【重要】社名変更のお知らせ 詳しくはこちら

ファンドが投資先CFOに本当に求めていること:バリューアップの実行者として

「CFOを雇えば資金を集めてきてくれるのではないか」 

スタートアップ界隈でしばしば抱かれるこうした期待に対し、大和証券で長年投資銀行業務を担い、数々の企業を支援してきた丸尾浩一氏は、資金調達はあくまで手段であり、CFOの本質は「集めた資金をどう事業成長へと変えるか」にあると提起する。 

スタートアップの急成長においてCFOへの関心が高まる一方、実務の現場では企業側が求める役割とCFO候補者の認識との間に、少なからずギャップが存在する。

本セッションには、ベンチャーキャピタル、監査法人、そして事業会社の現役CFOが集結。スキルセットや教科書通りのファイナンス理論にとどまらない、企業価値を高めるためにCFOが果たすべき本質的な役割と実務の実態について、本音の議論が交わされた。

(写真 左から)


〈Facilitator〉

丸尾 浩一/株式会社Major7th 代表取締役 大和証券で38年にわたり投資銀行業務等に従事し、専務取締役を12年間務める。数多くの大企業や起業家を支援した経験を活かし、現在は自社を経営。スタートアップと大企業を結びつけ、日本の産業育成に貢献している。

〈Speaker〉

阿部 博/有限責任 あずさ監査法人 常務執行役員 パートナー 公認会計士。あずさ監査法人にてスタートアップ支援を牽引。技術シーズの発掘・育成からグローバル連携まで幅広く手掛ける。日本ベンチャーキャピタル協会の活動などを通じ、世界で勝てるエコシステムの構築に尽力。

石倉 壱彦/株式会社アカツキ 取締役副社長CFO 兼 CSO 公認会計士。監査法人、サイバーエージェントを経てアカツキに参画。起業やM&A売却を経て復帰後、CVC設立や大型経営統合を主導。事業創出とファイナンスの両輪を回す「経営者としてのCFO」を体現している。

磯田 将太/グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社 プリンシパル 公認会計士。あずさ監査法人を経て、グロービス・キャピタル・パートナーズへ参画。シードからレイトステージまで幅広い投資・支援を担当。投資家と経営陣の翻訳者としてスタートアップに伴走している。

寺田 修輔/株式会社Dual Bridge Capital 代表パートナー 外資系投資銀行を経て、29歳でじげんのCFOに就任。同社の急成長を牽引後、ミダスキャピタルへの参画を経て独立系VC「Dual Bridge Capital」を設立。高度なファイナンス知見を投資先に提供する。

1.「管理」から「経営」へ。投資家がCFOに求める本質的役割

議論はまず、ファシリテーターの丸尾氏による「ファンドは投資先のCFOに何を求めているのか」という問いかけからスタートした。

これに対し、VCの立場から口火を切った磯田氏は、シリーズAやB(資金調達の規模が数十億)でCFOが必要とされる背景に触れつつ、会計士や経理出身者が陥りがちな「意識の偏り」について語り始めた。

・「BS」で資金をアセットに変え、資本市場を社内へ「翻訳」する

「会計を学んだ方は、CFOの仕事を決算や経営管理、税務といった『管理実務』と捉えがちです。しかし本当に重要なのは、『BS(貸借対照表)で考える思考』です。借入や出資で集めた資金を、長期的なキャッシュフローを生む『アセット』に変え、それを支えるチームを作る。これが『経営管理部長』と『CFO』の決定的な違いです」

さらに磯田氏は、もう一つの重要機能として、投資家視点を持つ「翻訳機能」を挙げた。

「VCはマイノリティ株主であり、自社のすべてのリソースを一社に割けるわけではありません。だからこそ、資本市場が今何を求めているのか、調達した1円に対してどんな事業価値(資本効率)を出していくのかを社内で議論できる『翻訳者』が必要なのです。彼らがいることで経営会議の質は劇的に向上し、我々も安心して背中を預けられる存在になります」

このBS思考の重要性について、阿部氏も監査・支援する立場から同意する。

「監査の立場からもBSは重要です。貸借対照表で語れる方とはより深い議論ができます。また、成長する企業のCFOには特有の哲学と胆力があります。ファンドの意向を汲みつつも、裏では厳しい交渉をクリアし、自らの報酬ではなく『会社をどうするか』という信念を持っています。 」

・専門実務よりも、チームを束ねる「指揮者」としての人間性

では、そのCFOの器をどう見極めるのか。投資先CFOと日々対峙する寺田氏は、意外にも「ハードスキルはあまり見ない」と断言する。

「投資銀行、会計士、経理など、出身はどこでもいい。一方で、明確に求めるソフトスキルは主に2つです。まず『採用と育成ができるか』。CFOは経理や法務など、自分一人では実行できない複数の専門領域を束ねるポジションです。だからこそ、チーム作りができないと厳しい。 もう一つは『プロジェクト遂行能力』です。IPO準備や資金調達など、期限を超えると不可逆的な影響が出るタイムラインを自ら区切り、会社の代表としてステークホルダーとタフに交渉できるかが重要です」

