時にお金の使い道ならAuditで監視できるじゃないか、Auditというものがソリューションになるかもしれない、途上国でお金の使い方を監視してお金がちゃんと使われるようにする、それってすごく意義があるんじゃないか、自分はそのために監査をやってきたのかもしれない、これこそが自分のライフミッションだと確信しました。つまり、経済的保証という人生の盾にしようと思ってやってきたことが、ライフミッションを果たすための武器(ソリューション)になるかもしれないという希望に興奮した瞬間でした。今でもこの時の感動と確信(思い込み?)を信じてやり続けています。

    • 著者の一言

    八田さんは、バングラデシュで出会った物乞いから人生のミッションを得ています。百聞は一見に如かず、という言葉がある通り、八田さん自身も実際に現地に行き、一次情報に触れたことによって、記事や本を読むことよりも、更に強い問題意識を感じています。いきなり一人で海外に飛び出す!というのは難しいかもしれませんが、一次情報に触れに行くと何かしら大切なことに気づくきっかけをもらえるかもしれません。

    ――その後インドで働いたきっかけを教えてください。

    当時はバングラデシュにいましたが、そこまで英語も話せず、海外で仕事をした経験も無かったので、海外で働くための“型のある”スキルが必要だと感じました。そこで、会計税務や監査サービスを提供しているSCSグループで働くことを決めました。SCSでは、日系企業の海外進出支援をしていることも魅力的でした。

    SCSでも大変素晴らしい経験をしました。インド駐在となり、9割型日系企業のお客様だったのですが、ジャパンデスクとしては日本人がほぼ一人、日系企業は窓口が自分しかいないという状態でした。英語ができないジャパンデスクだと当然仕事になりませんので、無理やり毎日の耳や目に入るインプットやアウトプットをほぼ全て英語にする工夫をしつつ、必死に24時間英語の勉強をしました。半年経ち、ジャパンデスクとして機能するくらいの英語力を何とか身につけることができました。

    ここで一つ気づいたのは、監査法人での4年間の経験で学びえた力は、世界で通用するものだということです。会計監査のファームですのでインドで現地の専門家らと会計や監査の議論をすることが多かったのですが、インドの会計・税務基準や実務についてその違いを一通り頭に入れさえすれば、監査法人での経験から、会計監査的な思考、裏付けの取り方や結論の導き方について、専門的な議論でも負けることはありませんでした。ジャパンデスクとして働く方には、現地専門家のいうことをそのまま通訳することに終止してしまう方もいますが、私が重視したのは、それが本当に正しいかを自分で確かめて、また自分なりの考察や視点も踏まえてクライアントが求める回答をしていました。時にインド人専門家と喧々諤々言い合うこともありましたが、この過程において、4年間で学んだ会計の思考や監査のなんたるかというのは世界共通で、トップレベルの環境下で学べていたのだと実感しました。

    ――インドでも転機があったと伺いましたが、どのようなことがあったのでしょうか

    インドでは、不正や汚職の現実を目で見て、また問題の大きさを知りました。つまり不正汚職は、生涯かけて取り組む意義のあることであるという確信を持ちました。インドでは、日本で見たことない不正が実際に目の前で頻繁に起きていたこともありますが、これは世界中で起きていることなのか知りたくなって色々と文献を探っている中で不正コストに関する論文を読んだ時の衝撃が忘れられません。世界銀行が出しているレポートで、PETS(Public Expenditure Tracking Survey)という、投入した金額が末端にいくら使われているかという調査がウガンダで行われました。当時の検証結果では、僅か13%しか使われていないという驚異的な結果でした。つまり100億円資金援助をした場合、13億円しか実際には使われておらず、残りは使途不明、政府役員が中抜きしているということなのです。このレポートがきっかけで、課題のインパクトの大きさ(の可能性)を知り、その課題に取り組む価値を感じ、バングラでのミッションの気づきに自信をもてました。

    しかし、当時の私は不正とは何か、汚職とは何かという哲学的な思考、本当になくすべきなのかということについて、考えを尽くす時間がとれていませんでした。そこで、世界最先端の不正に関する学問を学びながら不正についての哲学的な思考に時間をかけたいと考えて調べた結果、イギリスのポーツマス大学に不正汚職対策理学修士という、世界唯一の修士があることを知り、すぐに飛びつきました。

     

    ――その後日本に戻ってからはどのようなことをしていたのですか?

    「インドやバングラデシュで見てきた不正の実態はどの企業にも当てはまるのでは?」という仮説があったので、社内独立という形で、SCS Groupの顧客であるグローバル企業の内部監査部門に、フォレンジック調査(不正調査)と銘打って提案し、海外を飛び回り不正に関するAuditをしました。年間2/3は海外にいるという生活で、合計2年間、人生で死ぬほど働いた時期でした。その後、様々な企業で実際に不正がたくさん出てきて、仮説は正しかったのだと確信を得ました。

    ――現在も3足の草鞋を履いていると伺いました。

    ミッションを見つけるきっかけをくれた組織でやりたいという気持ちが強かったのですが、自分と組織とのミッションの“ずれ”を感じ、不正汚職の撲滅を通じた発展途上国の貧困解決は私固有のミッションだと感じたので、周りに押し付けることはできず、会社(アクファム)を起業しています。

    二つ目に、SCSグループの日本の監査法人パートナーとして品質管理担当もやっています。これも最終的には、不正汚職の発見や牽制はすでに制度化されている会計監査という枠組みを活用するのが正解なんじゃないかという仮説から、監査法人という立場で問題意識を共有し、目的と意識、スキルを持った会計士を育成するため、このポジションをやらせていただいています。また、不正や汚職に限らずとも、監査において海外の数字をちゃんとみれる会計士を増やしたいと思っています。そんなに高度な技術があるわけではなく、診方と診るための必要な知見があれば、不正は見抜けます。

