FP&Aと管理会計【米国管理会計士協会(IMA) 特別セッション】AI時代、企業価値を支えるFP&A人材とは――変化する会計ファイナンス人材の役割
「日本のプライム上場企業であっても、本来の役割を果たせるCFOは実質的にほぼ不在です」——石橋氏が投げかけたこの指摘は、現職のCFOや財務担当役員個人の資質を問うものではない。その背景にあるのは、日本企業特有の組織構造や役割分担が壁となり、財務部門が本来果たすべき機能を十分に発揮しにくい状況にあるという、本質的な問題提起である。
本セッションでは、日本企業の経営管理が直面する構造的課題を踏まえ、その解決に向けてFP&Aが果たすべき役割の重要性が示された。また、AIの急速な進展を背景に、FP&Aには従来のデータ集計業務を超え、分析と洞察を通じて経営の意思決定を支える存在へと進化することが求められている。こうした課題認識を踏まえ、管理会計分野を代表するグローバル団体「IMA(米国管理会計士協会)」のグローバルリーダーも登壇した。日本・米国・欧州それぞれの視点から、AI時代のFP&A人材に求められるスキルや、国際資格USCMAの戦略的な活用について、多角的な議論が展開された。

(写真 左から)
〈Facilitator〉
◆小西 晋也|米国管理会計士協会(IMA)日本支部共同代表
本セッションではモデレーターを務めるとともに、日本におけるFP&A人材の育成とUSCMAの普及に向けた活動を積極的に推進している。
〈Speaker〉
◆石橋 善一郎|千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科 教授
IMA日本支部共同代表および日本CFO協会FP&Aプログラム運営委員会委員長を務める。日本企業の経営管理組織が抱える課題に精通し、持続的な企業価値向上を支えるFP&A組織の構築と人材育成の重要性を提唱している。
◆Peter J. Dolan|米国管理会計士協会(IMA) IMAグローバル理事会 会長 (2025-2026年度)
IMAのグローバルな活動を牽引するリーダーとして、世界各国のファイナンス・会計プロフェッショナルとの対話を重ね、AI時代に求められる専門職の変革と進化を提唱している。
◆Nina Michels-Kim|米国管理会計士協会(IMA) IMAグローバル理事会 理事
スイスのグローバル製薬企業において、FP&Aおよびファイナンスコントローラーとして豊富な経験を積み、現在はIMAグローバル理事を務める。自身のキャリアを踏まえ、USCMAがもたらす専門性とキャリア形成上の価値を語る。
日本企業の企業価値向上に必要なFP&Aとは

・日本企業におけるCFO機能の課題
セッション冒頭、石橋氏はデータを示しながら、日本企業の経営管理組織が抱える構造的課題を明らかにした。
東証プライム上場企業約1,600社のうち、CFOの役職を設けている企業は約500社にとどまる。加えて、その多くは企業価値創造を主導する本来のCFOではなく、財務報告を中心に担う経理財務担当役員として位置付けられているという。
こうした現状を踏まえ、同氏は「日本企業では、実質的なCFO機能を十分に発揮しにくい環境にある」と述べ、その背景に日本企業特有の「2つの壁」が存在すると指摘した。
第1の壁は、本社における「経理財務部門」と「経営企画部門」の並立である。海外企業では、CFOのもとで経営管理と財務を一体的に担うケースが多い。一方、日本企業では両部門が別組織として並立しているため、部門横断で経営の意思決定を支える体制を構築しにくい。
第2の壁は、「本社と事業部の分断」である。子会社化や社内カンパニー制、ホールディングス化などにより両者の距離が広がり、事業戦略と経営管理を結び付ける機能が弱まっているという。これに対し、海外企業では事業部FP&Aを配置し、本社と事業部をつなぐ役割を担わせることで、この課題への対応を図っている。
・FP&Aが企業価値向上の鍵を握る
石橋氏は、企業価値を「将来創出されるキャッシュフローの現在価値」と定義し、その源泉は事業部が遂行する事業戦略にあると説明した。
したがってFP&Aには、利益管理にとどまらず、事業戦略を具体的な財務計画へと落とし込み、企業価値の向上につなげる役割が求められるという。
一方、日本企業では、財務会計と管理会計の数値を一致させる「財管一致」の考え方が、管理会計の役割を狭めていると指摘した。本来は、販売計画や生産計画を起点に売上成長を実現し、その成果として営業利益を高めるべきである。しかし実際には、多くの企業での営業利益目標の達成に向けた固定費管理に重点が置かれているのが現状だ。