アカツキの石倉氏も、プレイヤーとしての専門性よりも、専門家集団を束ねる「指揮者」としての能力、そして経営陣としての人間性を強調する。

「ファイナンスや会計の知識は最低限の前提に過ぎません。一番大事なのは『人間性』です。CFOは経営者であり、人を束ねて強い組織を作らなければならないからです。 CEOと同等レベルで事業を語る視座を持ち、バックオフィスという枠を超え、事業サイドからも認められる役員でなければ務まりません」

2.「専門性」から「経営」へ。未完成から挑むCFOの成長戦略

外部からスタートアップのCFOに参画するルートとしては、投資銀行出身と会計士出身という対照的なキャリアが語られることが多い。投資銀行出身の寺田氏は、29歳で事業会社のCFOへ転身した当時の胸の内をこう振り返る。 

「投資銀行時代は、業界分析や業績予測を行い、投資家にプレゼンして稼ぐ仕事をしていました。いわば外野から意見を言うポジションです。 しかし、自分自身で事業をやったこともないのに『経営が良い・悪い』と言っているのを、どこかダサいと感じてしまった。『だったら自分でやった方がいいんじゃないか』と考え、自らCFOとして飛び込む決断をしました」 

一方、会計士出身の代表格である石倉氏は、実務処理能力の高さだけではCFOに選ばれなかった自身の苦い経験を明かす。

「アカツキの創業2期目に入社し、20億円規模の資金調達やIPO準備を完璧に仕切りました。『これだけ完璧にやれば当然CFOになれる』と思っていましたが、結果的に上場直前に外部から招かれた役員にその座を譲る形になり、戦わずして負けたのです。 当時は強い葛藤がありましたが、会社が求めていたのは『ファイナンスも事業もできるCFO』でした。会計や税務などのコーポレートは強くても事業が分かっていなかった自分を痛感し、一度会社を離れて自ら起業。代理店営業やメディア運営などを通じ、泥臭く事業を学び直しました」

さらに石倉氏は、「会計士=経理・内部監査」という市場の先入観と、それに抗うための生存戦略を語る。

「世間には『CFOは外資系金融やファンド出身で、M&A経験者が望ましい』という一種の学歴のような先入観が存在します。私自身、会計しかやったことがないという強いコンプレックスを抱えた時期もありました。だからこそ会計士は、彼らにない強みを貪欲に学び、自ら事業を動かす経験を重ねるしかありません。 CFOは常に選ばれる側の存在であり、自分より優秀な人材がいれば取って代わられる厳しさの中にいます。だからこそ、自ら進化し、結果を出し続けるしかないのです」

・「最初から完成されたCFO」はいない。学び続ける姿勢と経験の密度

石倉氏の経験談を受け、磯田氏は企業側とCFO候補者の間に生じる「期待値のギャップ」について言及する。

「企業側は石倉さんや寺田さんのような人材を思い描いて『CFOが欲しい』と望みますが、そうした人は市場にほとんどいません。一方、候補者側も『自分にはあそこまでの存在にはなれない』と尻込みしてしまうケースが見受けられます。これは起業家の成長プロセスと同じです。最初から完成された経営者など存在しません。CFOとは、ファイナンスに強みを持つ一人の経営者です。キャリアのなかで少しずつ足りないパーツを埋め、学び続ける姿勢を持ちながら目の前の役割を全うすることこそが重要なのです」

阿部氏も、企業の成長フェーズごとに求められるCFOの役割が変化することを指摘し、成果を出す人材の共通点として「経験の密度」を挙げる。

「初期の立ち上げ期と、企業規模が拡大し多様な課題に対峙するフェーズでは、求められる能力が大きく異なります。一歩抜き出たCFOの方々は、経験の密度が非常に濃厚です。その密度の差こそが、結果として人間性や経験値、そして人脈を大きく広げる力になっていると感じます」

3.市場の変化を勝ち抜く:VCとの「補完戦略」と新たなキャリア選択

では、CFOを目指す人材はこの市場でどのようにキャリアを切り拓けばよいのか。寺田氏は、株主であるファンドやVCの強みを活かした協働のあり方を提示する。

・不足領域は株主で補う。VCを巻き込む「補完戦略」という最適解

「先ほどの石倉さんのお話(会計士出身であることへの懸念)とは異なり、私は会計士出身者と組むのが一番好きです。当グループにはファイナンスやM&Aのノウハウ、資金が豊富にあります。だからこそ、株主側だけでは担いきれない社内体制の構築や上場準備のプロジェクトマネジメント、ステークホルダー交渉を確実に実行してくれる人材が必要なのです。 不足している領域は我々がサポートしますし、M&Aの際も一緒に入って動きます。会計士が自身の強みを存分に活かして活躍できる土壌は十分に揃っています」