    3つ目に、衛星開発と衛星データによるソリューション提供ビジネスを行うベンチャー企業で内部体制の構築と内部監査をしています。色々と経緯はありますが、不正の抑止や発見というソリューションも当社のプロダクトで提供できる可能性があるということもあり、現在関与させていただいております。

    従って、一見何足も草鞋を履いているように見えるかもしれませんが、私としては一つのことしかやってないと思っていて、全部自分のミッションに一直線的につながっています。

    02. 仕事する上で大事にしていること(仕事論)

    ――仕事する上で大事にしていることを教えてください。

    (1)何事も面白がろう、楽しもうとすること

    しんどい仕事はたくさんあります。実際に不正調査でもそうでしたが、「この人逮捕されるかもしれない」と考えられる人たちが目の前にいる中でインタビューするのは、精神的にも辛いものがあります。これは小さい頃からのポリシーですが、つまらないと思ってやる1時間と、何とか楽しもうとする1時間であれば、後者のほうが断然楽しく成果も出ると思っています。ですので、何事も面白がろうとすることを心掛けています。例えば監査法人時代、インチャージをしていた監査部屋で、いきなり変顔をしたり踊ったりしていました。(笑)

    もちろん周りを楽しませたいという気持ちもありましたが、何より自分が自身楽しみたかったのです。その時間を仕事に使うことが決まっているのなら、辛い思いをするより、できる限り楽しむ努力をしています。

    (2)自分の軸を大事にすること

    私は一般的に勤める会社をよりステップアップできる企業、より収入の高い企業を目指す転職履歴のように使われる“キャリア”という言葉が好きではないです。キャリアの語源はラテン語の“carrus”だと言われており、意味は轍(わだち、車輪の跡)なのですが、要は自分の歩んだ人生の軌跡、轍であって、それは必ずしも華麗な転職履歴じゃないはずです。人生のその時点で感じたこと、大事にしたいことを基準に選択した道、それは留学とかの学びなおしや、世界一周旅行とか、育児に専念した時期や心が疲れて何もせず休んだ時期も全部キャリアだと思うんです。要は何してもいいんだと。自分だけの規準があるはず。人がうらやむ企業を渡り歩くキャリアなんてクソくらえで、大事なことはその時に感じた通りに、自分に嘘をつかず、周りの価値観を気にせず自分の軸で考えて、自分で腹落ちして道を決めることだと思っています。それはステップアップじゃなくて単にネクストステップなんです。

    私の場合20代では「世の中に意義のある偉業を残したい、世界の貧困に困っている人を救うヒーローになる、それが人生の意義だ」と考えていましたが、30代で結婚して家庭を持ち、また自らも大病して無理できなくなったり、いつまで働けるかわからなくなると、「目の前の家族を守る」という軸が新しくできました。お金を度外視する20代での価値観を30代も継続してしまうと、自分の軸と矛盾して苦しい事態に陥ってしまうため、今は収入も大事にしていますし、またそれでもなおより大きな夢と志をもって生きるんだという軸にも嘘がないと思っています。今自分の軸は何かを周りの価値観を度外視して、自分で考えれば後悔はないと思っています。

    03. 会計士という資格を取って良かったこと

    ――今までキャリアを歩んできて会計士になって良かったと感じることを教えてください。

    (1)経済的な生涯保証

    個人的には“翼”を得たと感じていますが、所得保証、安心材だとも考えています。今まで収入が3回ゼロになったり、月手取り10万くらいでインドで生活していた時期もあったりしましたが、全くお金のことは気にしていませんでした。一見、リスクテイカーのように見えるかもしれませんが、自分としては全くリスクをとっているつもりはありませんでした。

    (2)会計士という“のれん”に乗っかることができる

    週5働かなくても、やりたいことに時間を使えるライフスタイルを得られているのは、今まで働かれてきた先輩会計士の“のれん”に乗ることができているからだと感じています。Feeとして頂戴するお金も、“自分が凄いから”ではなく、むしろ「会計士ならこれくらい払いましょう」というコンセンサスがあるからです。たまに会計士で勘違いしてないかなと感じる方がいますが、会計士が請求する報酬の相場が高いのは今までの先人達が積み上げてきた信用という無形資産があるからです。世間一般企業の人より単価が高くて俺はすごいとか、恥ずかしいから思わないでほしいですね。

    (3)監査という仕事に出会えたこと

    個人的に監査の奥深さにとりつかれています。例えば、いかにリスクを考えるか、その論点だけでも膨大に奥行きがあります。

    監査法人4年目の時に上司だったパートナーは、クライアントが保険会社という難しい職種にもかかわらず全ての状況が頭の中に入っていて、監査計画から、監査要点、監査報告書の合理的な保証を得るところまで、点と点が全て繋がっている会計士の極みのような人でした。また、現在の共同代表のパートナーは、クライアントのビジネスモデルの理解から深い組織の人や事業の洞察からリスクを識別評価しており、また経営者目線で事業の状況や事業リスクもみれているので、私には全くなかった別の視点を持っていて驚きつつ今も学んでいます。こういう監査人はクライアントの社長はじめ経営陣が会って話したくなる監査人なんですね。社長から会いたいとお願いされる監査人かっこよくないですか?
    まだまだ話したりないですが、こんなにも奥深く、熱中できる仕事に出会えたのは素晴らしいと感じています。


    SCS国際有限責任監査法人のWEBサイトはこちら
    http://www.scsglobalaudit.com/

    株式会社シンスペクティブのWEBサイトはこちら
    https://synspective.com/jp/

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