石橋氏は、「結局、財管一致が目的になると、事業戦略を正面から捉えることをやめて、営業利益目標を達成するための固定費のマネジメントになってしまう。これが実は日本企業における現時点での経営管理プロセスの実態だということになります」と述べ、現行の経営管理プロセスが抱える本質的な課題を浮き彫りにした。
こうした状況を転換し、持続的な企業価値創造を実現するには、管理会計と企業財務を両輪として学び、事業戦略を財務へと落とし込めるFP&A人材の育成が不可欠であると説明した。その体系的な学習手段として、両分野を幅広く網羅するUSCMA(米国公認管理会計士)資格試験の有効性を紹介した。
AI時代に変わる会計ファイナンス人材

・AI活用の成否を分けるのは、データ・プロセス・人材
テクノロジーの進化は、組織にどのような変革と課題をもたらすのか。IMAグローバル理事会会長のDolan氏は、世界各国のファイナンスリーダーとの対話を踏まえ、「AI導入における困難は、テクノロジーそのものではない。難しいのはデータ、プロセス、そして人にある」と指摘した。
IMAが世界の財務リーダーを対象に実施した調査では、財務部門の約半数が、依然として手作業によるデータ入力やスプレッドシートに依存している実態が明らかになった。また、回答者の63%が、AI導入における最大の障壁として「スキルの欠如」を挙げている。さらにDolan氏は、Deloitteの最新調査を引用し、「財務部門の63%がすでに何らかのAIを導入している一方、測定可能な投資対効果(ROI)を得ているのは、わずか21%にとどまる」と説明した。これらの結果を踏まえ、重要なのはAIを導入すること自体ではなく、その活用を支えるデータ基盤と人材スキルの整備であると強調した。
・AIによって、人はより付加価値の高い仕事へ
Dolan氏は、AIの進展によってファイナンス部門の働き方が大きく変化すると説明した。
現在、多くのFP&A担当者が、データの収集・確認・集計といった定型業務に多くの時間を費やしているという。Dolan氏が参加した海外カンファレンスでも、スプレッドシートの作成やデータ検証、月次会議に向けた資料の修正に膨大な時間を要しているとの声が、多くの参加者から聞かれた。
AI活用が目指すべき方向性は、こうした業務を効率化し、人が分析や解釈といった、より付加価値の高い業務に注力できる環境を実現することにある。
同氏は、「データの収集ではなく、そのデータが組織にとって何を意味するのかを理解し、分析・解釈することに時間を充てるべきである」と強調した。
例えば、予測や予算管理の領域では、従来の固定的なモデルに代わり、事業環境の変化を反映して自動的に更新される予測モデルの活用が可能になる。
不正検知やリスク管理においても、AIの活用が進みつつある。従来の監査では、サンプルデータに基づく検証が一般的だったが、AIを活用することで、全取引データを対象とした包括的な分析が可能になるという。
Dolan氏は、こうした変革により、データの信頼性向上と業務効率化の両立が期待できると説明した。
・AI時代だからこそ重要になる、信頼できるデータ
一方、AIの活用には克服すべき課題も残されている。Dolan氏は、多くの企業においてデータがシステムごとに分断される「サイロ化」が進み、AI活用の妨げになっていると指摘した。
特にグローバル企業では、複数のレガシーシステムが併存するケースも多く、データの統合と品質の確保が依然として大きな課題になっているという。
データ品質の重要性を示す言葉として、同氏は「Garbage in, garbage out(低品質なデータからは、低品質な結果しか生まれない)」を紹介した。AIは、誤ったデータを基に、あたかも妥当であるかのような結論を導き出すおそれがある。低品質なデータに基づくAIは価値を生まないばかりか、説得力のあるレポートを生成することで、人に誤った確信を抱かせる重大なリスクを伴う。
また、明確なルールや適切な監督体制を整備しないままAI活用を進めることも、新たなリスクにつながると警鐘を鳴らした。
こうした課題を踏まえ、今後の競争力を左右するのは、単に「AIを導入しているか」ではなく、「信頼できるデータ基盤を整備し、適切なガバナンスのもとでAIを活用できるか」であると強調した。
・継続的な学びが、AI時代の競争力につながる
Dolan氏は、「継続的な学習は、もはや特別なことではなく、新たな当たり前になっている」と述べ、AI時代のファイナンス人材にとって、学び続ける姿勢が不可欠であると強調した。テクノロジーが急速に進化するなか、一度身に付けた知識だけで長期的なキャリアを築くことは難しいという。
