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グローバル会計人材の仕事術:多国籍チームを率い、世界で成果を出す方法

「アメリカで働く会計ファイナンス領域の日本人は、いまや『絶滅危惧種』とまで言われています」

ファシリテーターの安藤が語ったこの一言は、多くの参加者にとって衝撃だったのではないか。グローバル化が叫ばれて久しいにもかかわらず、なぜ海外で活躍する日本の会計ファイナンス人材は減っているのか?世界という舞台で、日本人はもはや通用しないのか?

しかし、登壇者たちの言葉から見えてきたのは、悲観論ではなく、むしろ大きな可能性だった。勤勉さ、丁寧さ、正確さ、そしてホスピタリティという日本人の強みは、世界でこそ価値を発揮する。 その答えの鍵は、グローバルな舞台にこそ隠されているのかもしれない。

2026年7月5日に開催された「会計ファイナンス人材カンファレンス2026」。本稿では、その中でも熱気を帯びたセッション「グローバル会計人材の仕事術、多国籍チームを率い、世界で成果を出す方法」の模様をレポートする。

世界を舞台に歴戦をくぐり抜けてきた5名のプロフェッショナルが語る、リアルな失敗談と、そこから導き出された成功の極意とは?現場の熱量とともに、その核心に迫る。


(写真 左から)


〈Facilitator〉

安藤 公二|CPAエクセレントパートナーズ株式会社 取締役副社長

〈Speaker〉

井上 健 |株式会社レアゾン・ホールディングス 取締役CFO、株式会社FINCHI 代表取締役CEO
株式会社レアゾン・ホールディングス 取締役CFO。15歳まで海外で過ごし、ITベンチャーでのCFO経験を経て現職、グローバル展開を牽引する。


服部 太一 |元 株式会社SHIFT 取締役 兼 CFO、元 Indeed,Inc. CFO
元Indeed CFO。NTTコミュニケーションズ、リクルートを経てIndeedに参画し、急成長をファイナンス面から支えた。その後SHIFTのCFOを経て、現在は複数社のアドバイザーを務める。


廣渡 嘉秀 |AGSグループ 代表
公認会計士・税理士。AGSグループ 代表。30年以上にわたり、日本発の独立系会計ファームにおいてグローバルネットワーク構築を推進。日系企業の海外進出を支援する。

宮原 正弘 |KPMGアドバイザリーホールディングス株式会社 副会長
公認会計士。KPMGアドバイザリーホールディングス株式会社 副会長。長期にわたり、監査、コンサルティング業務に従事し、豊富な海外実務経験も持つ。KPMGコンサルティングの立ち上げを主導し、社長・会長を歴任。

なぜ、日本人は海外で「つまずく」のか?グローバルキャリアのリアル

セッションは、グローバルなキャリアで直面する苦労話から幕を開けた。華々しい経歴を持つ登壇者たちも、最初から順風満帆だったわけではない。むしろ、数々の落とし穴にはまり、痛い経験を重ねてきたことが語られた。

「余計なことすんな」と言われた日

最初に口火を切ったのは、リクルートによるIndeed買収を機に渡米し、8年半にわたりファイナンス部門を率いた服部氏だ。

「『よっしゃ、やったるぜ』と意気込んで行ったのですが、まあ、何も通用しないんだなと痛感しました」

日本でそれなりに腕を磨いてきた自負は、いとも簡単に打ち砕かれたと言う。当時のリクルートからIndeedに派遣された上司から言われたのは「余計なことすんなお前」という痛烈な一言。

突き詰めて考えると、その「余計なこと」の正体は、日本で当たり前とされていた仕事の進め方そのものだった。

「日本の会社で求められる仕事は、そぎ落とすと余計なことが多いんです。きれいな資料をフォント1ミリ単位でピカピカに整えて持ってこいって言われる。多分、ここにかかる工数の8割は資料を整えることと根回し。これが海外ではほぼいらないとされるんです」

