公開日:2021/05/10
IFRSとは?需要増加と学習のメリット
白井敬祐さんの記事
イントロダクション
IFRS(イファース、アイファース)の名前は会計業界で働いている方々はもちろん、世間一般でも新聞報道などでよく耳にすることが多くなってきたのではないでしょうか。
IFRSとは、グローバルスタンダードな会計基準として世界各国で共通して使用されている会計基準です。最近の日本の会計基準の改正のほとんどはこのIFRSに基づいており、昨今の会計業界では一番注目されている会計トピックと言えます。
そんなIFRSですが、その内容を知っている人はまだまだ少数です。
この記事では、昨今のIFRSの需要の高まりを紹介することによってなぜ今IFRSを学習した方が良いのかというIFRS学習のメリットを解説いたします。
1. IFRSとは
IFRSとは、International Financial Reporting Standardsの略称であり、日本語では「国際財務報告基準」と言います。
前述した通り簡単に言うと、グローバルスタンダードな会計基準として世界各国で共通して使用されている会計基準のことです。
このIFRSの設定主体は、英国ロンドンを拠点とする民間団体であるIASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)であり、IASBが世界共通の会計基準を目的として設定した会計基準こそがこのIFRSなのです。
なお、IFRSのことを国際会計基準と記述しているコンテンツがよくありますが、正確ではありません。
国際会計基準は、IAS(International Accounting Standards)と表記され、IFRSの設定主体であるIASBの前身となるIASC(International Accounting Standards Committee:国際会計基準委員会)が設定した会計基準のことなので厳密にはIFRSと異なります。
IFRSは、このIASCが設定したIASを一部継承し、IASBが設定主体となって作成した会計基準のことなので、国際会計基準とは区別して、「国際財務報告基準」という呼び方が正確であることに留意が必要です。
ちなみに、IFRSとIAS、その他の解釈指針をまとめてIFRSsと呼称することもありますが(図表1参照)、著者自身はIFRSsとは呼んだことはなく、まとめてIFRS(イファース)と呼んでいますので、以降の記事もIFRSと呼称します。
■ 図表1:IFRSの構成
2. IFRS需要の高まり
2-1. IFRS適用の世界的な拡大
IFRSを自国の会計基準として要求または容認する国々は年々広がりを見せています。IFRS適用を要求または容認する国々は、今では150カ国以上にものぼります(図表2参照)。
なお、米国では未だ独自の米国基準が採用されていますが、2002年10月以降国際会計基準委員会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、IFRSと米国基準とのコンバージェンス(収斂、統合)への取り組みが実施されています。
IFRSと米国基準との主要な差異は解消が進んでいるものの、依然として基準差は残っており、米国におけるIFRSの強制適用の時期は未定となっています。
■ 図表2:世界各国のIFRS適用状況
※2020年11月6日「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(金融庁)に基づき著者が作成
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20201106/5.pdf
2-2. 日本におけるIFRS適用会社の拡大
2-2-1. IFRS任意適用企業数の増加
日本においても米国同様に未だ独自の日本の会計基準を採用していますが、2007年8月以降今日に至るまでIFRSと日本基準とのコンバージェンスの取り組みが実施されています。
コンバージェンスの取り組みが行われる一方で日本では、2010年3月期以降の決算より、日本基準に代えてIFRSを任意適用して連結財務諸表を作成することが認められています。これによりIFRSを任意適用して決算を行う企業が年々増加しています(図表3参照)。
■ 図表3:IFRSの任意適用企業の推移(社数)
※2020年11月6日「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(金融庁)に基づき著者が作成https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20201106/5.pdf
日本におけるIFRS適用企業(適用予定含む)は、2020年10月時点で242社(上場企業236社、非上場企業6社)にまで増加しています。
これは日本の全上場企業約3,770社(2021年4月時点)のうちの約6%がIFRS適用していることになり、社数にすると上場企業のうちでIFRS適用企業が占める割合はまだまだ日本において低いように見えます。
2-2-2. IFRS任意適用企業の全上場企業の時価総額に占める割合
しかし、上場企業における時価総額ランキング(2021年4月30日時点)トップ30社のうち、IFRS適用企業は19社であり、トップ30社の約63%にもなり、ほとんど企業がIFRS適用していることがわかります(図表4参照)。
■ 図表4:上場企業時価総額ランキングトップ30(2021/4/30時点)
※IFRS適用予定の企業も含む
※Yahoo!ファイナンス時価総額ランキングを参考に著者が作成
https://info.finance.yahoo.co.jp/ranking/?kd=4
さらに、全上場企業の時価総額のうちIFRS任意適用(適用予定含む)企業の時価総額が占める割合は42.4%となっています(図表5参照)。
■ 図表5:IFRSの任意適用企業の推移(時価総額)
※2020年11月6日「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(金融庁)に基づき著者が作成https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20201106/5.pdf