石倉氏も、この寺田氏の「補完関係」の提案に強く同意する。

「会計士のファーストキャリアとしてCFOを目指す際、寺田さんのようなファイナンスが圧倒的に強い人の横で、自分の強みであるコーポレートをしっかりやりきるというのは、一番いい組み合わせだと思います。そこから学べることはめちゃくちゃありますし、その経験を経て両方分かる人になれば、個人の成長として本当に素晴らしいなと思います」

・「ロールアップ型M&A」の台頭と、求められるスキルの変化

さらに石倉氏は、資金調達環境の変化に伴う「CFOに求められるスキルの変容」について言及する。

「現在の資金調達環境は厳しさを増しています。赤字を掘りながら急成長を目指す従来のモデルから、M&Aを重ねて規模を拡大する『ロールアップ型』へとスタートアップの戦い方は明確に変化しています。時代によって求められるものはどんどん変わっていきます。だからこそ、その変化を正しく捉えて、自分自身を柔軟に変えていける人であることが、何より大切だと思います」

・キャリアの相談先はVC。企業の成長ステージに応じて挑戦せよ

磯田氏も、成果を出すCFOに共通する「学び続ける姿勢」に触れつつ、CFOキャリアを模索する際の選択肢について提示する。

「学び続ける姿勢が何より重要です。優れた投資先のCFO(五常・アンド・カンパニーの堅田氏や、アンドパッドの荻野氏など)は、徹底した『情報収集アニマル』です。留学経験がなくとも自ら英語を身につけ、海外のカンファレンスへ足繁く通って一次情報を取得しています。 また、CFOキャリアを目指す方には、人材紹介会社だけでなく我々VCへも直接相談してほしいと考えています。経営チームの不足パーツや支援状況など、内部事情を深く把握している株主だからこそ、個々のスキルに合わせた最適な補完・マッチングが可能です。ぜひファンドも相談先の選択肢に入れてみてください」

阿部氏も、スタートアップの多様化に伴う人材の流動性を指摘し、新たな環境へ挑戦する価値を語る。

「これだけ多様なスタートアップが登場している時代です。シーズ段階から立ち上げて『最初の一山』を越える役割と、そこから成長を牽引する役割、さらに規模が拡大してから管理を担う役割は、それぞれ違っていいはずです。米国などにみられるように、企業の成長ステージごとに最適なプレイヤーが入れ替わる流れが、いずれ日本でも主流になるでしょう。若いうちから多様な経験が積めるこの環境に、ぜひ積極的に飛び込んでほしいと思います」

・CFOを目指す挑戦者たちへ

大企業のCFOを見渡しても、必ずしも公認会計士資格を保持しているわけではない。現場で経理や財務の実務を重ね、決算やIRを通じて組織を牽引してきたプロフェッショナルが多数派だ。つまり、最初から完璧である必要も、特定の資格だけに縛られる必要もないのだ。

セッション終盤、寺田氏は「CFOを一度経験した人は、タフすぎるあまり次もCFOをやりたがらない」という本音混じりの言葉で会場を沸かせた。しかし、大変だからこそ、チームでIPOや大型M&Aを成し遂げた経験を持つ人材は、次のキャリアでも圧倒的な存在感を発揮する。

セッションを牽引した丸尾氏も、最後の総括としてこう期待を寄せた。

「資金をいかに事業アセットへ変え、企業価値を最大化できるか。そこにCFOの本当の腕の見せ所があります。最初から完璧なCFOなどいません。経営陣の一員として変化を恐れず、ぜひこのエキサイティングな世界に飛び込んできてほしいですね」

専門家集団を束ね、資本市場と対話し、期限内にプロジェクトを完遂するCFOは、まさに「バリューアップの実行者」だ。自身の強みと課題に向き合い、時には事業の最前線へ踏み出し、VCすらレバレッジして進化を続ける。

経営者目線を持って挑戦する覚悟がある人物にとって、激変するスタートアップ市場は、自らの価値を最大限に試せる最高の舞台となるはずだ。

アーカイブ動画を無料公開中!

「会計ファイナンス人材Conference2026」のセッションアーカイブ動画を、CPAラーニングで公開しています。
「実際のセッションの様子を見たい!」「もっと詳しく知りたい!」

そんな方は、ぜひ下記のボタンからご視聴ください!

※アーカイブ動画の視聴には、CPAラーニングの会員登録が必要です。

CFO LEADERS SUMMIT2026開催決定!

詳細・お申し込みは下記よりご覧ください!
https://cpass-net.jp/cfo-leaders-summit/?utm_source=cpass&utm_medium=report&utm_campaign=20261115_cfosummit