純粋に数字で語り、シンプルに議論する。パワーポイントすらほとんど触れなくなったという服部氏の経験は、日本の多くのビジネスパーソンにとって耳の痛い話かもしれない。良かれと思ってやっていた仕事が、実はグローバルでは「ブルシット・ジョブ(余計な仕事)」と見なされ、生産性を著しく下げている可能性があるのだ。

「私のこと馬鹿にしてるでしょ?」他責が生んだ最大の失敗

KPMGで長年活躍し、海外赴任経験も豊富な宮原氏は、自身の苦い経験を語った。もともと英語が得意ではなかった宮原氏は、赴任先のアメリカでコミュニケーションの壁にぶつかることになる。

「うまく伝わらないとき、『英語じゃなかったら、僕のほうが仕事できるのに』って思っちゃったんですね」

仕事がうまくいかないのを、英語のせい、文化の違いのせいにする。そんな「他責」の姿勢が、知らず知らずのうちに態度に表れていた。ある日、現地オフィスの女性マネージャーからパフォーマンスフィードバックを受けた際、核心を突かれることになる。

「『マサ、私のこと馬鹿にしてるでしょ』って言われたんですね。すごく恥ずかしかったです」

この一言で目が覚めた、と宮原氏は振り返る。環境や言葉の壁を言い訳にするのではなく、自分自身の問題として向き合うこと。そして、相手の文化を理解し、尊重しながら仕事を進める重要性を痛感した瞬間だった。

「日本人?初めて会ったよ」VCも驚く日本人の不在

現在、ITベンチャーのCFOとしてグローバルな資金調達の最前線に立つ井上氏は、また別の角度から日本の課題を指摘した。

海外の著名なVC(ベンチャーキャピタル)を回っても、言われるのは「日本人に会ったのはお前が初めてだ」という言葉。数百人が集まるパーティーでも、日本人は自分ただ一人。

「まず『日本って今どう?』 というところから説明しなければなりません。当然、自社のことなんて知られているわけもない状態です」

この背景にあるのは「日本が良すぎること」だと井上氏は分析する。国内市場の規模が大きいため、井の中の蛙になり、多くの企業が海外にチャレンジする必要性を強く感じていない。結果として、世界から「攻め込まれてるのに、自分たちは世界に行っていない」という状況が生まれている。

グローバルな舞台に、そもそも日本人のプレイヤーが少なすぎる。これが、井上氏が直面している厳しい現実だ。

日本企業の強みを世界へ、日系企業の海外進出をサポートする新たな選択肢として

AGSグループ代表の廣渡氏は、国内外で活躍する日系企業を支援することをミッションに掲げている。

「一時期、海外では日系企業に対し『うるさい』『細かい』『行間を読むことを求める』といったネガティブな印象があり、海外進出支援の需要も伸び悩んでしまった 」という。

しかし、近年は大企業に続く第二陣、第三陣の企業やスタートアップが再び海外へ挑戦し始めている。

「日本企業の誠実さや品質のこだわりは、海外でも本来もっと評価されるべき強みです。引っ込み思案にならず、堂々と海外へ出て日系企業の良さをアピールしてほしい。その横でどんどんサポートしていくのが我々の使命です 」と廣渡氏は言葉に力を込めた。

武器は「日本人らしさ」にあり。世界で成果を出すための仕事術

数々の失敗や困難を乗り越えてきた登壇者たち。では、彼らはどのようにして多国籍チームを率い、世界で成果を出してきたのか?その答えは、意外にも「日本人らしさ」を武器にすることにあった。