このことから上場企業の時価総額トップ企業のほとんどがIFRSを任意適用していることがわかり、大手企業のIFRS任意適用増加の流れとグローバル化の加速によって、今後もさらにIFRS任意適用企業が増加していくことが考えられます。
3. IFRSを学習することによるメリット
さて、ここまで述べてきたように、IFRSが世界的に拡大しており、日本国内にも広がりを見せていく中で、我々が会計でキャリアを築く上でもIFRSの重要性は高まっています。
そのため、会計知識として日本の税法や会計基準だけでなく、IFRSを学習することが必要になってきますが、まだまだIFRSに詳しい会計士や経理マンは少ないように思えます。
例えば、会計士のキャリアでは、監査法人、コンサル、経理が代表的なものでありますが、この3つのキャリアにおいてIFRSの知識がどのように有利に働くかを紹介します。
3-1. 監査法人でIFRSを学習するメリット
監査法人では様々なクライアント企業に対して監査サービスを提供していますが、クライアント企業がIFRS任意適用企業である場合、当然監査人はIFRSを熟知しておく必要があります。
監査人は、IFRS上あるべき処理を考えてクライアントの会計処理が適正かどうかを判断する必要があり、クライアントの担当者よりもIFRSに詳しくなければクライアントからの相談を受けることもできません。
また、2-2-2でも述べたように時価総額トップクラスの誰もが知っている有名大手企業のほとんどはIFRS任意適用を行なっています。
このような超大手企業への監査経験があることは監査法人内でキャリアを築く上で評価にもつながりやすく、当該監査チームには優秀な人が集まっている場合が多いので刺激を受けながらその中で働くことができます。
そのため、IFRS任意適用企業の監査チームにアサインされ、昇格や自己の成長を図るためにもIFRSを学習することは有利に働くと言えるでしょう。
3-2. コンサルタントとしてIFRSを学習するメリット
会計士がコンサルタントになる場合、様々な種類のコンサルティング業務がありますが、著者自身は前職IFRSコンサルタントとして働いていたため、当然IFRS知識は必須でした。
IFRSコンサルタントの業務内容としては、IFRS導入を検討している企業がIFRS適用することによって現状からどの程度財務インパクトがあるのかを分析したり、実際にIFRS導入を決めた場合は、具体的にどのような業務フローの変更や会計処理を実施するのかをクライアントにアドバイスする必要があります。
これは日本基準とIFRSの両方に精通していなければならない高度な仕事であるため会計士が得意な分野かと思います。
また、IFRS導入以外にも例えば、M&Aのコンサルタントとして買収対象企業の財務分析を行う、いわゆるデューデリジェンス(以下、DD)を実施するが対象企業がIFRS適用企業の場合、IFRSの会計処理や決算書の読み方を知っておく必要があります。
さらに、競合他社との比較分析を行う際にも競合他社がIFRSだった場合、会計基準を揃えて比較する必要があるためこの場合にもIFRS知識は必要となります。
このように会計のコンサルタントとしてキャリアを築く上で、IFRSの知識が必要な場面が要所要所に出現するため仕事の幅は広がりやすく、IFRSの学習は有利となるでしょう。
3-3. 経理マンとしてIFRSを学習するメリット
経理マンにも様々な種類があり、子会社経理や親会社経理(連結経理)などがあります。
もし働いている企業の会計方針としてIFRS適用が決定された場合は、子会社経理はIFRS用のレポーティングパッケージを親会社に報告することがあります。その際は子会社経理の担当者は日本基準の財務諸表をIFRSに変換する必要があります。
また、親会社経理(連結経理)の場合、受け取った子会社のIFRSのレポーティングパッケージが正しいか判断する必要がありますし、子会社が現地基準でレポーティングパッケージを提出する手法をとる場合は親会社経理がそれをIFRSにするための調整をしなければなりません。
さらに親会社経理では、グループの会計方針などをIFRSで策定する必要があり、IFRSでの有価証券報告書や四半期報告書、連結計算書類などを作成する必要も出てきます。
現状日本基準を採用している企業でも、このIFRS拡大の流れに沿って将来的にはIFRS適用される可能性も高まっていますので、その場合はIFRSの知識がないと社内で活躍することは難しくなってきます。子会社経理であっても同様に、親会社がIFRS適用企業になればIFRS知識を求められます。
経理としてキャリアアップを図る場合、やはり大手企業にいけばいくほど年収は高くなりますから大手企業への転職を狙うことも一つの手段と思います。
しかし、これも前述(2-2-2)の通り大手企業のほとんどはIFRSを適用していますので、大手企業の経理職への転職にはIFRSの知識が有利に働くでしょう。
4. まとめ
このように我々会計を生業とする会計人たちにとって、IFRSの世界的な広がりと日本での大手企業のIFRS任意適用の増加の流れによって、IFRSと出会う確率は相当程度に高くなっています。
将来IFRSと出会った際に、「IFRSを知っていればな・・・」とチャンスを逃してしまうことはキャリアを歩む上で非常にもったいないことです。
今後このコラムでは、皆様がそんな思いをしないために、IFRSの勉強方法から実務的なIFRSの話に至るまで、幅広くIFRS学習の役に立つ情報を発信していきます。
このIFRS学習がきっと皆様の今後のキャリア形成に有利に働きかけてくれるでしょう。
この記事を書いた人
・1985年生まれ、香川県出身、岡山大学経済学部卒業、明治大学会計大学院卒業
・2011年公認会計士試験合格
・2012年清和監査法人にて主に中小企業クライアントへの監査業務に従事
・2014年EY新日本有限責任監査法人に入所し、2016年には有限責任監査法人トーマツに入所し、主にIFRS導入支援業務
・研修講師業務に従事 ・2018年に東証一部上場企業経理部入社し、連結決算、開示書類作成業務に従事
・2020年に「公認会計士YouTuberくろい」会計を楽しく伝えるYouTubeチャンネル開設(現在チャンネル登録者約1万人超)
・2021年7月白井敬祐公認会計士事務所を開業予定
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