これからのプロフェッショナルに求められるのは、AIでは代替できない人間ならではの判断力と、明確に伝えるコミュニケーション能力である。IMAでは、「AI in Finance」や「Advanced Data Analytics」などのマイクロクレデンシャル(特定の知識やスキルを短期間で習得し、その成果をデジタル証明として可視化する小規模な学習認証)を提供し、会計・ファイナンス人材によるAIの実務活用を支援している。
最後にDolan氏は、「AIを活用したリーダーシップを発揮すべき最適なタイミングは、まさに今である」と締めくくり、変化を待つのではなく、自ら学び、行動に移すことの重要性を参加者に呼びかけた。
USCMAが広げるキャリアの可能性

・キャリアの原点となったコントローリングとの出会い
IMAグローバル理事のNina氏は、自身のキャリアを振り返りながら、USCMAがその歩みに果たした役割を紹介した。
日本人の母とアメリカ人の父のもと、日本で二つの文化に触れながら育ったNina氏は、当初、外交官を志して米国の大学院で国際関係を学んだ。卒業後は、スイスの製薬会社サンド(現ノバルティス)のグローバル本社に入社。コントローリング業務に携わったことを契機に、ファイナンスのキャリアを歩み始めた。
その後、MSD(米国の製薬会社メルク&コーのスイス法人)へ転職。製薬業界で通算13年以上にわたり、FP&Aやコントローリングを中心に経験を重ねるなかで、「数字を意思決定につながる言葉へと変換し、ファイナンスとビジネスをつなぐこと」が自身の役割であると考えるようになったという。
・USCMAが専門性への自信につながった
Nina氏がUSCMAの取得を意識するようになった契機は、MSDでFP&Aを担当したことだった。
スイス企業から米国企業へ移り、グローバルな環境で経験を重ねるなかで、自身の専門性をより明確に示す必要性を感じるようになったという。さらに、大学では会計ではなく国際関係を専攻していたことから、上司に「キャリアをさらに発展させるには、専門資格の取得が有効」と助言されたことも、その決断を後押しした。
その後、メルク&コー(MSDの親会社である米国の製薬会社)のキャリアパスを調べる過程でUSCMAを知った。日々のFP&A業務との親和性が高く、会計を専攻していなくても仕事と両立しながら学べる点に魅力を感じ、資格取得を決意した。
USCMA取得後は、責任範囲が広がっただけでなく、ビジネスリーダーやファイナンスリーダーとの対話にも、より確かな自信を持って臨めるようになったと振り返る。
また、USCMAの学習を通じて培ったFP&Aと管理会計への専門性と自信は、その後のコンサルティング、コーチング、講師活動に加え、現在のIMAグローバル理事としての活動にも生かされている。
・FP&AはCFOの意思決定を支える存在
講演の締めくくりに、Nina氏はFP&Aが果たす役割について、自身の考えを示した。
多くのファイナンス人材がCFOをキャリアの到達点として見据える一方、FP&Aや戦略的コントローリングも、組織の意思決定を支える重要なリーダーシップポジションであると説明した。
Nina氏は、その役割を端的に表す言葉として、スイスで開催されたIMAのイベントで紹介された「We are the CFO whisperer」を挙げた。ここでいう「whisperer」とは、相手の課題や関心を深く理解し、その相手に最も伝わる形で示す存在を意味するという。
FP&Aは、CFOが直面する課題や関心を的確に捉え、数字と分析を有用なインサイトへと変換し、経営判断につなげる役割を担う。さらに、FP&Aとしての専門性を磨くだけでなく、IMAのグローバルネットワークに参画することで、キャリアの可能性を一層広げられると語った。
最後にNina氏は、外交官として国連で働くという当初の夢は実現しなかったものの、現在は世界各国のファイナンスプロフェッショナルが集う、いわば「ファイナンス版の国連」ともいえる場で活動していると振り返り、講演を締めくくった。
本セッションでは、日本企業の経営管理が直面する構造的課題、AIの進展に伴う会計・ファイナンス人材の役割変化、そしてUSCMAを通じたキャリア形成について、各登壇者の視点から議論が展開された。講演を通じて浮かび上がったのは、企業価値の向上には、管理会計や企業財務の知識に加え、事業と経営をつなぎ、データを有用なインサイトへと変換して意思決定を支える力が不可欠であるという点だ。FP&Aが果たす戦略的な役割と、その担い手を継続的に育成する重要性を改めて示すセッションとなった。
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