「あうんの呼吸」は通じない。だからこそ「おもてなし」が効く

「外国の人って、あうんの呼吸は通じないんですよ」と語るのは宮原氏だ。

だからこそ、メール一本、ボイスメール一つとっても、誤解が生じないように「くどいぐらい絶対間違えないように、丁寧に、丁寧にコミュニケーションを取った」と言う。

さらに、仕事以外の部分でのコミュニケーションも重要だと指摘する。来日した海外のメンバーを、朝から晩まで徹底的に「おもてなし」するのだ。

「ミーティングだけでなく、その前後の時間も含めて、日本での滞在を楽しんでもらえるよう、しっかりアレンジするんです。ホスピタリティを感じてもらえる機会をできるだけつくることで、日本への印象が深まり、その後のコミュニケーションも自然とスムーズになることが多いですね」

一見、仕事とは関係ないように思えるこうした努力が、信頼関係を築き、結果的に仕事を円滑にする。これは、日本人ならではのホスピタリティがグローバルな舞台で強力な武器になることを示している。

無駄を削ぎ落とし、「本質」で人を動かす

一方で服部氏は、急成長する組織をマネジメントする上で、よりドライで合理的なアプローチを徹底したと語る。

まずは前述の通り「ブルシット・ジョブ」を徹底的に排除。その上で、会社の成長フェーズと各メンバーの役割を接続させることに注力した。

「あなたのやってる仕事の中で何が会社にとって一番大事かって、僕なりに伝えるってのは、徹底的にこだわりました。それを目標として設定する。しっかりと自身の説明責任を果たしたうえで、評価してあげる」

特にプロフェッショナル意識の高いメンバーが多い海外では、「忖度して動いてくれるだろう」という甘えは一切通用しない。会社のゴールと個人の目標を明確にリンクさせ、パフォーマンスに対してはシビアに、しかし丁寧にフィードバックする。3ヶ月に1回給料交渉をされることもあったというエピソードは、その厳しさを物語っている。

この徹底した目標管理と評価こそが、Indeedの驚異的な成長をファイナンス面から支えたのだ。


優劣ではなく、多様な価値観を提示する採用・マネジメント

井上氏はグローバル人材と働くうえで重要なのは、文化や価値観の「違い」を正しく把握する姿勢であると語る。

「レアゾンのファイナンス本部では外国籍メンバーも多く、日本で働きたいという意欲を持つ人材が集まっています」

一方で、ジョブ型雇用が一般的な国の人々にとって、日本企業が提供できる価値は必ずしも同じではない。そこで、日本ならではの機会や働き方を優劣ではなく「違い」として伝えることで、その価値に共感する人材が集まりやすくなるのだ。

「多様な背景を持つ人と働くには、相手との違いを受け止め、それを組織の広がりにつなげる姿勢が不可欠である」という井上氏の力強い言葉が伝えられた。

無理に染まるな。「日本のマネジメント」で勝負する

AGSグループを率い、日本発のアカウンティングネットワークを世界に広げる廣渡氏は、「海外に行ったからといって、海外のキャラクターにならなくてもいい」と断言する。

「日本人はどちらかというと、丁寧で思いやりのあるマネジメントをする。日本人はものすごくいいやつだと海外では見てくれるから、丁寧に、仕事をしっかりとやるだけでも、グローバルな会計人材としては受け入れられます」

無理に欧米風のマネジメントを真似るのではなく、日本人ならではの丁寧さや勤勉さを前面に出す。それが、かえって海外のメンバーからの信頼を得ることにつながるという。

宮原氏もうなずく。
「本当にその通りで、日本人の勤勉さ、丁寧さ、正確さ、ホスピタリティは会計ファイナンスにおいて特に重要です。会議でその場ですぐに発言できなくても、後から『私はこう思う』と丁寧にメールで伝えるだけで、『深く考えているね』と圧倒的に評価されます」

日本人としてのアイデンティティに自信を持ち、堂々と振る舞うこと。それが、世界で成果を出す第一歩となるのだ。 

会計か、ファイナンスか。世界で評価される人材の条件

セッション終盤、ファシリテーターの安藤が会場に問いかけた。

「この中で、実際に自分はグローバルに関わってる、もしくはこれから関わりたい、関わらなければいけないという人、手を挙げてください」

すると、会場のほぼ全員の手が挙がった。この光景は、グローバルキャリアに対する関心の高さを物語っている。では、そんな彼らが世界で評価されるためには、何が必要なのか。

「会計」と「ファイナンス」の違いを意識せよ

井上氏は、キャリアを考える上で極めて重要な視点を提示する。

「グローバル会計人材とグローバルファイナンス人材のどっちになりたいのかみたいなものは、明確に考えといたほうがいいだろうと思います。会計っていう言葉とファイナンスっていう言葉の意味合いを、多分、日本人よりも強く感じる人たちがめちゃくちゃ多い」

日本では曖昧にされがちなこの二つの領域だが、海外では明確に専門性が分かれている。自分がどちらのプロフェッショナルとしてキャリアを築きたいのか。その軸を定めることが、海外で突き抜けるための第一歩になると井上氏は強調する。

ビジネスファーストの姿勢が、日本人を際立たせる

服部氏は、自身の評価が固まった経験を基に、日本人の持つ潜在的な強みを語る。Indeedにおいて360度評価で最も評価されたのは「ビジネスファーストで考える」という点だった。

「結構ですね、what’s the best for businessじゃなくて、what’s the best for myselfで考える人が多いんですよ。そのmyselfにとってベストなことを考える人たちを束ねる僕が、たまたまビジネスファーストを貫いた。この特性が強みになったと思います」

個人の利益や都合よりも、会社やビジネス全体の成功を優先する。このある種の「滅私奉公」的な姿勢は、日本人の真面目さの表れであり、多様な価値観がぶつかり合うグローバルな環境において、チームをまとめる強力な求心力となり得るのだ。

おわりに:今こそ、世界へ。
グローバルキャリアを切り拓くための3つのアクション

「AIの時代だからこそ、お金に関する部分に関しては、最終的には人が判断しないといけない。この判断する知識をもつ会計ファイナンス人材はグローバルで求められています。絶好のチャンスだと思います。皆さん、今だからこそ、グローバルにチャレンジしていただきたい」

ファシリテーターの安藤のこの言葉で、熱気に満ちたセッションは締めくくられた。登壇者たちの言葉から見えてきたのは、悲観論ではなく、むしろ大きな可能性だった。最後に、彼らのエールを基に、私たちが今日から踏み出すべきアクションを3つにまとめる。

1. まず、飛び込んでみる。

宮原氏が「若い頃に、英語で仕事できたらかっこいいなと思った、単純な理由だった」と語ったように、きっかけは何でもいいのかもしれない。チャンスがあったら掴み取り、まずはその環境に身を置いてみること。そこで得られる経験は、仕事のスキルだけでなく、人間としての視野を広げ、一生の財産となるはずだ。

2. 「日本人らしさ」を武器として再認識する。

勤勉さ、丁寧さ、正確さ、そしてホスピタリティ。これらは世界に誇るべき日本人の強みである。無理に自分を変えるのではなく、その良さをどうすればグローバルな環境で活かせるかを考えること。ビジネスファーストの姿勢は、きっとあなたの価値を際立たせてくれる。

3. 恐れず、チャレンジし続ける。

服部氏が指摘したように、円安が進む中、日本国内だけでキャリアを終えることにはリスクも伴う。会計やファイナンスという「世界共通言語」を持つ私たちは、本来もっと大きな舞台で活躍できるポテンシャルを持っている。ニーズは確実に存在する。あとは、一歩を踏み出す勇気だけだ。

世界で活躍する日本人の会計ファイナンス人材は「絶滅危惧種」などではない。むしろ、これからその価値が爆発的に高まる「未発見の金脈」なのかもしれない。このセッションが、皆さんの新たな挑戦のきっかけとなることを願ってやまない。

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